忍和国へ
ついに、この日がやってきた。
カノは自室で深呼吸をする。そして一度両頬をパチンっと叩いた。気合いを入れるためだ。
『多在』は無事に忍和国に辿り着いたようで、『記憶』もちゃんとしてくれた。
軍服にももう手を通してある。その上から黒ローブも羽織った。
あとは集合場所の黒城前に行けばいいだけだ。
昨日と今日とで黒城の構造は把握したため、カノは自室から出て真っ直ぐ目的地へと向かう。
目的地へと向かいながら、カノは緊張し始めていた。初めての任務、というのが大半だが、やはりこういうミスは許されないといった雰囲気は苦手なのだ。
「(最善を尽くす!)」
拳を握り締める力が強くなった。
外に出ると、まだ空が白んでいた。早朝の空気は冬春国であっても澄んでいたらしく、朝の柔らかい光と肌を撫でる風が合わさって心地が良かった。
目的地の黒城前に着くと、既にイズミとクロはいた。イズミとクロも軍服の上に黒ローブを羽織っている。集合時間前ではあるから、カノが遅刻したわけではないようだ。
「待たせちゃった?ごめんね」
それでもカノは謝っておくが。
「いえ、時間前ですので。さて…演者も揃ったことですし。予定時間より少し早いですがカノさん、お願いできますか」
もう一度『記憶』を確認する。ここから南に80km。人数は三人。魔力は十分。行ける。
「オッケー、じゃあ行っちゃうよ!『移転』!」
桃色の魔力が溢れる。視界が桃色に染まった。その数秒後。
目の前には見知らぬ土地が待ち構えていた。
「…ここが、忍和国?」
カノたちが転移した先は、どこかの街の路地だった。路地の先には大きな道が広がっているのが見える。『多在』のカノはここに『記憶』をしたようだ。
「確認しましょう」
そう言ってイズミは大きな道に向かって進んでいく。カノとクロもそれに続いた。
大きな道に出ると、そこは本当に別世界だった。古雨国、暖海国とは違う、ましてや冬春国とも違う、異郷の地。
家は木造で低く、屋根には瓦が使われている。街行く人々はみんなヤクモが着ているような着物を着ていた。カンカンと鉄を叩く音がどこからか聞こえてくる。
忍和国は武器の名産地だ。世界に流通している武器の大半以上が忍和国産であり、忍和国が滅ぼされれば世界中の武器が枯渇すると言われている。中でも忍和国の刀は一級品だ。万物を両断し、決して折れないで有名なのだ。
ヤクモが扱う黒刀も忍和国産だった。
大声で武器について熱弁している商人がいれば、それを冷ややかな目で見つめる人もいた。
「えぇ、ここが。私の故郷、忍和国です」
イズミはそれらを懐かしむように見て、断言した。
「懐かしい」
クロも辺りを少しキョロキョロして、そう言った。
「クロさんはここに来たことが?」
「…多分。巫女の演説会を見に来た記憶がある」
「そんな記憶が…クロさんは国を回ってたのかもしれないですね」
クロはうーんと考え込んだ。記憶について探っているのだろう。
「てかイズミさ」「敬語は不要ですよ」
いやなんでだよ、とカノは思わず心の中で突っ込んだ。年上が年下に敬語使っているのに、年下が年上に敬語使うなはおかしい。
「…じゃあ、イズっち。うちら黒ローブ羽織ってるけど、めっちゃ目立たない?」
周りの人はみんな着物だからだ。黒い奴らが三人も歩いていればすごく目立つだろう。
「しょうがないんですよ。着物買うにもお金がなく…私が持っていた一着はヤクモにあげたので。…まあ、ここの人たちは皆流されやすいので。きっと大丈夫ですよ。いざとなったら黙らせばいいだけです」
「…それっていいの…?」
イズミは時々こんな風に幕僚とは思えない発言をする…。元が粗暴なのがなんとなく見える。
「今からは…作戦の詳細を詰めたく。とりあえずカノさんの配置とクロさんの配置を決めないといけません」
「イズっちはどうするの?」
「私は…巫女の追手を抑えます」
「え。それってやばいんじゃ…」
事前に受けた説明では、奪取という形であり、ほとんど戦わない話だったはずだ。
