No.8 超常戦争
特殊兵装部隊はテレポートにて網走分屯基地まで移動した。
さすがに物資含めた大移動ともなり、印章院はかなり消耗していた。ほぼほぼ一人で短時間に行えるテレポートの限界が中隊規模ということだろう。
「印章院伍長、任務ご苦労。少し休め。他のものは物資の分配及び装備の点検を行い、待機せよ」
錐生が印章院をねぎらい、他の隊員に指示を出した。
初めての北海道だが案外寒くないのだと憂希は感じた。あたりは雪が積もっているが厚着のせいかそこまで寒さを感じていない。
「くぅっ.....」
小動物の威嚇のような声で荷物を持ち上げようと踏ん張っている美珠が憂希の視界に入る。
「こういうのは男が持ちますよ」
「あ、ありがとうございます。すいません。でも私も兵士だからこういうのもできるようにならないと」
「いずれできるようになればいいんです。今は協力させてもらいますね」
救急用具を運びながら憂希は美珠に尋ねる。
「安楽堂さんは軍に入って長いんですか?」
「いえ、まだ半年ほどです」
「え、もう半年も。すごいな」
「全然ですよ。戦場でもほとんど震えているだけで何もできていませんから」
「別に戦争や戦場が怖いのは普通だと思いますよ。兵士でも怖くない人なんていないでしょうし」
「そうですかね...。神崎さんもですか?」
「えぇ、怖いです。ここに来るまでに散々和日月総司令官とももめてました」
「えっ!?総司令官と!?」
「え、ええ。あの人に拉致られてますからね俺。普通に相容れないんですよあの人と」
「...ちゃんと意見が言えてすごいですね」
「いや犯人と対峙している感覚だったからまだ上司って感覚は薄いんです」
こういう話を気兼ねなくできる相手というのは貴重だと憂希は思った。振動にこういう愚痴を言っては悩ませてしまうと感じていた。
「全然タメ口でいいですよ、新米ですから」
「それなら私もタメ口で」
「じゃあ...お互いタメ口で。戦場ではよろしく」
「はいっ。...無理しないで頑張って」
まるで部活にでも行くような会話だと憂希は思っていた。そんな平和な世界ではないことが残念でならない。
「先導隊、進行開始する。各自第三戦闘配置のまま移動開始」
振動の命令で艦隊が出航した。先導隊は戦況把握や作戦立案のため海路で向かう。歯舞群島にて戦闘中の先行部隊に合流し、そのままアタック開始となるとのことだ。
緊張感が空気を占めている。本隊は先導隊現着までの数時間を網走分屯基地にて待機することになっている。
「神崎上等兵。君の役割は切り札だ」
錐生は温かい口調で憂希に語りかける。
「俺たちが戦場に投入されたら、俺の能力をメインに敵軍に向けて一斉射撃を行う。そこで少し敵軍は崩れるだろう。その隙を狙って傀が土砂や散乱した金属片なんかを固めたでっかい塊を敵軍めがけてぶん投げる。そこに敵軍はくっつくしかない。ある意味ブラックホールだな。吸引力はないが転がればどんどんでかくなる無視できない攻撃だ。普通ならそこで能力者が出てくる」
「そのあとは...」
「そのあとは出てきた能力者たちを俺の能力で一網打尽....。できればまぁ楽なんだがな。そうはいかないからそこで戦況はさらに激化するだろう。振動少佐もいるから範囲攻撃で前線を上げるってのが今までのセオリーだ」
「じゃあ、その激化した戦場でさらにダメ押しするのが俺ってことですか」
「そうだ。神崎君、君は自然現象を操れるって言ってたな。竜巻や雷雨、吹雪や地震。それは味方もいる戦場ではちぃっと不適切だ」
「....そうですね、味方もいれば巻き込んでしまう」
「口酸っぱく言われているだろうがな、いいか。イメージが大切だ。現象を起こすってイメージじゃなく、どうしたら敵軍に効果的かつ瞬間的に能力を使えるか」
「効果的....」
「難しく考えんなよ。俺は敵に向かう銃や砲弾に頼った。そのほうが楽だしコスパがいい。集中できるしな」
「敵にしか飛ばない...」
「まぁ期待してるぞ。ただ背負うなよ、戦場で背負いすぎると立てなくなる」
錐生はガハハと笑いながら憂希の肩をたたき、コーヒーを取りに席を立った。
「なぁおい」
錐生が立ち去ることを見計らったように傀が声をかけた。
「お前、能力者になってどんな気分だ」
「...今のところ、いい気分になったことはないです」
「だからそんな湿気た面してんのか」
傀はため息をつきながらどかっと座った。
「あのな、お前はすげえことに選ばれたんだ」
「最初に拉致されたときにも言われましたよ、選ばれたって」
「わかってねえ。望んで能力を手に入れるやつもそうでないやつもグレードや能力の種類は選べねえんだ。能力者でも比率は圧倒的にグレード5や4が多い」
グレード5やグレード4はその能力を軍事作戦に起用されることはほとんどない。もとから軍人か、特定の条件で能力を買われるか。
