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Re:code -記録の檻-  作者: 観測者
プロローグ
7/8

7

 沈黙。

 煙の中、プロメテウスは動かない。完全に沈黙していた。

 やがて、空間が光に満たされていく。


 ――戦闘終了。シミュレーションを終了します。


 無機質なアナウンスとともに、足元がふわりと浮かぶ感覚に包まれる。

 次の瞬間、世界が反転した。




 視界が戻った時、彼らはもうゲームブースの中にいた。

 没入型のVRギアを外し、現実の光に目を細める。

 空調の効いた室内。背もたれのある椅子。いつもの、現実。


「ふぅ~~っ……やっば、熱かったなー今の!」


 智樹が椅子をのけぞらせながら、満面の笑みを浮かべる。


「うん、楽しかった。あの終盤、ちょっと感動して泣きそうになったもん」


 真知子もヘッドセットを外し、汗ばんだ額を拭った。


「清司、最後……決めたな」


 仁郎が振り返ると、清司が無言でガッツポーズを作っていた。


「意外と可愛かったね、フラッシュ・ミケランジェロ……!」


 真知子が笑い、みんながつられて笑う。


 笑い声が響く。

 現実は穏やかで、無事で、なによりも優しかった。




 それぞれが帰路についたあと、ひとり残ったのは――ゆい。

 彼女は手帳型の端末を操作し、企業本部の回線へと接続する。

 応答に映ったのは、白髪で無表情な男。彼女の勤める会社、《セレスティアル・コア社》の会長だった。


「……バグの報告をします。先ほどのセッションで、通常の敵AIを超えた行動ログを確認しました。プロメテウスの行動ルーチンは明らかに――」


 しかし、会長はゆいの言葉を遮った。


「――バグなど、存在しない」

「……え?」

「ログは正常だった。以上だ」


 淡々と、何一つ感情を込めないまま返答が返ってくる。


「ま、待ってください。あの挙動は明らかに――」

「……仕事熱心なのは評価する。しかし、見なかったことにするのもまた、仕事だよ」


 そう言って、画面が切れた。


 静寂が訪れる。

 ゆいの端末だけが、青白く小さな光を灯していた。


 彼女は目を伏せる。

 手元の端末には、会長の言葉とは裏腹に――


“非公開プロトコル:アーク-003 起動記録あり”


 というログファイルが、ひっそりと点滅していた。


《プロメテウスver2.00》。

 それは、ただのシミュレーションボスではなかった。

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