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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.60 消耗戦の終着点

憂希の作戦が無事成功し、ロシア軍の挟撃作戦は阻止された。ただ、ロシア軍の本隊側に有効打を与えられなければこの戦争は延長戦となり、グリゴリーたちの脱出を許すことになる。憂希に後方の防衛を託した日米軍は前線に完全ステルス部隊を投入し、感知されぬ奇襲作戦を決行した。


「...よし、そのへんに着地して」


「っ....よいしょ」


輪廻の変化能力で空中を飛翔して接近し、ロシア軍本隊の至近距離まで潜入できた。

兵器運用のほとんどをニコが担っている都合上、サーマルカメラや他センサーなどでこの三人の接近を感知することができなかった。肉眼で見える接近であれば対応できていただろうが、継続的な攻撃に能力の大半を集中していたことによる消耗もあり、それには気づかなかった。


「どうだい。どれくらい人がいるかな」


「ん~...いっぱいいるよ。でも....さっきりんねたちがいたとこより....いないかな」


輪廻は本能的に染みついたエコーロケーションや温度感知で敵兵の数や位置を正確に読み取っていく。


「わかった。ありがとう。...輪廻、君はここらへんで隠れていて。僕らがあそこを壊滅させる。何か嫌なことや怖いことを感じたら思いっきり叫んで」


「...うん」


輪廻は目の前の二人を微塵も信用していなかったが、それでも一人よりはましだと思っていた。それなのに一人で知らない場所で待っていろという秀明の指示に不安を隠せなかった。


「それじゃ、移動中に決めたように」


「は、はい」


最低限の会話で透明のまま秀明と小龍は敵陣に乗り込む。防壁や障害物はすべて透過ですり抜け、直線的に侵入する。迂回も隠密も必要としない潜入。これほど驚異的な突入部隊は他にないだろう。


「...」


輪廻はいるはずの二人をそのまま物陰から見つめていた。その視線の中心は秀明だった。秀明にはずっと不思議な感覚を持っていた。見えているときもそこにいるはずなのに匂いや呼吸の流れを感じない。見えるのに存在感がわからない。見えなくなった今、足音や温度以外にその存在を認識できない。まるで消えかかっているように感じていた。


「ん~」


そういう違和感を感じたのは二人目だ。その一人目は憂希だった。憂希が無意識に行っていた気温調整により、自然にはあり得ない空間の温度変化が発生していた。その中心にいる憂希が得体のしれない存在だと確信し、全力で警戒していた。その憂希はとてもいい人だった。自分は憂希と同種ならいいなと今では思うほど。まるでかつての母親のような温かさがある。


「....」


秀明もそうだといいなと輪廻は思った。小龍や他の人と話しているときに感じた怒気とはまた違う気配。輪廻自身の警戒に近いようなその気配を輪廻と話しているときには感じなかった。だから、いい人ならいいなと思った。


「じゃあ...僕が稼働中の兵器をどんどん消滅させていく。君は待機中の兵器や倉庫の武器を破壊して」


「わ、わかりました」


敵陣をかき乱すには派手に暴れるよりも地味に致命傷を広げていくのが確実。敵軍本隊への突入目的は陽動ではなく本命。戦争に特化したようなロシア軍の能力に対して正面から攻略するよりも有効だ。


「さて...」


本来なら兵士が縦横無尽に存在するはずの拠点内だが、その人数はまばらだった。人数だけで言えば小隊規模にも満たないほどだろう。砲台への装填作業やニコが行使する兵器とニコが補充している兵器の整理など、雑務が基本だった。


