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自由戦争  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.28 日本軍大隊連合会議

振動が憂希の戦闘を常に感知していなければ、憂希の生命の危機を察知することもできなかっただろう。


仁野は振動から告げられた戦闘状況を耳に入れた瞬間、考える間もなく体を走らせていた。ボロボロで上手く走ることさえままならないが、それでもすぐに体は動いた。


不思議と思うように使えなかった能力が解放されたように行使できた。


「っ…憂希君」


飛び出す前に聞いた最後の情報は、憂希の能力が制限された中で敵が必殺と口に出したそこまで。振動から通達される追加情報は聞こえているはずなのにうまく頭に入ってこなかった。

聞こえるのはうるさい自分の鼓動と呼吸の音。支配しているのは憂希の考えたくない未来の情景、最悪の展開。


「はぁっ....はぁ....」


仁野の速度が戻ってから離れた戦闘エリアにはすぐに到着した。


「はぁっ....はぁ...はぁっ......っ!!」


仁野は思わず息を呑んだ。呼吸がさらに乱れ、過呼吸の一歩手前のような状態になる。確実に不自然と言える心音が警鐘のように鳴り響く。


「ゆ...はぁっ...はぁっ.....はぁ....憂希...君....」


地面に伏せ、小さい血だまりを作っている憂希と、敵だったと思われる黒い塊。戦闘は終了しているのは一目瞭然だった。


「憂希君っ」


仁野は取り乱しながら憂希に駆け寄る。伏せた体をひっくり返しながら抱きかかえた。


「....」


憂希の返事は返ってこない。


「っ....」


すぐさま呼吸を確認する。辛うじて弱弱しいが、それでもまだ呼吸はしていた。


「振動少佐っ。憂希君が腹部から出血して意識不明ですっ。戦闘は終わってますっ。すぐに...」


『了解。すぐに手当てしながら前線を離脱し、後方部隊と合流する』


仁野は憂希を抱えてすぐに移動する。その移動すらも憂希にとっては負担になるが、背に腹は代えられない。

仁野自身も出血や怪我の応急処置だけしかしていないが、能力によりその再生速度は常人をかなり逸脱している。軽傷はすでに治りかけ、重症も動きに支障がない程度にはなっている。


本隊と合流直後、憂希の止血と輸血を早急に手当てし、そのままテレポートにて後方部隊に合流した。

憂希は医療部隊の手当を受ける形となり、すぐに施術を受けた。


「....」


負傷者を優先して、後方部隊は日本の本部に帰還した。

憂希の病室の外で、仁野は椅子に腰かけたまま、うなだれていた。


「...君もしっかり休みなさい。極限状態の中、戦闘していたんだ。体は能力もあって回復しているようだが、精神が追い付かなければポテンシャルは発揮できないぞ」


振動は憂希の様子を見に、病室に訪れたが、その手前に声をかけないわけにはいかない姿を見つけ、優しく声をかけた。


「...はい」


「....隣、失礼するよ」


「...」


仁野の隣にゆっくりと腰かけ、振動は思いを巡らせながら病院の天井を見上げる。


「...神崎には....何度も言っているんだがね。...我々は君たちに救われている」


仁野はうつむいたまま、その言葉を聞く。


「君たちがいなければ、不甲斐ないことに軍人だけの集団ではこの戦争に勝ち筋はなかった。...和日月総司令だけでは戦闘区域が限られる」


「....」


「君たちの責任感や使命感には恐れ入る。だが、それで自分を蝕んでは本末転倒だ。君たちが感じる責任や使命くらいは、我々にも背負わせてほしい」


「....っ」


「グレード1は戦争の要ではあるが、だからこそ君たちが最大限活躍できる作戦とその道筋を組み立てるのが我々の責務だ。続いている危機的状況は我々の責任であり、それを打破し、乗り越えられたのは君たちの活躍だ。心から感謝する。ありがとう」


