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10 生贄少女、管理人と会う

 

「で、誰か来たワケ? さっさと用件を言ってよ」


 片方の髪だけ少し長いおかっぱ頭の少年は、一冊の本を開いていた。分厚い本から視線を移動することなく、つっけんどんな声を出す。


 少年の服装はフォメトリアルと少し似ているが、半ズボンからは白い足が覗いている。ネクタイの代わりに大粒の宝石をつけたリボンタイ。そして尻の部分からは太く大きな尻尾が生えていて、尻尾の表面は鱗で覆われている。こめかみから生えた一対の円筒状の角は、少年が魔族であることをありありと示していた。


「…………」

「ちょっと、なんとか言って――」


 少年はいつまでたっても返事がないことを不審に思ったのか苛立つように本のページから顔を上げ、チビと目が合った途端、可愛らしい顔を歪める。


「ハ? マジで誰? まあ誰でもいいや。貢ぎ物を持ってるってんなら、さっさとそこに置いといて」

「ぬ……?」

「それ、手に何か持ってるでしょ。貢ぎ物じゃないの? ほんとにさあ、勘弁してほしいよね。こっちはちゃんと管理してるのにさ。届けるやつらが適当なんだもん」


 少年はため息をついて本を閉じ、備え付けの棚に片付ける。「さっさと入りなって言ってんじゃん」と、少年の焦れたような声に後押しされ中に入り、改めて室内を見てみると、本以外にもたくさんの物があった。宝石が無造作に置かれているなど、チビでもわかるほどに高価な品で部屋の中は溢れている。


「ふおわぁ……」

「何変な声出してんの? ほらさっさと出して……ってなんだ。ギギ様の実じゃん」

「ぎー?」

「ギーじゃなくてギギ様だけど」


「ギギ様って、たまによくわかんない実を出すよね」と言いながら少年はチビの手から木の実を受け取り、引き出しがついた別の棚にしまう。背中を向けた少年の尻尾が、ゆらり、ゆらりと揺れていた。チビの目が尻尾を追って同じようにゆらゆら体を揺らしている。


「それで、あんた誰?」


 いきなり振り返ったので、ビョンッとチビは跳ねた。

 少年が、大股でチビに近づく。


「っていうか、あんたホントに魔族? 魔力はあるみたいだけどさあ……なんか質が違うっていうか……」


 腰を屈めてチビに顔を近づけ、まじまじと観察する。チビとフワフワはちょっとだけのけぞった。ゆら、ゆら。鱗がついた尻尾がやっぱり揺れていた。


「まるで人間……あ。あんた、もしかしてホントに人間?」

「う、ぬう」

「あー、そういや聞いてたな。貢ぎ物として人間の子どもが来たってやつだよね」


「すっかり忘れてた」と少年はどこからか細い紐を取り出し、ばしん、と大きな音を立てて両手で紐の端を引っ張る。一体なんだというのか。チビの頭の上では、フワフワが、「フワワワッ!?」と怯えている。不穏を感じ取り、逃げねば、とチビが背後を振り向いたときには開いていたはずの扉は、いつの間にかぴっちりと閉じていた。

 はわわわわ、とチビは猫のように飛び上がって、焦りながら両手を動かす。ぱしん、ぱしん、と紐を引っ張る音が近づく。


「大人しくしなよ。そしたらすぐに終わるから」


 ぱしん、ぱしん、ぱしん、ぱしん……。

 恐ろしい音が迫りくる。はわわわわ、とチビはさらに激しく両手を動かす。とうとう、少年の手がチビに伸び――。




「はい、身長100リトミル。体重はワニの尻尾15個分。手の大きさも……ほらりんご。ちゃんと持って。ハア? 持てない? ちっちゃすぎじゃないの? まったく。測定不能……と」

「…………」


 少年は持っていた紐を使いチビの体の至る所の大きさを測り、さらに謎の箱の上に乗せ、そして奇妙なテストを受けさせた。結果がわかる度に少年は手持ちの本へとペンを使いなんらかの文字を書き込んでいるらしいが、チビにはよくわからない。

 そうこうしているうちに、大きな扉が自動であいて木箱を抱えたモヤモヤたちが列に並んでやってくる。


「そこ、端のほうに置いといて。部屋のものと混じらないようにしてよね」


 少年はさっと指示をして、モヤモヤたちは慣れた様子で木箱を置き、部屋から出ていく。自動で閉まる扉に挟まれてしまったのか、切れたモヤモヤの端っこが扉の下に転がっている。その黒いモヤに向かって、「フワワワァ~!?」と、フワフワがぴょーんっと飛んだ。


「ここ、管理室。人間からの貢ぎ物は僕が管理してるから」


 ときどき勝手に持っていくやつもいるけどさ、と管理人はペンを書く手を止めずに苛立ちが混じった声を出す。多分、カシロとテジュのことだろう。ちなみに勝手に持っていかれた貢ぎ物はチビである。

 りんごを片手で持つことを諦めたチビは、目の前で揺れ続ける鱗がついた尻尾をじっと見つめた。「ギャア! 何すんの!」そしてとうとう手を伸ばし、思いっきり怒られた。


「あんたねぇ……魔族の尻尾や耳、ついでに角に触るのは非常識だよ! そんなことくらい覚えときな!」

「ぬ、ぬう……」


 あまりにもリズミカルに揺れていたので、誘われるように触ってしまったのだが、「ぬ、ううう……」ぺこん、と頭を下げる。「わかったならいいけどさぁ……次からしないでよね」チビはおもちゃのようにコクコクと何度も頷いて返事をした。

 それはさておき、奇妙な品ばかりが溢れている部屋だ。気になって、ついついチビはきょろきょろと辺りを見回す。


「はい、採寸終わり。これは急ぎで必要だったからよかったよ。で、えー……次は……ってコラァ! 触るなぁ!」


 金銀財宝、宝の山に頭から突っ込んでいたチビは、即座に管理人に確保された。管理人に脇の下を持ち上げられる形で取り出されたチビの頭には宝石がついた王冠が乗っており、ちょっぴり不満顔である。


「まったく……油断も隙もない……なんだこいつ……」

「ぬううう……!」

「ぬううじゃないでしょ。まだまだ確認しなきゃならないことがあるんだからね。大人しくしててよね」


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