No.51 消耗戦の氷点を突く
No.51 消耗戦の氷点を突く
憂希は通信で報告してもなお、その光景が信じられなかった。一体だけであれだけ苦戦した兵器が数を数えきれないほどの大群で侵攻しているのだ。
『神崎上等兵っ。それは確かかっ。こちらもドローンで偵察しているが...完全に同一人物が隊を成している。...能力を付与したアンドロイド』
「っ...。氷結含めてあのアンドロイドの能力ですっ。...放っている砲撃や銃弾、物理的な能力ですら氷結でほぼ無力化しています。...グレードは2以上だと」
『っ....。能力兵の量産など、聞いたことがない。了解した、一度全体に伝令する』
六次から全軍に伝令が通達される。憂希はAZがグレード1のアンドロイドであることを知っていたが、それは伝えなかった。偵察だけでは推察できない情報であり、混乱を招く恐れがあるからだった。
「輪廻、動物はいる?」
「すっごいとおいけど、いる。っ~~~~~~!!」
輪廻は甲高い声を上空に轟かせる。その声に反応したハクトウワシが数羽沿岸部から飛び立った。
「...ちょっとみてみてっていってみた」
「ありがとう。...輪廻、少し後ろに下がろう」
二人は秀明の能力で透明化しているが、透過はしていない。透過しては風や翼で飛行している二人がそのまま落下してしまうからだ。
しかし、その透過ではサーマルやエコーロケーションで感知される。
「ゆーきっ、したからこおり!!」
「っ!」
まるで樹木の枝葉のように地上の氷塊からはるか上空へ氷の柱が一気に伸び、爆撃機が爆弾ごと貫かれ、憂希と輪廻にも迫る。
憂希は自分たちの手前でその氷結の制御を奪取し、勢いを完全に殺す。
『何か上にいっぱいいるね!』
『でもたくさん死んだかな!』
『ん~でもまだいるね!』
『見えないけどいるね!』
そう、AZであれば透明化は完全に見破られる。能力付与をされただけのアンドロイドではない。その体にあらゆる機能を備えたAZはある意味、能力を複数保持していると言っていい。サーマル機能を用いて爆撃機や憂希たちを捕らえ、その物量による瞬間的な氷結を作戦エリアをほぼ覆うほどの氷塊による大樹を生成した。
「六次准尉っ。爆撃機含め地上のアンドロイドに補足されましたっ。攻撃範囲が数によって桁違いに拡大されていますっ」
『了解した。偵察ドローンやられた。本隊に連絡し、連携を取る。維持が難しければ一時撤退してもいい』
「六次隊長、本隊に提案を。氷であれば俺も対抗できます。必要であれば俺も応援に回ります」
『その内容含めて確認する』
「ああぁ!?」
通信が終わった瞬間、輪廻が悲鳴を上げた。
「どうしたっ」
「とりさんがっ、しんじゃった!ああぁあああ」
「っ...温度のある者を無差別に...」
少し戦場の上空から距離を取りながら、継続する氷塊の大樹の範囲攻撃を憂希の能力でいなしていた。その中で輪廻は悲しみに暮れている。
「あぁぁああ....ゆるさないっ」
「輪廻、待って」
怒りのままに敵軍に突撃しそうになった輪廻を静止し、憂希は必至に諭す。
「ごめん、俺が鳥に話しかけてって言ったからだね。...俺があいつらをやっつけてくるから。少し下がろうか」
「あああああ、ゆうき、ゆうきっ」
輪廻は泣きじゃくる子供の様に涙する。憂希にしがみつくように泣いている。
「六次准尉っ。輪廻が指示した鳥がアンドロイドのサーマルか何かでこちらを感知され、殺されました。無差別で温度を感知できるものをこの氷で狙っているようですっ。一度こちらは離脱しますっ」
『了解っ。すぐにこちらと合流っ。神崎上等兵はこちらに合流後、我々は奇襲作戦に切り替える』
「わかりましたっ。輪廻、聞いてほしい」
「あぁぁぁ。あぁ。ぐずっ...ぐす。...ん」
「ここが怖いところだって...前にも言ったと思うけど、輪廻も今、ちゃんとそれがわかったよね」
「んん」
涙があふれる目をこすりながら輪廻はこくりとうなずいた。
