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自由戦争  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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18/29

No.18 欧州能力兵大隊の進軍

「名を家入 レイリーと申す。宜しくの」


「...」


憂希は違和感を感じた。グレード1の能力者にはもうすでに何人かに会っている。能力を知っている人はまだ少ないが、それでもその規模は知っている。

拳一つで山を削る仁野や、動作一つで全てを抉る神酒、何をもってしても死なないNo.999。どれも尋常じゃない能力だ。


「物々交換で、グレード1なのか?」


その話すらもブラフと勘繰り、憂希は探りを入れる。


「そうじゃ。この世に価値のつかないものはない。価値があってもなくても、そこに価値はついておる。食材も土地も国も星も。皆同様に価値を持っておる。命もな。世界のルールの一つ。価値がついているものは金に代わる。金は万物共通の万能材料じゃ。それさえあれば何かに代わる。逆も然りというのが儂の能力じゃ」


価値があればそれを別の物にできる。量や質は一対一でなくてもいい。武器を花束に。おもちゃを爆弾に。命を宝石にだって変えられる。


「じゃが、少年。お主はまだ価値を見定められんかった」


「...なんで」


「人の価値は嘘で決まる。覚悟も決意も方便も、人を着飾るための装飾品に過ぎん。本心で何を言うか。本心で何を偽るか。それこそがその者の価値。命の価値じゃ。器や心根を測り、人を見極める。そうして初めて、人の価値は天秤にかけられる」


少女の口から出たとは思えないほどの厚く思い言葉。まるで人生をその姿のまま何百年と生きてきたかのような落ち着きと物言い。


「今まで皆、会話の中で嘘を吐いてきた。自分を隠そうとする者。儂をたぶらかそうとする者。慌てて方便を垂れる者。最初から何も真実を話さぬ者」


「っ...」


憂希はその言葉にゾッとした。刃物を突き付けられたような焦りとはまた違う。這い寄られていた何かに気づいた時のような恐ろしさ。


「...欧州軍に送った先兵が、皆...音信不通なのは」


「...えっ、この子が」


「そんな目で見るでない。儂だって命の物々交換を嬉々としてやるようなサイコパスではないわい」


その言葉が二人の推察が事実であると告げた。


「安心せい。例え今、少年の価値が見定められていてもすぐに金か何かに変えたりせんわ。儂はあくまで見定めにきただけじゃ」


「......じゃあ見定められなかった今、どうする」


「それを決めるのは儂じゃない。てか、お主マジで何で嘘つかんのじゃ?」


急に砕けた雰囲気で興味津々に問いかけてくる。


「いや...自分への質問なんですから嘘も何もないでしょう」


「はぁ~ん、少年。お主、占いしなくてもわかるぞ。苦労するタイプじゃ」


「なんで初対面の君にそこまで言われないといけないんだ。それより君こそなんだよその話し方」


「え?変かの。日本語は祖母から学んでおるからネイティブなはずじゃが」


どうやら年相応ではない口調は、訛りのように口調が浸透したもののようだった。


「さて、そろそろ来る頃かの」


レイリーがそう言った瞬間、また扉が開いた。

扉からゆっくりと入ってきたのは少女とは対照的な高齢の男性。イギリス紳士という風貌で、スーツにストールを羽織り、紳士的なハットから白髪が覗いている。


「...失礼するよ。ここかな。日本から来た客人がいる部屋は」


ゆったりと落ち着いた口調で部屋を確認しながら語る。


「あら、今日は随分と紳士的な恰好じゃの」


「当然だ。客人を招くのだから、それ相応の恰好をしなければ」


ケタケタと笑うレイリーを横目に、改めて憂希と美珠に焦点を合わせる。


「...君が新しいグレード1かい」


「この場で俺の口から肯定した覚えはありません」


「なるほど、賢い少年だ。まだレイリーの能力を考慮し、事実だけを述べるか」


「っ....」


自分の意図を見透かされた憂希は、さらに男性を警戒する。


「初めまして、神崎 憂希君。私は...そうだな、ジェイムスとでも名乗っておこうか」


「なっ!?」


レイリーにすら話していない自分の名前が初めて会う男性の口から出た。その事実に動揺を隠せない。


「...なぜ俺の名前を」


「私はね、君に注目していたんだ。ここに招くことができたのは偶然だがね」


その言葉の一つ一つが何も信用できなかった。


「さて、君たちを拉致した身としてはただで返すわけにもいかないが、君たち日本軍はあの戦場でどう立ち回る予定だったか教えてもらえるかな?」


「...」


嘘を吐けばすぐに価値を定められて、命を握られる。


「欧州軍の立ち位置を確認することが目的です」


「ほう...我々の」


憂希はここで賭けにでる。


「俺たちは欧州軍が中立を維持していたと聞いていました。日本軍は立場を確認し、今後の戦況を把握したいんです」


「...なるほど。あの場に分隊を配備した理由は?」


「欧州軍と接触するためです。日本軍の刺客は全滅していると聞いています。領土内に探りを入れるのは厳しいと判断し、軍隊との接触を図りました」


これは半分嘘である。ただ事実が紛れている以上、憂希は価値を正確に定めることはできないと踏んだ。


「ふむ...。率直に話せば、中立意識はまだあるさ。我々は各国の軍備縮小を望んでいるわけではないからね」


「...というと」


「我々は各国の動きを確認している。能力者という新たな風が吹いたこの世界において、どう動き、何を成すのか。我々は能力者という可能性を他国よりも高く評価している。軍事力という点以外にもだ。インフラの概念そのものが変わり、これからの世界において能力者という存在が大前提となるだろう。能力者に適合した者とそうでない者で差別が出てくる。当然だ、存在が異なるのだから。その世界で秩序を保つのは能力者側でなければならない。もちろん、これは支配という意味ではない。力ある者こそ秩序的であるべき、という意だ」


