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自由戦争  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.27 因果逆転の打開

憂希の接敵から、その会話内容を辿り、日本軍側はその能力が事象の逆転だということを把握した。


「...逆転って」


仁野は自分が相対していた理不尽とも言えるその能力を改めて認識し、思わず口から落胆に近い感情が漏れ出た。


「すぐに本部に連絡する」


振動はその事実を本部の和日月に連絡し、憂希の戦闘を有利に進める方法を模索する。


「...くそ、何で逆転のくせに神崎の全体攻撃の餌食にならなかった」


傀は素直に疑問を零す。


「恐らくですが、何かしら効果はあったはずです。ただ、致命傷ではなかった。もしくは逆転を挟み込まれたか」


「っ...少しでも後出しの余力がありゃ何でもありって。そんなん...」


傀はグレード1という能力の理不尽さと一緒に出かかった言葉を奥歯で嚙み潰した。


「本部も対策を検討するとのことだ。...しかし、初撃で倒しきれなかったのはかなりの痛手だろう」


「こちらから狙撃するのは有効ですかね?」


「ん~...神崎上等兵の能力的に敵を停滞させるのはかなり厳しいだろう」


後方に下がった救援部隊の本隊は、打開策を検討するも決定的な策は出てこなかった。


「...」


仁野は不安気に憂希の戦闘エリアを見つめる。遠目でもわかる異常気象が、憂希の存在を感じさせた。


「頑張れ...」



地面を抉った水流が、その勢いのまま天叉傘を巻き込みながら巨大な穴を掘り進める。


「っ...氷が無理なら...」


憂希は攻めを継続する。油断も手抜きもせず、敵を追い詰めるためにやり抜く。

水流をそのまま沸騰させ、高温の熱湯でそのまま穴の中で渦を作る。


「おいおい、マジで殺す気じゃんか。意外とおっかねぇなお前」


「っ!?」


その声はまた憂希の背後から聞こえた。


「どうやって...」


「あ~?敵に教えてるかよ、バカかって」


「それもそうだ...」


憂希はすぐに次の手を考える。先ほどの攻撃の何を逆転され、通用しなかったかわからない。


「っ!?」


思考を巡らせた一瞬の空白を埋めるかのように、憂希の体を掠めた殺意があった。


「何でっ」


それは地上からの迎撃。壊滅させたはずの敵軍がほぼすべて復活していた。


「そら俺しかいないでしょって!」


推進力がどこから発生しているのか不明なまま、スラスターでも搭載しているアンドロイドのように急接近する。


「『華奢だからこそ剛力』ぃ!!!」


その勢いをそのままに、か細い腕を全力で振りかぶって憂希を殴りつける。


「ぐぅっ!?」


両腕で受けるがその衝撃は巨大な丸太が車両のスピードで衝突してきたような威力と重さ。空中では踏ん張りは効かず、そのまま慣性に乗って吹き飛ばされる。


「『制御不能だからこそ命中』っと」


「うあっ!?」


吹き飛ばされた憂希に標準を合わせるのは、その軌道予測の難易度と対象の小ささにより至難の業だ。だが、その時放たれていたすべての迫撃に誘導が備わっているかのように全弾憂希に命中する。