それに、奪取する相手は巫女だ。忍和国の姫様。国は全力で姫を奪い返そうとするだろう。考えなくてもわかる。死に物狂いで来る。
「全然やばいです。と言っても、とある一人を抑えれば…後の人たちはどうでも良いです。私が何かしなくてもクロさんなら余裕で振り切れると思います」
「…強い?」
急にクロが話に加わった。イズミは明らかにしまった、という顔をした。
「まあ…強いですよ?けど、えぇ。クロさんの相手となると不足しますよ。災害ランク、竜巻級ですし」
イズミはたくさん喋った。ここですごく強いと言ってしまえば、クロがその人と戦うと言い出すからだろう。イズミは必死のようだ。
「竜巻なら…」
結果、イズミはクロを制することに成功した。クロにとって竜巻級は取るに足らない存在らしい。
「そのとある人って…どういう人なの?」
「…簡単に言うならば。保守派です」
保守派、ということは巫女の制度を守り続ける派閥なのだろう。イズミは革新派のようだったから、対立はかなりしていただろう。
「そして、巫女を溺愛しています」
「で、溺愛…?」
それが保守派になった理由なのだろうか…。
「その人の名前はナギ。私と同じ、巫女の世話係でした。いわゆる、同僚ですね。シロのことを本当に溺愛していて…よく私と喧嘩しました。何故溺愛しているのかは…知りませんが」
「そのナギをイズっちが相手するよってこと?」
「そうです。権能も全て知っているので。…まあ反対に、私の権能も相手には全て知られているということになるんですけど。…それに」
イズミが言いかけた瞬間、黒い和服の男がイズミにぶつかった。
「あ、すみません。大丈夫で、す…か……」
イズミが振り返ると、語尾がどんどんと小さくなっていった。それと同時にイズミの顔が引き攣っていく。
「ん、全然大丈夫!すまんな…って。え!?イズミじゃ」「黙れ」
イズミは即座に黒い和服の男の口を塞いだ。イズミの雰囲気が様変わりした。荒々しく、敬語が消え去っている。鋭い眼光が黒い和服の男を射抜いていた。
「名前を言えば殺されると思え」
「んんーー!!」
ジタバタと暴れている…。
「い、イズっち?誰…?」
唐突な乱入者にカノは呆然とする他なかった。イズミの名前を知っていた、ということは昔のイズミの知り合いだろうか。
「……武具協働組合の人です」
「ぶ、武具協働組合…」
カノは記憶を掘り起こそうとした。授業で聞いたことがあったはずだ。うーんと頭を捻って思い出した結果、忍和国の一大勢力だったのを思い出した。
忍和国は武具を大量生産しているため、それを取り締まる組織があるのだ。取り締まる、と言っても製造量を調整したり輸入の代表者になったりなどだが。
「イズミがよく対話してる人か」
「そうです。冬春国の武器達はここから仕入れています…っと、ここではあまり話さない方が良いですね…。オビ、連れてけ」
そう言ってイズミはオビと呼ばれた男の口から手を離した。
イズミの雰囲気が会話ごとに行き来している。違和感でしかない。どちらかに合わせれば良いのに、イズミはわざとなのか、それとも直せないのか。
「はーいはいはーい!わかったよ旦那ぁ。安心して話せるとこで話したいってわけっすよね〜?」
雰囲気はヤクモに似ていた。だが、ヤクモの馬鹿っぽさが消えた感じだ。知的なヤクモ…カノは想像して吹き出しそうになった。
ーーーーー
オビに連れられてやってきたのは、大きく平たい建物だった。他の建物と同じ瓦の屋根で木造だ。他の建物と違うところは、畳が敷かれていることだった。
オビはその建物に三人を招いた。ここが武具協働組合の本拠地なのだろう。
「みなさん、ここでは靴を脱ぎますので」
イズミはそう言って靴を脱いだ。危なかった。言われなかったらそのまま靴で入っていた。古雨国も暖海国も靴を脱がずに家に入る慣習があったからだ。イズミに言われた通りに靴を脱いで畳に上がる。ブワッと草のいい匂いが鼻を掠めた。
