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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.69 野生の理性

はるか上空ですらその絶大な威力と影響範囲により、地上にも決して小さくはない被害をもたらした大型爆弾が地上で起爆した破壊力はすさまじかった。憂希が施設からかなり距離のある軍事用滑走路にNo.999を連行したことが不幸中の幸い。ただ、その威力は当然生半可なものではなく、数キロメートルという広大な滑走路は逆に衝撃や爆風を遮る壁がない。そのため、滑走路に面している建物はその衝撃を正面から受け、一瞬で崩壊し瓦礫となる。


「だあああああ!!!氷めんどくせぇえな!!!ずっと爆破してたらなんもできねえしな...。てかあれ、死んだか?どこ行きやがった。てかどこだここ」


爆心地のクレーターの中心に完全に再生したNo.999が一人だけが立っている。爆発直後のせいか、あたりは戦闘中にもかかわらず嫌な静寂が漂っている。


「んだよここ。近くに誰もいねぇし、何もねえんかよ。お、あっちで爆発したな。俺も混ぜろよなあああああ!!」


No.999はまた足を爆発してその勢いでその場から射出されるように勢いよく離脱した。


「ぐっ....が....ぁぁぁあ....かは」


クレーターとなった地面の一部が崩れ、深くはない穴から息をするために必死に瓦礫をどかしながら憂希は這い出た。


「が...うぐ...」


右手で抑える左手は肘から先が無くなっていた。爆破による焼失か衝撃波による消失か、または瓦礫による裂傷かは憂希自身にもわからなかった。出血は火による焼灼術で止血した。冷静ではない頭で行った行為のため、医療的な視点で見れば不十分だったりするのだろう。


「くっ...」


脳が全力で痛覚を麻痺させようとアドレナリンを分泌していても、はっきりと伝わってくる痛みに憂希はその場から動けない。


「やっぱ...あの人おかしいだろ」


その痛みを生きている実感とし、何度も繰り返しているNo.999をやはり憂希は認められなかった。意識のある中でここまで怪我を負ったのは初めてだった。体の一部を失った痛みがじわじわと精神すらも蝕んでいく。


「...まずは本隊に戻らないと。...でも.....その前に」


憂希は爆弾で発生した夜よりもどす黒い黒煙の雲とその上昇気流を利用し、大量の水分を含ませることで雨を降らす。ゲリラ豪雨のように突然降り出す雨は黒煙の影響で黒く濁っている。


「........」


痛みが頭を支配し、体の自由が利かなくなる中で、憂希は地面に倒れながら戦闘中よりも集中した。アドレナリンがもたらした一時的な集中力なのか、火事場のバカ力的な極致の集中なのかは不明だが、その時の憂希は今までのどの時よりも感覚が研ぎ澄まされていた。風の対流だけでなく、雨粒の振動や流れ落ちる水滴、じりじりと熱を持つアスファルトや蒸発した水蒸気に至るまで、自分の肌を伝う触覚のように感じ取っていた。その中で、不純物で濁った雨で濡れた戦場に弱い電流を走らせる。


「....この戦場をまずは停止させる」


敵の戦力はNo.999と死人兵。No.999の所在は不明だが死人兵だけは今の憂希にははっきりと区別できた。死人兵の部隊は同時に脳から電気信号が筋肉へと伝達する。偶然タイミングが重なることはざらだろうが、絶対に一緒に発生する電気信号が存在することを憂希は感じ取っていた。その人間と死人の差異を感じ取り、戦場に存在する死人兵の位置を特定する。


「しばらく止まっていろ」


特定した死人兵すべてを対象にした氷結を発生させる。戦場のいたるところで巨大な水晶のように氷塊が咲き乱れる。電気信号などの指示系統を破壊するために放った雷撃ではすぐに修復されるだけでその効果はなかった。だからこそ修復が遅延する氷結が有効と判断した。効果はNo.999で試している。


「...戻らないと」


安定しない能力操作を駆使し、飛行しながら帰還しようとしたが、うまく大気の対流を作れない。うまく力が入らない手足のようにいくら能力を行使しようとしても思い通りにいかない。頭で描いている行動が再現できない。そのまま憂希は滴る雨の音が消えていくのを感じながら、意識を失った。



大型爆弾が起爆する数分前、輪廻は自分の部屋で怯えていた。今まで自分の住処まで嫌いな大きい音が響くことなんてなかった。知らない臭いや初めて嗅ぐ嫌な臭いもある。部屋のある建物が軋み、一部が崩れている。生物が争っている喧噪が嫌というほど伝わってきている。やっと安心できるようになってきたこの部屋が、ここにやってきたときのような不安が輪廻を襲っている。


「...ゆーきが....たたかってる」


その嫌なものがひしめく戦場の喧騒の中に、憂希の気配を感じた。大自然で暮らしていた時はまだ好きになれなかった崩れた天気や荒れた自然に今は憂希の気配を感じるようになった。不自然な風や察知できない雨、意思があるような雷。それらすべてが憂希の能力であることを輪廻は理解していた。


「...っ。まもってくれてる」


輪廻は憂希が戦っているということは他の皆も戦ってくれているのだと解釈した。いざ敵を目の前にすると、その殺意や怒気を人よりも敏感に感じ取ってしまう輪廻は立ちふさがる自分自身の恐怖心にずっと立ち向かえずにいる。そちらに進む足が竦み、手が震え、目が泳ぐ。


