No.56 激戦の再開
ロシア軍の動きは冷静だった。個々の判断は基本的に行わず、事前にパターン化された想定に照らし合わせ、近しいテンプレに従い各々がそれに合わせて行動する。イレギュラーすら想定内にする作戦の数と行動指針の統率が無駄のない体制の立て直しを実現させた。
「いや~危なかった~!ほんと緊張したあははは」
ニコは緊張感のない笑いで危機的状況を乗り越えたことに安堵している。
「私の天敵とも言える能力者がいます。彼女への有効打はAZか隊長の能力だけかと」
「空間操作なぁ。協力ではあるが早撃ち対決であればお前とて勝てる可能性はあるだろう。作戦と有利に持ち込む状況を作れば拳銃ですら有効打になり得る。そう頭ごなしに諦めるものではない」
「すいません。仰る通りです」
「いや、前提として警戒するのは必要だ。ただ、それで諦めては面白くない。作戦や兵器、地理に兵力。様々な組み合わせとそれに適応する状況判断をもって敵を制す。それが戦の醍醐味だろう」
語りは冷静さと落ち着きをまとっているがその表情は少年のような期待とワクワクが漏れ出ている。まるで戦を遊び場のように感じているのだろうか。
「では次の作戦に移る。やつらは俺の能力を一端を知り、警戒していることだろう。実際、対象を海を含む水分、黒煙と火炎、溶岩と中々増やしている。完全に理解されるのも時間の問題だろう」
「AZが切り開いた海底はいかがしましょう」
「そこを軍を引き連れて進軍するつもりであったが溶岩の海にされてはなぁ。AZを敵陣に食い込ませることができれば完全に戦況を掌握できるものだが」
「じゃあやっぱり転送したほうが早いんじゃない?」
「それでは味気ないだろう。まあ最終手段ではあるがな」
この切り札こそロシア軍側の余裕を支えている理由である。それ一択ではないが、それでもニコの武器転送という能力は計り知れない。敵軍が侵攻しているその地面を地雷原にすり替えることすらできるのだ。
「お言葉ですが、この戦争においては効率的に勝利することこそ、我が軍の、ひいては国の彼岸につながるのでは」
「正式にはこの戦争に国は関与していない。あくまで我々の組織が主となる。言わずもがな、勝利してこそ意味があるが、どうしても抑えきれんのだ。久々の戦。久々の合戦。血が滾り、肉が躍る衝動」
「お察ししますが」
「合わせんでいい。己の業であり、欲でしかないことも承知の上だ。皆を危険に晒してまで遂げる望みなどない」
表情も落ち着きを見せ、重厚な軍人としての圧が戻る。能力有り無しに関係なく、対峙する敵に命の危険を感じさせるほど、練度や経験という軍人としてのレベルを肌で感じさせる圧がある。
「余談はここまでとしよう。作戦の基本方針は変えん。今停止させているすべてを解除する。そのタイミングでネスメヤナの能力を行使し、敵の攻撃をすべて利用する」
「勢いはどの程度で」
「激流のように押し込め。氾濫した川のような濁流で敵陣に再点火せよ。それらの対応に追われた敵軍を突くよう、ニコの能力で左右からAZ隊を中心とした追撃部隊を両翼に展開せよ」
「了解」
「最前線に敵軍の戦力が集中した機を狙い、空と敵軍後方から奇襲をかける。空爆のみに見せた後方からの挟撃。本隊の本陣を蹂躙する一手でチェックメイトとしよう」
「じゃあ最後の挟み撃ちはAZを後方に転送するんだね!やった!」
AZの数はかなり減らされたことは事実としてあるが、それでも通常兵器と組み合わせれば十分な数と威力を叩き出せる。この時、AZの残機はおよそ千体も残っていた。
「日米軍が現状維持かつまらん打開策のみで対抗してくれば、その瞬間この戦争は瞬時に終幕させる」
「隊長はどのようになさるのですか」
「俺は挟撃のタイミングで赴くとしよう。お前たちは初手から前線に迎え。AZはそこまで投入するなよ。数が減ったというブラフをちらつかせる」
「「了解」」
ロシア側の作戦は殲滅力や侵攻力はありつつ、反撃の隙を与えないことが強みである。作戦として戦況をひっくり返すことがかなりの難易度となる。戦況を支配する作戦だ。
「さて、どう出る日米軍」
最前線で待機していた憂希は異変に気付いた。
「なっ...やばいっ」
海が息を吹き返したかのように動き始めた瞬間、嵐のしけとは比較にならないほどうねり、巻きあがる。まるで生き物のようにうねり、鉄砲水のように一気に水位が日米側へ盛り上がるように押し寄せる。その海面に沿うように憂希が放った火炎や溶岩の塊がまるで波と一体化したように攻め入ってくる。火攻めと水攻めが同時に巨大な壁のような波で襲ってくる。
「ぐっ....」
炎も水も溶岩も動き出した今、憂希は全力でその侵攻を止める。ネスメヤナの能力により動きをコントロールされたそれらを自然物の掌握で均衡を保つ。
「こちら神崎っ。停止していたものが動き始めましたっ。敵に動きがある可能性があります!俺が前線で食い止めているので今のうちに対策をっ」
『了解。こちらでも動きを確認した。神崎上等兵、その侵攻阻止に増援を向かわせるっ。少し耐えてくれ、こちらで作戦をすぐに練り直す』
「了解っ」
返事をしたものの、憂希はただ全力で均衡を保つことに集中する以外、できることはなかった。少しでも気を緩めれば押し切られそうなほどまるで組み合って押し合っているかのように油断ならない状況だった。
「くっ...」
