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外伝6 猿と呼ばれた男

蛇足みたいな外伝です、某大河ドラマをチラ見して書いて見ました。

 天文二十年1551年、七年前のインド洋海戦で、イスパニア海軍の東洋遠征艦隊を退けた海軍司令総監、足利義輔は、父祖の地である旧尾張の国で自身の居城となっている清州城に戻って来ている。

ただ、義輔は普段は安土の館に正妻の信濃の方とその子達と一緒に暮らしているので、この城には愛妾である首里の方を置いている。

 現在の尾張は隣国の三河と合併して尾張県となり、将軍直轄地として県令では無く代官が数人置かれている、今のこの地方の代官は清洲の『柴田権六勝家』で、権六の父は義輔の父、大御所義勝の元で山城の奉行を務めた伯爵『柴田勝達』で隠居をして今は家督を勝家に譲っている。

 だが勝家は伯爵位を父から継承できていない、本来なら勝家は問題なく家督と伯爵位を継承できるはずだった、所が数年前の武道会で剣術部門の優勝候補とされた勝家は、油断から前日の夜に深酒して午前の部だった試合で不戦敗になってしまったのだった、激怒した父勝立により廃嫡勘当寸前まで行ったが勝家の武勇を惜しんだ将軍義家の取りなしによって廃嫡勘当は免れたものの、この時の不祥事が原因で父が隠居をする際に爵位を降格されて今は子爵となっている。

ただそれ以降勝家は心を入れ替えた様で、代官としての統治は公平で領民からも慕われている。

 義輔が清州に来て居るのは、首里の方に逢う為でもあるが、義兄である千秋季義が大宮司を務める熱田神宮の例祭に参加する為だ、この千秋季義は千秋季光の嫡男だが、叔父で先代の大宮司千秋定季の養子となっている。

 ただ例祭まではまた日があり、毎年熱田の祭りに先駆けて行われる津島神社の天王祭を見物する為に、

今日は朝から津島の勝幡城を訪れているのだった。天王祭は、父である大御所義勝も庇護をしていた津島神社の礼祭で、車楽舟を天王川に浮かべ巻藁船(提灯船)が屋台の上に500個以上の提灯を掲げて川を進むと言う豪華絢爛な祭で、当然の様に市が立ち富籤が売られる賑やかな祭りとなっている。

 津島の商人達にとってはこの祭から熱田の大祭までの期間は掻き入れ時なのだ。

「賑やかですなぁ」

「ああ、祭りと言う物はいつ来ても楽しいな」

と義輔は副官兼用心棒である滝川一益と話しながら歩いている、この一益は、現在も司法卿として各地に睨みを聞かせている滝川貞勝伯爵の孫になり、天下一武道会の優勝者でもある。ただ素行が悪いので、父である滝川勝一によって滝川家から追放されたのを義輔が拾った人物だった。

「はい、賭場も立っている様で腕がなります」

「たわけ、博打はやめるとそなたの父上に誓ったのでは無かったのか?」

「あ、そうでした」

と義輔とはざっくばらんな関係だ、義輔も海賊上がりの部下達との付き合いが長いので元博徒であるこの一益の態度は全く問題にしていない。

 ちなみに柴田勝家が不戦敗を喫した相手がこの一益なのだが、その事を義輔から聞いた勝家は清洲城の道場で一益と竹刀による試合を行い見事一益を下している、勝家の方が3歳ほど歳上と言う事も有り、これ以降二人は勝家を兄とする義兄弟と言う関係になっている。


 その夜は城を出て二人で連れ添って博打を打ち、廓でくつろいでいる所で、火事を知らせる鐘楼の鐘の音で飛び起きた。

「殿、家事の様です」

「火は何処だ?」

 そこに、廓の別の部屋で控えていた供の物達が駆けつけてきた。

「総監、どうやら火事は勝幡城三の丸の蔵の様で、既に火は消し止めたとの事でございます」

との報告が入る。

「そうか、大事にならなくて良かった」

と義輔は胸を撫で下ろした。後で報告だけ聞いたがどうやら不審火の様で、盗賊の仕業かもしてないと言う。

「まだ盗賊などが居るのか」

と義輔は勝家に聞いたが、祭りの季節には各地から不逞の輩が集まるので、領内の警備を厳重にしているが、その分城の警備が手薄になってしまった隙を突かれたと言う事の様だ。


