臨時会議とこれから
カノは極度の緊張によってショートしかけていた。無理もない。
まず先程会ったばかりの二人と今から仕事を行わないといけない。カノにとってそれはまだいい。二人とも自身より年上。それもまだいい。
一番良くないのは…このクロだ。人の気持ちを上手く読めるカノにとって、クロの気持ちは全くもってわからないのだ。
アルザから事前に名前とどんな人物かは教えてもらっていたが、あまり役に立たない。
これから話していけば自ずと分かるだろう。そう結論付けたのはいいものの、少し話しただけでも全く読めないのはどういうことだ。
「カノさん、大丈夫ですか?」
あと何故この大人は未成年をさん付けするのだろうか…不思議でならない。
それ以外にも様々な不思議なことがある。
故に、イズミが話す内容が入ってこない。
「大丈夫です!!」
分かっていないのに大丈夫だと言ってしまう癖をカノは治したくなった。
本当に集中しないとやばい、とカノは一度深呼吸をしてイズミの話に耳を傾ける。
「忍和国は和の国です。…今言ってしまえば、私は忍和国の巫女の世話係でした。ヤクモが着ている紫の着物、あれは昔私が着ていたものです」
「えっ、そうなんだ…」
じゃあなんで冬春国にいるのか、カノはそれを聞きたくなったが、イズミ自身が話してくれるのを待つことにした。
そしてカノは授業を意外にもちゃんと聞いていた。だから忍和国の制度は分かる。
簡単に、悪く言ってしまえば、巫女を金儲けに使っている。巫女とお話しできる権利と引き換えに、金を頂戴しているのだ。
「知っているのですか。…巫女の境遇は知っていますか?」
「んー…大まかになら。巫女を金儲けの道具に使ってるんでしょ。でもそれ以外はあんまり知らないかな」
「合ってますよ。…付け加えると、巫女は城に軟禁されています。カーテンがない窓の前を通ってはいけない。太陽の光を浴びることができない…ルールに縛られた生活を送っています」
「…そこまでなんだ」
巫女がそこまで酷い待遇を受けているとは知らなかった。カノは巫女の暮らしを想像しようとしたが、具体的なイメージを掴むことができなかった。想像することができないのだ。
「…?演説会は」
「あれは数年に一度のお祭りみたいなものです。あの日1日だけ外に出ることができます。ガチガチに護衛が付くので全く自由ではないんですけどね」
忍和国は絶対に巫女を守りたいようだ。貴重な血族を後世に残そうとしている。しかしそれとは裏腹に資源としても活用しようとしているのが垣間見える。
果たして巫女とはなんなのだろうか。
「古雨国のように冬春国絶対敵対視ではありません。冬春国民が侵入したとしてもそこまで大騒ぎにはなりません。…それに、忍和国は八大王国の中でも軍事力が低いですから」
騒ぎになったとしてもすぐに鎮圧ができる、ということだろう。
「実は明後日、演説会の日なんです」
「……」
「演説会がある日には権能が使えない結界が張られているのですが…クロさんならその身体能力でなんとか奪取はできるはずです。そのまま結界外へと行き、カノさんが拾って冬春国へ戻る…今のところそういう計画です。後ほど作戦の詳細は詰めますが、質問はありますか?」
「結界って人通すやつなの?」
結界系の技能にもいくつか種類がある。人そのものを拒むもの、特定のものを拒むもの、そのどちらも拒むもの。他にも例外のような結界もいくつかはあるが、結界の種類は大体この三つだ。
「当日の早朝、忍和国の中心である在月に権能を通さない結界が張られます。なので、クロさんには在月外まで走ってもらうことになります」
「わかった」
一瞬の間もなくクロは頷いた。カノはその反応速度に驚いた。思考が速いのか、はたまた何も考えていないのか…
「目標地点などはもう少しお待ちください。…あ、そうでした。私の権能について共有しましょう」
イズミはそう言って権能について話し始めた。
イズミの権能は『戦略』。『最適解』、『冷静判断』、『思考加速』の三つの技能で成り立っている。
『最適解』というのは、イズミが脳内で疑問系で考えれば、その最適解を導き出してくれる便利なものらしい。だが、自身が知らないことを知ることはできないと。詳しく言うと脳の思考を効率化してくれるものだ。それによってイズミは戦略を立てているのだった。