その尤もな考えに、憂希は警戒しつつも共感せざるを得なかった。能力者側の数が勝り、その存在が世間に露呈した時、この世界は間違いなく大混乱に陥るだろうと感じた。


「中国、ロシアは世界の覇権を求めて隣国に牙を向けている。米軍はかつての覇権をまだ我が物だと考え、その覇権が揺るぎないものになるよう動いている。日本軍はどうかね。君にはどう見える。...これは日本軍の神崎 憂希に聞いてはいない。ただの神崎 憂希に聞いている」


「...」


目の前の男性が何を自分に求め、何を探っているのかを憂希は理解できなかった。


「日本軍は、戦争を終わらせるつもりで動いていると思います」


「戦争を...戦争で終わらせるのか」


「...先ほど仰ったように、どこかの国が覇権を握る戦争なのでしょう。でもその覇権がある限り、また反発や反逆で戦争は起こる。人類の進化なんていい様に言い換えてはいるけど、戦争の引き金でしかない。だから、この戦争は覇権だけでは終わらない。超能力者を戦地に投入しないという条約が必要です」


「戦争の兵器として超能力者を投入しない....。くくく...あはははははっ」


高齢の男性とは思えないほど明るく軽快に笑った。


「失礼。なるほど、君に一ついいことを教えてあげよう」


「なんですか」


「超能力という進化をもたらしたのは、君たちの国。日本だよ」


「なっ....!?」


「その国が超能力者を兵器としないように、というのは少々片腹痛いと思ってね。なぜ中国とロシアが君たちを狙うかわかるかい?...技術の奪取だ。各国、超能力者の増産はある程度確立しているだろうが、一番安定しているのは間違いなく日本だ。倫理観や社会性なのか知らんが、それらを優先して国民への能力付与はどの国よりも遠慮しているようだがね」


嘘か本当かわからない。それでもその情報が目の前に出てきただけで、憂希は動揺し、困惑した。

ついこの前まで、憂希は日本軍を疑っていた。信用していなかった。自分から平和な自由を取り上げ、戦場という地獄にも似た場所に連行された。そう考えていたはずだった。

しかし、その事実はそのままに憂希は仲間意識を持ち、日本軍の一員として振舞っていた。そこには確かに信頼関係が築かれていた。


「日本が...引き金」


今の情報だけで、ただただ、日本は自ら生み出した爆弾を抱え、他国からその爆弾を奪われまいと必死に抵抗しているだけ。そう憂希には感じられた。


「生み出した者の責務というならまだわかるがね。しかしそれはかなりエゴだな」


「...なぜそんな情報を知っているですか。なぜ俺にそんな情報を教えるんです」


「我々、欧州軍は文字通り、ヨーロッパに主要国の連合だ。情報網や軍の規模は格好に引けを取らない。とはいえ、各国の連携は警戒対象だ。中立とは攻め入られることがないから維持できる。そのための手段は問わない。私個人的には君という人物に興味があるのもあるがね」


「...なぜ俺に。能力者になって日は浅いのに」


「だからこそ謙虚に目立つさ。君の能力は派手な部類だ。戦場で無視できないほどに。グレード1の誕生ともなれば各国それなりに掴んでいることだろう」


憂希はなんだかはぐらかされたような感覚があったが、問い詰めても答えてはもらえないと諦めた。


「じゃあ...日本と敵対するつもりはないんですか」


「今ここで事を構えるつもりはない。何ならロシアとは我々とて警戒対象と言ってもいい。米軍からけしかけられた戦争に付き合っているうちに挟み撃ちにされかねないからな」


「...わかりました。一度、日本側にその意向を打診します」


「ほう...ずいぶんあっさりと」


「...ここで抵抗すれば俺たち二人は確実に捕らえられる。連行されたとはいえ、ここまで自由にさせてもらえているのは欧州側の意向と受け取ってもいいと思ったんです。無事に帰還できるように打診することを交渉材料にしなければ」


「ふむ、思ったより賢いな。さすが正義のカード。感情よりも状況を重んじるか。いいだろう、我々とて君たちに危害を加え、日本も介入した戦争に発展するのは避けたい。ただし、ひとつ条件を出そう」


