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「変身機能なんてのもあるのか………おもしろい」
河野清司の目が、禍々しい赤に染まったプロメテウスの装甲を見て、わずかに細める。
だが、すぐに異変に気づいたのは、
――画面の向こう側、《セレス・テック社 技術部 桐生ユイ》だった。
「違います!」
彼女の声が一瞬で全員の鼓膜を打った。
「そんな機能……この《Re:code》には、実装されていないはずなんです!これは……おかしい……!」
「えっ……それってどういうこと?」
真知子が不安そうに眉をひそめる。
「本来、プロメテウスは試作型で終了です。変身するような処理は、どこにも……!」
清司が口を開いた。
「じゃあ……バグってことか?」
「……分かりません。でも、“人為的”な改変の可能性もあります。今、調査班を呼びますので……」
その瞬間、プロメテウスver2.00が再びチャージ動作に入る。
光り出すコア、うなる駆動音。
「わわっ、来るっ!」
「一回、接続切って現実に戻ればよくない!? このままじゃ――!」
真知子が叫ぶ。しかし、ユイの反応は、冷たくも切実だった。
「だめです!!」
全員が言葉を失う。
「《Re:code》は脳波リンク式の高精度VRです。対戦中に無理に切断すれば……最悪、脳への過大なフィードバックが発生する可能性があります」
「過大なフィードバック……って、要するに?」
「……意識障害、記憶欠損、身体麻痺などのリスクが。だから、ここで無理に止めるのは……本当に、危険なんです」
息をのむ一同。
敵は、想定外。
逃げる術も、遮断されている。
それでも――
「……だったら」
須藤智樹が一歩前に出る。
その声に、自然とみんなが顔を向ける。
「とりあえず……今目の前にいる敵を倒すしかないんだな」
その言葉に、一瞬の静寂が生まれた。
真知子が口元を引き締める。
「分かった。回復とバフ、できる限り早く回す」
仁郎が頷く。
「俺もまだやれるよ。俺が前に出る」
「……フッ。ま、面白くなってきたな。新型だろうと、ぶった斬るだけだ」
清司のユニットも剣を構える。
智樹がカードを引いた。
「口寄せ・忍犬三連牙の術!!」
智樹の周りに3体の忍犬が召喚される。
「みんな、連携は今まで通り。でも、今度は一瞬のミスも命取りになる。集中していこう!」
彼の目には迷いがなかった。
たとえゲームでも、相手が何であろうと、仲間を守るために戦う――その覚悟だけが、今の彼らを動かしていた。
そして、再びプロメテウスver2.00が両の腕を振り上げる。
バトル、再開――。