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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.41 力を持つ者の思い

和日月は以前、憂希に見せた過去の実験資料をまた取り出した。しかし、以前よりも資料の枚数は明らかに多かった。


「君に見せた資料は超能力実験の起源。これは、その過程を示した資料だ」


その資料には成功例が発生するまでの経過観察が記載されていた。人類の進化を人工的にこじ開けるような実験は倫理観や人権を無視した実験は死刑囚をメインにした人体実験。多種多様な薬品投与や人体改造を生命維持ギリギリで行い、様々な可能性を視野に研究が進められていた。能力者という限定的な可能性ではなく、人類のステータス向上のため、幅広い分野で研究がなされていた。


「なっ...」


「現在では受刑者にも人権や社会復帰を促すような処置が常態化しつつあるが、一昔前は死刑囚や終身刑受刑者には再び社会に出る機会などなかった。それはこの国に限らずの話だ」


「...」


確かに実験自体は日本を拠点に実施されていたものではなかった。


「これを見て君は何を思う」


「...死刑囚なら別に何されようが構わないってことか?それをやる側は死刑囚や受刑者と...何が違うんだ」


憂希は人体や人命を軽んじているような実験にしか思えなかった。別に対象が死刑囚だからと言って、それ理由にして犯罪者のような行為を正当化しているように映った。


「私も同様の意見だ。だが、世界基準では実験対象が受刑者なら...そう判断する国も多い。結局表社会には出ない情報であり、受刑者がどうなるかなど気に留める人間は極わずかしかいない。社会から蚊帳の外にされた世界の話だ」


「...」


「しかし、成功例が発生してしまった場合、狂気的な実験は栄誉ある実験に切り替わり、世界はそれを容認するような価値観を示した。次なる原動力、次なる可能性、次なる生命。現状維持や低迷を避けることで人類は未来への不安を払拭してたのだろう。成功率を向上させるのに社会に不利益しかもたらさない存在を有効活用したかのように、実験は止まることはなかった」


「...日本もそれを受け入れたっていうのか」


「その逆だ。日本が唯一、能力者の一般化に反対している。個人個人が影響力のある力を備えることは均衡や平穏を崩し、新たに火種をくすぶらせるだけであると。それと同時に進化成功の確率を上げる手段も検討した。現時点で止めることのできない超能力付与の波に呑まれ、命を落とす人間を減らすための技術向上。矛盾しているようだろうが、目的は一致している。以前より君には伝えてきたが、能力者がいれば戦争は終結しない。君も経験しているように能力者は能力者でしか対抗できない。そのため、最低限の人員確保と最小限の危険性で能力者撲滅を目指す。それが日本の方針だ」


「じゃあ何でそれを最初に説明しない」


憂希の疑念は単純に秘匿に意識を向けていて、実際の人間には何も配慮がないことへの不信感がもとになっている。蔑ろにされている感覚が騙されているようにすら感じさせた。


「日本含め、他国も同様に能力の存在は秘匿するのが共通認識だ。その中で志願制を取り入れているという米国はどういった内政を布いているのか不明だが、現代の電子化による情報流出を加味すれば秘匿のままにすること以上の対策は無い」


「拉致して勝手に能力者の実験されて、それで死んだら原因不明の死で片づけられるのか。何で勝手にあんたらに人生を奪われなきゃならない」


「能力者適合の可能性が高い存在は組織に所属させるのが一番安全であり、それが一番他国の能力者開発に利用されない手段だと考えた結果だ。可能性のある対象を伸ばしにし、強制的に他国の能力兵が潤沢になるための肥料にされることを黙って見ているわけにはいかない。この事実を初対面の相手にされても、大半の人間がこちらの正気を疑い、耳を傾けることもないだろう。だからこそ、強制的に引き込んでいる。戦闘に拒絶反応を示せば、無理強いをすることは基本的にない」


和日月の主張は一貫している。能力者がいる限り、それに紐づいた争いが発生し、可能性のある人間は兵力として認識され、利用される。それを阻止するための技術開発と、その世界を否定するための戦力として能力者を増やしている。二重の意味で他国の能力軍に対抗する動きとなっており、志願制という能力者への適合性を無視した制度よりも現実的で安全だという話なのだ。