「っ!?」


その時、衝撃や爆発音が到達するよりも先に輪廻は異変を感じ取った。野性の勘としか言い表せない第六感が生命の危機を予測し、反射的なアラートをかき鳴らす。その反応は正解だと証明するように数秒後、音を追い越した衝撃波が輪廻のいる建屋を大きく軋ませる。大きな亀裂、壁や天井の崩壊が次々に発生し、輪廻は声も出せずただ毛布の中でできる限り小さくなることしかできなかった。能力さえ使えず、人間体のまま丸くなる。


「っ.........」


嘘のようにその衝撃が急に静まり返った後、今更ながら施設の警報や人々の喧騒が後付けされたように聞こえてくる。


「うぅ...うう」


死がもたれかかってくるような感覚が首元にひんやりと伝わってくる。独りになった時とは違う恐怖心で輪廻の体は震えが止まらない。泣き出しそうになる感情も声も何とかこらえて、ただただ耐えている。


「うう...。......っ。ゆーき?」


その恐怖が感覚を研ぎ澄ませていた周囲感知に違和感が引っ掛かる。さっきまで広く大きく感じていた自然現象の違和感。それを輪廻は憂希の能力として処理していた。しかし、その違和感が一切感じ取れなくなった。


「ゆーき...?....ゆうき?」


必死に憂希の存在を探す。恐怖で閉じ込められていた能力すら無意識で解放し、あらゆる感覚器官をフルで行使し、憂希を探す。


「にの...。らぷ....。あれ....?ゆーきが」


仁野やラプラス。会ったことがあるメンバーの場所は次々に感知している。ただ、憂希だけが見つけられない。普段はそんなことはない。憂希が無意識で発動している周囲環境の最適化が一切感知できない。それだけは絶対にいつも感知できていた。だからこそ、最初は警戒していた。


「....ゆーきっ」


輪廻は駆けだしていた。嫌いな音や嫌な臭いはまだする。さっきまでの恐怖心はまだある。手足に重くのしかかってきた死の感覚を引きずって、震える足を手で支えながら、いつか忘れていた四足歩行で駆けだす。それは本能とも言える輪廻に植え付けられた精一杯の行動から現れた野生。


「たたかう....たたかうっ」


恐怖を押し殺すために吐いた言葉ではない。弱さを隠すために出た意志ではない。仲間を護るための覚悟が形を成しただけだ。


「ゆーきをまもらなきゃっ」


母犬と似ているような安心感をもたらし、現実と社会を教え、人と関わることへの架け橋になってくれた憂希。何より、独りだった自分に居場所を作ってくれた存在。まるで家族のような温かさが輪廻は好きだった。輪廻は知らないであろう、兄弟に対する信頼に似た感情が恐怖で凍てついた輪廻を動かした。輪廻が初めて、戦場において恐怖を忘れた瞬間だった。



明海が監禁されている牢獄の監視を任されていたラプラスはMOAB級大型爆弾の影響により天井が崩れた瓦礫の下にいた。


「っ...牢屋だからって耐震弱すぎなんじゃ」


大きな瓦礫が壁に引っかかるように落ち、立てかけられたことでラプラスはその下敷きにならずにすんでいた。天井は脆くても壁は頑丈にできているようだ。


「おーい、無事かい?」


牢屋の中から声が聞こえる。


「こっちは平気だ。そっちは」


「無事とは言えないけど大丈夫だよ。こういうときだけ悪運が強いんだ」


ラプラスが瓦礫から脱出し、明海が監禁されている牢屋の前まで行くと、牢屋内にはそこまでの被害はなく、まるで対岸の火事というような余裕綽々な表情で寝そべっていた。


「僕の体力を奪い続けていた人は死んじゃったよ。こんな状況で僕なんかに気を取られているから自分の命を落とすんだよ」


明海の能力行使を抑制するため、体力を消耗させ続ける必要があった日本軍は交代勤務でグレード4程度の能力者を配置していた。裂傷やら発熱やら手段は何でもよく、ただ回復を継続させることで大掛かりな能力を行使させないようにしていた。それを担っていたと思われる担当者は牢屋の前に落ちてきた天井の瓦礫によって絶命していた。


「...妙なことをすれば魔力を解放するぞ」


「そういえば君の能力は知らないな。...でも発動しちゃったら僕も真似できちゃうよ?」


「お前が認識できるような単純な効果ではない。諦めろ」


実質的に拘束から解放された明海はラプラスの牽制に対して、どっちつかずな態度を取る。


「...一つ提案があるんだけど」


「交渉は無意味だ。オレにそもそも決定権などない」


ラプラスは憂希達に比べれば年齢こそ下だが、その地頭や要領の良さは秀でているだろう。自分の立場や役割を認識し、それに準じて行動できている。


「いや、これは君個人に対しての提案だよ」


「オレに?」


組織的な交渉かと身構えたラプラスは肩透かしをくらった。そもそも互いが好きなアニメや漫画の話を文通でやり取りしている現状で、こうして顔を突き合わせ会話するのがいささか気恥ずかしいと思っていたのに、そんなことなど意に介さず話しかけてくる明海にラプラスは怪訝そうな顔をする。


「二人で逃げたりしない?僕たちならこんな戦争から逃げ出せるんじゃないかな」


「...は?」


予想だにしていない明海の提案に、間抜けな声を出したのは明らかにラプラスではなく、素の中村 新香そのものだった。

ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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