そして『冷静判断』。名の通り、乱れた思考を綺麗に正す技能だとか。onかoffかを切り替えることができるため、適所に応じて変えることができる。
最後にクロも持っている『思考加速』。
「私はクロさんほど情報処理能力は高くありません。『冷静判断』を併用して使用しても、思考加速下5秒で思考が乱れます」
「クロちは何秒までできるの?」
ふとカノは疑問に思った。カノは思考加速を持っていないため、思考の乱れだとか限界だとかはよくわからないが、なんとなく疑問に思ったのだ。
「…1分?限界までやったことないからわからない」
「化け物でしょう?」
ね?と共感を促すような言葉にカノは思わず頷いた。イズミの5秒とクロの1分はカノでも次元が違うことはわかった。
「…ですが、実は私人並み以上に視力が良いんです」
「え、その眼鏡は…?」
イズミは常に眼鏡をかけている。かなり丁寧に扱っているようで、指紋やゴミなどは全く付いていない。故に、イズミは目が悪いのだとカノは思っていた。
「ブラフですよ。そういうのは多ければ多いほど良いでしょう?…それでですね。5秒という短い間だとしても、些細な動きを見つけ、相手が何をするかを当てることができます。クロさんみたいに避けるまではできませんが」
聞くに、クロは戦闘時に思考加速を常用しており、攻撃は必ず避け、クロからの攻撃は必中と、なんともチートなことができるようだ。広範囲の攻撃でもない限りクロに傷をつけることは至極困難だということだ。
「クロさんは権能紹介しないのですか?」
「別にいいけど」
クロの話すスピードはかなりゆっくりなため全て聞くのに時間を要したが、その時間分有益な情報が手に入った。そして、権能が強いと言われたカノでもクロの権能には敵わないと感じた。
クロの権能は『平等』。内包されている技能は4つ。…と何やら後付けの技能というのもあるらしい。ともかく、内包されている技能は『開戦』、『悪魔ノ加護』、『精霊ノ加護』、『思考加速』の四つだ。
『開戦』はある種の権能だ。『開戦』の中にまた技能が入っており、それが『爆撃』、『槍襖』、『閃光』の三つがある。『開戦』で頭上に魔法陣を展開して、その魔法陣から技能を降らせることができるのだという。
そして『悪魔ノ加護』。何やら、見た目が悪魔と似たような姿になり、炎の『もの』を操作できる権限を貰えるそうだ。
「炎の『もの』…?」
「化学で習いませんでしたか?…簡単に説明すると、炎を扱えるようです。原理等は難しいので、今度個別で教えて差し上げましょう」
化学は一個上の学年になってから習うものだったはずだ。義務教育で『もの』という単語は聞いたことあるが、詳しい説明はなかった。
次に『精霊ノ加護』。『悪魔ノ加護』と似ており、見た目が精霊と似たような見た目になり、水の『もの』を操作できる権限を貰えるそうだ。
カノは少し疑問に思った。一つの権能に悪魔と精霊という、この世界では相反する生物同士が同じ権能に技能として内包されていることに。
「あと思考加速。…と、平等っていう、後付けの技能がある」
カノの頭の上に疑問符が浮かんだ。権能の特性的に技能を五つ持つことはできないと知っていたからだ。
四つ持てば直径10mの生命反応を感知でき、三つ持てば直径50mの魔力反応を感知できる。
この仕様を反対に言えば、四つ以上持つことができない、になるらしい。どこぞの権能研究者が論文で発表していた。
「…後付けの技能ってなんですか?」
イズミでもわからないらしく、少し下に下がった眼鏡をカチャと上に押し上げながらクロに聞いていた。
クロの権能の名称が『平等』だったはずだ。それを冠する技能…何らかの関係はありそうだが、何せ実例が一人しかいないのだから確かめようがない。
「後付けは後付け。…前八神の一人に聞いたけど、世滅人の中でも数人しか発現してないらしい」
「いやだから後付けって何ですか!?あと八神の一人に聞いたって何ですか!?」
クロが発言していく度に謎が増えていく。クロは説明がめんどくさいという雰囲気を醸し出したが、イズミはそれを許さなかった。故に、クロは渋々口を開いた。
「後付けは、自分もよくわからない。前王の支配が解けた時にはもうあった」
「支配される前にはなかったってことですね?」
「うん」
