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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.46 黒くつながる接点

作戦が終了し、各隊員には待機命令が出た。訓練もしばしば行いながら、憂希たちは戦争の疲れを癒していた。


「え、仁野ちゃんキックボクシングもやるようにしたの?」


「そう!いや空手だけだと強いパンチとかキックはできるようになったり、相手の攻撃を受けたりみたいなことはできるようになってきたんだけどさ~。もう絶対避けなきゃっみたいなやつは苦手で。能力者なんてそんなんばっかじゃん?何回かよわよわにされて大ピンチだったしっ。だから、シュッシュって避けながらでもすぐパンチできるようにしたくって」


「すごいね...」


「美珠ちゃんも一緒にやる??楽しいよ~!」


食堂で昼食を取りながら女子トークで盛り上がる二人。物事をポジティブに捉え、自分の消耗を減らすことがうまい仁野は、まるで日常的な運動の一環と言わんばかりに訓練の内容を話している。


「ん~運動昔から苦手なんだよね...。で、でも仁野ちゃんスタイルいいし...私もやってみようかな」


「え~!?美珠ちゃんだって細いでしょ!女の子って感じじゃん!うちなんか能力もらってからなんとなく筋肉質になってきてる気がして、ちょっと気にしてて」


「そ、そうかな~?引き締まっててきれいだと思うけどなぁ」


「ね、憂希君はどう思う?」


存在感を消していたはずなのに突然話を振られて、スプーンを口にくわえたまま憂希は固まる。


「....。....女子はみんなスタイルよく見えるから....いいと思うけど....な」


憂希は目まぐるしいほどに頭の中で言葉を選択しながら、当たり障りのない返答をしてやり過ごそうとする。


「え~そうかな??憂希君的にはどんなスタイルが好き?」


「....どんなスタイル。....そういわれると難しいな」


思春期真っ只中の憂希はその年齢に不相応なほど、そういった話に疎かった。興味がないわけではないが、そういうことに意識を向けられるほど精神が健康ではなかったというほうが正しい。


「うわ、もしかして好きになった人が好きなタイプって感じ?」


「そうなのかな。それを否定もできないからそうなのかも」


改めて自己分析をしてみると自分があまりに他人に興味がない冷たい人間のように感じ、憂希は少し自己嫌悪に陥る。


「なんかどんな人でも認められるってマジ素敵だよね」


「...っ。ありがとう」


その仁野の言葉に少し救われた。


「今日はラプちゃんいないんだね」


「なんか捕虜にした中国の能力者がラプラスを指定したらしい。理由は聞いてないからわからないんだけど」


「え、何それ怖くない?」


「ん~なんだろうね。後で聞いてみよう」


ラプラスは昼食のこの場にはおらず、明海の聴取及び取り調べに出席していた。明海からの要求であり、情報を引き出せるのであればと日本軍側はひとまず承諾した。

しかし、明海の取り調べはある意味難航していたのだった。


「...だからオレへの質問ではなく、こちらの質問に応えよと言っている」


「僕なんかに別に興味ないでしょ。中国では日本人なことも合わさって阻害されていたから、情報なんて全然知らないんだって。それより、いつから好きになったの?」


明海はコミュニケーションとは呼べない問答の中で、ラプラスに同じ質問を繰り返していた。


「貴様に応える義理はない」


「日本ではかなりメジャーなのかい?中国では見ている人があまりにも少なくて、そもそも認知されているかどうかって感じだったんだ」


「...皆が同じ思想に賛同するものではない。思想の違いがあるから個性が生まれ、思想の違いがあるから軋轢が生まれる」


「『人間とはそういうものだ』だよね。カイザーのセリフだっ。そこまで覚えている人はほとんどいないっ。日本だと皆そのくらい知っているのかい?」


「っ...」


ラプラスは自分が心底気に入っているキャラの名前を呼び捨てにされたことにイラつきを隠せなかった。世の中で言う創作物の話、キャラの設定と切り分けることはできないほど、ラプラスにとっては重要な存在だった。自分の名を変えるほどに。


「話にならん。貴様は質問できる立場ではない。それを弁えた態度を示せ」


明海は持ち前の自己否定や被害妄想的な自虐により、対人コミュニケーションを苦手としているが、今は能力行使を不可能にするための体力消耗を維持され続けている限界状態により、ハイになっている。その二つの掛け合わせにより、完全にコミュニケーションが破綻し、自己中心的な問答を繰り返すに至っている。


「和日月総司令、今日はもう中止で構わないか?これでは何も得られん」


「...致し方ないか。承知した、引き上げてよいぞ」


ラプラスは疲弊した様子でその場から退室する。


「また待ってるよ!カイザーのお弟子さんっ」


去り際まで聞こえてくるそんなセリフにラプラスは心底嫌気が差した。


「...あれでは会話にならない。オレが出向いても無駄なのでは?」


痺れを切らしたラプラスは和日月に苦言を申し立てる。口調や性格は厳格にしているが、中身は未成年の女子だ。年上の青年が目の前で餌をちらつかされた大型犬のように興奮していては、精神も擦り減るというものだった。


「少々経過観察が必要だ。君の前ではよく喚くが、君以外では中身のない人形のように何も口に出さない。君がもたらす何かしらの刺激で唯一出てくる自我があれなのだろう」


「っ....。あんなのから何を聞き出すっていうんだ」


「やつの能力は複写だ。あらゆるものを複写する。その能力範囲や対象の情報はもちろん、今まで複写した能力の詳細は吐かせなければならん。中国軍の能力編成や他国の情報も手に入る可能性がある」


