No.14 死の進軍
「二人ともっ!離脱するよ!一度、こいつらを引きはがして!」
神酒は三人の周囲と囲まれた死人兵との間の空間を数百倍に引き伸ばして時間を稼ぐ。死人兵はいくら進んでもその場でスリップしているように進まない。
「ニノさんっ、そっちお願い!」
「おけまる!」
双方に分かれて、死人兵を薙ぎ払う。
「死なないなら...焼き払うしかないか」
憂希は何度でも立ち上がり向かってくるのであれば氷結か焼却だろうと考えた。
「...くっ」
頭を支配する罪悪感を拭い、一気に炎を発生させ、地面を走らせるように放射する。
「『ステラ・インパルス』!!!」
憂希の後ろから気合の入った大声と共に衝撃が発生する。
振り返ると大振りで振り切った拳が死人兵を霧散させているのが見えた。
「ニノさん、それって」
「技名!かっこいいでしょ!何するかめっちゃイメージできるし、ヒーローは技名ないとさ!」
技名を叫びながら敵をなぎ倒す姿を後ろから見れば、それはヒーローだった。
「よしっ、引き上げるよ!」
敵との距離が確保できた瞬間、空間移動を行おうとしたが、それはできなかった。
「なんだあれ」
死人兵に混じって、明らかに異質な光景があった。死人兵という奇怪な状況で、それでも目に入る異質。
「同じ兵士が無数にいる」
恰好は軍隊の兵士であれば同じであることに違和感はない。ただ、全く同じ体格や恰好、走り方、装備となれば話は別だ。まるでその人物だけがコピーペーストしたような光景。
「不死の次は増殖か...」
どれほど進化し、発展しようとも数という兵力は揺るがない影響力がある。武装含めた増殖となれば訓練された兵士の量産に他ならない。
死人兵を含めて、周囲には千を超える敵影。それらが一斉に統率された動きに変わる。一定距離で立ち止まり、銃を構える。
「二人とも、あたしたちがこっから離脱するのは簡単だけど、これが本隊に向かったらやばいからちょっと付き合ってな」
神酒もさすがに酔いが醒めて冷静になる。
「一斉射撃はあたしの能力で何とかなるけど、あの増殖を何とかするには骨が折れるなぁ」
「うちらでやっつけます!」
「増殖の能力者が武装して突っ込んでくるだけ、とは考えづらいですね」
「本体側もやばいかもね、かぁ〜〜時間との勝負とか嫌いなんだよなぁ」
憂希たちの方針が定まった瞬間を狙いすましたかのように、増殖兵の一斉射撃が開始した。
「じゃあ頼んだよ!」
「「了解っ」」
弾丸は増殖兵と三人の間に存在する拡大した空間に運動エネルギーを吸われ、しばらく空中に停止した後、その場で鉛の雨で地面を濡らした。
「『プロミネンス・レイ』!!!!」
おしゃれな響きに反した蹴りはその軌跡を薙ぎ払う衝撃波を生み、増殖兵と死人兵を蹴散らした。
「そこまでまとまっているのならっ」
一定距離に隊列を組み、射撃している増殖兵を逆手に取り、その団体が踏みしめている地面に大規模な亀裂を発生させる。地割れの規模をはるかに超えたそれは街中に渓谷を発生させた。
「ははははは!君の能力ヤバっ!シラフなのに酔ってるかと思ったわっ」
神酒ははしゃいだ笑いをすぐに止めたのは敵軍だった。仁野の衝撃、憂希の地割れをくらった兵士たちはおもむろに爆破する。
「なっ」
増殖とはいえ、仮にも人間一人ひとりが武器だけではなく、特攻用の爆弾を身に着けていた。
「あいつら最終手段として数による絨毯爆撃を行うつもりです!」
憂希が察知したことを悟られ、敵兵は一斉に射撃しながら突撃を開始した。手榴弾も投擲し、数で攻め入ってくる。
「こちら側にはあたしの能力で接近できないっ。ただこれで時間稼ぎをされている可能性もあるっ」
流石に数が多すぎて拡大する空間の範囲がどんどん広がっていく。拡大を無視して全速力で突進してくる増殖兵や死人兵をこちらに到達させないように拡大し続けないといけない。その能力行使は拡大の継続により、余裕を削る。
「ニノさんっ、本体に合流する経路を確保しようっ。後方に一点突破でっ」
「わかったっ」
「今、拡大してる空間にいる敵兵はあたしが排除するっ」
三人のタイミングをアイコンタクトで合わせる。
「『ステラ・インパルス』!!!」
その技名を叫ぶのを合図にしてその拳圧に爆炎を巻き込ませ、衝撃と炎熱による蹂躙により突破を試みる。
しかし、その突破は阻まれた。
「うそっ」