支配される、というのが鍵なはずがない。それならば後付けの技能持ちが大量発生しているはずだからだ。ならば、支配されている時にクロがした行動が鍵になるはずだ。
「その技能の説明をしてもらっても?」
「『平等』は世界全体に及ぶ上書き魔法」
「「世界全体!?」」
イズミとカノの声は綺麗にハモった。あまりにもスケールが大きすぎたためだ。
「え、今まで使ったことある…?」
「一回だけ。魔力消費多すぎて五秒しか維持できなかった」
「…もしかしてあれは…」
イズミとカノは少し前に世界をざわつかせた件を思い出していた。
その内容は、約五秒間権能が使えなくなったことだ。実際イズミも体験していた。戦略を『最適解』で熟考している時に不意に効果が消えたのだ。
「五秒間使えなかったのは、発動させる技能そのものがなかったからか…」
「権能が上書きされたことは、一度自分の権能を直視しないとわからない。だからそんなことが起きた」
「あ、でも逆に考えればみんなクロちの権能使えるってことだよね?」
「そう」
「…いや、クロさんの魔力量は化け物ですよ。『開戦』の魔力消費量は半端ないって聞いたことありますし、加護系統はわかりませんが…どうなんですか?」
「加護は維持するのに魔力がいる。多分、一般的のたくさん」
そうなると、クロ並みに魔力量が多くないと使うこともままならないと言うことになる。思考加速も一般人が容易に使えば途端に廃人化するため、使うことはできないだろう。
「それと、八神の一人とは…どういうことですか?」
カノも気になっていたとこだ。八神は名前だけ聞いたことある。直訳は八人の神だが…実態はどうなのだろうか。
「名前知ってる?」
「もちろん。有名な神ですよね。超越者ラピに仕える八人の神」
超越者ラピ。これはカノでも知っている。
この世界には超越者という存在がいる。ある壁を乗り越えて、災害ランクでいう幻の級…それを取得できたら超越者と呼ばれるらしい。現在大々的に出ている超越者は4名。そのうちの一人がラピだ。
世滅人と超越者は被っていないことをカノは覚えていた。
「合ってる。あんまり知られてないけど、八神は世滅人を監視してる。一人一神で。自分の担当は雷の神サン」
「なるほど…監視ですか」
カノは思わず辺りを見回した。もちろん辺りにはクロとイズミ、そしてカノ自身しかいない。透明なのか実体を持っていないだけなのか…そこまではわからなかった。
「多分今も見てる。自分が世界を破壊しようとしたら干渉してくると思うけど、それ以外は何もして来ない。…自分の呼び掛けには時々応じてくれる」
「それは戦力として考えない方がいいですね…」
八神の強さはわからないが、監視というものを任されている以上、世滅人と互角なのだろう。となるとそれを束ねている超越者はもっと強いわけで。その超越者をまとめている超越者もいたはずだからその人の方がもっと強くて…。
カノの頭はインフレを起こした。カノの理解範囲は世滅人で十分だ。
「…権能の開示もしましたし、これでかなり戦略は良くなるはずです。ご協力ありがとうございます。…それで、日程ですが。明後日の早朝には忍和国についていたいので…明日の深夜にはここを出ましょうか」
「あ、そうだ。そのことなんだけど」
歩きよりもよっぽど楽なことがある。
「うちが『多在』使って、忍和国にもう一人のうちを送るよ。忍和国についたら『記憶』をしてもらうの。そしたらいつでも忍和国に飛べるようになるよ。えーっと…会議終わったらすぐに放つね」
「あぁ、その手がありましたね。ありがとうございます。…となると、これからかなりカノさんの『多在』が必要になっていきますね…今『記憶』している地点はどこなんですか?」
カノは自身の記録を直視した。
「国単位で言うなら…暖海国、古雨国、古雨国、古雨国、でさっき『記憶』した冬春国」
「『記憶』は五つまででしたね。…暖海国の『記憶』がなくなってしまいますが…大丈夫なのですか?」
「うん、大丈夫だよ。もう故郷に戻るつもりもないしね」
できる限り明るく言ったはずが、少ししみじみと言ってしまった。
「わかりました。では、出発は辰刻にしましょう。例年通りならば巳刻に結界が張られるはずなので。演説は…まあ忍和国につけばわかることでしょう。カノさん、今日はゆっくりとお休みください。クロさんはちゃんと期限が迫っている書類を片付けましょう。それでは、ここで会議を終わります」
