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13 パーティーは終わり、そして……

 


 銀の髪に赤い花飾りをつけた少女が、ぱたぱたと城の回廊を走っている。

 彼女が着ている服は動きやすいワンピースだ。少女の肩に乗っているフワフワは、転げ落ちないように必死にしがみついている。


「チビ、おはようさーん」と、見知らぬ魔族に声をかけられ、その隣では別の魔族が、「今日も元気だなあ」と笑っている。「カタカタカタ」と骨の魔族が手を振った。


「う! お、は!」


 チビは手を振り返して、元気な声で返事をする。


「わっほ~い! チビ、おっはよぉ!」


 今日はテジュは犬の姿をしていた。四本脚をちょこちょこ動かし、テジュはチビの隣に駆けつける。ここはいつも夜の国なのに、おはようの挨拶はなんだか不思議だけれど、声を出せることが嬉しくて、「おは、よ!」とにひひと笑ってテジュにも挨拶を返す。


「ねえねえ、何してんの? かけっこ? かけっこ?」

「フォメ、ばいばい」

「フォメトリアル? フォメトリアルから逃げてるってこと?」

「ん!」

「よおし、おれも一緒に逃げよ~!」


 一緒にかけっこ! と力いっぱい尻尾を振るテジュは、飛び跳ねるようにチビと並んで駆けながら、はてと首を傾げた。


「今日はその服なの?」

「ん」

「ドレス、綺麗だったからいっぱい着たらいいのに」


 ん~……と、チビは自分の中で一番合う言葉を考えた。


「ドレス。だいじ。とっても、だいじ。――だから、ときどき」

「なるほどぉ! すっごく大事だから、大切なときだけ着るってことかあ! それ、すっごくいいと思う!」

「むふふ」


 そうでしょう、とばかりにチビは満足げな顔をしているが、背後からは「待ちなさい……待ちなさい……コラァ! 待ちなさい!!!」と彼女を呼ぶ声がだんだん大きくなっている。


「せっかくあなたの部屋を準備したのに、なぜ部屋を使わないのですか! 魔王様のッ! ベッドをッ! 占領するのはッ! やめなさあーい!!!!」


 大人の叫びなんて知らぬとばかりに、子どもたちはきゃっきゃと笑った。なんとも楽しそうで、素敵な日々である。

 風もないのに中で揺れる木の梢たちは、まるでそれを微笑ましく見守っているかのよう。


「待ちなさいと言っているでしょう!」

「やーだよー!」

「や、だ、よ!」


 あははは、と明るい声が響く。


 ***


「……ん」


 そんな彼女らの知らぬところで、また一人、幼い子どもが夜の国に流れ着ついた。

 投げ捨てられるようにして砕け散った木箱の隣には、頬を泥だらけにした銀髪の少年が倒れている。

 苦しげに表情を歪める少年の顔は、薄汚れていても、とても整っていることがよくわかる。

 長い睫毛に覆われた瞼がぴくりと揺れるように持ち上がった。ゆっくりと、細く開いた瞼の隙間から見えた瞳は、深く青い宝石の色をしている。


「……ペア」


 少年の、声が。小さく――響いた。



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