「なんですか」


「神崎 憂希君。君には日本の動向をこちら側にも伝えてほしい」


「っ...スパイをしろと」


「悪い言い方はよしてくれ。こちらとのパイプ役になってほしいんだ」


「スパイと何が違うんです。仲間の命を引き換えにわが身を護るつもりは」


「あぁ、承知している。だから君の仲間の命を天秤に乗せてもらおう」


「...どういうことです」


「この場には彼女がいる。君たちが作戦エリアに来たということからおおよその拠点位置もわかる。そこにいるであろう仲間の無事も保証しよう」


「っ...」


美珠と米軍基地にいる分隊の仲間を人質に取られた。分隊側はまだ正確な位置までは把握していないようだが、目の前の美珠は別だ。


「難しい話はしていない。こちらにすべて流せとも言っていないさ。まずはこちらから譲歩しよう。君を仲間のもとに返す」


「待ってください!安楽堂さんは関係ないっ」


「これより本格的に米軍に対して欧州軍を進軍させる。我々の総帥は飽き性でね。長い物語は好かんのだ。また会えることを楽しみにしているよ。次は総帥への面会も手配しておこう」



そう言い切った瞬間、その場から強制的に転移していた。場所は出発した米軍基地。


「神崎っ!!」


傀の豪快な声を久々に聞いて、憂希は我に返った。


「っ...くそっ」


「どうした、状況を説明しろ」


憂希は振動たちに連行された後の話をした。もちろん、スパイの提案について以外。


「安楽堂一等兵が...。接触してきたのはどの立場の者だ」


「わかりません。総帥と言っていたのでトップではないかと」


「...一度、総司令に状況説明をする。戦域を離脱するぞ」



テレポートにて本部に戻り、すぐ和日月に報告を行った。


「...左様か。やはり欧州側は掴めないな。ただ、米軍の動きも疑念が強まった」


この不測の事態でもいつも通り冷静かつ、慎重。


「...どうするんだ」


「印章院伍長のマーキングは君に付与していた。現在、君たちが隔離されていた場所も不明となれば捜索は困難を極める。ただ、欧州側から作戦への全面的な介入は敵対とみなすと脅されては、こちらとしても一考せざるを得ない。米軍には急襲作戦は失敗したことと同時に我々の立ち回りについて打診しよう」


「...俺が聞いたのは安楽堂さんのことだ」


「...今伝えた通りだが」


空気に緊張感が走る。


「...見捨てるってことか」


「極論を急ぐな。現状手の打ちようがないと言ったにすぎん。こちらから欧州に対して敵対行動をとれば、すぐに臨戦態勢に入る。今は動き方の整理と今後の方針を定めることを優先すべきだ」


人質を確保されている以上、下手に動けば関係値は一気に変わる。逆に協力関係を望んでいるのであればそれに応じることで人質を解放できる可能性もある。

だが、憂希はそこまで冷静でいられなかった。自分が残るならまだしも、美珠が残るとなれば話が違ってくる。戦闘に不向きな能力が故に。


「落ち着け、神崎上等兵。今は安楽堂一等兵のためにも冷静に事を運ぶ必要がある。君なら理解できるはずだ」


再び発火した疑念の炎が憂希を加熱し続けた。


『欧州軍に動きあり。米軍に対して進軍を開始。大隊規模で掃討作戦に移行した模様。...特殊兵装部隊のみで編成された大隊と思われますっ』


各隊員の無線に現地の情報が飛び込んできた。


「っ...日本がいなくなった瞬間に進軍開始か。食えないな」


『米軍前線押されていますっ。兵器武装による攻撃では能力兵の隊列に効果がないようです』


その無線の直後、和日月に通信が入る。


「はい...。えぇ、先ほどお伝えした通りです。こちらの作戦は失敗しました。...はい。今、確認しました。...承知しました。増援を手配します」


どうやら米軍からの通信のようだった。


「...君たちはこのまま米軍の増援として投入する。最前線は米軍が対処する。我々は後退のタイミングを作る援護を行う」


「「了解」」


任務に向かう準備に入る前に、憂希は和日月に釘を刺す。


「安楽堂さんの対応については俺も話に参加させてください」


「...検討しておこう」


またテレポートによる現地への移動を行う。今度は分隊規模ではなく、中隊規模での戦地投入。第三大隊の特殊兵装部隊に出撃命令が出された。



欧州軍、某一室。憂希がいなくなったその部屋にまだ人はいた。


「彼女は丁重に扱ってね。神崎 憂希君との貴重な交渉材料だ」


「はいはい、お主も物好きよな。まぁあれは中々の器じゃ。お主との会話ですら嘘を吐くことなく切り抜けおった」


「君も気に入ってるじゃないか」


そこにいたのはレイリーともう一人。ジェイムスと名乗った高齢の男性はおらず、代わりに青年が一人。


「さて、とりあえず米軍には退散してもらおう。こちらもまだまだ増強中の組織だ。総帥には変わらず能力者を増やしてもらわないと」


「あの娘は儂の城に招いておくぞ?」


「あぁ、そこは好きにしていいよ。私は彼がどう動くかを見ておこうかな。さて、ロシアとかがこっちに攻めてこないように力を示しておこう。欧州軍に次の作戦を指示しようかな」


見透かしたような表情で青年は語る。その視野に入るのは軍か国か、はたまた世界か。


ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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