イズミが席を立って一礼したため、カノも慌てて一礼する。
「イズミ、疲れた」
いつもと変わらなさそうな顔をしながら椅子に溶けていくクロを、イズミはいつものような雰囲気でクロを椅子から持ち上げた。明らかに持ち方が猫ちゃんを持つ持ち方だ。クロとイズミには10cnほどの身長の差があるため持ちにくそうだが、イズミの力は強いらしい。
そうしてクロはイズミよって連行されていった。今までの会話を鑑みるに、書類を片付けに行ったのだろう。
「よし!一回外出よ」
カノは『多在』を使うために、会議室から出ていった。
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とりあえずアルザはミケを回収しにいった。適当な兵士に預けたと言っても名前はちゃんと覚えているし、どこに所属しているかも覚えている。それにミケをこの部屋から出さないでとも言ったので、アルザはその部屋に向かうだけで良い。
アルザは無事にミケを回収することができた。兵士はミケに結構怯えているようだった。きっとヤクモやカノと同じような態度をミケが取ったのだろう。故に、ミケが大人しくアルザの腕に収まったのを見て、何かの間違いだと言いそうな目でアルザを見ていたのだ。
アルザは自身の部屋へと帰る。ミケのために何も用意はしていないが、少なくとも雨風凌げる部屋さえあればミケにとって十分だろう。
アルザはミケを部屋に放って、少し古い手作りそうなクローゼットを開けた。
ようやくこの服から脱することができた。そう思いながら新日学園の制服をハンガーに掛ける。そして冬春国の軍服に手を通した。まだ少ししか着ていないが、制服よりかは身に馴染む。
安堵の息を漏らして椅子に座った。
今までのこととこれからのことを考えるために。
冬春国の幹部になる前、秋冬のアルザは生存に重きを置いていた。余裕があれば自身の過去を知りたい、そんなレベルだった。
だが今は違う。毎日死と隣り合わせなわけではなくなった。そして守らなければならない存在が増えた。過去も少しは知ることができた。
これからアルザはどう動くべきなのだろうか。
アルザはため息をついた。頭を回転させて未来を考えていく。
まず、アルザの優先順位として、総団長としての責務を果たす、生き残る、もっと詳しく過去を知る、だ。
総団長としての責務は、これから果たしていくつもりだ。兵士に稽古はつけるし、精神ケアもする。ちゃんと前線にも出る。まだ戦争はしていないから、これからな部分が大きい。
次に生き残る。これは単純なことだ。アルザ自身が鍛錬を積めば良い。鍛錬を積めば身体はきっと応えてくれる。それにアルザにはまだ『限界突破』がある。
最後にもっと詳しく過去を知る。前王から知った情報は、過去にアルザは前王に支配されていたことだ。支配回路が弱すぎるというのもあるが、王は降伏していないクロを支配することができていたため、アルザも降伏はしていないものの支配されていた可能性が高い。
だが、少し不思議なのはアサギやヤクモ、イズミが支配されていたアルザを知らないことだ。クロのように兵士としては戦っていなかったのかもしれない。それか普通にアサギたちが兵士に興味がなかっただけか。
それと、何故記憶喪失になったのか。アルザ的に、ここはかなり記憶にモヤが掛かっている。一番古い記憶は、地べたを這いずりながらブラックアウトする視界の中でミケを見たこと。場所は冬春国だったはずだから、前王からの支配をが解けて逃げ出した後だろう。
その後は本当に覚えていない。気付いたら冒険管理署の近くにおり、目の前には食料があったのだ。
アルザは時折不思議に思うことがあった。
そういえば制服のポケットに入れたままだったな、と隠れ家に戻った時に取ってきたメモを取り出す。
このメモはまだわからないが、アルザには後ろ盾がいるように思えていた。
「いや、そんなわけ、ないか。冬春国だし」
ここが他国だったら少しは信じていたのかもしれない。だがここは生憎冬春国。自分の生に執着しなければ死ぬ国だ。
再び一息つく。
アルザが前王から逃れてから今までは繋がっている。では支配される前は?