クロも続いて靴を脱いで畳に上がった。
「こっちすよ〜」
オビは畳の上を歩きながら三人に声をかけた。イズミを筆頭に、オビについていく。
少し歩くと、大きな襖が現れた。
オビは取っ手に手を掛け…
「…ここって会議室だよな」
イズミがそう聞いたが、オビはフル無視してバーンッと襖を開けた。
中には三人いた。縦長の机を囲んでいる。奥におじいちゃん、その右に若い女性、左に40代くらいの男性が畳の上に座っていた。イズミはその面々を見て、顔面蒼白になった。オビをバッと見て、怒りの形相になる。表情変化が著しい。
「お前ッ」
「てへっ!めんご旦那!めっちゃ会議中だったわ!」
「めんごで済ませんな馬鹿かよお前は!!」
会議室にいる三人から視線が注がれる。イズミはその視線を感じ取り、即座に座って頭を畳に擦り付けた。それを見て慌ててカノも土下座をしようとした。クロはそんな二人を何をやっているのだろう、と不思議そうな目で見つめている。土下座をする気はないだろう。
「……本当に申し訳ございません。オビにゆっくり話せる場所が欲しいと言った私が馬鹿でした」
「馬鹿とはなんすか、酷いなぁ。会議の存在、ちょ〜っと忘れてただけでこんな言われないといけないんすか〜?」
オビは全く反省していないようだ。今が会議中だと言うならば、ここにいるのは武具協働組合の偉い人たちのはずだ。オビも偉い人たちの一人だとしても、明らかに年上のおじいちゃんがいる中で、そんな態度はカノには取れないだろう。
「オビく〜ん、もしかしてその子たち〜…」
ゆったりとした話し方で話し始めたのは若い女の人だった。穏やかにゆっくりと話すため、聞いているだけで眠気を誘われる。
「そ!俺の旦那!!」
「言い方悪いぞオビ…!!」
ごめんごめんと全く思っていなさそうな声色でオビは謝っている…。旦那、と言うのはきっとオビの中では貿易相手という意味だろう。何も知らない一般人が今この場だけを切り取れば、誤解されかねないが。
「あ〜、じゃあ、君がイズミくん?あの、追放された〜」
追放、という言葉にイズミは一度固まった。一呼吸置いてから。
「…はい」
「私ね〜、君の裁判見て、心動いたの〜。あんなに悲痛そうに叫ぶ子、初めて見たから〜」
「それは…良かったです」
イズミの顔にはどこか影が落ちていた。良かった、と思ってはいるが、やるせないような、そんな表情。
「…い、イズっち…?追放とか裁判とか…うちよくわからないんだけど…?」
武具協働組合の人は、過去のイズミのことについて知っているようだ。クロは虚空をぽけーっと見つめている。クロが呆けている中、カノが聞くしかないのだ。
「…そいつは、巫女の革新派だ。巫女の外出禁止を取っ払うために、デモだったり裁判だったりを自発的に行ったやつさ」
イズミではなく、40代くらいの男性が答えてくれた。
「ここの人間は巫女のことを現人神だと考えている。だから、外に出さず、ずっと安全なまま死なせたいんだ」
言葉に若干棘が混じっていた。
「も〜、ハオリ、巫女様の悪口〜?ダメだよ〜」
「そ〜っすよ!エリさんの言うと〜りっ!」
オビはどちらかというと便乗のように聞こえたが。
それにしても、だ。過去のイズミはそこまで巫女を救うために運動をしていたらしい。だが、その結果は火を見るより明らかだ。何も変わってはいない。
「……ハオリさんは、革新派ですか」
一握りの希望を見るかのように、イズミはハオリと呼ばれた男を見た。
「もちろん。…表舞台に出てこないだけで、意外と革新派はいるぞ。だけどこの国は保守派が大多数だからな。この国の国民は大多数派に弱いんだ。…わかるだろ」
「……えぇ。身をもって実感しましたから」
その声色は、少し震えていた。
「…ハオリ、さん?えっと…詳しく教えていただけませんか…?」
カノは知りたかった。イズミが過去に何をやったのか、詳しく聞きたかったのだ。
「…後でな。すまんが、今は会議中だからな。…オビ。客人に色々教えてやれ。あと、会議のスケジュールを確認してから押し入れ」