「....正常にすれば魔力が戻って終わりか」


「最終手段は拷問にかける。中国での阻害を口にしている。それが事実であれば中国への反逆行為の誘発も視野に入れていたのだがな」


和日月は複写という能力に他の誰よりも価値を感じていた。そう、その一人さえいれば他の能力者の能力を行使できるということ。つまり、能力者の母数を減らしても実質的な戦力差は致命的に減らない可能性を秘めているということだ。和日月の掲げる能力者撲滅という思想戦略に対して、それはある意味、切り札になり得る。完全に制御下に置いた複写の能力さえあれば、和日月の理想はかなり現実に足をつける。


「中国軍への反抗的態度はあるが、こちらに協力的には見えない。...まあ、これも任務の一環だ。命令とあらば次もまた対応する」


「ああ、引き続き頼むだろう。...今日のところはご苦労だった」


ラプラスは明海の取り調べ任務を終えて、自室に戻った。


「...ふぅ」


自室の扉を閉めてようやく、ラプラスが心から解放される空間が生まれる。二重に鍵をして厳重に戸締りをしてから、ラプラスはベッドに倒れ込んだ。


「.....もう何なのあいつ!?キモイキモイキモすぎ!!限界状態って、私に手に負えるわけないじゃんっ。そんなまともに会話できないのに私に任せないでよっ」


それは師と仰ぐカイザーの衣装を脱ぎ捨て、自分を解き放った仲村 新香の本来の姿だった。


「てか日本でもマイナーだよっ。国民的アニメにラノベが勝てるわけないじゃんっ。中国でどうのとか知らないよ~」


年相応の反応を見せるラプラス。他人には絶対に隠し通す素の自分。彼女がそう自分を閉じ込めたのはかなり前のことだった。


「いや....知っている人がいるのは嬉しいだろうけどさ~。怖いよさすがに。初対面で質問攻めって。...敵だし」


普段口数の少ないキャラを演じている分、バネの反発のように一気に外にあふれ出す心情が次から次へ流れ出てくる。


「しかも何してくるかわからない能力でしょ?...なんか漫画やアニメって能力使えないようにする技術とか設定があってすごいな。能力使われるかもって考えるだけであんなに怖いなんて」


普段戦場の最前線に配置されることが少ないラプラスは、直接的な命のやり取りの経験は他の能力兵と比較すると圧倒的に少ない。目の前でトリガーのかかった銃を持つ凶悪犯と相対するような緊張感がラプラスを襲っていたのだ。


「はぁ....。憂希君や仁野ちゃんはすごいな...。私と二、三個違いなだけなのに、あんな不安な状態でさらにずっと戦っているなんて」


面倒見のいい憂希と話も合って話しかけてくれる仁野にラプラスはかなり懐いていた。まだ少し怖い輪廻にもだんだん慣れてきて、大型犬のようなイメージで接することができるようになってきた。かつての現実にはなかった居心地の良さをラプラスは感じていたのだ。


「...いや話せる人がいるのは....嬉しいけどさ....」


先ほどまでの悪態を繰り返すようにラプラスは独りで呟く。自分のことを否定しない仲間と、真逆の人間のような人が同じ熱量で同じ話題を話してくれることの嬉しさを実感した。逆にそれが一切なかった環境での孤独感を知っている。


「....ん~」


ラプラスは何も書いていない新品のノートを取り出した。この世界に入る前に勉学用に買って、一切使わなかった大学ノート。そこに複雑そうな顔をしながら久々となる文字を書き始めた。



次の日、ラプラスは和日月に昨日書いたノートを提出した。


「これは?」


「直接では会話にならないのであれば、文通はどうかと考えた」


「...なるほど。それは名案やもしれんな。承知した、確かに預かった」


「これで無理なら...オレには力不足かもしれない」


「その時は我々としても考えよう」


ラプラスの不安はある意味、空振りに終わった。ノートのページ半分にも満たないラプラスの文章に対して、明海は一ページ半以上を書いて返却してきたのだった。しかも、その日の昼にだ。


「っ....。すご」


自室でそのノートを開いて、ラプラスは素で一言呟いた。

ラプラスが書いた内容はいつからアンゼツが好きなのか、着ていた衣装をどうやって作ったのか、作品のどこが好きなのかという律儀にも明海から問われた質問に対する答えだった。


「....」


明海からのリアクションは案外冷静に感じた。文章は敬語で記載されおり、ラプラスの答え一つひとつにまるでリプライを返すように反応が長々と書かれていた。限界状態で書いたにしては読みやすい文字。

中身としてはラプラスが気に入っていることに対する共感や、明海が好きな部分の詳細と理由。そして他の作品に興味あるものがあるかという問いで構成されていた。


「.....この人もオタクじゃん」


昨日自分が感じた嫌悪感や拒絶反応はある種、同族嫌悪のようだったのだろうとラプラスは感じていた。客観的に見た自分は同じようなものだと。かつて自分がそう扱われていたように、目の前で鏡写しのような人間が来たら同じ扱いをする。


「だから.....嫌いなんだ」


自分が嫌われるのは辛いくせに、自分が嫌いなものはちゃんと嫌う。世の中を見渡せばそんなことは人間として平均的だというのに、その違和感に嫌悪し、自分を否定してしまうのは思春期ならではの悩みだろう。


「.....」


ラプラスはまたゆっくりと返事を書き始める。少しずつ中国についてや明海個人についての質問を混ぜながら。まるで自分と向き合うように真面目に律儀に、それをしたためるのだった。

ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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