No.68 中国の王手
憂希の雷撃を受けた爆弾たちは夜空に大きな星々を描いて消えた。MOAB級爆弾の爆発とまではいかないが数の多さからまた大気の対流を大きく見出し、地上に嵐のような荒々しさをもたらす。軽車両や野外の設置物が風で吹き飛び、周囲に衝突を繰り返す。施設の窓ガラスはほとんどが割れ、壁に亀裂が走っている建物もある。
「っ...。感知はできても再生されたら動きを止められない」
感知した死人兵に撃ち込んだ稲妻は確かに対象を焼き尽くしたが、死人兵も同様に再生を繰り返す死を常態化した存在。No.999ほどの再生能力はないものの、じわじわとその体を元に戻していく。ただ、その状態では完全に動きを停止していた。
電気信号の感知はかなり繊細で意識の集中が必須となる。他で能力のリソースを割いている中、それを行使するには現時点では無理がある。ましてや死人兵と味方の兵士を切り分けて感知するという難易度において、他に能力を使うことなどできはしなかった。
「本部の位置がばれた以上、ずっとここを攻撃してくる。...こっちはここから撤退できない。完全に袋のネズミだ」
完全にこの襲撃を退けなければ、この戦いは一方的に日本側が消耗を強いられる苦しい状況。大規模な能力行使はそれこそ自分たちへの被害も無視できないものとなる。米軍との同盟以降、回復の兆しを見せていた日本の戦力がまた削られれば、欧州とも完全に敵対した現状では絶望的となる。
「振動さんっ。このゾンビ化の能力者は近くにいないですかっ」
『死人兵の集団が本部内で複数発生したことで、施設内含め混乱状態だ。乱戦に近い。私の能力だけじゃ識別しきるのは難しい。六次准尉、施設内の状況は』
『現在視覚的な情報では死人兵以外の敵勢力は確認できず。周辺施設確認中。同じく敵影らしき存在はいずれも確認できず』
振動の通信を受けて、索敵と情報収集ならびに情報伝達を担う六次が通信で現状を連絡した。少なくともこの戦場には姿を現していないということだ。爆撃対象に自分から行くほど考え無しではない。
「かなり遠距離からでも行使できるってことか。戦場での死体操作ならまだしも召喚しているかのように発生しているのは前回と状況が違うのに距離は同じなのか」
ただ状況や召喚場所を把握するために何かしらで情報を得る必要がある。
「...まさか、死人兵で」
憂希の頭の中で嫌な予感がよぎる。六次の能力を今一度認識したからこそ行きついた想定の域を出ないただの仮説。ただ、想定問答と切り捨てるにはあまりに無視できないほどの脅威を含んでいる。
「死人兵からも...情報伝達が可能だとしたら」
死人兵に意志があるような統率。一人ひとりに個別の指示を出しているとは考えにくいが、それでもただ徘徊する死体ではない。武器を使うし、編成を組む。痛みや感情がない中身が空っぽなだけの器ではあるが、だからこそ受けた攻撃や敵の位置がわからなければそういう細かい行動もできないはずだ。
「六次さんに監視してもらわないとっ」
今の仮説を伝えようと通信機に手をかけようとしたが、憂希はそれができなかった。取ろうとした通信機が破壊されたのだ。
「だあ!銃ってなんでこんなムズイかねえ!簡単に殺せちまうくせに扱いはムズイ。やっぱしょうもないよなぁ、くそつまらん」
何発か乱射していたらしく、弾が空になった拳銃をその場でポイっと捨てる。あちこちで銃声や爆発音が響く状況で憂希はNo.999が放った銃弾に気づいていなかった。
「くそ、一度振動さんを経由して伝達するしか」
「おい!!!無視すんじゃねぇよ!!そうですよね、銃とかロマンないですよねとか言ったらどうなんだああ!?」
まるで理屈や筋などあったもんじゃない問答で怒りを隠すことなど一切ないまま、下半身を爆散させ、上半身だけで急接近するという人間の領域から外れた手段を見せた。憂希のいる位置まで到達するころにはすべて再生が完了している。
「再生トップスピードだっ!!」
そのまま右腕を爆破し、手にもつ刃物ごと憂希へ飛ばす文字通りロケットパンチのような荒業を放つ。爆破した瞬間に再生が完了しているような再生速度で自分の腕をアサルトライフルのような連射速度で放ち続ける。
「ぎゃははははは!!!これなら銃もいらねぇよなああああ!!!」
「くそっ」
情報伝達は最優先だが、憂希は目の前の危険因子を無視してこの場を離れるわけにはいかなった。接近を許さず一方的に迎撃する形を保つのは少なくともグレード1の中では憂希が最適だった。兵器の転送ポイントとしての役割を担っている以上、No.999の場所や行動は常に監視しなければならない。
「爆発でもビビらねぇ。核みてぇな爆撃にも怯まねえ。銃や刃物にも動揺しねえ。....くははははは!!!お前の歪んだ顔を見てみたいな!!!」
No.999が珍しく他人に興味を持つ。今まで自分が行ってきたあらゆる殺戮行為に対して、例外なく表情を歪ませた人間しか見てこなかった彼からすれば、必死に抗いながらもNo.999を軽蔑や嫌悪するのではなく、倒すべき敵として真っ直ぐに見る憂希の態度は初めての経験だった。味方ですら恐ろしくて近づかないNo.999の自由奔放というにはあまりに猟奇的な破壊衝動と自傷衝動は、自分に向く真っ直ぐな視線ごと跡形もなく消し去りたいという欲望に変わっていった。
「怯えてないわけじゃない。恐怖がないわけじゃない。ただ、そんな恐怖を理由に、何もせず仲間を失うことのほうが何よりも恐ろしいだけだ」
