No.6 理想と現実
「まだ、俺はやられてないだろ!」
銃弾か砲弾か、はたまた誘導ミサイルか。何が放たれたかわからない状況でとれる防御行動は一つだった。地面を隆起させ、かまくらのように憂希と輪廻を覆う洞窟を形成した。
間一髪、形成したその瞬間に爆発音が地面を揺らし、洞窟はその振動で土や砂の雨を降らせた。
「輪廻、無事か?」
「...???」
輪廻は突然出てきた洞窟や周辺の爆音に混乱している様子だった。体も人間の状態に戻っている。
「くそ...俺諸共薙ぎ払う気だったのか」
能力者ならあの火力で死なないのか?と現実的ではない考えが一瞬、憂希の頭をよぎる。
即死かは不明にしても致命傷であることは疑いようもない。能力者であれど例外ではない。
「輪廻っ、俺は君を傷つけたり痛めつけたりするつもりはないんだ」
そう言って輪廻に振り返ると、まるで小動物のように警戒しながら丸くなっていた。
「グレード1なんて厄介なだけで特別でもなんでもないじゃんか」
お互いの境遇は違えど、同じ立場となっている輪廻に憂希は仲間意識を覚えた。
「俺よりも何もわからない状態で戦争だの訓練だのに巻き込まれたら、そりゃあ攻撃的にもなる」
輪廻の警戒心やその態度、姿勢に憂希は完全に納得した。何に怯え、何を恐れていたのかで言えば理解不能な状況だろう。人間でも怖い。
「大丈夫だ。何とかする」
爆音や揺れがしばらく止んだことを確認し、憂希はゆっくりと防御を解除する。
「俺は無事だ!攻撃はやめてくれ!」
真っ先に声で情報を伝え、ゆっくりと姿をさらす。
「輪廻は今、おとなしくなっている。迎撃態勢を解いてくれ」
憂希の要求への回答は無音だった。
「輪廻、おいで。俺に近づいていれば大丈夫だ」
ゆっくり輪廻に手を差し伸べる。
「っ....ヴヴぅぅぅ」
威嚇姿勢になった瞬間、今度は発砲音だけが鳴り響いた。
だが、もうその弾丸は憂希たちに届くことはなかった。
「輪廻の姿勢で反応しているのか。でも、もう大丈夫だ」
憂希たちから半径三メートルの距離に爆風を回転させて弾道を反らす。風速はランダムに変えて弾道予測を機能させない。
「このまま近づいて、振動少佐のもとに戻ろう。輪廻、大丈夫だ」
「っ.....」
輪廻こそ風や温度などの自然界の情報に対して敏感だ。そのため、嫌いな轟音と明らかに自分を攻撃している空をかん高く切る何かに対して、輪廻は異常な風が守ってくれていることに気づいた。そして、それが目の前の人間を中心にしていることも理解した。
輪廻はゆっくりと差し伸ばされた手に自分の前足を預ける。異常なまでに似ているその手に同種なのかとさえ考えた。
知らぬ鳴き声と知らぬ容姿、他のやつとは明らかに違うという違和感。それによる警戒と興味が渦巻いていたが、触れた瞬間にそれらは晴れた。
「これ以上こちらを攻撃するなら正当防衛としてこの辺り一帯を吹き飛ばす!」
憂希は初めて明確に命をかけて立ち上がった。きれいごとをきれいなままにしないように。泥臭く血生臭くきれいごとを成し遂げようとした。この戦争において希少な勇気は無謀さや無知を感じさせるが、それでも憂希にとっては大義と言えた。
ゆっくり憂希は輪廻の手を引いて歩いた。向かう先に部隊がいるかどうかは勘だった。
「...あっ、振動少佐!」
「...君には恐れ入ったよ、神崎上等兵」
「どういうことですか、なぜあのタイミングで攻撃を」
「君が危機的状況になり次第、威嚇射撃をする作戦だ。君たちの周囲に着弾する弾道予測だった。全弾防ぎ切るとは思わなかったが」
「威嚇射撃....?あとからはどうとでもいえるでしょう」
「射殺するなら狙撃している」
「...っ。それで輪廻が止まらなければ狙撃していたんですね」
「すまないな、これが軍隊だ。君に今すぐ受け入れろとは言わない。ただ何を優先するかは知っておいてほしい」
「...兵士は人間ではなく、兵器だってことですか」
「兵士ではない人間を護り、この戦争における優位と勝利を優先する。それがかねては人の命を護ることになる」
「目の前で救える命を見捨てて、何の命を護るんですか」
「...耳が痛い話だ。君の主張を誤りだとも甘さだとも言わない。それが君の大義なのだろう」
「...和日月総司令より理解を示してくれるあなたは、やっぱ嫌いになれないですね」
「それは誉め言葉として受け取ろう。私は君を仲間だと思っている」
「俺も...そう思いたいです」
コントロールのできない大きな力は本人の人間性や能力の価値に関わらず、警戒対象の脅威となる。
いきなり目の前に猛獣が表れて、大人しい子だからと言われても信用はできないだろう。
それでも憂希はやるせない気分のままだった。理屈や相手の立場は理解してもそれで納得できるかといったら別の話だ。
とはいえ、この輪廻脱走事件において収穫はあった。輪廻が憂希に多少なついたことだ。
威嚇することはもうなく、猫のようにつかず離れずの距離を保っている。
「作戦ご苦労。君は咄嗟の判断で状況を切り抜ける能力に長けているようだな」