「いろんな人が死んでしまう。動物たちもそうだ。でも、それで輪廻が悲しんだり、怖がったりしたら、もっと死んでしまう人が出てしまう。...それを俺たちは護るんだ」
「うぅ....うん」
輪廻はどんどん、憂希の苦悩や消耗がどんなことだったのか少しずつではあるが理解してきた。抱えていた恐怖や不安を押しのけて、目の前に広がる殺意を跳ね返して、立ち向かっていることを感覚として把握した。理屈ではなく、輪廻は肌で感じ取り、嗅覚で反応したのだった。自分を止める憂希の腕が震えていたことも感じ取った。
「一度皆と合流しよう。ここにいたら狙われる」
憂希と輪廻は上空から離脱し、六次と秀明が待機する場所まで移動する。
そのころ、最前線は大混乱になっていた。いくら破壊し、いなし、回避しようとも無尽蔵に襲い来る数百メートルにも及ぶ氷壁とそこからはじけるように突出する鋭利な氷のとげ。気温や環境により広がり続ける氷結の範囲に、日米軍は下がりながら応戦するしかなった。
「炎熱系の能力はもっと火力上げろっ」
「武装兵はありったけ撃ち続けろっ。氷の破壊が優先だっ」
氷の侵攻を必死で止めることに手一杯となっている。ずっと砲撃や銃撃が鳴り響き、氷との戦いが続いている。
「っ...いくら壊しても復活するんだけどっ。マジなにこれ!?敵も見えないしなんなの!?」
「くっ...我々がここを離れれば一気に止められなくなるね」
「ああああ、もう無理って!かき氷食べたい!」
グレード1の女子三人がその攻撃力を最大限に活用し、氷の津波のような侵略を阻止している。眼前に迫る山のような氷壁が数百メートル以上の高さで侵攻してくる。範囲とその物量はこの三人の能力でやっと均衡を保てるかどうかというところだった。同じ能力者が同じ出力を数百以上重ねることで引き出す効果は天変地異を超越したような現状だった。それに対して三人は穿ち、削り、押しつぶすことで氷を砕き続けている。
「思いっきりやってもすぐ埋まるし...敵の能力者ってめっちゃタフなん!?」
「通信ではアンドロイドだって話だよ。...能力を使える機械か。専門外ではあるが革新的だね...。エネルギーによるけど、私たちよりも確実に燃料効率はいいだろうね」
「なんだよ機械って~~!こっちは疲れるのにさ~~!!」
削ったところから瞬間的に再生するような氷結は開戦直後からずっと継続している。まるで手応えがないまま、全力を強制させられる状況に三人は消耗を隠せない。
『敵軍が砲撃を開始したっ。爆撃も警戒せよっ』
「うそっ!?空なんて見れないよ!?うちらもうマジ無理だって」
「あたしが空間断裂するっ」
「任せたよ」
空中を飛び交う砲撃が氷壁の末端を皮切りに、神酒の能力によって断裂した空間により、そこを通過した砲弾たちはその瞬間バラバラに分解され、空中で爆発する。
「このままじゃ...何もできないっ」
『全隊員に通達っ。上空の広範囲で気温が急激に低下っ。上空からの攻撃に備えよっ』
「ちょっとあたしじゃ無理っ」
「うちがやるからちょっとここお願いしますっ」
「わかった。....すぐに戻ってきてね」
その通信が入った直後、空中に巨大な氷柱がまるで雨の様な数で空を覆う。
「っ」
その陰が地に落ちる前に仁野は上空へと跳躍し、力を全身に込める。
「『ステラ・インパルス』!!!」
山のような氷柱の雨を渾身の一撃ですべて吹き飛ばした。轟音と衝撃が空を切り、地上にも強風が吹き荒れた。
「えっ...やぱい!ロボットたちが氷の壁の上からこっちに来てる!マジゾンビ映画みたいな感じ!」
空中で見た光景に思わず仁野は叫んだ。迫りくる殺戮兵器の大群は、恐れることなく日米軍に侵攻していた。リソースを割いていた固体は全体の七割程度。残り三割はすべて氷壁の上を進んでいたのだ。
「っ...それはまずいね。私たちではそれらは対応できないよ」
「無理無理っ。援軍要請っ」
三人が対応しきれない範囲では氷結の被害がじわじわと出てきている。武装や兵士が氷結されたり、兵器が圧壊され、前線は確実に押し上げられていた。日米軍は完全に勝ることのない消耗戦へと強制的に持ち込まれている。
