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――咆哮。
赤い光が天井を焦がし、鋼の巨躯が両腕を振り上げた。
《プロメテウスver2.00》、起動完了。チャージ済みの攻撃を放つ寸前――。
「みんな、来るぞ!!」
智樹の声が戦場に響いた瞬間、チームは同時に動き出した。
3体の忍犬が疾風のように駆ける。影から影へ、床を這うように身を伏せ、プロメテウスの足元へと潜り込む。噛みつき、飛びかかり、そして、撹乱する。
「《忍法、煙玉》展開!」
煙幕が敵の視界を塞ぐ。だが、巨体は一歩も退かない。機械の眼が冷酷に演算を続けていた。
「……今のうちに立て直す!」
真知子が手を広げる。コードの輪が空間に展開され、その中心に白銀のドラゴンが召喚される。
「《慈翼龍 リュミエール》召喚!お願い、みんなに癒やしのブレスを!」
ドラゴンが口を開いた。淡い緑の光が空間を満たし、仲間たちの体力がじわじわと回復していく。
その背後にいた仁郎が前進する。
「俺が止める!下がってろ!《斬鉄の重装騎士ドレガルド》を召喚!!ドレガルド、パワーを全てタフネスに変換しろっ!!」
仁郎が召喚した騎士ユニット、《斬鉄の重装騎士ドレガルド》がプロメテウスの前に立ちはだかり、巨大な盾を構えた。
――そして、そのさらに後方で、清司は動かない。
刀を地に突き立て、静かに力を溜めていた。
「……もう少しだ。今はまだ、動くな……」
刹那――空間が赤く点滅した。
プロメテウスの両腕が、無数の小型カプセルを射出する。
「爆弾……!? いや、形状が……!」
真知子が目を見開いた。
「バナナ……!? なにそれ、ふざけてるの……っ」
バナナ型の爆弾が一斉に清司の位置に向けて落ちてくる。
「清司くん、危ない――!!」
叫ぶ真知子。
だが、その瞬間。
「甘かったな!!《忍法、変り身の術》、発動!!」
智樹がカードを掲げた。
次の瞬間、清司と忍犬の一体が位置を入れ替える。一瞬の転移。清司は無傷のまま離脱し、爆風の中心地には――
「――っ!」
忍犬が1体、爆炎に包まれて消える。
「……この展開、読んでたのか……さすがだな智樹」
清司が呟く。息を整え、3枚のカードを構えた。
プロメテウス、その演算が一瞬だけ停止した。理解不能な事態に、処理が追いつかない。
そこに――真知子のマジカル・コードが走る。
「バフ、いくよっ!《聖龍の爪》2枚と《聖龍の鱗》を調合!」
清司のユニットに青白い光が宿る。
「パワーとタフネスupのバフか……、今しかない!」
そして、清司が叫ぶ。
「《電影猫神 フラッシュ・ミケランジェロ》を召喚!!」
「おお………すげーなあいつ!!」
「まだだ!!召喚したミケランジェロに《断界剣・アビスリーパー》を装備!!」
清司が召喚したユニットの右手に、禍々しい大太刀が現れる。
「いけーーーミケランジェロッ!!《羅刹流奥義・終ノ太刀 "一閃")》ッ!!」
剣が輝き、空間が裂ける。
雷鳴のような斬撃の一閃が、プロメテウスの胸部コアを一直線に撃ち抜いた。
轟音。
閃光。
プロメテウスが、膝をついた。
機械の巨人が、黒煙の中で沈黙する。
「……終わったの……?」
真知子が呟く。
誰もが一歩も動けず、沈黙の中でその姿を見つめた。