No.52 日米対ロシア
No.52 日米対ロシア
日米軍の最前線に迫り続けた氷壁は瓦解し、一気に視界が開ける。本来、海を凍らせて足場を作っただけの戦場は視界を遮るものは一切ない。
「ありがとっ、憂希君っ」
「うん、あいつは氷だけじゃないから気を付けて。できるだけ視界に映らないように」
「わかった、ありがとっ」
機動力を取り戻した仁野は一気に敵陣に突撃する。仁野は憂希が戦場に来てくれたことに心強さを感じた。この状況を自分たちで打開したかったのが本音だが、仁野はそこを割り切った。憂希は自分の役割を全うした。次は自分の番だと自分自身を鼓舞する。憂希に並び立ち、憂希の前に出るには自分が活きる状況で百二十パーセントを引き出すしかないと決意した。
「神酒ちゃんっ、アレさんっ。うち先行きますっ」
「あ~い、すぐ追いつくよ」
「私は全体的な前線を押し上げる方に回るよ」
仁野はまるでジェット機のようにAZの大群の中心まで急発進し、その勢いをどんどん加速させる。
「『エンジェル・ムウ』!!!」
その勢いをそのまま突貫に全部乗せ、まるで隕石のような突撃で氷塵が舞い上がり、ロシア軍側の氷上に巨大な亀裂が走る。
「っ」
その氷塵を煙幕代わりにその場から猛スピードで移動する。敵しかいない場所での全力の移動ですらソニックムーブを発生させ、近距離であれば木っ端微塵にする。
「憂希君は狙われたらダメって言ってた。...ならもう、ここでは止まらないっ」
仁野は高速で移動しながらAZたちを蹴散らしていく。衝撃波だけではなく、拳や蹴りで直接破壊する。銃弾を通さない超合金かつ能力で温度による弊害を一切受け付けないAZの体を粉砕する。憂希にはできなかった芸当だ。
『何か来た!?』
『粉塵多すぎて見えないっ』
『動作感知センサーが反応しきれないっ』
『ヤバイっ!私たちが次々とやられてく!』
『『『ならここ全部焼き払っちゃお!溶かしちゃお!!』』』
パニックになりながら同じ人格で量産されたAZはその考えをまとめるまでが同時だった。その手段は自分がアンドロイドであることが大前提となる作戦に移る。自分たちの足元に存在する物体を例外なくすべて熱する。熱線を放射するのではなく、その物体の温度を急上昇させる。氷は一瞬で蒸発するが、海水まではその加熱は到達しない。
『へっへへ。これで誰も走れないでしょっ』
AZたちは足の裏だけを凍結させ、まるで海水の上に立つように沈むことなく停滞した。生半可な人間であれば海水に沈み、身動きが取れなくなるところだ。
『え!?まだいる!?海の上!』
仁野の脚力をもってすれば水面に動的圧力を発生させ、水上を駆け抜ける。圧倒的フィジカルはその機動力に条件を設けない。
「『エターナル・クライン』!!!」
一回の踏み出しで対象に数撃を撃ち込むというサイクルを一瞬で何十回も行い、まるで同時にいたるところで仁野が攻撃を放ったかのようにAZたちが海上で吹き飛ばされ、海水が何回も穿たれ、高波のようにうねる。仁野の踏み出しにより海面は常に白波を立て続ける。
「仁野ちゃ~ん、避けて~っ」
「了解っ」
空間移動で仁野が立ち回っている最前線に神酒が到達し、仁野に合図を出す。仁野が瞬間的にその場から離脱。その瞬間を見計らって、神酒がAZたちが仁野に混乱しているその空間をまるごと一点に圧縮する。
『うわああああ!?』
『やぱっ』
『私たちが!?』
氷結による侵略に能力を行使していたAZたちのほとんどがその空間圧縮に巻き込まれ、大群を成していたAZ軍はその数の大半が削られた。
『やばいっ』
『一度全部やり直そう!』
『全部吹き飛ばせっ』
『『『焼き払え!!!』』』
日米軍側に向けて全AZが右手をかざす。数十体が一気に空気を加熱し、膨張させ、その範囲を爆発的に拡散する。まるで巨大な爆弾や隕石衝突による熱線のような衝撃波が放たれる。火炎放射よりも温度が高い海水すら蒸発させるその衝撃は音速を越える破壊を生む。
「ぐぅっ」
「うわ...熱っ...」
金属が融解するような熱線でも仁野には火傷すら与えられない。しかし、その衝撃や異常な熱気に仁野はうろたえた。
神酒は完全に自分の周囲の空間を隔離することでその熱線から逃れた。ダメージは二人に与えられなかったが、その二人の動きは止めた。
「やばいっ、本隊が!」
仁野はその熱線が本隊まで届くことを察知し、後方に振り向く。
「大丈夫っ」
憂希が氷壁と海底を隆起させた岩壁をミルフィーユ状にくみ上げた天にそびえる防壁を形成し、その熱線を受けきる。熱波は衝撃と水蒸気を空に巻きあげた。
「ナイス~っ。じゃああたしが終わらせるわっ」
AZが放熱に注意を向けている隙に神酒が憂希と仁野のいないAZたちが存在する空間そのものをすべてを能力の選択対象にする。
「じゃあね~」
その空間内の位置情報を数ミリ単位で細かくばらばらにする。まるで巨大なルービックキューブでシャッフルしたかのように、あべこべでばらばらな空間が出来上がる。その空間に存在する物体はピースとなる一つひとつの空間ごとに切り分けられ、元々の姿の面影は一切無くなる。AZにどれだけ強度があろうと何も関係ない。
