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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.72 殺意が闇に潜む

中国軍はNo.999が暴れる位置に対して無作為に兵器を投入する。ここでNo.999が暴れた場合、No.999をいくら無力化しようともシステム化された攻撃が医療病棟をすべて破壊するだろう。戦争に法はあるが、この戦争は現時点で公ではない。お互いに法の主張などができないとなれば報復の応酬に発展する可能性すらある。そうなればもう戦争ではなく、軍事より民事に近い不毛な争いだ。


「ここからまずはあいつを引き離す。輪廻は安楽堂さんを助けてあげて」


「わかったっ」


「...無理しないでね」


美珠の中で、唯一と言っていいほど憂希が聞き入れてはくれないだろうと理解している言葉が、口からこぼれた。この吐露に後悔と罪悪感が糸を引く。


「ありがとう」


美珠が想定した答えが予想通り返ってくる。許諾も否定もしないその言葉こそ、憂希らしいと言えるだろう。美珠にとって、その憂希らしさが今は少し痛かった。


「ここは病院だ」


「だからなんだよ?公園だろうと廃墟だろうと戦場になったらそこは戦場だろうがよ!!」


「あんたが戦場にしてんだろ。...ここから。立ち去れっ」


「っ!?」


単純な能力戦闘では致命傷のないNo.999に対して完全な勝利は存在しないが、無力化という点では憂希が圧倒的に勝っている。憂希が磨いた速度と躊躇が一切ない能力にNo.999は反応できない。ただでさえ、不死性によって危機察知が普通の人間よりも麻痺しているがゆえに、警戒すらしていない。


「あんたはにはもう地面を踏ませないっ」


一瞬で身体を凍結したNo.999をそのまま上空に連行する。そのまま氷塊で小さなな浮遊島を形成し、上昇気流で空中に留める。


「....」


No.999の停止を感知した中国軍がまた大量の兵器をNo.999の位置に転送する。しかし、そのどれもが一切起爆しない。


「あんたはここで...凍結し続けてもらう。俺の能力が届かないくらい移動した場所でそのまま落下するだろう。大量の兵器と一緒に沈んでくれ」


憂希はNo.999を拘束するその氷塊とその周辺の空気をすべて絶対零度の領域まで温度を低下させた。憂希が指定した絶対零度空間では次々に空気中の物質が一気に固体へと凝固し、真空に近い期待の存在しない空間が出現した。憂希は上昇気流と周辺の温度変化を感覚的に操作し、指定範囲にそれを抑え込んでいる。


「あんたがいると兵器が転送されてくる。それであんたも拘束を破壊して、自由になる。...まさかあんな爆弾まで使ってくるとは思わなかったけど、もう学んだ。詳しいことはわからないけど、絶対零度では爆発もしないだろ。何も発生しないなら、あんたはもう何もできない」


この瞬間に絶命状態であるNo.999にはこの憂希の言葉は聞こえていないだろう。次々に転送されてくる兵器はそのまま氷塊の一部となり、ただ体積を増やすだけ。


「重さが心配だけど...限界が来る前に今度こそ移動を完了させればいい」


美珠が無理して憂希を回復させたことがちゃんとここで意味を持った。体力がほぼ全快した憂希にとってはまだ余力がある。上昇気流とともにその空間ごと海の方向へと大気の対流で移動させる。絶対零度の空間に触れた大気が固体となったことで、水だけではない様々な物質の雪がささやかに舞って落ちてくる。


「神崎です。振動隊長聞こえますか」


『こちら振動。神崎、無事だったか』


仁野の通信を受けていた振動が憂希の通信にまず容態の確認から入ったのは、仲間を労わる振動の人の好さが表れたものだろう。


「はい、輪廻が運んでくれて、さっき治療まで終わりました。すいません、ご迷惑を」


『謝るな。何も悪くない。...それで現状は』


「ありがとうございます。...現状はNo.999を上空で無力化しています。一定空間を絶体零度のレベルまで凍結させ、転送されてくる兵器ごと無力化しています。今、高さを維持したまま海へ移動しています」


『さすがだ。それであれば死人兵の対処さえ継続すれば、本部からと撤退は可能か...』


「その死人兵についてなんですが。...まだ憶測でしかないのですが、死人兵から能力者に情報伝達している可能性があります」


『っ....なぜそう思った』


「兵器が来るときと死人兵が召喚されるときでなぜ違うか...を推測しただけなんですが、死人兵を送るにも能力で消耗するなら適当に送るわけじゃないのかなって。数や編成も微妙に違うのは気を失う前に感知しました。だから、何か能力者に情報が入るようになってるんじゃないかって」


『...その可能性は高いが、検証している余裕はないか。地上に出現した死人兵は仁野一等兵が一か所に集約している』


「No.999の位置に死人兵が来ても凍結します。認識される前に撤退しないと逃げた先でもやられるんじゃないかって」


『どちらにしろ急ぐ必要があるな。了解した。撤退準備は進行中だが転送できるものから順次実行するよう調整する。それまでは耐久戦だ』


「了解」


現場の混乱を取り除き、いち早く情報伝達することに注力している振動としては、憂希たちの現場からみた実感や意見は貴重だ。自分も戦場にいる以上、俯瞰して状況を把握し続けるにも限界がある。