「こういう仕事は僕の生業か」


そのセリフとは裏腹に秀明は自分にしかできない役割に少し満足していた。恨みもない人間と殺し合う前線より、一方的に足を引っ張るだけで終わる潜入のほうが気が楽だった。


「よし」


秀明は兵器を次々に消していく。すべてを透過された砲台や武器はそのまま地面に落下していく。透過だけするもの、透明化だけするものと切り分けて能力を付与する。


「え...あれ、ここにあった弾薬はどうした」


「え、いや知らないけど」


「おい、弾倉補充はどうなっている。ここを切らすなと命令したはずだ」


「すいませんっ。...え、さっき補充したのにもうなくなったのか?」


前触れもなく消えていく兵器や武器にじわじわとロシア軍側もその違和感に気づき始める。しかしそれが襲撃だとは理解していない。音もなく消える現象が襲撃とは思えないだろう。かなりの数が消え、それにざわつき始めたのをきっかけとし、襲撃作戦は次の段階に移る。


「っ...さっきまでこのあたりにあったのに。...くそ、武器庫から持ってくるか」


そうロシア兵が武器庫に向かおうとしたその時。


「うわっ」


武器庫が次々に爆発していく。爆撃どころから敵影すら感知できない状態での事故か襲撃かも判断つかない急な爆破。ニコが能力で転送してくる兵器類がどんどん破壊されていく。


「よし...これで終わり。次は施設か」


その迅速な破壊は小龍によるものだった。透明化状態で小龍の能力で適応した対象を一撃で破壊していく。武器や兵器などはすでに適応履歴があり、軽く小突くだけで風船が割れるように粉砕していった。


「ちょっとどういうこと!なんでこんな爆発起きてんの!?」


ニコは本隊で能力行使をしていた。自分が中心となり使用している兵器に誤射や誤爆などの誤操作は基本的にありえない。ニコは自分の能力で掌握しているはずの兵器が暴走しているという状況を呑み込めずにいた。


「うっそ、なんで。飛来物どころか敵影なんて少しも...」


迎撃は常にできるよう地対空ミサイルなどの防衛システムを稼働させていた。レーダーでヒットすれば自動で迎撃するはずだった。


「っ...まずは全部引っ込めないと」


明らかに兵器類を狙って破壊されている。そのターゲットをまずは現場から避難させるため、本隊拠点にある兵器類をすべてロシア軍本部に転送する。転送距離を短くすることで能力の消耗を抑えるのが狙いだったが、今ではそうも言ってられない。


「こちら作戦本部っ。拠点にある武器が次々に破壊されてるっ。敵の姿は見えない!奇襲か遠距離からの襲撃かは不明っ」


『グリゴリーだ。敵軍のほうが一枚上手だったようだ。ネスメヤナを回収次第、撤退せよ。このまま戦闘を継続してもジリ貧だ』


「あれっ、挟み撃ちは失敗ですか~?」


『侮っていたわけではないが、想像以上の兵士が日本にいる。お前らが対峙した青年は確かに逸材だ。今回は俺もしてやられたわ。ガハハハッ』


「じゃあすぐ撤退しま~す。もう少し遊びたかったのに。ネスメヤナっ、通信聞いてた?撤退だって~。...あれ?」


いつもなら機械のようにすぐレスポンスが返ってくるはずだが、今はそれがない。


「ネスメヤナ~?...もしかしてピンチ?」


不安そうでどこか興味なさそうな声でニコは再度問いかける。


『っ....すいま....。通信する余っ.......こちらに援.....ませんか。...離脱し』


通信は途切れ途切れで正確な情報は入ってこない。神酒の能力が電波に干渉し、正確な通信ができないのだろう。


「....隊長、でかいのぶち込んでもいい?離脱するためだから仕方ないよね」


『ネスメヤナの回収が優先だ。手段は問わんさ』


「よっしゃ!」


いつも楽しみながら兵器や武器を使うニコだったが、その声色や表情からは愉悦が消えた。弾丸を撃つ、ミサイルを放つといった戦争における過程のみを重視するニコは基本的に他人どころか生物にすら興味がない。しかし、それでも戦争には勝つ方がいいし、死にたくはない。仲間意識というにはあまりにも情が欠如しているが、それでも彼女にとってそれが芽生える時点でかなり特別扱いなのだ。

そう、ニコは今、ネスメヤナのピンチに珍しくやる気になっている。兵器を使うことが目的だったニコが、兵器や武器を用いて別の結果を目指すという、本来であればありえない行動を取っていた。