明らかにそこにはなかった金属の壁や地面の隆起が突破するための衝撃を何とか防いでいた。
「能力者...」
その芸当ができるのはもちろん能力者だけだが、しかし目の前には死人兵と増殖兵だけ。
「神崎君っ、マジヤバイ!このゾンビたち能力使える!」
殲滅した敵軍にももちろん能力兵はいるだろう。激化した戦地に投入されていても不思議ではない。
「復活しても...能力を使えるのか」
敵の真の狙いは死なない能力兵による包囲及び殲滅。そして増殖兵による更なる混乱と消耗。
「神酒さん!この死人の中にも能力兵がいます!」
「まじ!?...ますます本隊がやばいじゃん。二人とも、ここで物理的に本隊に合流すんのはきついから、あたしが本隊まで二人を飛ばすっ」
「それでは神酒さんが孤立しますっ」
「あたしの場合は大丈夫。絶対に侵入させないし、一対多数のほうが有利ってのがグレード1の定石っしょ。あたしたちはこいつらに対処できるけど、本隊は厳しいでしょ。隊の人数が多いからこそ、めっちゃ混乱する」
「...了解です。神酒さんも一緒に離脱するのは」
「この増殖バグを本隊に向かわせるほうが詰みだって」
「そうですよね...」
「じゃあ二人とも送るからね」
「ご武運を」
「まだ台湾で高粱酒飲んでないから死なないよ!」
神酒の能力にて憂希と仁野を本隊に転移させる。位置関係はほぼ勘だったが、周辺の空間拡大を計算してドンピシャで転移できるほど神酒は繊細ではなかった。
「さて...」
二人の姿が消えたことを確認し、神酒は連絡を入れる。
「あぁ~あたし。今一人。いや、マジ冗談じゃないくらいやばいって。中国のやつら潰しに来てる。ってかこっちの動きばれてない?」
その通信相手は米軍の誰かだろう。
「まぁいいや。周囲の敵が多すぎて面倒だから、もう街ごと吹き飛ばすよって話。いいよね?えぇ~だってめっちゃいるんだよ?無理無理。あたしを投入したんだから諦めな。じゃあね」
ほぼ了解を得ていないだろう通信を強制的に切り、神酒は目の前の地獄に一つため息をつく。
「じゃああたしが相手だったあんたらの運の尽きってことで」
拡大した空間よりもさらに外側まで対象範囲を広げる。
「じゃ、バイバイ!」
その対象範囲を丸ごと圧縮と断裂による削除を行った。地面から上がすべて消え去った。建物も植物も兵器も人も、何もかも。
「オールデリート完了。...これはさすがに日本側に見せたら後で怒られるからな」
米軍も用意周到。手の内を可能な限り見せない立ち回りを各隊員に命令しているようだった。
「...まぁでも増殖の本体はさすがにこの場にはいないよね」
死人兵は完全に消滅したものの、増殖兵はまた範囲外から数を増やして突撃してくる。
「あれ無視してもいいかなぁ。ダメかなぁ」
神酒はさすがに疲弊を感じてだるくなってくる。目の前に迫ってくる増殖兵にも飽き飽きしてきた。
「あたしの責任になっても嫌だし、やるかぁ。...ん?」
さっきと同じ範囲の前でまた突撃が停止する。だが、さっきとは違い銃を構えない。
「...なんだ手榴弾か」
全員が完全一致で手榴弾を取り出して、投擲してくる。
「バカの一つ覚えってやつ??」
その投擲の放物線をすべて収める範囲で空中に入口と出口を同じ場所に設定し、その投擲を跳ね返すようにベクトルを変える。
「同じ数の手榴弾ならそのまま自爆して」
そう吐き捨てて、神酒自身も本体に合流する準備をする。爆破とその効果を確認したらすぐに転移する。
だがしかし、それもまた実行することはできなかった。
「っ!?」
手榴弾では到底考えられない発光に神酒は怯んだ。スタングレネードというブラフかと思うほどだが、それは確実に手榴弾だった。閃光の後に爆破と衝撃が空間を支配する。
ブラフは増殖だった。相手の能力の神髄は増大。規模や数量を増やす能力。人数や武器数を増やすことで増殖というブラフを張り、孤立した神酒に対して爆破規模を最大限まで増大させた手榴弾を投擲することで、空間拡大を凌駕する破壊範囲にする策。増殖した自分は自爆前提の奇策だが、ただ方向転換させたただけの防御行為は不十分を極めた。
まるで空爆や原子爆弾を彷彿とさせる爆破規模が、神酒が更地にした範囲をさらに抉り、焼き尽くした。
「あれ、ここどこだ」
本体から少しずれた位置に転移した憂希と仁野は、自分たちの位置を把握できていなかった。
