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第9話「終末の安全計画」

 この世界で暮らすようになって、まず考えたのは「どうやって死なずに済むか」だった。

 つまりは、安全をどう確保するか――それがすべての始まりだった。


 戸締まりや罠の設置、物資の備蓄、定期的な避難経路の点検――

 どれも大切な“ルーティン”だが、最大のリスクは状況によって変わる。


 この終末世界の「基準値」として、まず考えざるを得ないのはゾンビの存在だ。

 2年前――

 パンデミックが始まった直後、攻撃型ゾンビが都市や集落を瞬く間に崩壊させていった。


 高熱と錯乱、凶暴化。

 人間離れしたスピードと怪力で、噛みつき、破壊し、目に入ったもの全てに襲いかかった。

 マンションの扉を破り、車を転がし、フェンスや鉄扉もいずれ時間をかけて突破された。

 自宅に立て籠もっていたはずの家族が、

 一夜明けると全員ゾンビになっていた――

 そんな光景を俺も実際に目にした。


 避難所や大きな病院、鉄道やバスの車内――

 “人が集まる場所”ほど被害は苛烈だった。

 発症者の悲鳴、逃げ惑う人々、火の手、途絶えた救助。

 SNSやネットの断片的な証言、

 後になって紗季から聞いた“都市部の今”も、ほとんどが壊滅状態に近かった。


 攻撃型ゾンビはパンデミック初期に社会そのものを崩壊させたが、

 今はほとんどが「低活動型」へと変化している。

 2年経った現在、都市部でも山村でも、見かけるゾンビの9割以上は

 目的もなく徘徊する低活動型だ。


 俺は時折、物資調達のために小さな町や村まで足を延ばす。

 都市部に近づくことはほとんどないが、

 それでも「低活動型」の群れが道や広場をゆっくり歩いている光景を目にする。

 最新の情報は、紗季からも色々聞いた。

 都市部のビルや地下街は、まだ完全な安全地帯にはなっていない――

 わずかながら攻撃型が潜んでいる、という話もある。


 攻撃型は今や全体の1%にも満たないと言われているが、

 音や動きに敏感で、遠くの物音にも反応して走ってくることがある。

 一方、低活動型は音を立てても反応が鈍く、動きも緩慢だが、

 複数が集まり刺激し合うことで、まるでスイッチが入ったように活性化することがある。


 こうしてゾンビの存在を「基準値」として、すべての安全計画を立てている。

 柵や罠、鳴子は外部からの侵入を早期に察知するためのもの。

 夜間や荒天時は二重施錠、食料やゴミは外に一切残さない。

 避難経路は三通り以上を確保し、

 備蓄はリュックにまとめて“すぐ動ける”ようにしてある。


 だが実際には、最大のリスクはゾンビだけとは限らない。

 山で暮らす以上、ツキノワグマや野生動物の被害も現実的な脅威だ。

 生存を脅かすものは、時にゾンビよりも「生きた自然」の方が手強い。


 俺の安全計画は、「ゾンビを基準にしながら、どんなリスクにも合理的に備えること」。

 最悪の状況を想定し、冷静に対策を重ねる――

 それがこの世界での、生き延びるための“標準装備”なのだ。

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