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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.65 滴り落ちる陰影

憂希は先日の欧州が公開した声明と、和日月から下された命令について仁野やラプラスと意見交換をするため、食堂にて久々に昼食を共にしていた。


「ん~やっぱムズイよね。なんかパッて答え出せない感じ。うちも能力者になる時死んじゃうかもって知らなかったらヨーロッパが言ってることは賛成しちゃうかも」


「オレは総司令の主張も理解できる。...力を持つ者が増えれば、それだけその力を正しく扱わない者も増えるだろう。力に溺れ、欲望に目がくらめば誰でも悪になる」


二人は二人なりに今回の件について考えているようだが、それでも明確な答えにはたどり着いていなかった。


「あ、でも、戦うための能力は戦う人しか持っちゃダメっては思うかも」


「それはどうして?」


「だって、誰でも戦えちゃうってなるのはさ、皆が皆、戦わないといけなくない?戦いたくない人とか戦えない人も戦わないといけないみたいな」


能力を持つことが前提の世界では力を使う線引きがあいまいになる。銃社会で自衛が可能となる一方で犯罪率や誤射による事故など、様々な問題を抱えているように。


「うちは力を悪用する人から力のない人を護るヒーローになりたいから。戦いたくない人は能力がなくたっていいと思う。それも自由じゃん?」


「そうだね。...能力者になりたくない人だっているよね」


そういった人間が淘汰されてしまう可能性が欧州の掲げる政策には十分あることを憂希たちは理解した。


「うちらだって能力者同士でめっちゃ争って、バチバチになってんだから、能力者いっぱい増やしてもいろいろ大変そうだしね」


「...そうだ、彼とのやり取りはどう?中国の捕虜の」


憂希は捕虜として監禁している明海についてラプラスに問いかける。互いに歩み寄り、対話するという人間らしい行為が難しくなっている現状において、唯一対話の道を模索していると言える相手だろう。


「...正直、オレとしても手を焼いている。言い方が難しいのだが、彼は愛国心こそ無いが、能力者として前線に出撃することは彼の国では栄誉とされ、自分の家族も含め、優遇されるような制度があるらしい。...それだけ聞くと欧州軍の政策に近いものがあるかもしれんが、日本人の血を持つ彼にとってはそれだけが生きる道だと言うのだ」


「...それはどういう」


「反日思想は昔より数は減ったものの、存在はしている。彼が生きた環境では差別意識が高く、自らの血を呪うほどの扱いを受けていたそうだ。ただ、日本の文化を愛し、それを内に秘めながら生きてきたらしい。今は、解放されたかのように様々な創作についての議論しか口にしない。ただただ、話し相手がほしかったのだろう」


ラプラスは毎日ではないが、明海を捕虜としてその日からずっと文通でやり取りしている。上からの指示は情報を引き出すことだが、ラプラス以外に口を開かない上に、ラプラスには好きな漫画やアニメの話が溢れるように展開されるため、これといって重要な情報は今のところ入手できていなかった。


「作品愛や理解度はかなりのものだが、敵対している手前、このやり取りは少々複雑なんだ」


根は普通の女子であり、年相応の感性を持つラプラスにとっては、気分のいいものではなかった。このまま何の情報も得られなければ、ラプラスとの接触も打ち止めとなり、もっと非人道的な手段に移行することだろう。


「好きなものの話をしているのに、腹を割って話していない感じが...どうにも」


いつもポーカーフェイスを気取り、冷静沈着さを売りにしているラプラスの仮面は、この時ばかりは年相応の表情を表に出した。


「そうか。...敵対者でも事情や主張を聞くと、何とも言えない気持ちになるのはわかるよ」


敵を敵と憎み、相手を何も考えずに殺し合うことができていればどれだけ気持ちが楽だろうか。しかし、そうしてしまうとそこに正義も意義もなくなってしまう。


「うん、やっぱり能力者をいっぱい増やそって考えは反対だわ。だって、皆能力者にならなくちゃってなるのめっちゃしんどいし、もっとかわいそうな人が増えちゃう」


「その点はオレも同意だ。...現時点で能力者どころか戦争すら知らない人間がほとんどなのだから」


「...そうだね」


憂希はここで一つ、自分の中で軸を作った。能力者じゃない人が能力者にならなくてもいいように。自分たちのように能力者にさせられる人が増えないように。戦争を知らない人が戦争を知らないまま生きていけるように。そのために、戦争を終わらせると。



その日の夕方、憂希は振動と六次を呼び出し、輪廻の作戦参加について相談した。


「すいません、お時間いただいて」


「いや、主導してくれてありがとう」


「輪廻の扱いについてだったか」


「はい。ロシア戦にて輪廻を索敵班として導入し、戦闘の終盤では敵本陣への奇襲部隊として活躍した。この認識に相違ないでしょうか」


憂希の問いに対して、二人は静かにうなずく。


「輪廻は...こちらの要求に対して真摯にそれを達成しようと努力する姿勢を見せてくれています。コミュニケーションも十分に取れるようになってきました。ただ、世界の認識や輪廻自身が持つ常識はまだ子供くらいのレベルだと俺は捉えています」


