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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.71 無情な侵略

仁野が放った一撃は日本本部に降りかかる無差別な爆撃を一網打尽にし、空の闇ごと退けた。


仁野はずっと戦場を駆け回っていた。いたるところに出現した死人兵を一か所にまとめるよう矢場から指示され、死人兵の肉体を破壊しない程度の力で連行し、一か所に固め、破壊し続けることで再生による行動停止を強制していた。一度死人兵の軍隊と対峙した日本における有効な対策と言えるだろう。


「憂希君...。....っ。輪廻ちゃんは憂希君をお願い!」


「うん!」


仁野はボロボロになった憂希を見て、ヒーローとしての矜持が少し揺らぐ。仲間のピンチを察知できないことへの悔しさで自らを立て直して前を向いた。

輪廻は救護班が待機している医療病棟へまっすぐに向かった。美珠からいつも感じている医薬品などの臭いを思い出しながら、それを辿るように必死に走った。


「...どうすれば」


仁野はこの状況をどうにか好転させる手段がないかをずっと考えている。ただ、本部に無尽蔵に投入される敵軍に対して有効打は見えない。その場しのぎをずっと継続する終わりの見えない防衛戦に日本側は限界を感じている。


「こんな攻撃、ロシア軍の兵器を操る能力者がいるのと一緒じゃんっ。本部ばれてんのマジでどうしようもないって...。...矢場隊長!憂希君がさっきのえぐい爆発でやられちゃった!今輪廻ちゃんが病院に運んでる!」


継続して降りかかる爆弾や砲弾を蹴散らしながら、憂希の状況を連絡を入れる。


『全体通達。本部基地は放棄し、支部への離脱を決行する。決行は1900。各員は指定時刻まで敵勢力の殲滅を継続せよ。それまで物資及び兵器、職員の空間転移を順次進行する』


その瞬間、振動が能力で行った通信が入る。その内容は耳を疑うような内容だった。しかし、信じられないと思うこと以上に、それ以外の選択肢がないと皆が感じていた。


「ここを...放棄」


仁野の頭にこの本部で過ごした時間がよぎる。まだ一年にも満たない期間のはずが、戦争と言う一秒ごとに生死が分かれる命懸けの状況を生き抜いてきた仁野たちにとって、あまりにも長く、今までのどんな時間よりも濃く感じていた。


「っ....仲間は護らないと」


今、拠点を護れなかったことを悔やんでいる暇はない。物資や装備よりもこれ以上仲間を失わないように、消耗させないように全力を尽くす以外ないのだ。


「えっ...ここにも」


No.999が暴れた地点にピンポイントで出現する死人兵。爆発のクレーターを埋め尽くすほどの数。日本軍を吹き飛ばした地点に大量投入することで、出現した瞬間に殲滅されることを避けている何とも戦略的な立ち回りだった。湧いて出るようにいたるところで死人兵が出現するのはNo.999が暴れていることに直結する。


「どんだけたくさん来たってうちには絶対勝てないよっ」


死人兵の大群に一人で立ち向かう。一般的な武器で単純な数の有利を押し付けるだけでは、仁野を止めることはできない。グレード1の能力の中で唯一の常時発動型という強みが武器や兵器に対しては無効化とも言えるほど、相性がいい。一般的な軍事兵器では不意打ちですら仁野を倒すことはできないだろう。


「っ...うちの練習相手になってもらうから!」


大規模な一撃ではなく、俊敏かつコンパクトな一撃で対象を一体ずつ撃破する。ただその速度は常人では目では追えない領域であり、まるで複数同時に攻撃されているようなレベルで接近と打撃を連鎖的に繰り出す。まるでドミノ倒しのような広がり方で死人兵の大群を蹂躙していく。大規模な破壊を主としていた仁野は自分の立ち回りを模索し、脆い相手を一撃で撃破することではなく、確実に各個撃破しながら反撃の隙を与えない攻撃を見出していた。ボクシングのフットワークを仁野の能力で規模を拡大し、ステップとジャブによる姿を捉えきれない瞬発力で反撃を許さない。


