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Re:code -記録の檻-  作者: 観測者
プロローグ
1/8

1

 ──観客席のざわめきが静まった。

 場内に響くのは、機械がカードをスキャンする音と、ターンエンドを告げる電子音だけ。

 モニターに映し出されたのは、残りライフ2。そして――。


「……俺の、勝ちだ」


 小さく息を吐いた少年、須藤智樹(すどうともき)が、フィールドに置かれた最後のカードを裏返す。

 カードには煌めく赫き刀身の短刀を2本持つ全身黒ずくめの忍者が描かれていた。

 拍手が、まるで爆発のように湧き起こる。

 全国中学生カードゲーム選手権『エンコード・リーグ』。

 その決勝戦は、わずか1ターン差で決着がついた。

 ──勝者、須藤智樹。


「やるじゃん、智樹」


 フィールドの向かい側から声をかけたのは、クールな眼差しの少年、河野清司(かわのせいじ)

 ライバルであり、友でもある彼は、敗北にも不満の色を見せず、手を差し出してきた。


「……ありがとう。マジでギリギリだったけどな」

「お前のあの“上忍コンボ“、いつも読めねぇんだよ」


 ガッチリと握手を交わす。互いの手には、闘志の余韻が残っていた。




 その後、表彰式が終わり、控え室で祝福に包まれる智樹のもとへ、1人の女性が現れた。


「おめでとうございます、須藤智樹さん」


 白衣のような服に身を包んだ、どこか機械的な雰囲気を纏った女性。

 名札には「セレス・テック社 技術部 桐生(きりゅう)ユイ」と書かれていた。


「弊社は今回の大会を主催しておりました。優勝者のあなたと、特に活躍した他の三名の方々に、ぜひお願いがありまして」

「お願い……?」


 戸惑う智樹の後ろから、花屋仁郎(はなやじろう)が顔を覗かせる。


「うお、なんか始まった?お願いって、まさかお仕事っすか!?ていうか俺“特に活躍“したんすね!?やった!」

「お仕事っていうよりは……実験、かな?」


 それを聞きふっと笑ったのは、松任谷真知子(まつとうやまちこ)

 小柄で眼鏡の奥の瞳は冷静そのもの。

 けれどどこか、不安げな色を含んでいた。


「ご紹介させていただきます。こちらが、弊社が開発中の“VRMMO型カードバトルゲーム“──《Re code(リ・コード)》です」


 桐生ユイがタブレットを差し出すと、そこには仮想空間のフィールド、立体カード、そして見慣れないロゴが浮かんでいた。


「優勝者のあなたを含む四名に、特別なデモプレイに参加していただきたいのです。まだ正式リリースには至っていませんが……あなた方には、適正があると判断しました」

「デモプレイ……? VRゲームってこと?」

「フルダイブ型です。意識そのものを仮想空間に転送し、現実と変わらぬ感覚でカードバトルを体験できます」


 言葉に詰まったのは智樹だった。

 だが、仁郎が割り込む。


「やるやるやる!! そんなヤベーゲーム、俺のために作られたとしか思えん!!」

「ちょ、ちょっと待ってよ! 本当に大丈夫なの? そんな技術って、ニュースでも見たことないよ」


 真知子が一歩引き、手を胸に当てた。


「もちろん安全性には十分なテストを行っております。あなた方は、我々の未来を担う最初の記録者(レコーダー)となるのです」


 その言葉に、智樹の背筋がゾクッとした。

 まるで、今この瞬間が、“()()()()()()“であるかのように感じられたのだ。


「……やってみる。俺は行くよ」


 しばらくの沈黙のあと、智樹が答えた。

 真知子はため息をつきながら、頷いた。

 清司も、小さく笑って。


「またお前と戦えるなら、それだけで充分だ」




 ──こうして、4人は『Re:code』へとログインする。

 それが、“世界“の裏側に触れる旅の始まりだとは知らずに――。

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