兵器や武装はまだ、組織や国にその使用権限や管理能力が必要となる。しかし、個人にいきわたった力は制御が困難となることも事実。銃社会ですらその犯罪をすべて未然に防ぐことはできていない。


「原因の排除は確かに対策の一つかもしれない。...でもそれは極論じゃないのか?仮に日本軍が戦争に勝ったとして、じゃあその時に生き残っている能力者を全員殺すっていうのか」


「それはその状況での判断となる。人間は殺さずともいつか死ぬ運命だ。自由な生活は保障できかねないが、ただ命を全うするまで管理という案もなくはない。ただ時間を設けるということはそれだけ危険性は増す」


逆にそっちの案のほうが最終手段に聞こえるような言い回しを和日月はしていた。

憂希の頭を支配していたのは、欧州の掲げている能力者の多様性だった。能力者を保護する、生活を保障するという考えがやはり魅力的に思えた。能力者を管理する組織を作り、秩序をもたらす。それが理想的なのではないかとさえ、思った。


「それじゃあ、米軍との協力もいずれ」


「米軍との交渉次第だが、例外はない」


「...どうしてそこまで」


「人間の性質だ。自分が弱者だと弁える人間はその態度や姿勢は従順であり、問題は発生しにくい。しかし、自らが強者と考え、現状に不満を感じている人間は反逆的思想が生まれ、争いを生む。それが連鎖する可能性こそ、人類の衰退と発展阻害につながると考えている。それらの人間を従順にするには各々が持つ価値観に沿った環境を提供する必要がある。...それは何の生産性もない社会性だ。いくつもの犠牲を払って到達する景色がそんな地獄であってはならない」


自らを悪と主張する組織が介入する戦争は、現実には発生しない。理不尽な正義の押し付け合いであり、言葉のメッキを剥がせばすぐに自国中心的な思想が見える。個人同士の他愛のない喧嘩の拡大解釈のように戦争は発生する。理性を失った戦争に本来、交渉も正義もない。犠牲が出る以上、泥仕合前提の殺し合いという事実から離れることはない。


「...それでも俺は、能力者にならないという選択肢を残しておくべきだ。元の生活には戻れなくても、知らぬ間に死ぬリスクを冒しているよりましだ。組織の利益となるように能力者にしているのかもしれないが、能力者にならない選択をした人だって国民で護るべき対象だろう。なら...強制的に能力者にして戦場に投入する必要はないはずだ。匿ったりできるはずだろう。...あんたが言っていた進化の技術向上が何なのか知らないが...それでも何かしらリスクを伴い続けるのなら、国のために人が犠牲になるのは間違っている」


「...一考するとしよう。しかし、窮地に立たされている今、そういった譲歩は許容範囲外と言える。今後の方針として検討するとしよう」


現状に対する最適解を選択するとき、和日月はあらゆる弊害を無視し、迷うことなんてないだろう。どんな非人道的手段だったとしても、目的に手段は選ばない。それができることも上に立つ者の責務。


「...これは君への忠告だが、仮に君が我々の方針に異議を唱え、反旗を翻すとして。その場合、君は護ろうとしたものとも争うことになる。君はすでに能力者であり、グレード1だ。国単位で影響を及ぼす君はすでに君単独で完結する行動はない。肝に銘じておくといい。君はすでに戦地に立つ兵士だ」


「...」


憂希は何が正しいのか、わからなくなっていた。国のために自分が授かったもてあますような強力な力で、敵と呼ぶ国々の兵士を蹂躙することが本当に正しい姿なのか。力がなければ今、憂希が考え、主張する言葉にすら影響力はなく、ネット上に転がる独り言と同じように流されることだろう。理想主義はだいたい、現実では嫌悪される。理想を語り、理想を成せるなら誰だってやっている。


「理想を諦めたら...人は救えない」


司令室から出て、憂希は一人で呟く。現代で倫理観や人権が破綻しているこの戦争を許容しては、二度と元の平和な世界には戻れない。大国がその姿勢を崩せば、また乱世が始まる。豊かさが人の死の上に成り立つ地獄。