「作戦区域には敵兵しかいないし、そもそも海上だ。...ならこいつの出番だよね。...ネスメヤナっ。全力で能力使ってね!」


聞こえているかわからない通信を入れ、ニコは能力を行使する。その対象となった兵器は核爆弾。ニコの能力で起爆するそれは、一瞬で対象エリアに転送され、前触れなく起爆する予備動作を許さない一撃。そしてその起爆までの一切を能力で制御できるがゆえに成立する、核爆弾の複数投入と同時期爆という芸当で神酒を全力で退ける。


「....え」


その能力をギリギリ行使した瞬間、ニコは目の前の光景に絶句する。いや、反応できただけ上等と言えるだろう。そこにはまだ転送していない地対空ミサイルやレーダーを完全にかいくぐった着弾寸前のミサイルや砲弾が一気に姿を現したのだ。まるでニコの能力で転送されたように着弾間際の兵器らが姿を現した。それを自分の能力でまた転送できるほど着弾までに猶予はなかった。ロシア本隊の拠点はそのまま大規模な爆発の中に消えた。


「っ...」


その爆発とほぼ同時に発生した海上の爆発が閃光弾のような光を迸らせ、戦闘区域を一瞬白で塗りつぶしたように光に包まれた。それが自分の能力で透明化し、着弾させたものとは違うということを光の眩んだ目が慣れるまで秀明はわからなかった。


「あれ...海の上じゃないか?」


「そ、そうですね、何かの爆発のような光でした。...でも煙や炎は見えないですけど...」


小龍の適応をもってしても今起きた爆発の閃光までは対応しておらず、秀明よりも慣れるのが早かった目で見えたものを秀明に伝えた。


「輪廻。どこにいる?一度帰るよ」


秀明と小龍は帰還するため、輪廻は探す。別れた場所には姿が見えない。


「うぅ...」


「っ...君が輪廻かい?」


秀明が木の陰に見つけたのはオオカミ犬のような動物が小さく丸まって伏せている姿だった。爆発音に体が反射的に一番安心する姿に変化し、振動や黒煙が止むのを震えて待っていたのだ。


「ごめんね、すぐに帰ろう」


秀明に少し芽生えていた日本への不信感が急速に成長する。何でこんな子を戦場に、という疑問が肥大化する。そして連れてきたくせにこの場にいない憂希に少し腹が立った。こういった感情は秀明にとっては久しぶりだった。干渉することや関わること、興味を持つことさえ人間関係の軋轢や摩擦の種になると、散々避けてきた秀明だったが、怯え震える人を相手にそれを貫くほど非情にはなれなかった。



ニコが放った核爆弾は十数発が同時に起爆した。その中心にいたのは狙い通り神酒とネスメヤナだった。


「っ」


急に目の前に出現した核爆弾に神酒は咄嗟に能力を行使した。自分を中心に空間を隔絶しながら、さらにその外側に核爆弾ごと覆う空間隔絶を行使する。普通であれば抑えることなどできない物体を蒸発させるほどの熱線と街を更地にするほどの衝撃波を空間に留め、外部へ放出させない。


「ああああっ、きついきついきつい!!」


いくら神酒の能力とはいえ、急激に膨張し続ける最大規模と言える核爆弾のエネルギーを抑えるのため、全力で空間の縮小し続けるために能力のリソースをすべて注ぎ込んだ。ネスメヤナを追い詰めていたが、ニコの援護によりネスメヤナは熱線や衝撃波をすべて神酒のほうにベクトル変更しながら、無事最速で離脱した。


「っ...よいっしょ!...うわ~逃げられちゃったか。...マジしぶといなあ、あの子。ま、あたしにしてはよくやった方だよね」


エネルギー丸ごと空間転移させ、戦闘区域である海上は今までのうねりやしけが嘘のように静かになった。この戦争の終結は過去の戦争を終わらせてきた核爆弾投下により、幕をゆっくりと引いた。手段や技術がいくら進化しても、戦争の大きな流れは進化しないという皮肉にさえ思えた。

ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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