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26.攻略方法



「ヒアデス様! ご主人様にいったい何をしたでちゅか!?」


 寝込んでいる主人を前に、イベリコはヒアデスを非難していた。


「信じて任せたのに、ひどいでちゅ!!」


「手荒なことはしていないよ」


「だったらどうしてこんなにうなされているでちゅ!? 熱が四十二度もあるんでちゅよ!」


「日頃の疲れが出たんじゃないか? ここのところずっと寝不足だったしね」


 とぼけるように肩をすくめてみせたヒアデスは、涼しい顔で紅茶を飲んでいる。


 その間もラリルはベッドの上で顔を真っ赤にして呻き声を上げ続けていた。


「う〜……うぅ〜……」


「ご主人様! しっかりするでちゅ! 死んじゃダメでちゅ!」


 イベリコの小さな体に揺さぶられ、目を覚ましたラリルはイベリコを吹き飛ばす勢いで飛び起きた。


「はっ! ここはどこ!? 私は誰!?」


「ご主人様! 起きたでちゅか!?」


「イベリコ? えっと、私はいったい……?」


 体中が燃えるように熱い気がするラリルは、痛む頭を押さえながら記憶を辿る。


 そしてあってはならない何かを思い出し、悲鳴を上げた。


「ひっやああぁぁあ!! 私としたことが、推しが好きすぎるあまりなんて破廉恥な夢を!!!」


「……夢、でちゅか?」


「推しへの冒涜もいいところ! 今すぐ忘れないと!」


「ど、どうしたんでちゅか、ご主人様……とうとうおかしくなったでちゅか?」


 ゴンゴンと頭に枕を打ちつける主人を見上げ、イベリコは心配になって狼狽える。


「妄想がすぎる! 私のバカ! バカ! いくら好きだからって、推しとキ、キ、キ……きええぇぇええっ!!」


 自らの頭を叩いていたラリルは、優雅に紅茶をすするヒアデスの姿に気がついて奇声を発しながらシーツの中に潜り込んだ。


「無理ぃ! あんな夢を見るなんて、ヒアデス様に会わせる顔がないぃーーっ!!」


「ご主人様、どうしたでちゅ? ……やっぱり怪しいでちゅ! ヒアデス様が何かしたでちゅ!」


「さあ? 心当たりがないな」


 楽しげなヒアデスは頬杖を突いて、奇行に走るラリルを眺めていた。


「信じられない……どうしてあんな夢を……推しと、まさか、あんな……っ!」


 シーツの下でブツブツと呪文を唱えるがごとく何かを呟いているラリルは一向に正気に戻る気配がない。


「しっかりするでちゅ、ご主人様ーーっ!」


 イベリコの悲痛な叫びが、ボロ屋にこだました。




 ヒアデスとアインが帰ったところで、ラリルはようやくベッドから這い出てきた。


「心配かけてごめんね、イベリコ。私はもう大丈夫よ。オタクに黒歴史はつきもの。忘却の術は身に染みてるから。頭殴って全部忘れたから。大丈夫、大丈夫、平常心、平常心」


 何かを悟ったように神妙に頷くラリルは、すっかり熱が下がっている。


「よく分からないでちゅけど、ご主人様が元気になって嬉しいでちゅ! でも、どんな夢を見たでちゅ?」


「……聞かないで! そんなことよりも、プレアデス辺境伯を攻略するよ! ヒアデス様の悠々自適な新生活のために、結婚を認めてもらわないと!!」


 質問をはぐらかし、外出の準備をするラリル。


「まずは相手の情報を入手しに行こう!」


 オタクの行動力を存分に発揮し、イベリコを肩に乗せて家を出た。

 



「シャウラ!」


「ラリル氏! 珍しいわね、あなたが私を呼び出すなんて」


 カフェでお茶をしながらラリルを待っていたシャウラは、公爵令嬢らしい気品を漂わせながら手を振っている。


 その華奢な手に縋りついたラリルは、血走った目でシャウラに懇願した。


「アニメ第五期の内容を今すぐ教えてください! 特にプレアデス辺境伯の弱点とか、弱みとか、欠陥とか、恥ずかしいところとか、攻略方法とか!!」


「えっと……もしかして辺境伯を暗殺でもするつもり? 難しいと思うけれど……まあ、いいわ。メイターのよしみで特別に教えてあげる」


 同じオタクとしてオタクの圧に慣れているシャウラはニヤリと笑い、ラリルを席に促した。


「アニメ第五期はプレアデス辺境伯の支持争奪戦がメインのストーリー。辺境伯に気に入られようと、三人の王子はそれぞれの方法でアプローチするの」


「それで、最終的に誰が辺境伯の支持を勝ち取ったんですか?」


「あら。あなたもメイターなら分かるでしょう? キングメイトのキャラクターは全て星にちなんだ名前で、所属する星座によって敵味方がハッキリしてる。例えばゾズマ殿下とデネボラ王妃はどちらも獅子座の星から名付けられているわ」


「ああ、そういえばそんな設定ありましたね」


「プレアデス星団は牡牛座の星団。そして牡牛座が守護星座の王子といえばヒアデス殿下。メイターの間では、早くからプレアデス辺境伯はヒアデス殿下につくと予想されていたの。その考察通り、勝者はヒアデス殿下だった」


「なんだ。じゃあ、私の加護がなくても辺境伯はヒアデス様を支持していたんですね?」


「それはそうだけれど、本当はアニメ一期分の時間をかけて決着するはずだったのよ。それをあなたの加護が全部すっ飛ばしたの!」


 プリプリと怒るシャウラのことなど気にせず、ラリルは先を促した。


「はいはい。で、アニメのヒアデス様はどうやって辺境伯を攻略したんですか?」


「辺境伯はね、とにかく奥さんが大好きなの。奥さんのためなら命を投げ出すのは当たり前って感じよ。夫婦の愛は永遠だと信じていらっしゃるロマンチストなお方。アニメではその点に気づいたヒアデス様が理想の夫婦論を持ち出して辺境伯の支持を勝ち取ったわ」


「なるほど、夫婦の愛。……なんとなく、分かった気がします」




読んでいただきありがとうございます!

あと4話で完結予定です。

最後まで楽しんでいただけるように頑張りますので、お付き合いよろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
最高です…! 朝一番に拝読して、昨日の解決を見て、さらにラリル並みに叫ぶ内容を読んで大興奮して。 これは夜に落ち着いて長文感想を書くべきね…(←メーワク)と思っていたら、なんと15時にも更新ですってぇ…
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