本部に戻ると最初に和日月が憂希に声をかけてきた。
「今のうちに聞いておきたい」
「何だ」
「あなたは俺に何を求めている」
「...前に話した危険因子の話を覚えているか」
「あぁ」
「その危険因子の候補が君だ」
「っ...。それは」
「無理と思うのは勝手だが、君は能力者としてはまだ赤子だ。これからいくらでも成長できる。その可能性を考慮している」
「なぜそこまで俺を買っているんだ。まだ満足に任務も完全にこなせていないのに」
「君は能力の強さはどう決まると思う」
「強さ...それは誰に通用するかじゃないのか」
「それも一理あるが、私は応用の幅だと考えている。その能力一つでどこまで何ができるか」
「応用...」
「君の能力はそもそもが応用の塊だ。一つとっても幅が広い上に組み合わせは多種多様だ」
「...その応用が身に着くまでに何をどれだけやらせるつもりなんだ。敵どころか味方だってその対象となるなんて納得できるわけない」
「君の納得はさして重要ではない。君の能力が完成するのであれば私たちは様々な試練を君に与える。訓練もするだろう」
「なぜ俺にそこまで」
「どんな力でもそれを所持するには資格がいる。その資格は能動的と受動的の二種類で発生し、その種類に関係なく、資格を持つ者は必ず求められる」
「ただでさえ人殺しなんかしたくない。味方なんてもってのほかだ。資格ってなんだよ、誰かを殺してもいいって話か」
憂希は自分に何を求められているのかを確かめたかった。戦争に勇者はいない。その言葉が何度も頭をよぎる。
「...君にこの抗争について説明しておこう」
「なんで今」
「まずは聞け。この抗争に我が軍が敗北した場合、君はどうなると予想する」
「...勝った国が能力の覇権を握るんだろう」
「そうだ。その国によるが覇権を握った国は能力兵による戦争を世界各国に仕掛けるだろう。最悪の事態としては全世界規模での世界大戦だ」
「...今がその世界大戦なんじゃないのか、覇権を握った後でなんでまた戦争が」
「能力者は人口に左右される兵力だ。軍事資源をある意味必要としない。覇権を握った国は生活資源を確保し、人口を増やすことで更なる国力増加を目論むだろう。そうなれば他国の資源を独占し、他国の国民を中心とした軍隊を形成すれば、自国民を戦争に駆り出さなくても十分な侵略が可能となる」
「っ!?」
「そうなれば、また奴隷や虐殺が日常茶飯事となる世界が訪れる。この抗争で敗北した国から属国となり、真っ先にその対象となるだろう。そもそも能力兵を揃えているのだ」
その言葉を憂希は否定できなかった。アメコミや特撮のヒーローは基本一人だ。それでも共通の敵がいなければ英雄にはなれず、逆に警戒対象の脅威となるだろう。
さらに、フィクションで主人公になるような能力が世界に溢れていたらどうだ。自然発生ではなく任意で数を増やせる。平和的に考えればインフラを始めとした生活基盤から変化するほどの変革だ。その国の経済成長や国力増加は目覚ましいものになるだろう。ただ現実はそうはいかない。
「この能力という人類の進化は世界の均衡を崩した。均衡が崩れたものは等しく崩壊し、再構成され、また安定する。その繰り返しだ。それがまた始まったに過ぎない」
「...崩れ切ったときに、紛争やテロ、反乱が日常化する最悪な安定を避けるために....戦争をしているのか」
平和のための戦争。安心のための戦争。相反して矛盾しているようで表裏一体。きれいごとの無い戦争の現実。
「先日も説明したが、グレード1一人だけになれば戦争は終わるだろう。ただ、これは強制的に終了するという意味だ。我々は戦争を終わらせるために能力者を狩るつもりはない。とはいえ、敵軍のグレード1を始めとする特殊兵装部隊は無視できない。だから抗争をする」
憂希を始めとする現代の人類は戦争を軽蔑し、危険視してきた。それに意味はなく非人道的であると。だが、戦争は意味はなくとも理由はあるものだった。
「戦争とは理不尽と不条理を混ぜたものだ。いつ己が命に降りかかるかもわからない嵐を目の前に皆が雲の切れ目を探してい。誰もが願うその曇天に差す光に、君はなれるかもしれない」
それが日の光なのか稲光なのかは誰にもわからない。ただそれで風向きが変わることは確かだった。
「...俺が戦争を終われせれば、こんな理不尽に巻き込まれる人はもういないんだな」
「その通りだ」
「あなたみたいな取捨選択をはっきりさせて何かを切り捨てる判断は咄嗟にはできない。だけど、何を優先するのかは自分で決める」
「...それが我が軍の勝利であることを願おう」
憂希はまた次の一歩を心の中で踏み出した。巻き込まれた、従わされている。そう感じているままでは結局何も変えられないことを悟った。自由ではなくても、理不尽であっても、できることを探し、やり遂げることで誰かが救われるのかもしれない。あの日、不条理ですべてを失った日の二の舞にはならないと、固く誓った。
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