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自由戦争  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.25 第一大隊救出作戦

深夜の招集に第三大隊の特殊兵装部隊は全員応じ、指令室に集合していた。


「...状況は非常に悪い。第一大隊が昨日2100より作戦開始し、約二時間ほどで通信途絶。その時点から現地状況は不明」


「...最後の情報は何かありましたか」


「中国側のグレード1と思われる能力者が投入されたことは確認した。しかし、その能力による被害は掴めていない」


過去最悪の状況とも言っていいほど、絶望的な情報だった。


「君たちには現地の生存者の確認及び、その救出を担ってもらう。戦闘は極力避けるように、消耗戦では勝機はない。明日、0500に集合し、作戦開始」


「「了解」」


指令室から解散となった後、憂希はその部屋に残った。


「何か用か」


「...ロシアと中国に加えて、欧州も敵に回していたら、いくら米軍の協力があったとしても勝ち目なんてないんじゃないのか。消耗が激しすぎる」


「君に言わずとも理解している」


「...各国のグレード1の人数は、把握できているのか」


「正確に把握はしていない。最重要国家機密だ。そう易々と漏らすことはしない」


「...ニノの能力に勝る能力が何かもわからずに、俺たちだけで行っても、また同じ轍を踏むことになるかもしれない」


「...」


「俺が、接敵して敵の情報を伝える。その対策を瞬時に立案してほしい」


「その危険を冒す根拠は」


「臨機応変さなら一番なんだろ。...俺は危険因子になりうると言われて、結局グレード1相手にまともに対応できていない。ここで成果を示さないといけない」


「...根拠ではなく、意地か」


「やらせてほしい」


「...いいだろう。しかし、ひとつ釘を差しておく。意地を張って、命を落とすな。本来、部隊編成しているのはグレード1の能力を最大限活かすことと同時に、グレード1を死守することにある」


「...了解っ」



その日はすぐに就寝し、次の日に備える。戦闘による疲労が寝具に隙間に体を埋めた瞬間に、憂希を襲った。


明日0500に指令室に、規模は辛うじて小隊に至る人数が集まった。


「改めて伝えておくが、今回の作戦は救出が目的となる。この場にいる全員が生存することが大前提だ」


「「了解」」


通信途絶しているため、前線基地へのテレポートは危険と考え、空路で接近する。


「大丈夫か...」


振動が憂希の疲労や焦燥を感じ取って、声をかけた。


「はい、大丈夫です」


「今回の作戦、自ら和日月総司令に提案したと聞いたが」


「はい」


「...お前、俺たちのことが信用できないとかじゃねぇよな?」


傀が憂希に噛みつく。ただいつもよりも勢いや威勢はなく、疑いたくないという意志さえ見えるようだった。


「そうじゃないですよ。無策でいくにはあまり状況が悪すぎる。こちらの人数も不足しています。...敵は恐らくグレード1だという話なら、一番能力に幅がある俺が適任かと」


「...そう君に言わせてしまっている我々の不甲斐なさだな」


「そんなことは」


「いや、これだけは言わせてくれ。君が所属してからこの隊の作戦内容は規模を拡大し、難易度はかなり上がったと言える。その規模の作戦を第一大隊と第二大隊が担っていたのを、こちらにも分散できたことは、我々の軍としても重要な変化だろう。ただ、第三大隊で言えば、君の能力に頼り切りだったことも事実だ。軍に入ってまだ数か月も経っていない君が担うには、あまりにも重すぎる責任だ」


「...」


「君はその重圧にどうにか応えようとしてくれている。元々軍隊所属の私からすれば、頭を下げるべき功績なんだ。君は当然のことをしていると思っているかもしれないが、それは違う」


そう言った後、振動はゆっくりと頭を下げた。


「感謝している」


「や、やめてください。俺はそんな」


「だからこそ、敢えて、君に言っておきたい」


「っ...」


「君に...任せた。...くれぐれも死ぬな」


「...了解」


戦場は北朝鮮と韓国の国境。北朝鮮は中国に吸収され、独自の軍事力が吸収された。

韓国は中立を主張しているが、裏では中国からの侵攻を拒否するのに必死だという。軍の規模や人口が異なりすぎている。


「着いたぞ」


韓国における日本海側に面した第二の都市とも言えるプサン広域市に、憂希たちは着陸した。

最前線はソウルの少し北部に位置している。首都であるソウルを占拠すべく、中国軍が侵攻し、そこをせき止める形で第一大隊が出動した。


最前線までは振動のエコロケーションと印章院のテレポートを併用する形で接近する。

車両での移動は状況を把握できていない戦地においては、ただただ標的になるだけ。だが、警戒して着陸したプサンからは公共交通機関でも陸路では二時間半以上かかる。

そのため、振動の限界範囲までエコロケーションを行い、問題ないことを確認した後、その中間地点にテレポートするという進行方法を取った。牛歩というより桂馬のような進行。


