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桐生ユイの手から滑るように降りてきた4枚のカード。
それぞれがうっすらと光を放ち、智樹たちの目の前に浮かんでいる。
「これはあなた方の記録に最も適した《クラスカード》です。選んだ時点で、あなたの意志と記録がこの世界に定着します」
カードを見つめる勇生の目に映っていたのは──黒装束に身を包んだ人影と、数匹の獣影。
まるで犬のような……いや、もっと鋭く、影のように動く何か。
カードにはこう記されていた。
《シャドウ・ブレイド》──アタッカー。忍犬とともに戦場を駆け、影から影へと連撃を繰り出す“刃“。
「……俺はこれか」
思わず手を伸ばすと、カードが一閃。黒い衣と巻物を纏った姿へと身体が変化し、背後に忍犬たちの気配が浮かび上がった。
「すご……! まるで変身ヒーローじゃん……!」
仁郎の歓声とともに、彼の目の前にもカードが降りてくる。
カードには、鋼の大盾を構えた重厚な騎士の姿。
《ナイト・コード》──タンク。味方を守る盾を操り、“挑発“し仲間を守る“鋼壁“となる。
「うわぁ~!オレ絶対コレ!! 盾デカッ!!俺の顔よりデカい!!」
「いや、君の顔そんなに小さくないから……」
真知子が少し呆れたように笑いながら、そっと自分のカードに手を伸ばす。
そこに描かれていたのは、白衣と光をまとう長耳の存在──まるで機械仕掛けのエルフのような姿。
右手には歯車で構成された長杖を持っている。
《ナノ・テクニシャン》──ヒーラー。2つ以上のマジカル・コードを調合し効果を高め、味方のライフを支え、戦況を分析する“再生者“。
「私……回復役なのね。でも悪くないかも」
白と緑を基調とした装束が彼女を包み、腰の調合キットが静かに光る。
そして最後に残ったのは清司。彼は無言でカードを引き、眺めた。
カードに描かれていたのは、鋭い眼差しで刀を構えるサイバー侍。
その両刃には雷光が宿っている。
《サイバー・ブレイド》──アタッカー。一撃に全てを込め、成功すれば敵を屠るが、失敗すれば無防備になる“諸刃の剣“。
「へぇ……侍。嫌いじゃない」
装束が変わると同時に、背中に機械式の刀を背負った清司が、剣に手をかける。
「これで君たちは、記録されたクラスに適応されました」
ユイが手を伸ばすと、空間が淡く揺れた。
「では──チュートリアルを兼ねて、《Re:code》の最初のボスコードとの対峙をお願いします」
床が透け、目の前に浮かび上がったのは、砂漠地帯のようなステージ。
瓦礫と化した施設の跡、その中心に、丸太のような腕と、重厚な装甲に覆われたゴリラ型の兵器が鎮座していた。
「このボスは練習用プログラム……とはいえ、油断は禁物です。《試作型プロメテウス》──暴走した企業兵器を想定した演習用コードです」
その名が呼ばれた瞬間、ボスの瞳が金色に光った。
両腕にはビーム砲、肩にはミサイルポッド。脚部のサーボが鳴り、轟音と共に立ち上がる。
──戦闘準備開始。
「やるぞ、みんな!」
智樹が手にしたカードをかざした。
これが《Re:code》での最初の戦い。
まだ誰も知らない、本当の“記録“の始まりだった――。