「ぐっ...うう」


辛うじて迎撃するも、防ぎ切ることは難しく、被弾する。


「『着弾したからこそもう一回当たる』」


「しつこいっ」


着弾したはずの地上からの迫撃が再度周辺に復活し、同じく誘導するように憂希に襲い掛かるも、そのすべてを一瞬で火炎の暴風で薙ぎ払った。


「っ」


その火炎を利用して、球体の火炎の渦の中に天叉傘を閉じ込める。


「『炎だからこそ燃えない』...。『炎だからこそ熱くない』...。対策容易ですなぁ。何が狙いだ」


炎の中で視界を奪われた天叉傘は様子を見る。


「あ?何の音だ」


天叉傘は炎の燃焼音の隙間から聞こえる異音に気づく。


「今のうちにバフかけとくか?...いやそもそもこいつの能力はなんだ」


見ているだけでも炎、風、水、氷は使用している。想像は比較的容易だった。


「ザ・能力者って感じだな?あと何が...ケホッ」


能力は派手ではないが故に、詰め将棋のように敵を追い詰めるスタイルを好む天叉傘は冷静に時間を使う。今の時間でも味方からの援護射撃は続いている。


「...ケホッ。っ...なんでこんな息苦し....まさかっ」


天叉傘はハッとする。燃焼と加熱を防ぎ、炎の無力化が完了していると思い込んでいた。


「『炎が燃えているからこそ酸素は消費されない』っ...ゲホケホ」


酸素が枯渇する前に能力を挟み込み、炎による酸素消費を食い止めた。


「っ!?」


天叉傘が完全に対策したと思ったその瞬間、炎が吸い込まれるように一点に流れるように集まる。その瞬間、天叉傘はしばらくぶりに周辺の様子を確認した。


「お前っ、なかなか狡いことすんだな」


「その能力でよく言うよ」


天叉傘が認識できない間に、憂希は復活した敵軍をもう一度薙ぎ払っていた。次復活してもそれ自体を何かしらで逆転しないと意味がないように、地面を溶岩の海にして。


「だが、それを俺には」


「全部有効だと思ってない。数撃ちゃ当たるでやってるだけだ」


「っ!?」


一点で小さい火球になっていた炎の塊が、その発光をより強める。それは予想せずとも明らかだった。


「熱や燃焼は効かないなら、爆破はどうだ」


その閃光が上空を眩しく照らし、大気を揺らす大爆発を引き起こす。熱と燃焼を奪われてもその威力と衝撃波はまだ死んでいなかった。


「まだっ」


爆風をいなしながら憂希は天叉傘に接近する。後手有利の天叉傘の能力に対して追撃は必須だった。


「がっ...。くそ、反応が遅れ..っ!?」


加速を活かしたまま、憂希は天叉傘の足を掴み、その勢いをさらに増していく。


「ぐっ...がああああ」


その速度で急に足を取られたことで、天叉傘の膝は脱臼する。その痛みで判断と思考が鈍る。


「そろそろ地面に降りるぞっ」


更に加速し続け、落雷のような速度と衝撃で天叉傘を地面に叩きつける。


「がっ...」


『衝撃が強いからこそダメージは少ない』という逆転を咄嗟に発動したが、それでもダメージは発生する。あくまで逆転の域に収まる能力だからこそ、完全な消滅や消去は不可能。