「ああ~??なんだそりゃ。自分の感情をよくわからんやつらに支配されてんのか?自分の命すらいつ消えるかわからねぇくせに他人の命で揺さぶられんのかよ...。お前生きてて楽しいのか?死んで幸せか?」
全く理解できないという顔で、信じられないもの見ているような表情でNo.999は珍しく他人と会話する。相手がどこの誰でどんなやつかなんて興味なく、記憶にとどめている人間を思い出すほうが苦労するレベルのNo.999にとって異例と言えるだろう。ただの気まぐれ、その場の流れだろうと異常である。
「死んだことがあるから教えてやるよ。死ぬことなんて大したことねぇ。その瞬間の快感が終わっちまえばあとは何もねぇ。俺は何回も死んでるから知ってるが、死んだところで世界は何も変わんねぇ。止まることすらねぇ。だから死ぬ瞬間ぐらい派手にやるんだ。最高に気分がいい状態で死ぬ。それが一番楽しいだろ?」
死についてだけで言えば、ここまでの玄人は人間と言う枠を外してもいないだろう。自我を持ち、意識を持ち、意思を持った命でここまで死んでいるのはNo.999のみだろう。死の矜持とも言えるNo.999の言い分は中身も意味もない言葉の羅列で、本人さえ何を言ったか覚えていないであろう空っぽなものだが、淀みも汚れもない純粋さという意味では、一番澄んでいる言葉とも言える。
「死んでも変わらねぇなら生きてようが死んでようが一緒だろ。なら盛大に殺し合おうぜ!死ぬ間際の銃声よりもうるせえ心臓が一番生きてるってわかんだろ!!」
死ぬことが常態化したNo.999にとって、何もない日常は死んでいるのと同じ。生きている実感がないなら死んだほうがまし。感覚や倫理が崩壊したNo.999にとって、その暴論こそが唯一の生きがい。死ぬことが生きがいという矛盾。しかし、長い目で見ればどんな人物でもその死ぬまでの工程を人生と呼ぶのではないだろうか。
「変わるだろ。...変わらないわけがないだろ」
「あ?」
憂希は知っている。人が死んで、例え世界が止まらず歩みを進めたとしても、自分がその死で変わったことを。変わらざるを得なかったことを。
「生きていることに価値がないみたいに言うなよ...。価値が宿るのは生死じゃない。その人自身だ。...その価値がわからないあんたみたいなやつが、勝手に人の命を雑に扱うなよ。命の価値を気安く語るなよっ」
「くはは!!いいねぇおい。いい感じに顔が歪んでんじゃねぇかよ!!!」
憂希は初めて戦闘中に、人に対して明確な敵意を持った。自分が必死に歩んできた道がその歩み自体が、存在などせず、これからも一緒に歩むはずだった人を亡くし、それでも前に進もうとした決意が嘘だったかのように言われた気がした。憂希は敵意のまま能力を行使する準備を始める。自らの歩みとその決意を確かなものにするために。
「そんなに死にたいなら一人でやってくれ。こっちは死ぬ気なんてさらさらないんだっ」
先に仕掛けたのは憂希だった。磨き上げた最高速度へ一気に加速し、自分自身が衝撃波のような速度で急接近する。距離が近かったこともあり、まるで瞬間移動でもしたかのように一瞬で間合いを詰めた。
「まずは広いところまで来てもらうぞ」
その勢いのままNo.999の顔面を掴むように捉え、強制的にその場からNo.999ごと離脱する。
「あ!?離せばばああああばああああああああああ」
No.999の顔に触れた手から高電圧を放電し続け、No.999に武器の転送や能力行使の思考をさせないまま数百メートル移動する。普通なら絶命しているはずの電圧でも再生能力が追い付いているためか、意識を保ったまま耐えきっていた。
「っ。そのまま動くなっ」
移動先は軍事用滑走路。日本軍の施設内であり、一番面積が取れる被害を最小限に抑えるための戦場と言えるだろう。そこへの着地でNo.999を地面に叩きつけた瞬間、全身を一瞬で凍結させ、思考も行動も封じた。今まで人に対して放ってきた氷雪系の能力に乗っていた無意識の躊躇は、この一撃には微塵もこもっていなかった。
「こっちの能力を使い続けないと、何をやったって再生し続けると言うなら、再生に思考が回らないほど攻撃するまでだ...」
不死を破壊し続けるという終わりの見えない消耗戦に踏み出そうとしたとき、中国が講じる作戦において本命とも言える一手が投じられた。
「なっ...」
No.999が完全停止もしくは武器ならびに兵器の転送要求が途絶えたとき、その場所に最初に投入したMOAB級爆弾をピンポイントで転送する。地上か空中かなど関係なく、No.999を抑えるほどの敵勢力がいる場所に最大火力を放つ。明海の奪還も目的の一つだが、日本戦力を大幅に削り取ることも作戦に含まれる。手段を問わない殺し合いだという事実が無慈悲な爆弾によって証明されたのだった。
「くっ」
憂希が大型爆弾をどうにかする前に、何の躊躇も感じさせないほどの早さで起爆する。地上一メートルで起爆した大型爆弾はその熱と衝撃を余すところなく日本軍本部に拡散させた。
ご拝読ありがとうございます。
皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。
素人の初投稿品になります。
これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。
感想もお待ちしております。