「もっと速くっ。もっと強くっ。もっともっと!」


ピンチに駆けつけてもそこでまた苦戦しては意味がない。戦場では同時多発的に戦闘が発生し、その場面ごとに状況は異なる。だからこそ即時解決できることこそ、仲間を救い、勝利を掴み取る理想的な形と仁野は解釈した。


「っ...」


今の状況に対して無力な自分を戒めるように、ただ全力で目の前の敵に集中する。一つひとつの戦いをただ消化するのではなく、自分ができる精一杯をぶつける。自分自身の能力を研鑽し、実戦にて経験値を得る。このヒーローに慢心はない。それが最大の強みだ。



医療病棟は中国軍の襲撃により混乱していた。能力による治療の一本化はしておらず、怪我の具合や症状によって治療計画を作成。それに基づいて都度調整しながら治療を滞りなく回す体制となっていた。作戦ごとの対象人数やそのレベルを作戦に投入された救護兵から共有される情報をもとに管理することで医療崩壊を回避していたのだ。


「そっちの病室を緊急搬送者用に空けられない?」


「わかりましたっ。誰か患者の移動を手伝ってくださいっ」


「基本怪我人が搬送されてくる。外科医を稼働できるフルメンバーで対応しないと」


「治療系の能力者の方は重傷者を担当してくださいっ」


なだれ込むように搬送されてくる兵士たちに医療病棟はフル稼働し、治療を絶え間なく回している。人員が限られている日本軍において、迅速な治療による兵士の現場復帰は命綱であり、重傷軽症にかかわらず治療後はすぐに現場投入しなければならない。相手は死人兵という無尽蔵に近い数の暴力。個々に爆発的な破壊力はないが、この死人兵こそが本部放棄の要因であることは否定できない。完全に押し切られては、本部放棄どころの騒ぎではない。日本軍が壊滅する可能性すらある。


「っ....」


人が入り乱れ、喧噪に包まれた病棟に輪廻は少したじろぐ。人が大勢集まる場所はまだまだ苦手だ。外出などにはいつも信頼できるメンバーと同行しており、その安心感から周囲への警戒は和らいでいた。しかし、安心感をもたらしてくれるメンバーは隣にいない。それどころか、輪廻の背で瀕死状態になっている一刻を争う状況。


「あ....あのっ!ゆーきを!たすけて!!」


必死に叫んでみた。心からの願いだ。輪廻の懇願にも近い感情が溢れるほど入ったその言葉は、その喧騒を切り裂くように響く。しかし職員たちは一瞬警戒する。誰にも心を開かない猛獣だった輪廻の噂や被害の話は、本部の病棟ともなればある程度浸透している。


「っ...??」


輪廻はその態度や視線が理解できなかった。自分の言葉が間違っているのかとすら思った。


「輪廻ちゃん!こっち!っ...。神崎君は私が治すからっ。ありがとう、ここまで運んでくれて」


そんな一瞬の淀みを、人間の穢れを薙ぎ払うように手を差し伸べたのは、緊急治療担当として医療病棟に配置された美珠だった。美珠はすぐに憂希の治療に入る。体力の消耗は無視できないほど、ずっと能力を酷使し続けているが、目の前に瀕死の仲間がいる状況でそんな弱音を吐いている暇はない。


「ゆーきっ...。ゆーきなおるっ?」


美珠よりも憂希の容態を感覚的に感知している輪廻はすがるように美珠に問いかける。


「大丈夫だよ。...神崎君は私が死なせないから」


いつも怪我をしてからしか憂希の助けになれないことを美珠は悔やんでいた。ただ、怪我をしたからには自分が必ず助けることを自分に誓っている。戦場で戦うことができない自分が唯一できることを絶対に全うする。まるで贖罪のような心持ちに近い精神だった。


「...っ」


憂希の容態は左腕の欠損に加え、無理やり止血した傷は本来であれば再生することのない重傷。美珠の能力はその症状に関係なく、身体を健康体に超速で再生する。四肢が欠損しようが、内臓が破壊されようが、風穴が空こうが、胴が切り開かれようが再生する。