それは決して高い低いの話ではない。人間性を持たずに生きてきた輪廻が子供と同程度まで人間性を得て、人間らしい生活をしているという事実が奇跡に近い。


「...本人は戦争に対して役に立とうという意志を見せてくれていて、決して反抗的だとかそういうんじゃないんですが。...恐怖心はどうやってもすぐには消えないです。銃声や爆発音には過敏に反応しますし、人を含めた生物の死にはショックを受けます。それにより戦闘が難しくなる状況も多々ありました。ただ、これを矯正して無理やり慣れさせるという手段は取りたくないと考えています」


「そうか、初の戦闘があの規模だ。無理もない」


振動は憂希の考えをくみ取り、主張を受け入れた。普段の輪廻からもすぐに戦闘へ順応するとは考えられず、憂希が報告した内容は容易に想像できた。


「それを考慮した作戦をこちらで検討しろ...という風に受け取ったが合っているか?」


六次は現実的な話題を切り出す。もちろん、憂希にとっても本題はこの話だ。


「ざっくり言うとそうなります。輪廻の能力は多種多様で、陸海空の移動や動物的な特徴を応用した索敵や状況把握もできます。ただ、恐怖には素直です」


「...聞けば聞くほど私としては恐怖心の解決は最優先だと考えるが。生物たちを無下に扱うことはしないというのはまだわかるが、本人に対しては今後も作戦に参加すると言うのならなおさら弱点は少なくするべきではないか?戦闘が不可能というのならそもそも作戦に参加させるべきではないだろう」


根っからの軍人気質であり、合理的に物事を考える六次にとって不確定要素を作戦に組み込むことはイレギュラー要因となり、作戦の成功確率を下げると判断する。


「作戦に参加させないことが許されるなら俺もそうしたいですが、総司令に何回か釘を差されました。あの人は手段を択ばないと思います。だから、こうして相談しているんです」


「なるほど...。強制的に作戦に参加させられるくらいならある程度考慮した編成や作戦に組み込むということか」


憂希の真意を理解し、その上で苦悩する。子供を作戦に組み込んだ編成を考える軍人などいない。それをするのは軍人ではなく悪人だ。


「雑に作戦を組めば、輪廻は殺されます。能力者であることが露見すれば捕らえられ、最悪敵に利用されるかもしれません。俺はそれだけは避けたいんです」


「...神崎上等兵。君が主に彼女とコミュニケーションを取っているのか?」


「はい。他のグレード1のメンバーとも最近はよく会話してます」


「ならば、他の兵士ともコミュニケーションを取れるように育成してほしい。基本的に戦場で味方同士のコミュニケーションにバラつきがあるようでは話にならない」


「わかりました」


「恐らく、私が拝命することが多い偵察や索敵任務にアサインするのが安全策だろう。振動少佐、そういう方針で問題ないですか」


「ああ。私の隊では前線配置が多くなる。一部隊にグレード1が集中するのも避けたいしな」


元々はそれぞれグレード1を中心に中隊を構成していたが、被害や消耗による人員、物資不足で日本軍はほぼ部隊間の仕切りはなくなっていた。作戦における役割ごとに振り分けられるのが現状であり、基本的にその役割が変わることはない。


「すいません、ありがとうございます」


「リスク管理や周囲の状況を把握した上での適切な調整は実にこちらとしてもありがたい。当事者でしか見えない意見もあるだろう」


「とはいえ...現状を冷静に捉えるならば、イレギュラーな配置や命令は回避できないだろう。作戦中に命令が切り替わることもある。アドリブ力はどちらにしろ求められることも多い。神崎...いつも君が護れる状況ではないことも多くなることを頭の隅に入れておいてほしい」


振動は憂希のその人間らしさや軍人らしからぬ倫理観を尊重しつつも、ずっとその危うさと脆さを懸念していた。だからこそ、戦争という現実を伝えると共に、能力の有無に関係なく、何も関与できない状況は必ずあることを伝えたかった。


その言葉を憂希は嫌と言うほど最近意識している。自分の手が届かぬところで誰かが命を落とすことを考えるだけで、背筋がゾッとする。それを受け入れることが怖くて憂希はまともに返事ができなかった。



その日の深夜のことだった。かつて憂希が半ば強制的に連行され、この世界に足を踏み入れるきっかけとなった日本支部が再び襲撃された。憂希が受けた襲撃とは異なり、完全にその建屋自体が対象となった破壊行為だった。その支部は完全に壊滅し、そこに所属していた日本軍関係者は全滅。犠牲者は五百二十四名。


「おい、一人もいなかったぜ。こっちの捕虜なんざ。...ああ!?ここ本部じゃなくて支部!?んだよそんなん早く言えって。まあいいや、ぶっ壊す楽しみがまだあるってことだ」


その瓦礫と火炎の山の中に影一つ。死体と血の海の中に狂気一つ。まるで災害や疫病のように理不尽を押し付け、No.999は笑う。


「よく知らん日本人を助けろって話だろ?わかってるわかってる。そいつは俺の能力コピーしてんだろ?ならなんの問題もねぇって話だ。不死身なんだからよ」


地獄のような火炎が深夜の闇を眩しく照らす。無理やり照らされた破壊はその悲惨さを色濃く反射する。悲惨さと残酷さを混ぜ合わせたような光景の中、その元凶はどの影よりも暗く光って見えた。

ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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