① 明智光秀
それは西暦1991年2月3日の日曜日。
時刻は11時30分頃のこと。
場所は、名護屋のテレビ塔3階の、亜空間レストランにて。
「ああ、そうそう、サン・ジェルマン。」
永遠の17歳の、真田雪子が言った。
「何ですか?」
同じく永遠の35歳の、伯爵が答える。
「アナタのシルバーのビートル、しばらく借りるわね。」
「いつまでです?」
「明日には、返却するわ。私にとっては、しばらくでも、アナタにとっては、明日なの。この意味、タイムトラベラーとしては先輩の、アナタなら分かるわよね?」
「そういう事になる訳ですね。了解しました。」
「だから、もし私が、明日ビートルを返しに来なかったら…。」
「…来なかったら?」
「その時は…私の事を心配して下さるかしら?」
「もちろんですとも。必ず時空の果てまでも、捜しに行きますよ。」
「期待してるわね。」
真田雪子は薄く微笑んだ。
場面は変わり、江戸時代。
徳川家康には、武家ではない、僧侶姿の側近が居た事は、有名な話である。その名を南光坊天海という。
彼の正体については、諸説語られているが、結局のところ、確定されていない。
つまり、そこが、暇を持て余した魔女こと、真田雪子の狙い目だった。
時に、西暦1582年6月13日の日 曜日。時刻は16時を過ぎた頃。
場所は、摂津国と山城国の、境界辺りのとある山中にて。
明智光秀は、弱りきっていた。
まさか、こんなにアウェイな状況になろうとは。
これでは、約束と違うではないか。
地元農民どもの落武者狩りと、豊臣の手の者との挟み撃ちに遭うなんて、聞いてないぞ!
彼はそう、声を大にして言いたかった。
今や彼は、すっかり逆賊の汚名にまみれていた。
まさに、四面楚歌である。
京都の貴族どもめ!まんまと口車に乗せおって!
何が"朝敵の信長を滅せよ"だ!お陰で落ち落ち、日向を歩けなくなってしまったぞ!
既に、一緒に落ち延びていた側近たちも全て討たれ、残るは自分だけになってしまった。
薄暗い田舎の山中で、彼の命は最早"風前の灯火"であった。
「居たぞ!」
「そっちだ!」
方々で追手の声がする。
もうすぐそこまで、彼等が近づいて来るのが分かる。
最早、これまでか?光秀は覚悟を決めた。
「ねえ、アナタ。」
出し抜けに、直ぐ背後から若い女の声がした。
光秀は思わずビクッとして、恐る恐る振り返った。
「私が助けてあげましょうか?」
それは不思議な風体の娘だった。まるで伴天連のような紺色の服を着ている。
しかし日本語を喋っているのだから、国内の者なのだろう…。光秀は瞬時に、それだけの判断をした。




