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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.48 野生の決意

訓練内容は至ってシンプルだった。ランダムに設定される仮想空間とそれに合わせて配置されるタレット。タレットを殲滅するまでが訓練におけるミッションとなる。


『それではミッション開始』


「っ....森林か」


憂希の訓練は森林地帯を想定されたフィールド。タレットは森林の視界不良によりひと目では察知できない。


「ふぅ...」


しかし、もうすでに幾千の戦場を立ち回ってきた憂希にとって機械の破壊は造作もないことだ。

微風を発生させ、その風に神経を集中させる。その風で指先の様に森林地帯を探索する。


「...見つけた」


木々の枝葉は風を受ければなびき、揺れる。幹は表面の粗さと丸みによりその形状を察知することは簡単だ。よって、人工的な面を持ち、風になびかない重さを兼ね備えたものをすべてターゲットとする。


「...一気に破壊する」


ターゲットにした物体目掛けて拳ほどの大きさの岩石を大地から射出する形で撃ち込む。それを内部で超高温に上昇させ、内部で粉砕し爆散させる。


『ミッション完了』


「すご...一瞬じゃん」


仁野は思わず口からリアクションが漏れ出していた。他のメンバーもすべて同様の心境だった。仮想空間での訓練とはいえ、その場から一歩も動かずにタレットの発砲すらないままに制圧して見せたのだ。


「...やっぱり違うのかな」


そんな憂希に少し遠い距離から疑いの目を向け続けている一人の影があった。それはかつて戦場で憂希と相対した小龍だった。


「ん~似てそうだけど...でもあれは欧州軍だったしなあ。....能力は氷がメインだったし。...あまり何したのかわからなかったけど」


小龍は自分が投入された戦場で自分の軍を壊滅に追い込んだ宿敵と同一人物に思えた憂希を警戒していた。手も足も出なかった相手が日本軍にいるはずもないと考えたが、それでも無視はできなかった。


「.....」


だが、小龍はその場から行動できなかった。米軍に属しながら、米軍の能力兵とのコミュニケーションは壊滅的だった。もちろん、小龍自身のコミュニケーション力が低いこともあるが、そもそも米軍の能力兵は団体行動をしない。各々が干渉せず、過干渉を嫌う性質上、好き勝手やっている人間のみで構成されている。


「...僕より日本軍の人と関わっている人に....聞いてみるしかない....よね」


同じように集団から距離のある場所で座って甘い物を食べてくつろいでいる秀明に目を付けた。


「...あ、あの。あの、神崎さんって....どんな能力か...し、知ってますか」


「ん?僕に聞いてるの?....いや、あんま知らないな。会議もちゃんと聞いてなかったし」


「そ、そうですか」


小龍は唯一、米軍のグレード1兵士の中で日本軍との共同戦線に一度も立っていない秀明に質問をしてしまった。会議も嫌う曲者には自分の軍すら興味がないため、日本軍の情報なんて知る由もないのだった。


「でも、彼は変な人だよ。僕が言うのもなんだけどね」


「...そ、そうなんですか」


「戦争がやりたくないのに戦争にたくさん参加して、疑問を唱えるのに能力者になってる。矛盾ばかりのまま功績が連なっている変な人。僕には真似できないね」


「....」


その矛盾の抱え方を欧州との戦場でも小龍は感じていた。どこか自分と似ているようで決定的に自分とは違う何かを抱えて戦場に立つ兵士。


「あ、ありがとうございました」


小龍はもやもやを抱えたまま、葛藤する。日本軍に正式に在籍している憂希に問いただすべきか、そのままにすべきかという葛藤を。


「うわ...次僕かよ。...じゃあそんな感じだから。あんま人のこと気にするとろくなことないよ」


いつも発言に信憑性や説得力が欠損している秀明の言葉に、その時だけは深く重い何かが籠っているように感じた。


『それではミッション開始』


次のフィールドは砂漠地帯だった。廃墟や岩石が散らばったような見通しのいいフィールド。目視できていなくてもおおよそ、タレットの位置は予想できる。


「...はぁ」


秀明は少しため息を吐いた。


「なっ....どういうことだ」


その場にいた日本軍側は皆驚愕した。


「これは映像の乱れではないんですか」


その場にいたはずの秀明の姿はどこにもなかった。文字通り何も見えなくなり、その姿は皆無となったのだ。一切何も見えない。


「っ」


その瞬間いたるところが爆破し、タレットの反応が消えていく。同時ではないがそれでも連鎖的に爆発する。


「なんの能力だ....」


「彼は私の研究対象なんだよ」


困惑している憂希にまるで独り言のように呟きながら近づいてくるのは米軍のアレックスだった。


「まあ思いは一方通行なんだけどね」


「物理学での研究ってことですか?」


「そう、彼は透明透過を操る能力者だ。私の能力が一切通用しないこの世の物理を完全に無視した能力。実に興味深いだろう」


「透明...透過ですか」


その能力に憂希は衝撃を受ける。これまでの戦闘でいかに敵の能力を受け流し、無力化した上で自分の能力を押し付けるかが勝敗の肝だった。一対一の試合形式ともなれば消える瞬間も確認できるだろう。だが、戦争においてそんな悠長な状況はまずない。先手必勝、後出し上等の状況において一方的に能力を行使し、敵にそれを悟られないという強みは完全に有利を取れる能力と言える。