「グレード1なんてほしくても手に入れられないやつがほとんどだ。それをお前は持ってんだから胸張れよ」
「...いやそれは押しつけでしょ。そっちの都合とこっちの都合は違うんですよ。欲しがってない人にとってはどんなものでも不要でしょう」
「はぁ?能力いらないやつなんているかよ、金いらないやつなんてこの世にいないだろ」
「金より物のほうが価値のある地域や金より地位や関係性を優先する人間もいるでしょ。多数決は正しいわけじゃない」
「なんだお前、ネガティブなやつだな」
「楽観的なのはうらやましいですが、皆も同じじゃないと変ってのは押しつけです。戦争に巻き込まれて嬉しい人なんてそれこそ稀でしょ」
「金や生活が担保されて、求められるのはもらった能力。成果に応じて上に上がれる。やるしかねえだろ」
「...やるしかないのはそうですが」
「俺は少し悔しかったぜ。自分の能力がグレード1じゃないって。立場もそこそこでイメージとは違った」
「もっと英雄的だったと?」
「ああっ。そりゃそうだろ。何かの力をもらえるなんて自分が特別だって思うだろ」
フィクションみたいにあなたは選ばれた、特別な能力を手に入れた、世界屈指だ、なんて言われたら舞い上がる人もいるだろう。自分が無敵だと勘違いもする。
「俺の時は和日月総司令官が勧誘に来ました。その時言われたんですよ、あなたは兵器に選ばれましたって。そんなこと言われて喜べるほどばかじゃない」
和日月の釘差しは確実に憂希の希望的観測を断ち、現実を突きつけた。それが驕りや傲慢を取っ払った。
「何言ってんだ、兵器も引き金を引く相手を選べば、それは英雄の能力だろ。銃や剣でも英雄はいる。なら超能力だってそうだ」
その愚かなほど真っ直ぐな言葉は憂希には眩しく、煩わしささえ感じた。
「それは違いない、がそれでも銃や剣を使って悪を成す不届き者がいる。そいつらと自分の違いを強く持っておくことは重要だ。な、傀っ」
後ろから錐生が傀の肩に腕を回し、肩を引き寄せる。
「なんだ傀、後輩ができてうれしいのか」
「違うっすよ、こいつがこの部隊に配属だってのに最初からずっと湿気た面してるんす。もう捨てられねえんだからどう活かすか考えろって話を」
「その考えはナイスだ。だがよ、それは覚悟の決まっていないやつに言う言葉だ。神崎上等兵はな、迷いや葛藤はあれど覚悟は決まっているぞ」
「...だから気に食わねえんすよ」
「今回の作戦で、皆さんのご迷惑にならないように努めます。でも今回の作戦で俺は自分の在り方を決めていきたいと思っています」
何度踏み込んでも足がすくむ一歩に、憂希は自分の弱さを実感している。ただ、それが弱さではない。
『振動少佐より入電。敵艦隊から複数と飛翔体が発艦し、先導隊に向けて進行中。振動少佐の能力により生物の飛行に近い飛行音とのこと。能力者と断定し、本隊特殊兵装戦闘員の戦地投入命令を発令』
「きたか、どうやら敵さんのほうが先にカードを切ってきたか。迎え撃つぞ、お前ら」
「「了解」」
すぐに本隊は前線基地にテレポートし、先導隊と合流した。
テレポートの感覚は不思議なものだった。瞬きをした瞬間に景色が一変するような、目の前を違う写真にすり替えられたような感覚。
「皆、ご苦労。印章院伍長、ご苦労。」
合流してすぐに振動少佐が出迎え、作戦内容を伝えた。
「相手は上空から襲撃してくるだろう、それらを叩き落とすとは私と錐生少尉が担う。相手は音的にかなり小型だ。恐らく人間サイズ、狙うのはかなり困難だ。また飛行での接近が目的とは思えない。何かしら仕掛けてくるだろう。警戒しつつ、本隊は迎撃態勢を整えて先導隊を援護せよ」
「「了解」」
『各員に伝令、接近している敵飛翔体を感知。数は十。速度を上げて接近中。前線基地への到達予想、1310』
「あと十分ほどか、もうすぐだな。それでは各員配置につけ」
「「了解」」
振動と錐生は迎撃のため、前線へ移動した。特殊兵装戦闘員同士は本体無線とは別に振動の音声伝達により、空気中でも糸電話のようにコミュニケーションをとれる。範囲は戦場となるとノイズが大きいため広大ではないが、それで作戦エリア内ではそれは可能だった。
『敵影目視。迎撃開始する』
その音声が空気を伝って流れた瞬間に遠目でもわかるほどのソニックムーブが発生したのが見える。また無数の光が上空に向けて放たれている。
そしてその数秒後、大きな影とともにふらつくほどの地震が発生した。
『敵数体が巨大化、生身一、岩石化二、超巨大化一。先導隊被害拡大』
飛行はあくまで移動手段であり、巨大化による瞬間的な破壊と進行が目的。
『神崎上等兵、傀上等兵っ。出撃だ。敵巨人を殲滅せよ』
ついに来た命令。その振動が地面を走った時に、憂希は自分の出番を悟っていた。