 そして数日後一行は熱田神宮に詣り、大祭を見物する事になる。

かっては義輔の父、勝如=足利義勝が若い頃に射たと言う熱田神宮の伝統行事、秋の奉納弓射だ。

今年、奉納の弓を引くのは、15歳で元服したばかりの千秋季義の嫡男千秋季家になる。

 大祭を翌日に控えた熱田では神宮の周囲に市が立ち、人手で大いに賑わっている、

そして、毎年この時だけ限定公開される、神宮の神宝で父義勝の物と伝わる『天狗の装束』も

人気を集めている。

 義輔は一度清州に戻り愛妾首里の方と明智勝光(正史での光秀)と合流して、この天狗の装束を見学してきた。

「うーん、誠に不思議だあの猿股に書かれた文字(Calvin Klein)は南蛮の文字にも似ているが、そしてあの衣だ、絹でも綿でも麻でも無い」

と首里の方と話しながら、参道の人並みを出店を冷やかして歩いている。

 すると前方で、人の争う声がする。

見ると、路上で茣蓙を敷き、針を並べて売っている商人と客の争いの様だ。

「手前、こんな鈍針を売りつけやがって、どんな了見だ」

「さぁ、何の事でしょう、商売の邪魔はやめてほしいな、その針俺が売ったと言う証拠でもあるのか?」

「何、このやろう」

 義輔はこう言う喧嘩を見るのが大好きだ、海軍総監として九州に居た時も、気性の荒い海賊上がりの兵達の喧嘩を楽しんで眺めていた程だ、ただし喧嘩が大事になりそうな時には止めているし刀の使用も禁止を徹底していたが。

 ついに客の男が手を出して、小柄な商人は男に殴られて吹っ飛んだ、それをもう一人大柄な商人が間に入って、客を宥めている。

「まぁまぁお客さん、代金は半分お返しいたしますから、これで収めていただけませんか?」

「小一郎、余計な事を言うな、手前、良くもやりやがったな」

と小柄な男は、腰に刺していた脇差を抜いた。

 義輔は一益に目で合図をする、

一益は苦も無く小柄な商人を取り押さえた。

「このたわけ、ここは天下の熱田神宮の往来だ、何をしやがる」

と小男は抵抗するが一益の敵では無い。

そして小男から取り上げた脇差を見て、一益の目の色が変わった。

直ぐにその脇差を持って義輔の元へ小男を引っ立ててくる、もう一人の大柄な商人も勝光よって確保されて、義輔の元へ土下座させられる。


 一益から恭しく差し出されたその脇差を見て、義輔は察した。

「貴様、なぜこの脇差を持っている、この刀は我が足利家の家人に貸与される刀、先日、勝幡城の蔵に押し入り火を放ったのは貴様か?」

それを聞いて大柄な商人は、小男に向かって

「兄者、まさか?」

と真剣な顔で詰問するが、小男は

「とんでもありません、ワシは拾っただけでございます」

としらを切ろうとする。

「ほう、ではこの針は? 明らかに火に焼けて鈍っているが、お主火事場泥棒でも働いたか?」

と、勝光は拾ってきた針を小男の前に突きつけた。


 そこに騒ぎを聞きつけた柴田勝家が部下を連れて駆けつける、そして

「なんだ、貴様『猿』ではないか、こんな所で何をしている、おうこれは総監閣下」

と義輔を見て跪いた。

「良い、柴田、この者を知っておるのか?」

「はい、この小さい方は藤吉郎、勝幡の城の小者にございました、大きい方はその弟の小一郎、どちらも働き物と言う事で、中村の庄屋より推薦があり先頃召し抱えた者ですが、小男の方は文字も読めず刀も弓矢もダメと言う事で使い物にならずに放逐した者です」

