No.67 絶対防衛戦線
空中を高速で上昇しながら憂希は肉眼でNo.999を確認した。
「あれかっ」
見るからに人の大きさとしてはひと回り程度小さい。まだ完全に再生しきっていないことが伺えた。
「あいつが何をしても意味がないようにするしかない」
無差別で暴れ回る猟奇的なNo.999を無力化するには大きく分けて二つの手段がある。一つは暴れらないほどの攻撃をくらわせ続け、再生のみに集中させる。そして、もう一つは。
「誰も何も無い場所に来てもらうぞっ」
ほぼ何かしらで射出された勢いのまま着弾するまで軌道を変えないNo.999の軌道を強制的に変更するため、憂希は空気中の水分を急激に冷やし、氷のウォータースライダーのような造形を空中に形成する。
「派手なのが好きなら気にいるはずだ」
筒状になった氷の中で、空気抵抗を空気の対流操作で限りなくゼロに近づけながら、No.999を押し出すような風をまるで弾丸を発砲するようなスピードになる程の勢いで流す。逃げ場のないルート変更にNo.999を連行する。
「なんだなんだなんだ!!!どこいくんだこれおい!!」
ただの阻止であれば爆破して終わりだが、現在地すら把握できず高速で移動する状態にさすがのNo.999も混乱した様子を見せる。
「まあいい!関係ねぇええ!てか知らねええ!!阻止されたら爆破!撃たれても爆破!!だったよなああああ!!」
憂希の妨害を無視し、No.999はこの作戦において唯一指示された行動に従う。それすら守ればあとは好きにしていいと言われたからだ。この男で一番の効果を出す扱い方を中国の司令塔はよく理解していた。
「おおおらあああ!!派手に行くぜ!!!」
起爆の十八番となった手榴弾を手に、No.999は体にまとった空対地ミサイルを起爆し、憂希が形成した氷の造形を木っ端微塵にする。夜が深まってくる艶やかな空を下品に照らした。氷とともに粉々になったNo.999の肉片が柳のように枝垂れ落ちる。
「今だっ」
再生に集中するこのタイミングを狙って、憂希はNo.999の肉片をすべて風で一点にまとめる。まとまった瞬間すべてを氷結させる。
「このまま海に沈めっ」
その氷塊をそのまま本部上空から海上へ運ぶ。風の対流操作で滑空するようにゆっくりと空中を運ぶ。
「振動さんっ。No.999を今無力化しました!このまま海へ移動させます!」
『よくやったっ。そのまま拘束すれば危険因子を完全に無力化できる』
「...ただ、まだ何かある可能性はありますっ。本部の位置がわかっているのならわざわざNo.999を投入しなくても別の攻め方だってあったはずじゃないですか」
『...おとりということか?』
「何の確証もないですが、警戒はまだ解かない方がいいと思います」
『継続して周辺を警戒中だが、No.999以外の反応はまだないな。まずはNo.999を完全に無力化してくれ』
「了解」
支部の襲撃以降、他の被害報告はなくNo.999の目撃情報も極端に減った。拠点の位置情報だけでどこか支部でどこが本部かわかっていなかったとすればもっと各地で襲撃があってもおかしくない。
「...よし、もう少しで」
本部からかなり距離を確保でき、海も視認できる距離まで運ぶことができた。その時だった。
『上空に大量の飛来物を確認っ。かなり大型の爆弾を用いた絨毯爆撃と思われるっ』
その全体通信を受けた瞬間、憂希は自分よりもさらに上を見上げる。
『っ...。大型爆弾と断定っ。MOAB級大型爆弾が大量に投下っ。爆撃機は確認できないっ』
MOAB。非核爆弾で最大級の威力を持つ大規模爆風爆弾。すべての爆弾の母と呼べるほどの威力を誇るその爆弾は核兵器を除けば最大規模の爆弾。半径一・六キロメートルに存在する施設や遮蔽物をすべて薙ぎ払う一発で敵を殲滅できる爆弾である。それが、大量に投下され、空から巨大な雨粒のように降り注ぐ。