「くそ...どこまでやるつもりなんだ、中国軍は」


徹底的に本部を潰し来ている中国軍の目標が本当に本部および日本軍への奇襲だけなのか、捕虜となっている明海の奪還なのかを日本軍は判断できずにいた。


「まずは死人兵を停止させないと」


憂希は仁野同様、また戦場に繰り出し、死人兵の無力化に動く。


その一方、はるか上空の絶対零度領域では異変が起こっていた。次々に投下されていた兵器は打ち止められている。ただ、異変とはそのことではない。完全に絶命していたはずの狂気の鼓動が、絶対零度の空間において徐々に悪意を取り戻し始めていることに他ならない。



その頃、本部離脱の指令を受け、ラプラスは明海を離脱指定場所まで連行していた。


「いいのかい、こんな無防備な状態で連行して」


「....」


現時点で明海を監禁しておける牢獄など用意できるはずもなく、重要人物でなければその場で解放もしくは処分を下すところだが、グレード1は捨て置けない。解放すれば襲撃部隊に合流し、更なる被害を生む事態になりかねない。ただ、処分するにしては利用価値を十分に引き出せていない。現時点で本部を奇襲されている日本軍からすれば、中国軍の情報は何としても抜き取りたいものだからだろう。


「体力が回復すれば、脱走するのか?」


実際無防備ではない。ラプラスは周辺空間の時間を停止しながらゆっくり進んでいるのだ。死人兵と接触すれば戦闘は避けられず、その結果明海一人に集中できない最悪の状況が生まれる。それを回避するため、死人兵と接触しない最善策を講じている。


「...するのが定石でしょう?」


「武勲や功績で立場を成立させたいなら、逃げるなんて考えは浮かばないだろう。戦いを好まない考えは理解できるが、人からの評価を気にしている割に行動が伴っていないように見える」


「...痛いとこつくよね。最初からマイナス評価の人間は英雄みたいな活躍でもしない限り、何をやったってネガティブに捉えられるもんなんだよ」


何かを諦めきったような表情で明海は呟く。彼は彼なりに何かを感じているのだろう。自分の行動が何の誠実さも備えていないことを自覚してなお、しっかりと前を向くという行為に、絶望的なほど拒絶反応を示してる。


「...」


会話をしながら明海は実際のところどうするかを迷っていた。このまま捕虜でいれば短期的には戦闘に関わらずに済む。少しずつ大したことない情報を開示すれば敵対意志がないとして処置が緩和するかもしれない。ただ、いつどうなるかわからない状態を継続するのはそこそこのストレスがある。話し相手は一人。偏見なく接してくれる貴重な存在は日本にしかいない。


「...僕は戦いたくないだけなんだけどな」


不本意なグレード1。求められる戦果。望んでいない役割。避けたい戦闘。人生を楽にするために選んだ選択肢は茨の道だった。もっと辛くなるとはかけらほども思っていなかった。


「あの死人らは何を目標に行動しているんだ」


「あれは僕を探しながらこの拠点を偵察と殲滅をしているんだと思うよ。僕にはマーキングしていなかったから兵器の転送ができないんだ」


「...マーキングがあったらその時点で攻撃されていたのか」


「自分でつけることもできたけどね。兵器が飛んできて何度も死ぬことがわかっているのにそんなの設定できないよ」


「...」


明海の言い分にまあそれはそうか、と納得するラプラス。兵器がただ飛んでくるだけではただの物体が移動するだけに過ぎない。そこで起爆することによって発生する被害が致命的ではあるが、それは完全にそのマーキングごと破壊する前提だ。再生しない生物や壊れればそれで終わりの物にマーキングしても普通はそれが壊れたら終わりの使い切り仕様である。位置情報を常に監視し、そのポイントを継続的に攻撃するという状況を例外とすれば、マーキングされた側はたまったものではない。いつ爆破するかわからない見えない導火線がついた爆弾をぶら下げているようなものだ。生きた心地はしない。


「さすがにそれは僕も抗議した結果、こうしてちゃんとむやみやたらに爆死しなくて済んでいる。命大事にってやつだ」


「戦いを避けている状況で使うと別の意味になるだろう」


戦闘中とは思えない会話を続ける二人。実際殺し合う意志のない同年代ともなれば、物騒な会話など出る方が異常だ。しかし、戦争においては雑談をしているときに限って、窮地が襲ってくる。まるで狙ったかのようなタイミングで。


「っ....」


「....ごめん、僕は嘘を吐いたらしい」


「本人が知らぬのなら、それは虚偽ではない」


目の前に現れたのはラプラスが散々警戒していた死人兵。召喚されるタイミングが掴めない以上、いようがいまいが関係ないように広範囲を時間操作していた。だが、それは目の前に現れた。自分だけでなく、明海にも歩いて移動させるために自分の周囲ギリギリは時間停止ではなく遅延にしていたことから、まるでゾンビが地面から這い出てくるように陰から死人がぬるりと出現した。


「...どうやら死人兵については何かしらマーキングされていたらしいな」


外に出て移動していたタイミングを狙ったかのように、闇夜のホラーが始まった。統率の取れた軍隊のような死人に狙われるという恐怖が。


ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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