オビに向かってビシッと指を突きつけた。
「は〜い、すんませーん…じゃ、旦那、カノちん、クロちん、行こっかぁ」
何気にカノちん呼びをされた。特段何も思わなかったため、そのままにしておくことにした。クロも何も思っていないようだ。というか、起きているのだろうか。微動だにしないため、目を開けたまま寝ている可能性がある。
「…クロさーん」
立ち上がったイズミがクロに声を掛けたが、反応がない。イズミは一度ため息をついてから、クロを持ち上げて担いだ。かなり粗暴だ。
「…え〜?大丈夫なの〜?クロちゃん」
イズミのクロの対応にエリは目を丸くした。流石に現冬春国王がクロだというのは知っているはずだ。そんな戦争の国の王を、幕僚が担いでいいのか。そんな心配の色が目に見える。
「クロさんはこうしないと動かないんですよ…」
イズミも渋々といった感じらしい。
イズミはそのままクロを担いで、会議室から出たオビに続いた。カノも立ち上がってイズミの後に続いた。
ーーーーー
オビに着いて行った先には、会議室よりかは小さいが、話し合いには最適な部屋があった。
「ここならいいっすよね〜。んで、何話せばいいんでしたっけ?旦那の話?」
「うちが聞きたい!」
はいっと手を挙げた。気になるのだ。
「ってこの子が言ってんだけど、旦那オーケー?」
「…良いですけど。カノさん、バッドエンドの話を聞いても…じゃないですか?」
「これからハッピーエンドにするんでしょ?なら今までの顛末くらい知っておかなきゃ!」
「自分も。巫女について知りたい」
クロも立候補した。
「……じゃあオビ。言え」
「旦那の口からじゃなくていいんすか?」
「第三者の方が、いいだろ」
旦那がそう言うなら〜、とオビは区切り、話し始めた。
「えーっと、忍和国には三大勢力があるんすよ。我らが武具協働組合、王族、巫女族の三つ」
「王族と巫女族って一緒じゃないの?同じ城にいるんじゃなかったっけ」
「ここちょっと難しーとこなんよね!簡単に言うと〜、王族が巫女族を支配下に置いてるって感じ!」
「…??支配下に置かれてるのに三大勢力に含まれてるの?」
巫女族が王族の下にいるのならば、結果的に王族の勢力が拡大しているはずだ。
「この国は巫女の信仰馬鹿強いすからね〜。王族と巫女族を分けて考えてる人が大半!」
「…んー?じゃあ王族が巫女族支配してる理由は?」
「巫女族を掌握することによって、色々できるんすよ。旦那が問題視してる、巫女太陽の光も浴びられない軟禁状態のこととか。あれ王族が憲法定めてやってるんで。あとー、知ってる?巫女を金儲けに使ってんだよね王族」
「……詳しく」
クロが聞いた。あのクロが。イズミとカノは目を丸くさせた。
「お、お〜、クロちん興味ある感じ?おけおけ、詳しく話すわ〜。ま、ざっくり言うとね〜、巫女と一対一で会話できる代わりに金払え!ってやつ」
「……え?それで人来るの?」
「もちろんすよ?ていうか毎日予約いっぱい!数年先まで予約埋まってるんすよ!あと普通に料金馬鹿たけぇ!」
「ぐ、具体的な数字は…?」
「10分1000万リヴ」
「たっっっっっっか!?!?」
思わずカノは仰け反った。
「それでも…巫女に会いたいって人がたくさんいるんだ……」
「そうなんすよ〜。それがこの国の怖いとこすよね〜〜」
やれやれとオビは肩をすくめた。
「んで!旦那の生まれは実は貴族なんすよ!」
「…え!?」
バッとイズミを見た。当の本人はどこか視線を彷徨わせていた。
「旦那は〜鳴上家っていう、代々巫女をお世話する一つの貴族の長男なんすよ〜。だから旦那は巫女をお世話してたんすよね」
「お世話係って貴族がやってるんだ…?」
カノのイメージでは、位の低い人が偉い人のお世話をするイメージだった。
「平民は普通、巫女に会えること自体許されていないので。だからこその鳴上家です。もう一つ、鳴上家と同じ巫女を世話する西道家もいますね」