「くそっ、本命はこっちか」
No.999を投入し、No.999に対する迎撃を確認することで、どこが本部なのかを割り出す中国の策略だった。本命になればなるほどその抵抗や投入する戦力が増すと予想し、出てくる戦力で追撃手段を選択するという完全なおとり作戦。No.999のみで壊滅できればそれはそれでプラスという基本的に中国側の損失がない中国有利の作戦だった。
「一般人どころか市街地も関係なしかっ...」
暗黙の了解というわけではないが、これまでの戦闘はその軍の領土内では発生しなかった。とはいえ、内陸国ともなれば隣国を巻き込んだ戦闘になっていたため、一般社会に何の影響もないということは一切ない。ただ、軍の本体、さらに言えば軍の本部への直接攻撃はこの戦争が本格化して初めての事態だった。
『距離があるうちに全弾迎撃せよっ。地上に接近させたら終わりだっ』
一発ですら本部を巻き込む形で起爆したらその爆発範囲により施設は壊滅する。核兵器ではないことから、汚染物質などによる二次的被害はないにしろ、通常兵器としての威力は十分すぎる。警戒態勢を引き上げたことで作戦に投入された戦力はかなり多い。広い敷地とはいえ兵士たちが暮らす居住区もある。ここに壊滅的な被害をくらっては日本軍の機能停止する。
「くそっ」
憂希は大量の大気で上昇気流を発生させる。人どころか車や建物、木々や岩石ですら剥がし飛ばすほどの自然界には存在しない気流。まるで滝が逆流したような勢いで風の壁を作りながら吹き上げる気流は大型爆弾の雨を自由落下から解放し、徐々に地面からの距離を離していく。
「今俺が全弾の落下を止めてますっ。今のうちに迎撃をっ」
『神崎上等兵が爆弾の落下を止めているっ。今のうちに全弾迎撃せよ』
大型の氷塊を移動しながら全力で上昇気流を発生させる。風という概念において憂希が現時点で出せる最大出力を発生し続ける。
その時、氷塊が爆破し、轟音を響かせながら粉砕した。
「おいおいいいい!!なめんなよバカが!んな弱ぇ凍結で俺の再生は止まんねぇよ!ああ?...なんか見覚えのある顔な気がするが。...まあどうでもいいよな!!すぐ死ぬしよ!!」
「っ」
憂希の意識が氷結維持から逸れたことで凍死、凍結から回復するというNo.999の不死性が上回り、それに差し込むようにNo.999へ武器が転送され、氷塊を破壊した。そのまま自分の命すら軽く扱うNo.999が他人への興味など一切あるわけもなく、かつて相対した憂希を思い出さぬまま銃口を向けた。
「風穴空くって気持ちいいんだぜ!!!」
SMGを両手に持ち、狙いなどどうでもいいと言わんばかりに二丁を乱射する。反動により空中で錐揉み状に回転しながらも全方位に弾幕を放つ。
「お前に構っている暇はないんだっ」
「じゃあ無視できないくらい派手に死ななきゃなぁぁああああ!!」
その時、二人が戦闘している位置よりもさらに上空で巨大な爆発が発生する。その爆発が他の爆弾を起爆させ、連鎖的に大爆発が空を覆いつくす。空は夜の気配を消し飛ばし、太陽が空全体を埋め尽くしたような光が地に落ちる影すら薙ぎ払った。一気に膨張し押し出された大気が引き潮のように爆心に向かって急激に流れ込み、熱による上昇気流と四方八方から流れ込む大量かつ激流の大気が天変地異のような乱気流の塔を宇宙に向けてそびえ立たせていた。
「なっ...。あんなのを本部に」
阻止できたからこそ客観的にみるその爆弾の威力。それらが自分たちに向けられていたという事実に憂希は戦慄する。どこか、戦場が用意され、そこで正面から正々堂々戦闘することを前提と無意識でどこか勘違いしていたのか、憂希は戦争とは無慈悲な殺し合いでしかないという現実を自覚する。
「だったら...それを利用してやるっ」