「...はいっ」


激励の言葉と、憂希の容態に対する不安で仁野は震えながら涙を流した。



和日月は振動らを指令室に呼び出し、作戦結果と被害状況を聞いた。


「...なるほど」


「正直、我々の状況は非常に厳しいと思われます。米国の思惑が掴めてはいないものの、このまま単独でロシア、中国と戦闘を継続するのは...」


「...少佐の進言通りではあるな」


「欧州との関係値は?」


「かの国とは能力者に対する思想が異なる。協力は表面的にならざるを得ない。背を預けるにはいささか不用心となる」


「...神崎上等兵への接触はいかに」


「...推測だが、一人でも多くの能力者生存とその確保に手を回しているのだろう。我々にその思想が浸透するのは毒だ。慎重に進めなければならない」


「しかし、総司令のその思想に対して賛成派は軍内でもかなり少数では」


「...公言すれば内部分裂を生みかねない。そこは戦争が終息してからでいい話だ」


「...私も賛成しかねています」


「承知している。ただ、能力者の在り方については慎重な議論が必要だ」


「...最前線で誰よりも命を張っている彼らの努力とその決意を踏みにじるのが、行く先の未来とは思いたくないですね」


「耳が痛い話だが、それでも私は揺るがない。この世界に能力者は不要であるのが正常な姿だ」


「...『超常撲滅計画』ですか」


「不必要な変化は現に余分な争いを生んでいる。生命の進化は種の厳選につながる」


「...その計画もまた争いの種だと、口酸っぱく忠告させていただきます」


「肝に銘じておく」


振動は話を切り上げて、指令室から退室した。


「...その計画の一番の犠牲者は彼らだ。青年たちの未来を肥料にして、その上に成り立つ平穏に何の意味があると言うんです。和日月さん」


振動もまた、軍の在り方や能力者の意義について思いを馳せる。若者たちの苦悩や決意を間近で見ている振動にとって、和日月の思惑は許容できるものではなかった。

ただ、内部分裂が現時点の戦況において致命的になることも理解していた。荒立てるのは得策ではない。誰もがそう考えている。



「...」


憂希はおよそ二日ぶりに目を覚ました。


「...っ、憂希君!!」


病室のベッドの隣に座っていた仁野が、憂希の覚醒に気が付いた。


「すぐ、看護師さん呼んでくるっ」


「....ありがとう」


憂希の意識はまだ混濁している。自分が生きているということと、仁野が無事だったということから戦闘には少なくとも負けていないことを理解した。それでもうまく思考はまとまらない。


看護師と担当医師の診察を受け、落ち着いた時間が訪れた。


「...ありがとう、様子を見に来てくれて」


「当たり前でしょっ。...ごめんね」


仁野はまた、頬を伝う感情があふれ出す。


「ど、どうしたの」


「うちの失敗で...憂希を危ない目にあわせちゃったから」


「...何も責任はないよ。この戦争での結果に咎められる責任なんてない。それより、無事でよかった。何とか勝てたみたいだね、本当に良かった」


「っ...」


憂希のその優しさに仁野はさらに涙があふれ出す。


「うぅ...」


「え、あ、だ、大丈夫?」


「ダメだよ...優しすぎるのは罪っしょ」


「えっ、罪...!?」


「次は...絶対うちが助けるから!...うちがっ、憂希君のヒーローになるから!」


ヒーローを救えるのはいつだって、並び立つもう一人のヒーロー。もしくはヒーローに助けられた者たちの声。立ち上がるには不屈の精神が必要である。


「うん、ありがとう」


仁野は憂希君の柔らかい笑顔にまた改めて強く決意をした。強くなる。頼られるように、助けられるようにと。



戦士の休息は長くは続かなかった。もはや不十分とすら言えるほど。

和日月は現存する第二大隊を中心に、また指令室にて作戦会議を開催する。


「ロシア軍がこちらの状況を掴んだようだ。我々の消耗を好機と捉え、部隊を大きく展開してきている。これまでの牽制や消耗戦とは異なり、確実に攻めの姿勢を示している」


「部隊規模は?」


第二大隊の特殊兵装部隊 隊長である矢場が詳細を問う。基本的にロシアに対して作戦行動を敷いているのは第二大隊が主となっていた。戦況変化には敏感だ。


「連隊規模だという情報だ。少なくとも大隊が二から三は投入される動きがある」


「連隊だと...。和日月さん、そいつはさすがにまずいぜ。今まともに機能する大隊はうちだけだ。それに対して確実に数で劣る戦況。連隊ってことはグレード1だって一人じゃねぇ可能性のほうが高い。...かなりきついぞ」


