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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.59 能力の落とし穴

グリゴリーの能力を聞いて、日米軍は正直その対策をすぐには思いつかなかった。不死であるNo.999が究極の後出しとするなら、グリゴリーの不変は究極の先出しとも言える能力。対象と条件を決めておけば文字通り無敵となる能力だ。もちろん、その能力をずっと行使し続けなければならないという点では長期戦には不向き。No.999と違い、その対象を自分以外の複数に展開することはその数に消耗も比例することになる。


「...さすがにここら一帯の大気を止め続けるのはくたびれるな」


憂希の手数の多さとその規模の大きさ。さらには次の手の読めなさが一度変化を停止したものを不用意に解除できないという縛りになっていた。自分やAZ、兵器などの固体ごとに絞った能力行使であればそこまで大きな消耗はない。形状変化や熱伝導などさらに条件を絞ればなおさら消耗は少なくなる。海を停止させたときも対流のみで絞ることで極力消耗を抑えていた。


「ニコ、挟撃部隊の砲撃を開始せよ。砲弾に俺の能力を付与して放つ」


ロシア軍の指揮系統はシンプルだ。部隊長であり、軍の総隊長であるグリゴリーの指示にいちいち返事などしない。グリゴリーが要求した問答以外は言葉ではなく行動で応えるという徹底されたトップダウン構造。コミュニケーションすらラグと捉え、極端なほどに無駄を排除することでまるでグリゴリー一人ですべてを動かしているかのようにスムーズな作戦実行が実現する。


「放て」


グリゴリーの命令直後、T-14を始めとする戦車部隊が一斉射撃を開始する。その砲弾たちは放たれた瞬間に形状、状態、軌道、速度の変化が停止する。


「爆撃の次は砲撃かっ」


大気が動かせない以上、物理的に止めるしかない。憂希はそう判断し、拠点外周に設置した岩と氷の防壁と同じものをまた形成する。

しかし、その防壁に効果はなかった。衝突時の衝撃で発生するはずの砲弾の変形や減速は一切なく、放たれたままに突き進む防御不可の攻撃となる。幾重にも層を重ねて形成したにも関わらず、その砲弾たちは易々と貫通し、防壁はハチの巣にされた。


「なっ...やばいっ」


憂希はその砲弾にどこまでの条件でグリゴリーの能力が付与されているかは見抜けなかったが、それでも通常の砲弾が防壁を障子に穴をあけるように容易く貫通していく状況に今までの攻撃とは違うことを察知した。


「こちら神崎っ。敵の砲弾に変化停止の能力が付与され、俺の能力では止められないですっ。軌道が直線のためあらゆるものを着弾せず貫通を続けるかもしれませんっ。無理に止めようとするのは危険ですっ」


『了解。前線の逆咲伍長の状況を確認し、増援要請を検討する。ロシア本隊は侵攻を継続中』


「っ...これ以上あの部隊に攻撃されたらまずい」


防壁の破壊を優先したのか、ロシア軍の砲撃はかなり上向きで発射されている。憂希の防壁はみるみる崩壊していくが、グリゴリーの能力により重力による落下を受けないことで拠点への直接的なダメージは出ていなかった。ただ、それこそ、弾道を変えられ、防ぐ手段がないまま本隊自体に照準が向けられれば全滅は時間の問題だ。


「どうやって止めれば...」


なおも継続するロシア軍の砲撃に憂希は手段を考えるため、思考を巡らせる。とはいえ、ほとんどの攻撃手段が無効化された今、憂希の能力でできることは限られている。この考えている間に憂希が形成した防壁はもう見る影もないほど崩落していた。



本隊拠点は動揺と混乱が伝播し、それでも忍耐と覚悟で何とか状況を乗り越えようと皆が奮闘していた。


「作戦は以上だ。スリーマンセルで行動するように」


「...マジで言ってるんですか」


六次に指示されたのは秀明と小龍、そして輪廻だった。


「現状グレード1を待機させておくほどの余裕はない。前線では逆咲伍長、後方では神崎上等兵が敵勢力と交戦している。継続する爆撃や砲撃に仁野一等兵はほとんど一人で防衛している状況だ。この状況を打破するために最速で手を打つ必要がある。その最善と言える作戦だ」