「...すごい」


輪廻は今まで見てきた動物たちにはなかった回復力に驚愕する。自然界にも欠損部を再生する生物はいるが、児童用生物図鑑までしか見たことがない輪廻がまだ知らない。


「...脈拍安定。...血圧値測定して、呼吸は...まだ浅いけど大丈夫かな」


左腕を再生しきっても美珠は能力の行使をやめない。美珠が能力行使によって著しく消耗するのはこれが主な原因だ。救護班に搬送されてくる兵士たちは基本的にその外傷による戦線離脱であり、その傷さえ治れば復帰できるものだ。しかし、美珠は戦闘による体力の消耗や疲弊すら治療対象として能力を行使する。戦場に投入される前の万全な状態まで再生するため、美珠本人の負担は計り知れない。


「っ.....。あれ、安楽堂さん。....輪廻」


憂希は美珠の能力でみるみる回復し、意識が覚醒するまでに至る。


「神崎君。もう少しそのままでいてね。全部ちゃんと治すから」


「ゆーきっ!ゆーきっ」


憂希が目覚めた瞬間、輪廻が憂希に飛びついた。まるで大型犬のようなボディランゲージ。ずっとそわそわしながら心配そうに憂希を見つめていたが、ついにその精神負荷から解放され、泣きそうな顔が明るく変わった。


「...ありがとう。....輪廻がここまで運んでくれたの?」


「うん!にのもね!たすけてくれた!」


「そっか。...皆に助けられたね。...ありがとう、安楽堂さん。もう大丈夫。...俺も戦線に復帰しないと」


「...私としてはもう少し安静にしてほしいけど。目が覚めたばかりで本来ならそんなすぐに立てないのに、戦いなんて...。...それでも、行くんだね」


「うん。安楽堂さんのおかげで万全だ。ありがとう」


美珠は無意識に憂希の袖を掴もうとする自分の手を必死に抑えるため、強く拳を握る。その震えた冷たい手を憂希に見せないよう、自分の背に隠した。


「さっき通達があったんだけど、この本部を放棄して支部に離脱するらしい。転送準備を整えているから、十九時まで耐えないといけないって」


「っ...。そっか、場所が割れた以上、手の打ちようがないってことか。...ありがとう、なおさら急がないと。輪廻は少しここで休んでて」


「....り、りんねも」


「りんねはここにいる皆を護ってあげてほしい。俺みたいに怪我をしてくる人も多いだろうから。...できるかい」


「...わかった」


「ありがとう」


憂希が病室から出ようとした瞬間、医療病棟には不似合いな爆発音が遠くで響いた。戦争において医療機関や学校などの公共施設への攻撃は国際人道法により禁止されている。軍事用とはいえ、そこには数多くの患者と軍人ではない医療従事者が在籍している。


「くそっ」


爆発音が響いた方から悲鳴が聞こえてくる。走って近づけば近づくほど、混乱や悲痛さが声に乗り、色濃くなっていく。


「あははははは!!んだよここ!!たくさんいるじゃねえかよ!!」


その声の中に狂気が一つ。法も倫理も最初から知らないテロリストは戦争において最悪の選択をする。無差別に攻撃対象を蹂躙する兵器。敵味方すら意識に無い悪意に染まった破壊衝動は、本能的に弱者へと向かっているようにすら感じる。


「お前っ...。病院まで」


「お!!お前なんだよこんなとこにいたのか!!爆発かなんかで吹き飛んだのか!?探したぜ!!探してねえけど....なあ!!!」


No.999はまるで悪ふざけのような態度のまま、いたずらでもするように手に持っていた手榴弾を憂希に目掛けて投げ込んだ。


「っ...。絶対に...許さない」


憂希は振り払うように手榴弾を強風で上空へとはじき返す。数瞬の間をおいて悪意が空ではじけた。

憂希に芽生えた敵意が、純粋な悪意によって殺意へと昇華していく。握りしめた拳が熱を帯び、それに呼応するように大気は乱れ、天は重く沈んでいく。



ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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