「振動少佐っ、本隊近くまで転移しました!本隊の増援に向かいます!」
そう叫ぶ声に反応はない。通常あれば声の振動を感知して、振動による通信が入る。
「...それどころじゃないってことか。ニノさん、少し待ってて」
「う、うん。どうするの?」
「戦場を今から探す。そこに直行しよう」
「わかった!」
憂希は気流の乱れや爆発による熱気を感知することに集中する。
「...これか」
まだ完全な感知とは程遠いが、戦場での違和感が重要な情報源であることに変わりはない。気流が一帯の中でより激しく、熱気が強いおおよその場所を感知した。
「ここからあっちのほうにまっすぐだ!」
「わかった!しっかり掴まってて!」
「え?」
そう言われて憂希は仁野の肩に担がれた。そう認識した時には音を置き去りにするほどの速さで体が移動していた。
「っ!?~~~~~ぅう」
声も出ないほどのスピード。同年代の女子に抱えられたショックを感じさせないほどの衝撃に憂希は耐えるしかできなかった。
「いた!本隊だ!」
数十秒で本隊の影をニノが認識した。
「えっ...」
地獄から移動した先も地獄絵図に変わりなかった。
「うわぁあああ」
「くそっなんで死なないっ!?」
「落ち着いて後退しつつ迎撃せよっ」
「こちらに負傷者!」
特殊兵装部隊の突入前にあった戦闘。数日間にわたるその戦闘において発生した死者は敵味方含めて無数にいた。前線に集中して投入されていたのは能力兵だった。そしてそれが死人兵として復活し、重火器をものともしない特殊兵が完成していた。
「...っ、乱戦状態だ」
編成は乱れ、敵味方が入り混じった戦場は混乱を極める。物理攻撃での牽制や抑止は死者には効果が薄い。欠損や消滅させないと進行が止まらない。まさにパンデミック映画のようなパニック状態。
『本隊全体に伝令っ。速やかに撤退せよっ。作戦エリアにおける死人兵は全数捕捉できないほど多数いるっ。現時点での編成及び作戦では対応不可。よって撤退を優先するっ』
後方支援隊からの全体通信が鳴り響く。その伝令で辛うじて隊の方向性は定まってるが、統率は取れていない。
「神崎!!早くあっちに行け!振動隊長がやばい!!」
知った声が憂希の耳に入ってくる。怪我だらけの傀が叫んでいた。
「敵の中に浮遊の能力がいやがった!本隊の人や兵器ごと宙に浮かされて、上空から落下した!」
鋒矢陣形の矢じり部分がすべてその能力の手にかかり、陣形の要とも言える部隊が破壊された。
「ただの死体どももやばい!なぜか武器が無限に付与されてる!」
「っ。不死の時のっ」
No.999に武器を与え続けていた能力が本隊襲撃の死人兵を支援している。鬼に金棒ということだろう。
「頼む!俺の能力はこの状況じゃ使い物にならねぇ!」
ライバル視やプライドをすべて無視して、傀は叫んだ。
「神崎!恥を承知で頼む!」
「言わなくていいですよ!傀さんっ。仲間なんですから!当然です!」
助けてくれ。どうにかしてくれ。そんな当たり前のことを憂希は傀に言わせなかった。
言った後の傀は激しく自分を責めるだろう。それを察して、憂希は言葉を遮った。かつての自分が自分を責めていたから。
「ニノさんっ」
「は、はいっ」
「俺が死人兵を無力化します!ニノさんは部隊の掩護と撤退支援を!」
「わ、わかった!」
すぐにこの場から仁野は移動した。仁野の能力こそ、一対多数向けであり、今の戦場では死人兵を各個撃破するしかない。それでは対応がかなり遅れるうえに後手に回る。
「...結局何も、できてないじゃないか」
前回の戦闘と同様、自分が最前線にいながら、敵軍の策によりそれを防ぐことは叶わず、甚大な被害を受けた。
「...もうこれ以上!」
無意識でも意識的にでも制限し、使わないようにしていた能力。
鼓動が鳴らない心臓も、熱を帯びない体でも、それを動かしている原動力である筋肉への電気信号。
「好き勝手やらせるかよっ」
視界に映る死人兵から死人兵へ走る稲妻。制御した雷は一瞬にして死人兵を灰にするほどの高電圧を拡大し、伝導させる。
トラウマよりも仇よりも、今目の前の仲間を救う。あの日から幾度も責めた落雷すら、利用する武器の一つ。自分の能力を最大限に行使し、最大の功績に繋げる。それこそが超能力者の使命。
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