「しかも透過に条件付与もできると聞く。ますます物理学を無視した存在だよ。重力や熱の影響を受けるのか、自分からは世界がどう見えるのか感じるのか。興味が尽きないね」


アレックスの発言はやはり、会話というよりは脳内の声がそのまま口から出ているような独り言に近い。これでは小龍が苦手意識を持つのも納得だろう。


「...」


憂希はその能力に同盟国の能力者のはずなのに脅威を感じた。なぜ相対していない人をそう感じたのか、憂希は自分でも理解できなかった。


『ミッション完了』


「はあ~~疲れた。ほんと向いてないわ...。僕はこれで終わりですよね~?帰りますよ」


まるで定時退勤の会社員のように秀明はそのまま立ち去ろうとする。


「蒼鷺伍長、お互いの能力を把握するための合同訓練でもありますので、引き続き参加してください」


「....はぁ」


深いため息を吐いた後、もともとくつろいでいた椅子に戻って、ふてぶてしく深く座り込んだ。


その後、日本軍は仁野がそつなくタレット軍を撃破し、続くアレックスもフィールド全部を超重力で押しつぶすというごり押しでミッションを完了させた。

そして、次はいよいよ輪廻の出番となる。


「いいかい、輪廻が嫌いな臭いのするものを壊すんだ。輪廻が嫌いなものを撃ってくるから、それも避けるんだよ」


「....わかった」


いつになく不安そうな表情をするその姿は、知らぬところに連れてこられた野生の子犬のようだった。


「ニノみたいな感じでやってみるんだ、できるかい?」


「大丈夫っ!輪廻ちゃんなら余裕だって!」


皆が輪廻を励ましている。憂希が加入する前では考えられなかった光景だとその場にいた日本軍のほとんどが感じていた。


「うんっ、やってみる」


輪廻はずっと考えていた。憂希や仁野がしばらく姿を見せなくなったあ後に久しぶりに会うと、その顔にどこか曇りを感じることを。憂希は出会ったときから日に日に顔が暗くなっていることを。仁野は激しい運動をするようになったことを。輪廻は五感でそれらを感じ取っていた。能力を使わずとも通常の人間よりは発達し、読み取れる情報量が増えている輪廻だからこそ、言葉以外で感じ取れるものがあった。


「...」


目の前にある次々と変わる景色と、そこに漂う火薬と硝煙の臭い。自然界にはない熱気や音が充満しているように感じていた。憂希や仁野がそこに入ったとき、輪廻はとても怖くなってしまった。姿も見えない何かしらが狙ってくる危険地帯に仲間が突入したのだ。警戒を促し、その場からすぐに離脱することを伝えるのが自然界では普通だった。それでも、憂希や仁野はそれを難なく突破した。


『それではミッション開始』


フィールドは山岳地帯を想定した岩石による高低差や遮蔽の多い地形。こういった場所にタレットとは少し現実的ではないが、この戦争で現実感を前提にして作戦を組み立てることは命取りとなるだろう。


輪廻は悟った。憂希たちは普段、これよりも激しく、辛く、困難な場所で戦い、何度も勝利しているのだと。憂希が教えてくれた戦いをずっとやってきているのだと。それを受け、輪廻は自分が護られていたと考えた。ずっと憂希たちが護ってくれたから食事にありつけ、安全な寝床で寝られていたと。ならば自分も狩りをし、役割を担う側にならなければならないと決意した。


「っ....」


すぐに周囲を嗅覚とエコーロケーション、ピット器官での熱源感知をフルに行使し、タレットの位置を瞬時に正確に把握する。


「ガァッ!!」


四肢をチーターを模した猫型の手足に変形させ、瞬間的にトップスピードにまで到達する。

それを検知したタレットがゴム弾を連射する。その射撃は機械的で正確な精度で高速で移動する輪廻を逃さぬよう弾幕を展開する。


「っ!」


地上での加速をそのまま利用して、大きな翼を背中から生成し、そのまま空中で回転しながら速度を緩めることなく回避しながら接近する。


「ヴァアア!」


その勢いのまま両腕を肥大化させ、アフリカゾウのような足に形状を変形させることで速度に硬度と重量を上乗せし、そのまま膨大なエネルギーをぶつける。


「ぐぅうう」


瞬時に体を縮小し、その場に迎撃が集中する前に上空へ離脱する。


「ヴアアアア!」


そのまま位置エネルギーを活かし、直撃寸前で肥大化することで地震を砲弾とする爆撃に近い攻撃を次々にタレットにお見舞いする。その機動力と瞬発力によりタレットは照準に輪廻を捉えきれない。

輪廻の強みは機械に頼らない感覚機能による索敵と正確な相手の情報認識。そして機動力と変幻自在な変形による予測不可能な挙動だとその場のいたものは認識した。


「っ...おわり?」


直観的な野生の攻撃と能力の幅やバリエーションが生物の種類と同一という情報は、対策構築が最難関と言える。憂希と並び立つとなればそれは、大自然そのものが猛威を振るうということと同義だということだ。

ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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