「…な、なるほど…?」
要は、平民如きは巫女のお世話をする価値なんてない、ということなのだろう。
「それで…イズっちは反対運動を起こしたんだよね?」
「流石にこっからは旦那の口からじゃな〜い?ねー、旦那ぁ?」
オビはイズミに話を振った。今までの話は忍和国の巫女という存在について話していた。ここからはイズミが何故運動を起こしたのか、になる。私情なのだろう。だからこそ、オビはイズミに話して欲しいのだ。
「…巫女は、シロさんは…ずっと辛そうでした」
イズミはそう呟いた。
「毎日毎日知らない人と喋って、休みはほとんどない。朝起きて、朝食を取って、人と話して。昼食を食べてまた人と話して。夕食を食べて風呂に入って寝る。常人では到底考えられない生活です。時々、マナー講師がやってきてレッスンをするくらいです」
聞いているだけで吐き気がしそうだった。過酷だ。生き地獄とでも言えそうな生活だった。珍しくクロが興味深々のようで、少し身を乗り出している。
「シロさんの部屋に窓はありません。対話室にも、部屋から対話室に繋がる廊下にも、窓はありません。太陽光を浴びられるのは、数年に一度の演説会のみです」
「…精神、狂ってないの…?」
「シロさんは強すぎたんです」
カノの心臓が少し跳ねた。同じ言葉を言われたことがあったから。カノも強すぎた。新日学園でいじめられても、傷やあざが増えようとも、なんともせずに通い続けた。それと似たようなものなのだろうか。
「…ですが、もう限界のようでした。15歳の時点で希死念慮に襲われていましたから。あれから2年。どうなっているのか見当もつきません」
「2年…」
人が変わるのに必要な時間をとっくに超えている。
「私の知っているシロさんではないかもしれませんが…」
「いや?そこは旦那大丈夫っす。少なくとも、俺が知ってる限り、巫女は変わってないらしい!証拠に、巫女の予約スケジュールは変わってないっすからね。精神が壊れたとか体調不良とかは起こってないらしいぜ?」
それは証拠にはなるのだろうか。だが確かに、まだ対話が可能なのは壊れていない証拠ではある。
「…とにかく。私は巫女の待遇の改善を求めました。具体的に言うならば、外出許可、休日の実装などですね」
「人間として最低限の暮らしを求めたってことね」
その人間の暮らしは最低限も最低限だったが。
「法的制度を訴えたり、反対運動をしたりしました。ですが、全て王族によって揉み消されました」
「巫女で金稼いでるのは王族だからな〜。収入源を失いたくないんすよ」
「収入源…」
武器ではなく、人を。
「この国には三種類の派閥があります。革新派、保守派、同調派です」
「俺は同調派〜!武具協のお姉さんが保守、おっさんが革新、一番偉い爺さんが保守!俺は多数派に身を任せるから保守っす!」
「お前みたいなのが一番嫌いなんだよ…」
イズミは舌打ちしそうな顔で呟いた。確かに、デモなど表立って活動した革新派であるイズミにとって、多数派に流される同調派は敵同然なのだろう。
「…あ。そういえば旦那。なんで忍和に来たんすか?」
突然、オビは核心をついてきた。
「忍和の話したり、巫女の話したり、過去の話したり…いつも会談に来る時は連絡もちゃんとするし、こんなこと喋んないはずすよね?」
「……まあな」
イズミは肯定してしまった。しかし、今ここで嘘をついたとしても余計にややこしくなるだけだ。今までの会話からオビは保守派革新派のどちらでもない、中立派のように思える。それならば本当のことを言ったとしても大丈夫なのではないのだろうか。
「あ、それにクロちん。クロちんって冬春の王様じゃなかったっけ。旦那が王様連れてくるの珍しいすよね。戦争でもしに来た?」
オビの眼光が鋭くなった。
「冬春の王様。今日は違う」
「クロち!?今日はの部分いらないよ!?」
慌てて訂正した。今日はがつくだけで、いつかは忍和国と戦争します、と宣戦しているようなものだからだ。本当にそれで始めたことがあるのが冬春の歴代王だ。