冬春国民だったのか、他国の降伏者だったのか。どちらもそれを裏付けられるような証拠はない。
「今までどこの国と戦争したかまとめられてないかな」
アルザが生きてきた17年。その17年の間にどこと戦争しているのかを知りたいのだ。しかし、アルザがしようとしていることはかなり無謀なことだ。何故ならどこと戦争したか知ったとして、まず本当に自身が降伏者なのかは判明しないし、どこの国から来たのかもわからないからだ。
アルザはそこまで考えて頭を悩ませた。
「…運命を信じてみようかな」
そもそもクロについていこうと思ったのは本能のようなものだった。本能で惹かれたのだ。それを運命だとアルザは感じている。事の始まりが運命だったのなら、とことんそれを信じてみよう。アルザはそういう結論に至った。
「仕事しよ」
アルザにも業務はある。それは机の上に溜まっている書類だ。武器だったり防具だったりが壊れると総団長に申請が来るのだ。それを承認して、秘書に渡し、それが最終的に王の元へと渡り、手続き完了となる。総団長経由しなくても…とアルザは思ったが、秘書や王の仕事が膨大なため、いらないものは総団長で切り捨ててもよし。みたいなそんなスタンスらしい。
アルザはペンを取って書類に署名をし始める。
ミケがアルザを応援するようににゃーと鳴いた。
ーーーーー
「うぉー…本当に更地だ」
一方ヤクモは会議が終わってからすぐ、イズミが会議の時に話題に出していた10mが更地になった場所に来ていた。
ヤクモに問題解決をする気は端から無いが、調査という名目で探検しに来たのだ。
お供として情報伝達団の兵士を連れてきたため、詳しく教えろと情報の開示を促す。
兵士は恐る恐る話し始めた。当然だ。この兵士にとってヤクモとは、上司の上司という存在なのだ。
「えーっと…ここでの消失が確認されたのは一昨日の寅刻。真夜中なのもあり、消失した瞬間を見た人はいないようです。少なくとも子刻では建物などは存在していたようですが…。ここら周辺の建物は全てただの民家だったようです」
確かに、辺りを見回してみるとここら一帯は民家…と言ってもボロボロの…のようだ。10m範囲外のところにも廃屋がチラホラと点在している。
「誰かがやっても意図なんてわかんねーもんなぁ。こんなことやって何になんのか」
「強いていうなら、冬春国の戦力を減らしているのでは無いでしょうか…?」
「あぁ?どういうことだ?」
「ちゃんとした情報や証拠は無いのですが…やはり冬春国民は減少しています。特にこの現象が起こり始めてから少しずつ。今までは難民を継続的に受け入れていたり、生存本能が刺激されて生殖行為が多発したりとで冬春国の人口としては増加気味でした」
「あー、戦力って冬春国民のことか…まあそうか。他国の一般市民よりかは遥かに強いもんな」
ヤクモはしゃがんで地面の砂をひとつまみ取った。サラサラとした砂だ。
「…ここだけ砂違うんだな」
冬春国の地面は基本的にゴロゴロとした石が多い。そのため普通に寝転がったりでもすれば背中が痛くなる。転んだらもっと痛い。
「違う、というよりかは…昔の記録ではあるのですが、昔はこんな地面だったようですよ」
「じゃあ、なくなったってよりかは戻ってんじゃねーのか?」
それならば納得がいく。だが、そうなると話が変わってくる。
「…あぁ。そういう視点で見ていませんでしたね。ですがそうなると…時を戻す魔法、ということになりますね」
「誰がやってんのか、そういう現象なのか…はー、これから調査してかないとな…」
ヤクモは頭が痛くなった。ヤクモに難しい話は早かったのだ。