「おらいくぞ、神崎っ」
「はいっ」
テレポートで振動の場所まで一瞬でテレポートする。
「っ....」
目の前に突然現れた巨大な影。山というにはあまりにもそびえ立ち、壁というにはあまりにも巨大だった。
「神崎上等兵、君は超巨大を無力化しろ。傀、君は岩石二体だ。我々でただの巨人は殲滅する」
「了解っ、ただの岩石野郎なんて石ころにしか見えないぜ」
各員がそれぞれの相手を見据える。その巨大さは同じ人間とは思えず、怪物にしか見えない。ただの巨人でさえ大きさは三十メートルを超えるだろう。岩石は百三十メートルと百六十メートルほど。超巨大は千メートルを超えている破格な巨大さだった。大昔に現れたら神に見間違うほどのインパクト。
「あんなの...何が効くんだよ」
憂希は錐生に言われた言葉を思い出す。簡単なイメージと相手への効果を優先した能力行使。
「おおぉぉぉぉぉおおおおおりゃああああああああああ」
憂希が一瞬対応を迷っていると、少し距離が離れた場所から大声が聞こえてきた。
傀が能力を行使して巨大な岩石を形成し、それを岩石化の巨人めがけて放り投げていた。
まるでスローインをするようなフォームでトラックのタイヤサイズにもなる岩石を投げた。それは地面につき、転がるたびに速度とサイズを上げていき、岩石化の巨人の大きさに迫るサイズとなった。
岩石化の巨人はそれを体で受け止めようと構えた。
「バカめ!そのままお前もくっついて終わりだ!」
その言葉通り、岩石化の巨人に触れた場所からすべてを巻き込み、一体化して呑み込んだ。
「あれが、能力行使...」
相手に何が有効か、何をすればそれを発生させられるのか。そのイメージ。
「それなら」
憂希はイメージする。的確に超巨大化巨人だけを無力化する能力行使。
巨人が踏んでいる地面に、というか大地に、その足が落ちるほどの大穴を開けた。両足がそこに落ち、まるで超巨大化巨人の足が切り落とされたかのように全高が低くなる。
「上下どちらからもっ」
大穴はすぐに埋め、さらに足を固定するように大地を隆起させて太もも近くまで大地と一体化させる。
上空からは雲を発生させ、頭頂部から凍結と顔周りの爆風による呼吸困難。氷結と大地による完全固定を流動的に実現した。
『ナイスだ!神崎上等兵!』
そこに錐生の能力を付与した砲弾が一斉射撃される。ただの巨人はすでに肉片となっている。
どれだけ砲弾を撃ち込んで貫通させても、相手からすれば一つひとつが縫合糸レベルの穴。致命傷にはならない。
「口径が小さいです!俺がやります!」
効果が無いことを確認し、すぐに憂希は次の手を打つ。
「衝撃波は空気の振動。水や氷でウォータージェットのように切断するっ」
ウォータージェットというにはあまりに広範囲であり、それは何もかもを穿つ滝のよう。
自然落下だけでなく錐揉み状に発生させた竜巻のような風をダウンバーストの要領で地面に向けて放ち、圧力と回転を加えて加速させる。それらを味方に拡散しないよう巨人の周囲を風の壁で覆い、すべてを閉じ込めながら表面を切り刻む。
「傀さんっ、あの竜巻に塊を放ってください!」
「んあ?? 了解ぃ!!」
何も考えず手元の石から塊を形成して投げ込んだ。
「なんで俺の能力を使った!?」
「あの巨人を切り刻んでいるのでその破片が落下したらそれだけでも被害がでかいです。なら傀さんの能力でそれすらも固めればあの竜巻の中で収まります」
「っ....んだよその発想。っ!?なんだあれ!?腕か!?」
「嘘だろ....!?」
超巨大巨人は切断された腕を自ら竜巻の外に放り投げた。その腕すらも甚大な被害を生む爆弾となる。
「吹き飛ばすしかないっ」
限界まで圧縮した大量の水や氷を一気に高温で熱する。気化して爆発的に膨張した水蒸気が爆弾のような衝撃波を生み、腕を跡形もなく吹き飛ばした。
「ぐうっ」
爆風を可能な限り他へ流すようにコントロールして衝撃波を逃がし、味方への被害を抑える。
超巨大巨人の影も同時にその爆音とともに消え去った。
「....やった」
『巨人消失。続いて上空に熱源感知。熱源隊の温度急上昇中。各員、第二陣警戒態勢』
その爆音から静けさが訪れた瞬間、曇り空の奥に太陽ではない光が複数輝いているのがわかった。巨大な影の次は光。
『各員っ。やつらは自爆覚悟でこの一帯を吹き飛ばすつもりだっ』
「んなっ....。傀さんっ、塊をできるだけ上空へ!」
「言われなくてもやる!」
その塊を目掛けて氷や岩石を集める。天を覆うほどの氷塊や大地を浮かせたような岩石を傀の能力に合わせて防御壁を張る。
一帯を覆う屋根を形成した瞬間に、全員の視界が白に包まれ、轟音が後からすべてを薙ぎ払った。
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