「無論、承知の上だ。米軍に協力要請をしているが、時間の問題も付随している。後手に回れば米軍の協力を得たところで戦況の打開は難しいだろう」


「ならばこちらから奇襲を仕掛けるってことかい」


「理想はそうだが...敵軍の正確な戦力も把握しきれていない。どのリスクを取るかをこの場で決めていきたい」


和日月ですら戦況に対する最適解を暗中模索している状態だった。敵対国が多い以上、その消耗や戦力情報の浸透はどうしても回避できない。圧倒的に不利な状況だと言える。


「...軍を構えての正面衝突はかなり厳しいでしょう。戦況不利で正攻法は無謀かと」


「...核を持たぬ我々としては兵器での戦力状況はいかんせん限界がある。核に対する対抗手段は能力兵が唯一と言えるほどだ。...くそ、どうしてこう、タイミングが悪い」


思わず矢場は机に拳を叩きつける。隊長の立場で打破が容易ではないというこの戦況の苦しさが態度に漏れ出る。


「...まずは現存する能力兵を整理し、奇襲作戦の立案をしましょう。我々の合同作戦も慣れてはいません。慎重に詳細まで決めていく必要があります」


第一大隊 特殊兵装部隊 隊長の花菱が冷静に全体をまとめる。愚痴り合っていても時間を浪費するだけだ。


各隊の現存する主要能力を洗い出した。各隊の隊員情報を資料にまとめ、それらを会議参加者全員に配布する。


「我々の第二大隊は、グレード2以下の構成として、私の爆発、エコーロケーション、空間ポータル、物体伸縮がメイン部隊です。時間操作は作戦行動を決定づける場面でのみ使用することを基本とし、過激な使用はしないことをセオリーとしています」


「俺らの第一大隊はかなり消耗している。動けるのは仁野の豪傑と俺の射出。支援としてはバリアとレンズ媒体のハッキングってところだ。直接的な戦力はかなり厳しい」


「私たちの第三大隊も動けるのは私と傀くらいでしょう。神崎はかなり消耗している。連戦かつ危機的状況が続いている中で、さらに投入するのは厳しい。援護や迫撃が限度かと」


「.....」


出そろった能力はロシアの連隊に対してはやはり、規模があまりに不足していた。単純な軍事力として米軍に並ぶロシア軍に対して、兵器での補強はかなり弱い。


「...では作戦を話し合いましょう」


議題として、作戦の方針は基本的に配置された連隊への奇襲攻撃で定まっていた。さんざん奇襲や急襲をされていたロシアに対する反撃としては皮肉が効いている。


「...有効となりそうなのは俺の射出に対して、花菱の爆破付与による大規模な絨毯爆撃、掃討射撃を主とした奇襲か」


「継続的な攻撃はそれが一番いいでしょう。既存兵器に爆破などの追加効果を付与すれば、一定の殲滅力と圧力にはなるでしょうし」


「ただ、決め手には欠けますね。奇襲による敵軍の瓦解を完全な崩壊につなげるには、まだ力不足だと思います。」


各隊長が会話する中で、皆が考え、感じていることを誰も口にはしない。決定打や奇襲攻撃の要になるその破壊力と規模を備えるのはグレード1だということを。


「各隊長。私から打診がある」


和日月がその話し合いに口を出した。いつも方針を決める役目だったが、この会議においてのかじ取りは矢場が務めていたこともあり、しばらく無言を貫いていた。


「最初の最大火力にはグレード1を投入したい」


効率と効果を最大限考慮したその打診は、各隊長が回避していた案を堂々と切り込んだ。


「...それは」


「その代わり、敵軍からの迎撃、反撃に対しては私が対応する」


「え...」


そして、その追加の提案は一気にその場に広がった淀みを断ち切るものだった。


「私も出撃する。私の能力で敵軍の攻撃を無力化する。無論、最初の全体攻撃にも参加する。...この作戦は総力戦で対応する」


総司令自らが戦場に出る。それほどにこの戦争を乗り切れるかどうかが、国の今後を左右する重要なものだと、改めて皆が認識した。

ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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