「...さすがだ」
憂希はその圧倒的な攻撃力と殲滅力にただただ驚愕する。自分がいくらやっても致命傷を与えられなかったAZを単体ではなく大量に一撃で殲滅した。能力の相性や強みがいかに重要かをただただ実感する。
「次は本隊か」
「やばいちょっと休みたいっ...」
「水分補給したい~」
「神酒、君はアルコールを水分補給と考えるのはよした方がいい。真逆の行為だ」
ずっと氷の侵略相手に能力を行使し続け、三人とも確実に消耗している。能力の対象範囲がそのまま攻撃力に直結する神酒はこの中で一番消耗していた。ずっとひりついた状況が続いていたことで、肉体的疲労よりも精神的なすり減りの方が多かった。
「ここまで早く突破されるとは思わなんだ。日米同盟ともなれば単純な数の優位では制圧できんなっ」
突如、豪快に響く声とともにそこにいなかったはずの大柄な影が地面に落ちた。
「なっ...」
憂希から驚きの声が出切ることはなかった。理由は憂希が言葉を詰まらせたわけでも他の何かが発生したわけでもない。
「....」
頭の中で憂希は混乱する。いや、憂希だけではない。そこにいるグレード1全員が困惑した。体が動かず、言葉も発せない。瞬きすら自由にできない。しかし、目の渇きはない。
「すまんなっ。俺は正々堂々と戦争するのが好きでなっ。あまり能力の押し付けってのは好まんのだ。お前たちに好き勝手される前にまずは名乗らせてくれっ。俺はグリゴリー・ヴォルコフ。この部隊の隊長を務めるものだ」
ごつい腕を組み、大きな声で自己紹介を豪快に響かせる。
「さて...。お前たちをこのまま殺すんでは戦争をしている意味がない。銃で死ぬ戦争では味気がないだろう。まぁ必要であればせざるを得んがな」
「隊長、総力戦でそんなこと言ってていいの~?殺せるならすぐ殺した方がいいんじゃない?」
「不必要では」
「お前たちは戦争の醍醐味をわかっておらん。お互いが削り合い、探り合い、限界を極めた先に殺し合うのが戦争だろう。その上に成り立つ勝利こそ戦争に勝つということだ」
戦争に道理を持ち込み、流儀を求め、ロマンを追い、勝利を望む。戦争に心血を注ぎ、対峙する緊張感を愉悦とする根っからの武将。単純な兵士とは一線を画す精神の軸を持つ男。古の戦であればその矜持こそ常識であり、その道理こそ兵士の価値を決めるものだっただろう。
「泥臭く血生臭い戦いこそ、勝利が美味なんだよ」
「ふ~ん、あんま興味ないかな~。兵器使えるから好きなだけだし」
「命令を遂行すること以外に意義はないかと」
「かぁぁっ。我が部下ながら何とも御しがたいっ。引き金を引いて終わるなら戦争など起きんのだ。そこに何かを懸け、命を捨てるからこそたぎるのだ。まあ、何百回お前たちに説いたところで響かんことはわかっている。...では」
その前触れのない自己紹介の終わりとして数発拳銃を放った。しかしその銃弾は発砲したその位置で停止している。
「今から能力を解く。...これに反応して見せよ。できぬならそのまま死をもってこの戦場を去れ」
そう告げた瞬間、憂希たちの自由は再びその権限が戻ってくる。
「ぐっ」
皆がそれぞれ自分に向かって放たれた銃弾を能力で防ぐ。
「じゃあ始まりってことで!」
ニコはその銃声を合図に能力を行使する。兵器を掌握する能力は操作や物体の制御だけではなく、兵器に該当するすべてのものを任意で転送や回収することが可能である。本人が世界最大の武器庫であり、世界最大の軍事力を兼ねる。
「行っておいで!AZちゃんたち!」
そう、それは何も銃やミサイルだけではない。間違いなくこの戦争において最新兵器と呼ぶに値するアンドロイドへの能力付与。AZたちすらその能力に該当する。ニコが兵器とするものは例外なく能力の対象となるのだ。
『私たち召喚!』
『第二陣出撃〜!』
『作戦はフェーズ3ってことだよね!』
『『『攻撃開始!!!』』』
「なっ……」
今度はなにかの能力で動けなくなったわけではなく、単純にそこにいた皆が絶句したのだ。かなりの消耗の末、やっとの思いで壊滅させたAZ軍団がさらに数を増やして復活した。目の前にはかつて日本軍が総力戦で何とか退けたグレード1の能力者二人。そして、なんの能力かわからないグレード1が一人。状況は悪化したと捉えるしかない。
「……あの男が、危険因子」
憂希はこの作戦が伝えられた時の記憶を思い出す。この面子の能力が出揃ってなお、それよりも脅威的で世界を滅ぼしかねない能力として頭ひとつ抜けている。その事実に肝が冷え、手に汗が滲む。
「神酒さんっ!分断できますか!」
「おっけ!すぐやる!」
グレード1が揃ったのであればやることは一つ。各個撃破の個人戦に持ち込むことだ。憂希が声をかける前から皆の考えは一致していた。
これから始まるのが本当の総力戦だった。
ご拝読ありがとうございます。
皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。
素人の初投稿品になります。
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