No.53 凶弾の嵐
神酒は自分たち含め、グレード1が集結したこのカオスな戦場を丸ごと能力の行使対象とする。能力は攻撃ではない。能力不明のグリゴリーを除き、ニコとネスメヤナの能力はすでに把握している。そしてAZとの相性も含めて把握している。
「これがベストマッチアップでしょ」
神酒とネスメヤナ。ニコとアレックス。AZ群と憂希、そして仁野という分け方を選択した。
AZは憂希と共にすべてが高度七千メートルほどの上空に放り出される。
『うわあああああ!?』
『空の上だあああ!?』
『落ちるううう!?』
スラスターを搭載しているとはいえ、空中機動を自由に行えるほどAZは高性能ではなかった。AIによる自動学習でその落下をなんとか食い止めようとスラスターを駆使して空中で足掻く。空中では圧倒的に憂希の能力が有利と言える。
「ニノは地上からお願い!」
「任せてっ」
空中で憂希が攪乱しながらAZを無力化し、仁野は地上に残り、空中に舞い上がったAZたちを地上から粉砕する作戦。
ニコとアレックスは氷の大地のない海上に放り出される。ロシア軍が投入した兵器からはかなり距離があり、足場はない。ニコは何も抵抗できないまま海水に落ちる。
「うあ!?あがあばばあ」
「なるほど、即時決着が求められているね。君の能力にはあいにく興味がないものでね、実験せずにさっさと終わらせるよ」
引力をコントロールし、海上に触れる直前でまるで無重力空間にいるようにふわふわと漂う。
「ぶはっ。やば!海じゃん!」
兵器による強制的な数的不利を減らし、火器の効力を極端に削る海上でその影響を一切受けないアレックスが瞬殺する作戦。
神酒とネスメヤナはその場から動かず、グリゴリーをロシア陣営のはるか後方へ強制転移させた。
「...厄介な能力ですね」
「お互い様でしょ~。もうのどか湧いて仕方ないし、シラフで戦争やってられないから...すぐ終わらせるよ~」
事前情報と二カ国の同盟により、能力者の数的有利で分断作戦は即席にしてはかなり有効と言えた。総力戦のトーナメント戦が開催される。
「じゃあまずは君からということで」
アレックスは早速能力を行使し、ニコを狙って海水の超圧縮を発生させる。
「なめないでっ」
しかしニコはその場から高速で移動することでその攻撃を逃れた。軍用ドローン二台を転送し、それに掴まり海水をかき分けながら移動する。
「AZっ。足場作ってそのままあの人に攻撃してっ」
空中に放り投げられたAZの数十体を一気に自分の周辺に転送し、氷結の命令を下した。
『うわあまた転送!!??氷漬けよいしょ!』
一瞬にして海上に氷の足場が形成され、AZたちはその上に着地する。
『対象発見っ。パンパンになっちゃえ!』
AZは認識した対象の温度を自在に操作できる。人体を一気に沸騰させるためにアレックスに向けて手をかざす。
「遅いよ」
AZが能力を発動する前にAZたちは原型を確認できないほどに圧縮され、金属塊になり果てる。
「うっそっ。まじ!?じゃあこっちも大盤振る舞いだよっ!」
ニコは能力を行使し、すでに発射された砲弾がその場に弾幕を展開する。一気に数百発の砲弾や銃弾がアレックスに向かう。
「強制、全弾命中っ」
筋斗雲に乗るようにドローンの上に乗りながら空中を移動するニコは、砲弾や銃弾を能力でアレックスに集中させ、一発も逃すことなく命中する弾道に制御する。
「私にはそれらは効かないよ」
砲弾らはアレックスに着弾する直前でAZたちのように圧縮され原型を保てなくなる。アレックスに油断はない。自分の周囲に侵入した物体を例外なく超圧縮する空間を常時展開している。物理的な攻撃に対する最強の防御だ。
「くっ。無敵なの!?だったら!」
アレックスの周囲におびただしい数のピンを抜いた手榴弾を展開した。転送した瞬間に爆破し、海上一帯が大爆発に大きなうねりや飛沫を発生させる。
「うわ、ちゃんと全方位に張ってるよ」
アレックスの圧縮領域が爆発や波のうねりに干渉し、その範囲を可視化する。限定的な能力行使ではなく、自分を中心とした球状にその能力範囲を展開している。抜け目はない。
「っ...」
アレックスも余裕があるわけではない。爆発などの一気に広がる熱線や爆風は圧縮ではなく自分から放たれる斥力やその爆破物を中心とした引力を行使し、その爆破の威力を殺す必要がある。少しでもその威力が能力による無力化を抜ければ致命傷になりかねないというひりつきがアレックスの消耗を加速する。存在を認識している爆弾に脅威は感じないが、突然至近距離に発生する予測不可能な爆発にはグレード1とはいえ、削られる。
「普通の武器だと相性悪すぎる。やっぱりAZが必須だね。でもただこっちに呼ぶだけじゃすぐ潰されちゃう」
ニコは手榴弾の爆破を目隠しにアレックスの視界から逃れ、氷塊の裏に身を隠す。ニコとしても対象を絞られ、アレックスの能力を行使されれば瞬殺される。
「海上なら別にいいんだっけ...。どうだったっけ。...まあいいか!!」
