表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

氷薔薇は玉座を見下ろす

作者: 柳 陽
掲載日:2026/01/17



 王立学院の大広間は、祝祭の名残を残したまま、異様な緊張に包まれていた。

 赤絨毯の中央に立たされたのは、侯爵令嬢アリア=フォン=ルーヴェンシュタイン。王国随一の名門に生まれ、「氷薔薇」と呼ばれ恐れられた悪役令嬢である。


「アリア・ルーヴェンシュタイン! 貴様との婚約を、ここに破棄する!」


 王太子レオンハルトの声が高らかに響く。彼の隣には、白百合のような少女――平民出身の聖女リリアが怯えた表情で立っていた。


「お前はリリアを虐げ、学園内で権勢を振るい、王家の名を汚した! よって断罪する!」


 ざわめく貴族たち。期待と嘲笑、そして安堵。

 だが、アリアは一切表情を変えなかった。


「……以上で、よろしいですか?」


 その静かな問いに、レオンハルトは一瞬だけ言葉を詰まらせた。


「ええ。では、私からも発言を」


 アリアはゆっくりと一礼し、淡々と語り始める。


「まず、リリア様を虐げたという件ですが、提出された証言はすべて“伝聞”ですね。物的証拠は?」


「そ、それは……!」


「次に、私が権勢を振るったとされる件。王太子殿下の名を用いた命令書は一通も存在しません。すべて私個人の裁量による“学院規則の適用”です」


 貴族たちが息を呑む。


「最後に、王家の名を汚したとのことですが――王国の財政赤字、三年連続で改善したのは誰の内政案でしたか?」


 アリアは一歩前に出た。


「塩税の再編、地方領主への分権化、軍需契約の見直し。すべて私が立案し、殿下が“承認”なさった政策です」


 会場が静まり返る。


「……殿下。婚約者としてではなく、補佐官として申し上げます」


 アリアは初めて、鋭い視線を向けた。


「あなたは“感情”で王国を動かそうとしている。私は“数字”で支えてきた。それだけの違いです」


「黙れ! 貴様は冷酷すぎるのだ!」


「ええ。国家運営に、情は毒ですから」


 その瞬間、後方の扉が開いた。


「では、その“冷酷さ”を買おう」


 現れたのは、隣国ヴァルツ帝国の宰相代理。外交団を率いていた。


「我が国は、ルーヴェンシュタイン侯爵令嬢を正式に招聘したい。条件は、王国との不可侵条約と、五年間の通商優遇」


 どよめきが爆発する。


「な……!」


 レオンハルトの顔色が変わった。


 アリアは一瞬だけ考え、そして微笑んだ。


「殿下。婚約は破棄されました。つまり私は、自由の身」


 彼女は振り返り、深く一礼する。


「――外交官として、国を救う道を選びましょう」


 数か月後。

 王国は深刻な財政難に陥り、貴族間の権力闘争は激化。感情政治の末路である。一方、ヴァルツ帝国との条約により、周辺諸国の経済圏は再編され、中心に立ったのは一人の女性だった。


 氷薔薇の宰相補佐、アリア=フォン=ルーヴェンシュタイン。


「ざまあ、ですか?」


 そう問われた彼女は、書類から目を離さずに答える。


「いいえ。これは必然です。国を捨てたのは、あちらですから」


 冷たいようでいて、あまりにも正しい結末だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