「力は...そんな一方的に植え付けられるものでも、使っていいものでもないだろ」


憂希は自分がもらった力をより強く意識する。自ら手にしたというにはあまりに強制的で、自分の力として振るうにはあまりに責任が重すぎる。だからこそ、能力を行使する理由と、能力者である自覚が必要だと。

人格破綻者が使えば、全世界で大量の死傷者が続出し、人類滅亡だってフィクションではなくなる。

憂希の大義は、自分の能力行使を正当化するものだった。しかし、今となっては能力の起源を知れば知るほど、人の命を奪う手段でしかない能力への嫌悪感が増すばかりだった。


「たくさんの人が...死ぬことで生まれた能力を、仲間を護るために敵を殺すことに使う。...俺の考えは....本当に...」


大義として据えた揺るがぬ意志にひびが入る感覚が続く。それは身が裂けるような痛みを目に見えない場所に刻んだ。



日本の方針決定から一週間半が経過し、日本軍の兵力は少し増えていた。米軍からの支援により兵器や武装、物資が増えた。とはいえ、三大隊を備えていた状況からすれば軍備としてはまだ半壊状態に近い。

能力兵はグレード3以下が補填された。グレード2以上は簡単に発見できる人材ではないことから、グレード3が投入されたことだけでもこの状況では救いと言えるだろう。


「中国軍の台湾ならびに韓国への圧力がまた高まっている。北朝鮮の軍事掌握が完了してから日本への圧力は増す一方だ。確実に日本へいつでも侵攻できる状況を生み出すのに躍起になっている。我々の対ロシア戦以降、軍備増強と前線周辺への戦力集中が目立つ。万全の態勢で再戦となれば、日本側の被害は計り知れん。故に、先制攻撃に出る」


「日本から...仕掛けるんですか」


今までの日本は侵攻に対する防戦という形がほとんどであり、戦争に対して積極的な姿勢は基本見せていなかった。しかし、その状況こそが戦力消耗につながっていることも事実であり、それを打破するための方針変更を和日月は決意した。


「米軍との合同作戦となり、戦力も十分と言える。中国戦力に打撃を与えることで軍事行動を抑制することが狙いだ」


「...今回の作戦は?」


「最初は兵器、武装による総攻撃から始める。この資料を」


各隊長との作戦会議は中国軍朝鮮前線部隊への総攻撃について議論された。防戦では何も好転しない状況から切り替えるための戦いとなる。



作戦開始後、グレード1のメンバー含めた特殊兵装部隊は集められ、作戦内容を伝えられた。


「...ついにオレの出番か。満を持して」


総攻撃はラプラスの能力行使を合図に開始される作戦。


「敵軍全体を対象とする能力行使です。...大丈夫ですか?」


花菱は自分の隊員であるラプラスを気にかける。能力は強力かつ影響力は絶大だが、それゆえに対象範囲の選択と能力条件の調整が難しい。ここぞという決め手に使うのが第二大隊のセオリーだった。


「ぜひ、オレにその任を。...皆が戦場で武功を上げる中、オレだけ何もせず見ているだけというわけにはいかない」


「時間の許容範囲は?」


「...最大で10分。二回以上使用することを考慮すればそれが現時点の限界だ」


「ならば前線配置完了次第、すぐに発射態勢と整えよ。作戦開始は明後日だ。初撃後の各隊における作戦行動は資料にて配布する」


今回の作戦における起点はラプラスが担うこととなった。ほぼ防御不可と思われる時間停止による一斉掃射の後、元々の第一大隊と第三大隊はそれぞれ小隊規模で前線に侵攻する。各隊が左右に分かれながら鋒矢陣形で突撃する。

会戦から間髪入れずに侵攻することで、敵が対応する暇を与えない。


「やっと...二人と並べる。オレもグレード1の魔力に覚醒した者として...力を見せねば」


ラプラスは華奢な手を強く握り、その覚悟を自分自身に刻むようにつぶやいた。滲む汗と唇を噛み締める表情が、彼女の心情を透かしているようだった。


ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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