「...」


流石に最前線から離れた土地なだけあり、そこは何も変わらない一般的な都市だった。国の首都が危機的状況だということすら知らないようなそんな風に見えた。


「あ...」


しかし、それは表面上だった。プサン広域市の郊外までは車両で移動したが、その車窓から覗いた世界は隣国とは思えない光景だった。

都会を闊歩する人の群れ。明らかな避難民がその大半を占めている光景。首都近郊が戦場となったことから、その避難民は都市からあからさまに溢れているように見えた。


「...このまま戦域が広がれば、韓国は機能を失う。そのまま我々に対しての前線基地とするつもりだろう」


ずっと外を眺め続ける憂希に振動は言う。


「現代の都市がここまで混乱しているのに、なぜ世界はこの戦争を知らないでしょうか」


「...私が知っているのは、国や地域ごとでこの戦争の浸透率は異なる。ということだけだ。戦域になりやすい内陸国などは隣国が五大能力大国であれば、それは必然だろう」


「...」


混乱を招く、更なる争いを生む。そう言われれば、そうなのだろうと憂希も納得する。だが、それでも目の前の光景が正しいとは思えなかった。


「そろそろポイントに着く。作戦開始だ」


振動がエコロケーションを行う。ざっくりとした生命体か否かの判別。動作の判別。装備の判別。じっくりと絞り込みながら詳細を確認する。


「OKだ。移動する」


そうやって数回ほど、確認と移動を繰り返した。



「...いる。軍隊...およそ百二十」


「...味方ですか」


「...もう少し近づかないとわからない」


「...すいません、あと一回のテレポートの次は、少し時間が」


「そうだな、まずは確認できる位置まで移動する」


軍隊の影を確認した位置と、テレポート開始位置の中間にテレポートする。


「印章院、少し休め。私が再度確認する。この位置までくれば会話内容まで確認できる。少し時間をくれ。他隊員は周辺警戒」


数十秒間、その空間を緊張と焦燥が支配していた。その時間、誰一人として言葉を発することはなかった。


「...味方だっ」


その言葉に一瞬、支配していた緊張と焦燥が緩まる。


「まずは交流しよう」


接近し、振動の能力無線が使える距離にする。その道中も周囲への警戒は最大限高めている。


『...第一大隊、聞こえるか。こちら第三大隊 特殊兵装部隊所属、振動少佐』


距離が近づいてから連携を試みる。


『...あぁ、そうだ。救出に来た。....被害状況は』


残存兵にまずは状況を確認する。


『な....残存は二十三名か』


朝鮮戦線に投入された大隊の人数は七百八十四名。そのうち、生存しているのは二十三名という壊滅状態。


『合流場所はこちらから指定する。すぐに合流し、戦線を離脱する』



数分後、第一大隊と残存兵と合流した。


「...わざわざ救援、ありがとうございます」


「っ...」


いくら全員の顔を何度も何度も確認しても、憂希の視界に仁野はいなかった。


「何があったか、詳細を教えてほしい。移動しながらでいい。まずはこの場から少しでも自軍側に移動しよう」


対中国との戦争は開幕直後から中盤までは、想定通りの兵器と能力兵を組み合わせた戦いとなっていた。


「しかし、中国側が投入した一人の兵士によって状況は一変しました」


その一人の兵士がもたらした影響は不確かだった。炎や水、衝撃や爆破などの物理的な影響ではなかった。視認できない異常。


「真っ先に起きた異常は、仁野上等兵の能力弱体化です。...いや無効化と言ってもいい」


「無効化っ!?」


その無効化という単語に、無意識に憂希は激しく反応してしまった。その能力が憂希の頭によぎった人物であれば、それはかなりおかしい話になる。

無力化のグレード1は、欧州軍にいるはずなのだ。


「はい、彼女の物理耐性が現代兵器で通用しないことは確実です。...ですが、彼女はただの銃弾で負傷しました」


「っ...」


死亡、ではないことに一つ、憂希は安堵を覚える。


「仁野上等兵の治療のため、後退を余儀なくされた前線部隊は一時撤退を試みました。...しかし」


それは明らかな異常だった。それだけ聞けば、ふざけているか、正気ではないかという二択を考えざるを得ない。なぜなら。


「撤退をできなかったのです。...撤退が妨げられたという訳ではありません。誤解を恐れずに申し上げますが、撤退という行動自体が不可能だったのです」


「...どういうことだ」


「言葉の通りです。...撤退するという行為自体を、禁じられたかのような」