「それはおかしな事だ、この尾張は父上が最初に寺子屋の制度を広めた所、いかに貧しい村の子でもみな、寺子屋で文字を教わったのでは無いのか?」

「はぁ、普通はそうなのですが、どこの村にもはみ出し者がおりまして、この者の様に寺子屋に通わず悪さをする者もおりましてな、この猿は近隣の村の庄屋の娘を手籠にしようとしたと後で聞いて、中村の庄屋をきつく叱った所なのです」

「なるほどお主慕われているな、庄屋殿もお主ならこの男の性根を入れ替えられると思ったのだろう、だがなこの男この脇差を持っておった、そしてそこに並べられている針は、どうやら火事場から盗んで来た物の様だ、『大犯三カ条』により、火付と押し込み強盗の罪は斬首と決まっている、ならば私がここでこの男の首を刎ねても問題は無いな?」

「いえ閣下、お待ちください、ここは既に神域、殺生を為されてはなりません、この男私が責任を持って処罰いたしますので、ここは収めていただけませんか?」

と勝家が言うので、義輔は後の事を勝家に任せる事にして、この二人を引き渡した。


 勝家の厳しい詮議の結果、藤吉郎は犯行を自白して死罪、小一郎は事情を知らずにたまたま非番の日に兄の商売を手伝っただけと言う事でお咎め無しと言う事になった。

 だがその詮議の際に藤吉郎は、

「俺は天下を取る男だ、信長に仕えて大名になり、光秀を討ち、勝家、一益を下して天下人になるはずだ」

と大声で叫んでいたと言う。

一益は勝家からその話を聞いて義輔に報告した

「ほう面白い事を言う奴だな、まだ小童にも見えたが天下を取るか、しかし信長と光秀と言うのは誰の事だ?」

「さぁわかりません、しかしこの私や勝家殿にも勝つとは大言壮語も甚だしいですな」

「まぁ、頭の変な奴の話などどうでも良いだろう、ほら飲め」

とこの件は酒の肴にもならない話で終わった、のちにこの奇妙な小男の事の話を義輔が父の勝如にした所、勝如は

「藤吉郎に小一郎か、確かに信長と光秀と言ったのだな」

としばらく考え込んでから、

「その小一郎と言う男、目をかけてやれ役に立つぞ」

とだけ言った。


 藤吉郎の罪が謀反や反乱なら小一郎も連座して死罪だが、そうならなかったのは奉公人としての小一郎の才を惜しんだ勝家の温情だ。この後、小一郎は義輔の引き立てもあり、勝家の元で出世をして、故郷中村を姓とする事を許されて、中村小一郎輔家と名乗る事になり、清洲の代官にまで上り詰める事になる。

 藤吉郎はその後の調べて、様々な余罪が発覚して、当時の下級農民に対する刑としては最も重い『鋸挽き』の刑に処され、故郷中村の庄屋の家の前で、地面から頭だけを出して埋められて、竹の鋸で村人全員によって首を引かれるという刑が執行された。この時最初に鋸を引いたのは藤吉郎に娘『ねね』を手籠にされそうになった、近隣の朝日村の庄屋杉原助左衛門だった。「ねね」達朝日村の子供達は全員で藤吉郎に石を投げたと言う。

 この藤吉郎こそ正史では百姓から破格の出世をした、後の関白豊臣秀吉であり、小一郎は豊臣秀長だ。

だが、この世界では織田信長が生まれる事無く織田家は滅亡している。当然信長に仕えて出世した秀吉が歴史の表舞台に出る事は無かった。


 だが藤吉郎の奇妙な言葉は、何処かで正史の世界とこの世界が繋がっていた証なのかもしれない。

勝如は自分が居る事で歴史の舞台から消滅した数々の武将達の事を思い、大阪本願寺に『無明供養塔』

を立てて、彼らの名を消滅させた事を詫びた。

実は僕は、秀吉嫌いなんです、徳川家康も嫌いですがw

なので、あっさりと死罪になってもらいました。

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