No.1 今までの自由
3月上旬に卒業式を迎え、高校生活ともお別れとなった。
何もかもがひっくり返ったような3年間だったが、人は案外頑丈なようで、日常にしてしまえばある程度は乗り切ってしまうんだと、神崎 憂希は自分のことながら驚いてた。
入学したその年に両親は災害に遭って亡くなった。死因は落雷による感電死。
ここ最近の異常気象では珍しくもない線状降水帯による激しい雷雨の日。
予報よりも早く天気が荒れたため、頼りのない傘一本で仲睦まじく帰っている帰り道だったそうだ。
憂希は豪雨によって部活から帰れず、学校で雨宿りをしていた時にその悲報は鳴った。
まるでその雷雨によって閉じ込められていた隙に、家族を惨殺されたような気分になった。
災害という理不尽に対して、怒りや悔しさをどこにぶつけたらいいかわからない最悪な気分。
この最悪な気分は晴れぬまま、憂希は目の前に迫る卒業に何とも言えない気持ちになっていた。
この3年間は憂希の両親の死亡保険金と自分自身のアルバイトにて生計を立てながら、何度もどうでもよくなった将来のために部活も辞めて、勉学に励んだ。
両親から成績が良かったときに褒められた記憶が、明るい思い出なのに雲がかかっている。
ある種、勉強は憂希にとって現実逃避のためのはけ口だったのかもしれない。難しいことに頭の容量を割いて何とかごまかしていた。
志望大学には一般入試で受験した。
どんなに勉強しても平均的だった成績が急激に延びることはなかった。
そもそも集中してできていたのかと言われると怪しい部分もある。
友人関係は地元の高校だったこともあり、小中で一緒の腐れ縁で付き合いの長い人もいた。
ただ、憂希はその家庭や家族を見るたびに、体の奥のどこかに引っかかるもやっとしたものがずっと嫌いだった。
「無事、卒業できるよ。大学も言われていたところに受かると思う。自己採点が間違ってなければだけど。これで少しは安心できたかい」
毎月、命日の月替わりの日に墓参りをする。
憂希は両親に近づいてくる合格発表のプレッシャーを隠すように報告した。
気分を映したような曇天に、思わず目を細めた。
「じゃあ、また来るよ」
自宅に向かおうと墓地を出た。その瞬間だった。
「失礼、神崎 憂希とお見受けするが」
和装で背の高い男性に声をかけられた。その後ろにはリクルートスーツのSPみたいな男性二人。
突然知らない人から名前を言われて声がかかる。誰が見てもこの状況はさすがに怪しすぎる。
「誰ですか、あなたたちは。面識はないと思いますが」
「ご同行を」
憂希の質問など気にかけもせず、両脇からSPたちが近寄ってきた。
すぐさま憂希は携帯を取り出して警察に電話をかける。
だが、その携帯はなぜか手に持った瞬間に真っ二つになっていた。
文字通り、縦に両断されていた。ウォータージェットで切断されたようなまっすぐな断面。
切れていたのは携帯だけ。手や制服には何もない。
「は...?」
状況を呑み込めずにいる隙に、SPに拘束されて目隠しと口封じをされた。
なんだこれ、現実かよ。
憂希は必死に抵抗しながら思った。悪夢みたいな現実はあの日だけで十分だというのに。
車両に運び込まれて数時間経った。
叫んだり暴れたりすることよりも、音による情報収集で頭がいっぱいだった。
どこに向かっているか、何者なのか、なんで自分なのか、いつまで乗っているのか。
ただ、その情報は何も聞こえないまま、車両が止まり、ドアの開く音が先に聞こえた。
車両から出され、どこかの台か床に下ろされた瞬間にちくっとした痛みとともに意識が薄れた。
朦朧とした意識の中、目を覚ましたのは知らない天井、知らない部屋、全部知らない場所。
「夢じゃないのか....。まだ夢か....」
自動ドアのセキュリティロックが解除された音とともに扉が開いた。
憂希を攫った和装の男性とその時とは別のSP二人が部屋に入ってきた。
「まずは全てを聞いてからだ。その後、質問を三つまで受け付ける」
口を開こうとしたところにカウンターのように釘を刺された。
「私は秘匿国家機関の者だ。単刀直入に申し上げよう。君は選ばれた」
何に?という疑問を必死に押し殺して黙る。ここで質問を使っては何もわからない。
「現代における最新鋭兵器の適合者に」
「.....は?兵器?」
さすがに口を割って出た。
「最新鋭兵器。昨今は溢れているであろう、超能力や魔法というおとぎ話が。それだ。君はその適合者に選ばれた」
和装の男性から出たとは思えぬ、非現実的な言葉に目は泳ぐ。
何を言っているんだ、マジで本当に夢かこれ。
ただでさえ非現実的な状況に状況説明まで非現実的となると夢を疑わざるを得ない。
「空想や理想は人類の発展と進化を今までも進めておりました。そしてそれは軍事力も該当します。人一人が振るう近接武器から遠投や射撃になる遠距離武器に進化し、それが火器に変わりました。この現代においても第二次世界大戦以降、抑止力や軍事力としての象徴は核爆弾が主体となり、人一人が振るえる影響力は日々進化してきたのです」
SPの一人が説明している。
大学入試を終えた憂希には一般常識でしかないそんなことをいまさら。
「ただここ数年でその常識が大きく変化しました。人一人が核爆弾に匹敵する、またはそれよりも影響力の高い能力を得ることができれば、その人物を訓練し、教育し、練磨すれば的確な影響と利益をもたらす
コントロールできる兵器になると。理想の規模で軍事行動ができる兵器。それが能力者です。」
アニメや漫画を見て、人が憧れるフィクションにありえないほどのどす黒さを加えた発想。
「あなたはその能力者として選ばれました」
落雷のような衝撃だった。
ご拝読ありがとうございます。
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