「...行動の掌握...なのか」


「...わかりません。ただ、その後もそういった異常は数えきれないほど発生しました」


銃撃や迫撃の弱体化や行動制限などを始めとした辻褄が合わない、違和感がある、では済まされない状況。


「...敵の能力が何も絞り切れないな。能力や武装の弱体化に行動掌握」


「グレード1は何かしら、根幹的な能力になるはずです。ただ...ここまで掴めないものはかなり」


「策を...練れない。撤退が厳しいとなると、接敵も危険だな。...仁野上等兵はどうなった」


「っ...」


憂希は気になっていた事柄の答えに、身が引き締まる。


「消息不明です...。前線部隊の撤退が困難となった状態で、その傷を受けながら、再度、戦線に立たれました。その状態ですら、我々にとっては大きな支えであり、この戦線において重要であると、彼女は理解していたのでしょう。そのおかげで、この人数だけではありますが、一時撤退することができました」


「それは...どのくらい前だ」


「およそ、一時間半ほど前です」


「っ...」


戦場における一時間という時間で、どれほど戦況が動くかを、そこにいる誰しもが痛感していた。その絶望的な状況に、大半が諦めを頭の片隅に準備した。


「...振動少佐」


「...なんだ」


「作戦は予定通りですか」


「...っ」


「...」


「今の話を聞いても、行くというのか」


「俺たちが任命されたのは、今、合流した残存兵だけの救出ではありません。...第一大隊の救出です。まだ、可能性が少しでもあるなら、俺は戦うべきだと」


「...まともな援護もできない。敵戦力も不明という状況で、君一人を行かせるわけにはいかない」


「いえ、敵戦力はこの場からでも振動少佐の能力で、味方の生存含めて調査できるかと。...すべてを確認は無理でも、可能性を絞って行けば....。振動少佐っ」


その憂希の言葉に、振動はしばらく頭を抱え、考えた。危険に見合わない作戦に、本来であればその場で撤退を命令するのが上官としての責務。

目の前の若き兵士の信頼を失っても、護るべきは優先順位。戦場でそれを捨てては全滅につながる。


「神崎...」


振動はゆっくりと、憂希の目を見て命令を告げた。




憂希たちと残存兵の合流ポイントからおよそ六キロメートル離れた地点。

そこではまだ、銃声が鳴り響いていた。


「な、なんだこいつ。何で能力も使えないのに」


「次弾、撃てっ」


「ぐぅっ、うぅうううああああ!!」


「うわぁ!?」


「銃弾に...反応してる」


「能力もまともに使えないのに、銃弾を防ぎ切るなど」


「うちの...はぁ....強さは.....はぁ....頑丈さだけじゃないんだって....はぁ」


「迫撃砲を用意しろっ。瀕死の敵には高級な最後の晩餐だ」


装甲車の照準が、血だらけでボロボロな戦士に向けられる。


「君たちっ、早く逃げて!」


「...すいません、まだ、何でか動けなくて。くそっ、なんだこれっ!ずっと....」


「っ....まだあの能力が」


「っ...仁野さんっ!前!」


「っ」


逸らしたら凌げるとかそういう次元ではない、百二十ミリメートル迫撃砲が人を対象に狙いを定める。


「....っ。誰か、助けて」


常に強くあろうとした戦士は、その瞬間、一人の女子へ戻った。所属してから最大のピンチとも言える状況で、憧れに自分も近づきたいと、真似をして立ち向かっていた。

ただ、それももう限界だった。可憐な学生生活を失い、血と火薬が充満する戦場で、自分なりの生き方を見つけたつもりだった。そう、それは生きるのが前提の希望だ。


膝は震えを通り越して、折れるように地面に着いた。泣き崩れるようにその場に座り込み、天を仰ぐ。

憎いほどきれいな朝焼けが、自分に突き付けられた運命を色濃く映し出しているようだった。


「....死にたく....ないよ」


そう何の壁も柵も、フィルターも。すべてを通り抜けて漏れ出た、純粋な言葉。迫撃前の静寂に、空しく響いた。


「死なせないよ」


誰もが空耳だと疑わない。そんな返事が、目の前に現れた背中から聞こえた。


「え....あ.....。.....ゆ...う..き」


脳が認識する前に、すでに涙が溢れていた。涙でぼやけた幻想なのかと、いくら拭っても溢れる涙の隙間から、また確認する。


「頑張ったね。...一緒に帰るよ」


そう、仁野の中のヒーローは、大好きな笑顔でそう言った。

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