「…じゃあ、巫女の話結構したから、そっちすかね?」
オビはイズミを見た。巫女系譜ならイズミだと目星がついているようだ。視線を向けられたイズミは、オビに向き直った。姿勢を正し、凛とした雰囲気で。
「…俺らは革命を起こす」
空気が張り詰めた感覚に、カノは息を飲んだ。オビの目が面白いと言いたげに細くなった。
「へ〜?2年越しの再チャレンジってことすか」
その言葉の割に、声は興味津々のようだった。
「お前はどうするんだ」
武具協働組合に報告するのか、傍観者を続けるのか。もし報告するのなら、かなりまずいことになる。冬春国への武器供給が止まり、全面戦争になりかねない。
「俺?俺は〜、なんもしないっすわ!武具協に報告もめんどい!…あーでも、冬春への武器供給は少なくなるかもすね?俺の意思かんけーなく、武具協のトップは保守派すからね」
オビ自身は何もしないが、武具協働組合としては動かざるを得ない、というわけだった。
「それでもいい。…いや、良くはないんだが…」
冬春国の幕僚というイズミの立場上、武器供給が少なくなるのは莫大な痛手だ。だが、それでも…巫女を救いたい気持ちが先行した。
「武器がなくとも、体術や技能を中心とした戦いに変更すれば良い」
イズミが言い淀んだのを見て、クロが口を挟んだ。
「良い。自分が認める」
「……どうしたんですか、本当に」
イズミの目は丸くなっていた。驚きの方が大きいらしい。
「自分も救いたい。それだけのこと」
クロにとってその言葉は、珍しいなんて生優しいものではなかった。人に興味を持ち、ましてや救いたいと言う。天変地異が起きるレベルで信じられなかった。
「それだけのこと、って……いや、クロさんが良いというなら、良いですよね」
イズミは考えるのをやめ、目を伏せた。数秒後、目を開き、オビに視線を合わせた。
「革命を起こす」
「良いっすね〜。関係ない俺でもドキドキしてきたっすよ〜〜!!」
オビは身悶えるように足をバタつかせた。それをイズミとカノはなんとも言えない表情で見ていた。
「で?で?具体的にどうするんすか〜?」
「さ、流石にそれは…」
カノは止めようとしたが、弱々しい静止の声になってしまった。
「協力するわけじゃないんだろ。じゃあこれ以上踏み込むな」
イズミはカノの代わりに言い放った。巫女略奪の計画のためであり、オビのための言葉でもあった。これ以上踏み込めば、革新派だと間違えかれない。
「……ふーん。旦那って案外根は優しいっすよね」
オビのためを思って言った言葉だと認識したのか、オビは少し照れているようだった。
「…じゃ。俺から言えるのはこんくらいすかね。あ、そうだ旦那。次の会談ってどうします?」
唐突に輸入輸出の話になった。オビは武具協働組合で神聖王国と冬春国の担当をしているらしい。どれだけ輸出するのかを決められると言うわけだ。そしてオビと対談し、交渉をしたりするのが幕僚イズミの仕事である。
「今日会談はできないから変わらずでいい。神聖王国の支部に行けばいいんだよな?」
「おーけー、いつも通りってことっすね!りょーかいりょーかい!」
オビは軽い感じで返し、立った。
「今日決行するならそろそろすよね?巫女の演説会。旦那たちも忙しいだろうし、ここでお開きにするっす。帰り道案内しますよ〜」
その言葉を皮切りに、イズミとクロが立ったため、カノも慌てて立った。
オビは来た道を辿って、案内をした。すぐに出口に辿り着いた。
「俺はまだ仕事あるんで!ここでばいばいっす。…応援はしますよ、旦那」
オビはイズミに視線を送ってから、踵を返して本部に帰って行った。イズミはオビが去ってから長く息を吐いた。
「……残り数時間です。カノさんが待機するポイントと、クロさんの配置を決めます。着いてきてください」
その目には、覚悟が決まったような光が宿っていた。
「うん!」
カノは元気良く頷いた。
一日遅れました!!すみません!!!!!!