軍も全滅ではなく被害が少なくなっただけ。ダメージもそう。それでも致命を軽傷にする能力は強力であることに違いなかった。


「はぁ...はぁ...」


衝撃は融解してぼこぼこの地面を吹き飛ばし、大きなクレーターを形成した。


「ぐぅ...があ....くそ」


「っ」


意識がまだあることを確認し、憂希は更なる追撃に移ろうとする。


「『俺が怪我したからこそ敵がその怪我をしたことになる』」


「ぐあっ」


しかし、接近しようとした姿勢のまま、憂希は地面に崩れ落ちるように倒れる。全身に急激に発生した痛み。感覚がうまくつかめない足。


「だああ!...くそ痛ぇなおい。どうだ、てめぇで付けた傷をてめぇ自身で受ける気分は」


ダメージの逆転。怪我や痛みそのすべてが、ひっくり返ったように憂希に移動する。


「っ...、お前も大概怪我してんじゃねぇかよ。んだよ」


しかし、逆転ということは状態異常の入れ替えとも言える。憂希が抱えていた怪我や傷が、天叉傘に移動してた。


「っ...」


片足で無理やり立ち上がり、定まらないもう一方の片足を庇いながら、天叉傘に目をやる。


「まじかよ、片足折れてるかなんかだぜ。脊髄がいったかと思う痛みもあった。....お前、いかれてんなおい」


「お前は知らないだろうけどな...。これ以上の怪我で、これ以上の痛みで。それでもなお、最前線で立ち上がった人がいる」


その言葉に浮かぶのは戦士の志を捨てなかった、一人のヒーローの姿。背中より後ろにいる者を絶対に護るという強い精神。それだけで奮い立っていた雄姿。


「あ?知らねぇよ、日本お得意のヒーローかなんかか。俺は嫌いなんだよ、現実にいもしねぇ救いの手を都合よく配置したあの世界観」


唾を吐き捨てるようにそれを愚弄する天叉傘。心からの嫌悪が透けて見えた。


「...俺が知っているから、それでいい。ヒーローとかサンタとか、そういうのは信じたほうが幸せなんだよ」


「いねぇもんを信じて傷のなめ合いか?傷だらけのお前にはピッタリだなっ」


能力で増強した剛力が強靭な脚力を生み、動きづらい憂希に襲い掛かる。


「っ!?はぁああ!?」


しかし、天叉傘は憂希を捉えられなかった。いたはずのその場に、憂希の姿はない。


「っ...うあっ、なんだ」


天叉傘が踏みしめる地面はさらに高温になり、融解を繰り返して粘度がどんどん下がっていく。熱や燃焼を受け付けない天叉傘でも、地面の軟化は対応できていなかった。


「何でもありかよっ、ぐあ!?」


その動けない天叉傘に衝撃が襲い掛かる。能力によってダメージにはそこまで繋がっていないが、それでもそのダメージを考えれば相当強い衝撃。


「っ...殴られて.....どこだおい!」


目の前から消えた憂希を捉えられず、正体不明の攻撃に天叉傘はさすがに動揺を隠せない。苛立ちと焦燥で呼吸が乱れ、汗が滴る。


「ぐっ...うぅ....があ!くそが、ぐっ」


その衝撃を耐えながらも、無効化するための能力行使のトリガーを引けずにいる中で、天叉傘は衝撃の瞬間に自分に接近してくる影に気づく。


「うううう!!」


その場にしゃがみ込んでうずくまるように防御を固める。能力行使の余白を手に入れるための対抗策。


「『速いからこそ速度は落ちる』っ」


「ぐあ!?」


その能力行使で急ブレーキをかけられた憂希は、その不十分な足では耐え切れず、躓いたように転がる。


「お前...何でその速度で動けんだっ?足がいかれているはずだろっ」


「...敵に能力を教えるかよ」


「っ...てめぇ」


憂希は筋肉の電気信号を通常の何倍も速く流し、飛行と片足での方向転換と加速の合わせ技で高速移動を可能としていた。しかし、それも実質無力化された。


「っ...」


しかし、能力の詳細は隠したとはいえ、憂希の戦闘手段はもう底をつきかけていた。


「『踏ん張れないからこそ自立できる』っ....っと。くそうぜぇなこの地面は」


その拘束を解いて、天叉傘は融解した地面から這い出てくる。


「はぁ...、あとなんだ。何を潰せばお前は死ぬ。いや...別にいいか」


消えていた薄ら笑いをまた浮かべて、天叉傘は次の手に進む。


「お前とのシーソーゲームは愉快だったが。本来、別にここまで真剣に向き合うほうが愚かだって話だよな」


能力が介入した戦争において、理不尽の押しつけこそが最大の武器にして、最も効率的な戦略となる。


「必殺ってのはなんだか、さっき否定したヒーローみたいでいけ好かないが、それでもあるんだぜ俺は」


懐から拳銃を取り出す。この能力戦争において今更かと思うほど、肩透かしのようにすら感じるそれを、切り札のように握る。


「『因果逆転の弾丸』」


「っ!」


まるでガンマンの早撃ち対決のように、ただそれと全く異なるのは何の合図もなく、両者は同時に攻撃を仕掛けた。


「がっ....ぐぁぁあああああああ」


怒号のような悲鳴を上げたのは天叉傘だった。その拳銃を構えていた右腕は空間ごと切り裂かれたように地面に落ちていた。


「ぐ...う...」


しかし、倒れこんだのは憂希だった。腹部当たりからの流血。銃弾ごと切り裂いたはずの圧縮し高速で撃ちだした斬撃のような暴風は、天叉傘の腕を切り落とした。


「てめぇ...くそっ...がああああ」


痛みで思考が定まらず、言葉すらまともに話せていない。


「ぐああ...ははは、お前は無理だぜ。防げるわけねぇ。撃つ前に確定させたんだ銃弾の命中をっ」


天叉傘の銃弾は正確には発砲されていない。因果を逆転させ、命中したという結果にその工程を紐づけただけだった。銃弾が装填された銃を構えた時点で、それはすでに発生していた。

しかし、その構えるという動作が、憂希の警戒にヒットし、その腕ごと切断するという選択をくらう結果にもつながった。


「う...」


積み重なるダメージと出血で、憂希の意識は朦朧とする。未だかつてない出血に、驚愕と混乱が意識を支配している。


「っ....」


その意識の中で、憂希の思考は一点のみに集中していた。敵がまだ活動可能なことを認識した憂希は、ただ完全に敵を殲滅することのみを考えていた。


「あああ...ま、まずは傷を....ぐううう」


冷静になり始めた天叉傘は自分の能力で逆転し、腕を再生することを試みる。


「ぐ.......うぅ....」


憂希は力を振り絞って、能力行使のイメージを固める。自身の今できる最速の攻撃を。


「ぅ......ぁああ!」


「なんだお前、何唸って」


憂希が無意識で使用を制限しているたった一つの自然現象。それを今、確実に敵を沈めるためだけに使用する。極限状態で、その無意識の制限は枷を外し、全力でその能力を行使した。

その発生速度と瞬間的な破壊は、何の前触れも感じさせずに対象を呑み込む巨大な閃光を生んだ。天叉傘を穿つように発生した巨大な雷撃は、一瞬その轟音さえかき消すほどの威力。


「っ.......」


全身が強力な電圧に襲われ、一瞬にしてその体は炭化するほどの電気的なエネルギーが天叉傘を襲った。

融解した地面での自立を成立させた能力は、皮肉にもその効力を失ってもなお、天叉傘を膝立ちのまま自立させた。


「......」


その姿を焦点の合わない視界の中で捉え、憂希はどんどん脱力していく。その後方に明らかに自然のものではない黒い大群が迫ってきていることも見えていた。それでも、今立ち上がる力を残してはいなかった。


「っ...」


知っている声がした気がした。誰の声か、どんな声かまでは識別することはできない。

それでも憂希は安心した。そのまま脱力に身を任せて、意識を失っていいと思えるほどに。




ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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