秀明はその作戦ももちろん気に食わなかったが、一番懸念に感じているのはそのメンバーだ。戦闘を極力避けてきた自分が作戦の要と言うのも気が引ける。そしてコミュニケーションを苦手そうにしている小龍。何よりコミュニケーションができるのかすらわからない野生児の輪廻。誰かに全部任せて指示を仰ぐことがほぼ不可能と言える状況。秀明はただただ嫌気が差していた。


「君も伍長だ。蒼鷺。少人数の部隊において指揮を執ることは避けられん。ましてやこの状況だ。物量と能力兵のバリエーションで勝る我々がその強みを出し惜しんでいては勝てる戦争も勝てない」


「...わかりましたよ」


「あの...よ、よろしくお願いします」


少しおどおどとした様子であいさつをする小龍。秀明の雰囲気や上官たちにも物怖じしない態度に小龍は少し苦手意識を感じている。軍全体で見れば同年代とはいえ、小龍から見ればかなり年上に感じるだろう。


「ああ、期待はしないでくれ。...さて」


秀明は小龍のあいさつに無愛想な返事で答えたあと、輪廻のほうに視線を移す。


「っ....」


輪廻はかつてのような威嚇行動はしなかった。それでも嫌いな体が震えるような大きな音や周囲の人間が帯びている緊張感や焦燥感を人一倍感じ取り、不安と恐怖で頭はいっぱいだった。それでも憂希や仁野たちが頑張っていること。自分を含めた皆のために戦っていることを理解し、自分の中の不安と恐怖とずっと戦っているのだった。


「....輪廻、というんだっけ?ちょっといいかな」


「....ん?」


「君とあの少年、小龍君を僕の能力で戦う相手のところまで一緒にいく」


「....みえなくなるやつ......?」


「ああ、そうそう。...ヘリでは怖がっていたけど大丈夫かい」


秀明は憂希と輪廻のやり取りや最初の偵察作戦の様子をちゃんと見ていた。憂希のことは今でも苦手だ。しかし、輪廻の怯える様子や泣きじゃくる姿には秀明も心を痛めた。こんな人間まで戦地に投入するのかと日本軍を軽蔑すらした。


「うん...。みんながんばってる。...りんねも、たたかう」


輪廻は前線から戻ってきた憂希を見ていた。帰ってきたことを感じ取り、すぐに駆け寄ろうとしたが、憂希から漂う血の臭いに思わず足を止めてしまった。怪我をして治り切っていないまま、皆の後ろに急に出現した不気味な気配と異様な空間に憂希は向かってしまった。仁野はずっと怖い物から本隊を護っている。そんな中で戦うことを決めたはずの自分が震えて縮こまっている。それではかつて一人きりになってしまった自分と何も変わらないと輪廻はまた一歩踏み出そうとしているのだった。


「...そうか。君はずっと僕ら以外に誰かいないか、何かないかを探ってほしい。誰かいるのがわかったら静かに教えてくれるかい」


「うん」


目の前で自分よりも戦争を知らない人間が、か弱くも次の一歩を踏み出そうとしている。それを見て自分には関係ないと無視できるほど秀明は腐っていない。兵士ですらない輪廻が戦うと言っているのに、胡坐をかいているだけの自分が休んでいては明日の寝覚めは悪いだろう。どこか無意識に輪廻を見下しているようで自分が自分で気に食わないが、それを否定するためには行動するしかない。