この感覚を憂希は知っている。かつて対峙し、自分の能力をことごとく無力化された前回のロシア戦。この戦闘にも投入されていることは事前に把握している。
「あの人の能力だっ....」
均衡を保っているということは相手も把握していること。戦争でなくとも、殺し合いで均衡が継続すると言うことはそうそうない。その均衡を崩すべく、次から次に手を講じるのが普通なのだ。
「なっ...」
そう、その次の手をすでに用意していたのはロシア側である。作戦の一部でしかないネスメヤナの侵攻。その両翼に突如出現したAZの大群と小隊規模の軍隊。憂希は完全に左右から挟まれる形になった。
「敵の能力兵だっ。敵本陣に向け、一斉攻撃と同時にやつを仕留めろ!」
「撃てっ」
BMP-3を主体とする戦車部隊が一斉掃射する。両翼の数台が憂希に照準を合わせ、容赦なく砲撃する。
「ぐっ...」
憂希はわざと止めていた海流と火炎を自分の両サイドに流し、砲弾に対する防御壁に利用する。海水は瞬時に氷結させ、物理耐久を向上させた。砲弾はギリギリそれらに直撃し、爆発する。
「あっぶな」
咄嗟に自分の状況に機転を利かせて防御したが、すぐにその防御は引きはがされる。氷結した海水はすぐに蒸発し、その防御は一瞬にして剥がされた。AZによる熱操作で海水ごと消滅させられたのだ。
「くそっ」
それに呼吸を合わせたような砲撃が憂希に容赦なく飛んでくる。AZによる加熱も海水から憂希にターゲットを変える。
「っ...」
憂希は敢えて海底を融解し、規模を抑えた噴火を発生させ、その溶岩で壁を形成し、AZの熱操作と砲弾を同時に防ぎ切る。
「ぐぁぁ....」
憂希のリソースは限界だった。ネスメヤナとの能力均衡は徐々に崩れ、憂希に激流と火炎がじわじわと迫ってきている。止まっているはずなのにその勢いは止まるどころか憂希の目の前でさらに勢いが加速している。
「っ」
その均衡に限界を察知し、憂希は瞬時にその場から一時離脱し、距離を取る。スラスターのように出力する風圧と進行方向への空気抵抗除去の併用で急加速し、海流と火炎に呑み込まれる前にその場から離脱した。
「ここから...一歩も下がらないっ」
憂希はその距離を取った場所から絶対に下がらない覚悟を決めた。両翼を加えたロシア軍の再侵攻を食い止めなければ、日米軍にとって大打撃となるということは明白だった。
「っ!」
憂希は雨粒のような水を大量に空中に展開する。まるでいきなり水滴が目の前に出現したかのように感じるほど一瞬で視界すべてに水滴が浮かぶ。
「全部吹き飛ばすっ」
憂希の常套手段と言える水の電気分解による爆発。それを空中に展開した無数の水滴すべてに雷電を流し、分解から爆破まで一気に行う。海流と火炎、兵器をまとめて吹き飛ばすように広範囲で連鎖的な爆発が起きる。その水滴発生、電気分解、爆発までを何度も連鎖的に発動し、敵に対応と反撃を許さない猛攻を仕掛ける。
「っ」
その爆破を利用して憂希はそのまま垂直に空中へ移動する。ロシア軍全体の動きを最前線で確認し、それを日米軍に伝達するためだ。しかし、それは叶わなかった。
「うそだろっ」
爆撃機がまるで夕焼けに集う鳥の群れのように空を覆いつくしている。そこから大量の爆弾によるゲリラ豪雨が降り注いでいた。だが、憂希が驚いたのはそれだけではない。
「槍...剣?」
その爆弾に混じって、爆弾の数十倍の数で槍や刀剣、ミサイルや砲弾がどす黒い雨となり、一緒に降り注いでいた。爆弾を処理するだけでは確実にしのぎ切れない鉄の雨。ただの爆撃では有効打にはならないという判断だろう。
「利用するしかない...っ」
憂希は咄嗟にその刀剣や槍を導体として利用し、空に広がりながら走る稲妻を放つ。まるで雲の様に一定範囲がすべて放電を続ける領域となり、爆弾や砲弾を一網打尽にする。しかし、稲妻の支柱となっている刀剣や槍は破壊できていない。
「全部ひとまとめにすれば解決だろっ」
刀剣や槍が通電したことでそれぞれに磁力が発生し、それぞれが電磁石となる。電圧を増やし、電磁力を増強させることで互いに引き付け合い、刀剣や槍は一か所に固まるようにくっついた。
「よしっ、これで。っ!?」
憂希のその作戦を利用したかのようにその固まった巨大な刃物が異常なほど加速する。まるで超電磁砲のように超高速で発射された刃物の塊は憂希を貫くように地面に向けて落雷が如く、放たれた。
「ぐああっ」
筋肉伝達の電気信号を加速させた反応ですら完全に回避できず、憂希の腕を掠めていく。掠っただけでも二の腕を抉り、憂希はその痛みに思わず悶えながら落下する。
「っ...」
その落下でようやく憂希は気づく。連鎖的に発動させていたはずの爆発がその姿を消し、一切爆発音も爆風も発生していないことを。
「あなた一人でこの作戦を潰されるわけにはいかないんですよ」
その爆発のエネルギーはすべて、ネスメヤナの目の前に溜まっていた。エネルギーの塊はその勢いをさらに加速させ、増幅させて球状にまとまっていた。抑えきれないエネルギーが熱エネルギーに変化され、光を帯びた球になっている。
「ここで排除させてもらいます」
そのエネルギーをすべて一方向に集中させ、解放するように放出する。高エネルギー派が光線のように一筋にまとまって触れたものを消し去る破壊をもたらす。その照準は完全に憂希を捉えていた。
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