ニコは考えるのをやめた。戦場での長考は致命的だ。判断を遅らせ、状況を悪くする恐れすらある。そしてニコはその点、細かいルールを嫌う性格から即断即決した。
「こんなたくさん兵器を使えるなんてやっぱ最高だよねっ」
ニコはAZたちや憂希がいる上空よりもさらに高度に爆撃機であるTu-160を複数機転送した。さらにロシア陣営からSu-35やSu-57を始めとした戦闘機を転送し、空対地の爆撃部隊を無人で完成させる。
ニコの目的は単純で、アレックスが自分に集中できないよう日米軍全体にも攻撃の手を伸ばし、兵器全体の舵取りに復帰する。
「こっちはこれが本命っ」
まるで夜空に大群で舞う蝙蝠の群れのように空を覆うほどのドローン。それらにはすべて爆弾が搭載されている。近代戦争で主火力となる無人兵器である。まるで知能があるかのようにすべてが統率された集団行動をとり、アレックスの圧縮能力範囲に入らない距離でアレックスを包囲する。
「もっかい手榴弾っ」
上空、中空、低空すべてに敷き詰められた爆発物。それらが一気に地上や海上を蹂躙するため、爆発を始める。まるで無差別テロのような対象を絞らない大規模な爆発。
しかし、これはニコにとって大規模なブラフだった。爆破物での攻撃に対してアレックスの動きが鈍くなったことをニコは見逃さなかった。それがなぜかまでは理解していなかったが、何かしらに慎重になっていることは明確に理解していた。
「念には念をってやつだよね!」
その爆破に被せるように海上に本命のブラフを展開する。一発ですら大都市に塵すら残さない歴史に爪痕を残す破壊を生む兵器。能力者が生まれる前の抑止力だった核弾頭。それを五発、アレックスの真上に投下した。
ニコはそれに乗じてロシア軍の本隊に一時帰還するため、転送した戦闘機に空中で乗り込み、離脱する。文壇された状態で戦闘を継続するのは芳しくない。
「っ...まだ旧時代の兵器に頼るとは...」
アレックスは欧州との戦闘で学んでいる。核爆発は発生してしまうと超重力によるブラックホールで呑み込み続けなければ被爆や熱線で致命傷を受けかねない。
「私は兵器が好きではなくてね」
兵器とは様々な分野における一種の答えである。追求することはできるが、現時点で一つの可能性を具現化したもの。誰かが行きついた正解である。様々な可能性を追求すること自体にロマンを求め、理想を抱き、切磋琢磨すること自体に生きがいを感じているアレックスにとって、正解の押し付け合いである戦争は退屈だった。
しかし、能力者という新たな可能性が戦争という枠を超えた人類自体の可能性を追求することができる。
「私は能力者との戦いで見える可能性が好きなんだ」
核弾頭が爆発する前にドローンや爆撃機の爆弾、戦闘機のミサイルすべてを巻き込む大規模なブラックホールを海上に複数発生させた。大気が激しく唸り、海が猛獣のように暴れまわる。光すら捉えるその超重力は大地を吹き飛ばすほどのエネルギーを次々と呑み込んでいく。爆破する前に引き込まれた爆弾たちはバラバラに砕け散りながらその姿を消していく。
「....なっ」
兵器を相手取ることに退屈そうなアレックスの表情は一瞬で緊張に変わる。
『見~つけた!!!』
海の中からAZが数十体飛び出してきた。アレックスがそれに気づいた時にはすでに足元が一瞬で氷づいた。
ニコは最後まで抜け目なかった。核兵器すらブラフとして使い捨て、絶対に有効打となるAZを海中に転送していた。上空の爆発や核弾頭をまき散らすことで完全に上空へ意識を集中させ、海中を完全に意識の外にした。
イメージで行使する能力とはいえ、規模を間違えれば自分ごと巻き込まれる恐れのあるブラックホールを制御するには細心の注意が必要だ。
「くっ....」
海水ごと吹き飛ばす斥力を自分から展開し、AZたちを自分から引きはがす。しかし、少し遅かった。対象をアレックスに絞ったAZの能力は海水は凍らず、どんどんアレックスの体を侵食するように凍結を加速させる。知識量や見識でいくら上回っていようと、こと戦争においては軍人に勝る者はいない。ましてや暗殺すら担う国の精鋭部隊が兵器の能力を保持するということは、一対一であってもニコの戦略は一国の規模に値する。手数と兵力差、そして自分の能力を活かす選択肢を最速で的確に選択できるニコの強みがアレックスを凌駕した。
「っ.....」
全身を凍結されたアレックスはその場から身動きできなくなり、引力制御を失った結果、氷結したまま海に沈んだ。薄れていく意識の中で海面に再び厚い氷が形成されるのが見えた。
窒息と氷結で朦朧とする意識の中で、アレックスは一つのことに集中する。しかしその体はそのまま光の届かぬ海底へと沈んでいく。
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素人の初投稿品になります。
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