「小龍君。...どうやらこの作戦は君がメイン火力だ。君を僕とこの子で前線まで連れていく」


「は、はい。そこで僕が能力で敵の本隊を叩くんですよねっ。頑張りますっ」


偵察部隊は解体され、スリーマンセルの隠密部隊となった。日米軍が戦況をひっくり返すための重要な作戦。


「じゃあ行くよ」


三人の姿はみるみる消えていき、完全に透明になる。光の屈折すらない完全なステルス部隊が作戦行動に移った。目標はただ一つ。



憂希は本隊が検討している作戦がいつ決行され、何を目的としているのかを知らずに戦っている。自分一人で攻略できればそれがベストだが、そんな簡単な相手ではない。がむしゃらと言えばそれまでだが、それでも全力で対処しなければ止めることすらできない。


「万策尽きたか?...若いゆえに手札を多くは持たんか。では目的を果たすとしよう」


グリゴリーは憂希の抵抗が止まったことに少し残念そうな顔をしながら、軍を前に進める。抵抗がなければただの簡単な裏取りであり、グリゴリーでなくとも容易く拠点を落とせることだろう。


「よし....これしかない」


憂希は考えた対抗策のための下準備をしていた。大気はまだ動かせない。だが、自分たちがその場から離れたということは位置情報や動きという条件に能力は行使されていないと言えるだろう。


「...神酒さんの能力には対処できなかったから分断できたはずだ。能力は汎用性が高いけど、明確に条件がある」


それを悟っていると悟られないようにしながら、一度しか効果のない反撃を確実に行うことが唯一の勝ち筋。


「こちら神崎。...本隊後方の敵軍をこれから足止めします。効果に確証はありませんが、唯一通用する可能性がある手段を取ります。その間に前線側の敵軍を叩けますか」


『こちら振動、了解した。先ほど敵軍に対してステルス部隊を突入させた。ポイントに着き次第、作戦行動に入る手筈だ。そこで敵軍本隊を叩く』


「了解です...。では、始めます」


憂希は足元の地面に両手をつき、全力で能力を行使する。ここで優先したのは規模や範囲ではなく、速度と正確さだった。


「これ以上、好きにはさせないっ」


グリゴリーを始めとするロシア軍の挟撃部隊の足元に存在するはずの大地が姿を消した。地震が発生するよりも早く大地を円筒状にかき分けるように排除した。


「なにっ」


それに反応するころにはその縦穴に音速を越えて注ぎ込まれる大量の激流にグリゴリーたちは呑み込まれる。普通なら切断され、木っ端微塵どころではないが、自分たちの形状に不変を付与している以上、ダメージにはならない。憂希はそれを逆手に取り、絶対に縦穴に落とし込むための加速装置として水流を利用した。


「ぐっ」


何が起きたか理解するころにはグリゴリーたちは地上からかなり離れた位置まで落ち切っていた。落下による衝撃も水流の衝撃も何もないが、何もないがゆえに抗えない。


『水なんてへっちゃらだって!』


AZが水流に反応し、圧倒的な水量を一瞬で蒸発させる。しかし、それは時すでに遅し。水流による加速がなくなっても落下速度は音速を越えている。


「っ...。これはやられたわな」


グリゴリーは自分たちの高さに能力を付与し、まるで一時停止でもしたかのように空中にビタッと停止する。


「ん~見事と言うほかない。初戦で能力を見抜くだけでなく、対処法まで見出すとは。ガハハハッ我ながらこっぴどくやられたものよ。次に対峙するときはぜひ、顔を突き合わせて話をしたいものだ。いったい、どういう青年なのか」


憂希はすかさずその縦穴に蓋をし、地面の中にAZたち諸共閉じ込めた。縦穴の周囲には溶岩層と氷結層を岩石層を間に挟みながらミルフィーユ状に組むことでAZの能力による脱出を極力遅延させる。


「...神酒さんの能力で空中に飛ばされたとき、AZは飛べなかった。...いずれ脱出はするだろうが、この戦争中は少なくとも簡単に脱出はできないだろう」


先出しというグリゴリーの能力を逆手に取った、一か八かの後出し作戦は、見事成功した。

ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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