そして、ロシア軍にとってこの進軍はまだ第一陣でしかない。その事実をまだ日米軍は理解していなかった。
「『エターナル・クライン』!!!」
空中から地上に戻るその数瞬で、仁野は一瞬で何百発もの連撃を放つ。その衝撃波は砲弾のように氷壁の上を走るAZたちに降り注ぐ。
『なにあいつっ。こっち狙ってきてるじゃんっ』
『気づかれた!あれ倒した方がいいよねっ』
「倒そ!倒そう!」
氷壁の上を走るAZが仁野を認識し、範囲攻撃に対して反撃する。
『『『空中なら身動き取れないでしょ!!』』』
仁野においてはその限りではないが、ただ落下する対象を狙うにしてはあまりに大規模で広範囲の氷結の大樹を日米軍側に向けて水平に展開する。仁野の連撃を食らっても折れた先からまた生えるように氷結する。
「うそっ」
砕いても砕いても接近する勢いを止めない氷結に思わず仁野の体が怯む。生半可な氷結では何のダメージもない仁野だが、無尽蔵に氷結されれば体力の消耗は確実だろう。
しかし、その氷結が仁野に届くことはなかった。文字通り、仁野の目前でその氷結は完全に停止する。仁野への攻撃だけではなく、日米軍全体への氷壁侵攻は停止した。
「えっ....なんで」
『何でとまるの!?』
『能力は使えてるよっ』
『どういうこと!?』
AZたちがアンドロイドらしからぬ動揺を見せる。氷壁の最前線に立つAZたちは間違いなく仁野に向けて手をかざしている。
「ごめん、遅くなった」
「えっ」
仁野はその声がした方へと振り向く。しかし、そこには誰の姿もない。ただ、仁野が聞き間違うことはあり得ない。それほどに鮮明に明確に聞こえた。
「あっ...」
その数瞬後、その声がした方にまるでベールを脱いだように空中に憂希の姿が現れた。
「憂希君...」
「皆さんっ、氷は俺に任せてください!敵軍に隙を作りますっ。そこを皆さんの能力で一網打尽にしてくださいっ」
地上にいる神酒とアレックスに向けて憂希は叫んだ。能力相性と実戦経験を踏まえると、憂希の前線投入はこの場で一番最適解と言えるだろう。
「ありがと~!でもちょっと休ませて!はぁ....はぁ....吐きそう。二日酔いみたい」
「っ....。そうか、君は大自然そのものだったね。今度は君に助けられる番か」
ずっと神経を削って油断も隙も無い状態から解放された三人は一気に脱力する。次に備えるための小休止。
『あの人のせい!?』
『あの人知ってる!』
『私を倒した人だ!』
氷壁の上でAZが騒ぐ。どうやらAZの記憶媒体には欧州戦での記録が共有されているようだった。
「一気に...戦況を変える」
憂希は氷結の侵攻を無力化しながら、AZの視界と経路を塞ぐべく、氷壁の上に氷を一気に水蒸気にすることで巨大な穴をあける。数秒ではあったが一気に足場がなくなり、落下したAZたちが、他のAZたちによる氷壁の修復により落下したAZがそのまま氷塊の中に氷結される。
『あぁ!?私たちが!?』
『嘘っ!?凍っちゃった!』
「道を開きますっ!皆さん総攻撃をお願いしますっ」
憂希は氷壁のはるか下。海底のさらに奥深くに存在するマグマを肥大化させ、無理やり火道を海底まで引き上げ、一気に大規模な海底火山を発生させる。一気に噴出した熱とマグマにより、海水温度は異常なほど急上昇し、海中で水蒸気爆発を引き起こした。その勢いと熱、そしてそれに混ぜ込まれるように大量の溶岩が地上に向かって爆発のような衝撃波と共に噴きあがる。熱を帯びた大量の衝撃波を憂希の能力でさらに加熱し、はそこに爆撃でも発生したかのような勢いと共に岩盤の様に分厚い氷壁を下から大規模に粉砕し、氷壁の中に凍結されたAZたちごと吹き飛ばした。
均衡を崩したこの一撃で、この戦場は今までにないほど激化することになる。
ご拝読ありがとうございます。
皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。
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