黒煙が夜空より暗く黒い塊となって空を支配している人知の凶器を憂希は自らの武器とするため能力を行使する。爆発した後に残る人為的な現象を自然の一部と解釈し、憂希はそれに手綱をかける。敵の心情や状況が殺意や大義で透けて見えなくなっている戦場において、敵の行動に対して自分たちがさらにそれを上書きするように行動する応酬こそ、戦争というものの醜さを表現していると言える。
「ぐっ...うぅ。だぁああああああああ!!」
爆発後もなおその渦中にあるものを侵略し続ける乱気流や熱を憂希はそのままNo.999に向けて一束にまとめながら放つ。向きを制御するだけで全神経を使うような荒れ狂う天変地異をNo.999にぶつける。物体が蒸発するほどの熱を内包した気流と黒煙の激流がド派手にNo.999を呑み込んだ。
「そのまま海まで吹っ飛んでもらうぞっ」
ダメ押しにその激流に放電し、様々な不純物が対流する激流の中を紫電が一気に走り抜ける。
『再び上空から飛来物接近っ。大型爆弾ではないっ。小型爆弾による絨毯爆撃と思われるっ。....数を観測不能っ。何層にも及ぶ大量の爆弾と思われるっ』
本部の位置を確信した中国軍は上空で起爆したMAOB級爆弾を観測し、すぐに次の手段を取る。
「数がまとまっているならまた同じように連鎖的に破壊すればいい話だっ」
憂希は再び大型爆弾と同じ要領で上空での迎撃を仕掛けようとする。しかし、中国軍も一辺倒ではなかった。
『全体通達っ。地上巡回及び迎撃部隊の通信途絶を確認っ。地上に人型の物体が大量に増殖していることを確認っ』
『こちら迎撃部隊っ。今急に目の前に死体がっ。兵士の死体がどこからともなくっ。うわああ!?』
上空とNo.999に注意が向いたその隙を狙って、地上にも襲撃部隊を投入した。まるでどこからともなく湧いて出たように地上には死体がはびこっている。まるでフィクション映画のような地獄絵図が拡大していく。ただ、それらはまるで意志を持っているかのような統率を取れた軍人の動きで地上を侵略していく。
『こちら矢場隊っ。こっちでゾンビどもは始末するっ。嘘みてぇなあの爆撃をどうにかしてくれっ』
地上についていた矢場の部隊がそれに対処する無線を入れる。恐らく仁野も一緒に現場へ向かっているだろう。
「振動さんっ。これを仕掛けてきてる敵がどこかにいませんかっ!?こんなドンピシャで仕掛けてくるなら遠くにはいないんじゃ」
『ずっと探しているがまだ確認できていない。神崎上等兵は爆撃への迎撃を遂行せよっ』
一方的に攻め続けられている圧倒的に不利な状況。少しでも敵の攻撃を通せばなし崩し的に崩壊するという背水の陣。
「っ...死人兵と味方を区別できれば。....いや、できるかもしれない」
憂希は自分の能力を感知に一点集中する。今までは風の対流を触覚のように使い、ある程度の距離や形状を確認してきた。しかし、今試みているのは風ではない。
「俺は...自然現象なら感知できるはずだ」
あらゆる動物に共通する脳から発する電気信号。微細であり、瞬間的な微弱電流。しかし、流れていることは事実だ。動物の特徴を駆使する輪廻に様々なことを教えている中で知ったまだ素人レベルの知識。だが、その発想と挑戦こそが、憂希をここまで能力兵として育ててきた。今回もそれは例外ではない。自分がすべてを解決したいという無謀で無鉄砲な欲求が、無粋で非現実的な理想論が、憂希を人間から戦士へと変化させている。憂希から人間らしさを食らいつくしていく。
「っ...。これだ。これしかないっ。俺たちの基地から出て行けよ!全部!!」
かつての躊躇はもう姿を消し、雷撃という憂希の宿敵は上空の爆弾から死人兵までを貫く天と地をつなぐ光の槍となって、降り注いだ。
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