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言及②

ランドくんたちに連れられ向かった先には、国会議事堂の地下で見た光景が再来していた。

「えー…また牢に閉じ込めるつもり???」

「またとは何だ、またとは…」

「あ、そうなんだ」

意外だった。てっきりランドくんが命令したのかと。目をぱちくりしていると、ランドくんは気味が悪そうな顔をした。

「とりあえず入れ」

「嫌なんだけどー。それとも何?古雨国民は冬春国民を牢に入れる習性でもあるの?」

「あるかないかで問われれば…あるな」

「あるんだ…」

そんな適当な会話をしながら僕は自分の脳をフル回転させていた。これから何が起こり得るかを全ての思考をもって考えているのだ。

「ふぁ〜、ねーねーランドくーん…今から何するのー?アタシ知ってる風にランドくんに着いてったけど、よくわかんな〜い」

ロボットがあくびをした…。そして伸びもした…。到底ロボットとは思えない動きを視界に捉える。

「空気を読め、メシア。見ていればわかる」

ランドくんは壁に近くにあった操作パネルのような液晶パネルをポチポチと押して操作した。

僕もそれをぼーっと見ているわけではない。まあ少し知恵熱が出て何も考えずにぼーっとしたくはなるが。

とりあえず脳をフル回転させて僕が考えたのは二つ。

一つは単純明快、僕を問答無用で殺しにくるパターン。もう一つは、僕の話を正直に聞いてくれるパターン。

後者は半分僕の願いに過ぎない。きっとランドくんなら…

「あ!わかった!ここってそういえば…」

メシアちゃんが閃いたような声を出した瞬間、重厚な機械音がどこからか鳴り始めた。ランドくんが何らかの機械を作動させたのだろう。

一つ目のパターンか、と決断して身構える。懐にあるナイフに手を伸ばすだけ伸ばす。いつでも逃げる準備はできている。

「残念だったな、俺は性格が悪い。そんな真っ向勝負はしないのだ」

機械音が近付いてきた。辺りを見回そうとした瞬間、二の腕付近がどちらも圧迫された。

「…!?」

二の腕を見てみると、枷のようなものが付けられていた。かなりキツく絞められており、絶対に逃さないという意志を感じる。

そしてその枷には鎖がついており、それの元を辿ろうと上を見上げると、次は足首に圧迫を感じた。

足首にも二の腕についている枷と同じようなものが付いていた。

流石の僕でも額に冷や汗が浮かぶ。四肢を拘束されてしまった…

だけど、二の腕に枷をつけてくれたのは僥倖だ。まだ僕は懐に手を差しっぱなしなのだ。だから武器を取ることができる。

まあ、できたとしてどうするのかは考えてないけど…投擲くらいはできるだろう。それを易々と受けてもらえるほど、ランドくんの身体能力は低くないとは思うが。

色々と脳内で考えていると、また機械が動き出した。四肢がどんどん引っ張られていく。それは懐に入れていた手が抜かれるという意味で。僕は咄嗟に、懐に入っているナイフの近いところにある注射器を取った。

これは水なんかじゃない。正真正銘の…薬。

注射器を取り出して、手首のスナップを効かせて注射器を投げる。投擲の練習は何万回としてきた。力も角度もスピードも。全てが完璧。ここで外す僕じゃない。

そしてその注射器は見事にランドくんにヒットした。

「な…!?毒か!?」

ランドくんは少し声を荒げる。

毒ではないのだけれど。

簡単にいえば栄養がたっぷり入っている。僕に使おうと思って持ってきたのに、無駄になってしまうのは少し残念。

まあでもランドくんは知ってるわけだからね。僕が研究者であるってことを。毒は普通に常用するし、人体の構造もよく理解してる。

だからこそ、僕を知っているからこそ、ランドくんは怖い。

ま、中身はただの栄養剤なんだけどね!

「解毒薬はどこだ、出せ」

ニマニマしてる僕を見て毒だと確信したのか、ランドくんは焦り始めていた。

これで形成は逆転した。ランドくんが頼む立場になったのだ。てか栄養剤なんだから解毒薬なんてないんだけど。

「ふふん。上から目線だなぁ〜。まず拘束を解いてくれない?ちゃんと話そって。そしたら僕もそれ相応の対応をするよ」

「…ん?ねー、アサギくん。さっきのってほんとに」

「わかった。拘束を解こう」

メシアちゃんが何か言いかけたようだったが、ランドくんが遮って機械をポチポチと触る。

その間メシアちゃんはブツブツとアタシの言葉遮りすぎ…と小言を言っていた。確かにランドくんの遮り具合はすごいけど。

ランドくんが機械を触ってから数秒後、機械音が鳴り響き、二の腕と足首の枷は外れた。

「その代わりこれは付けとけ」

「何これ」

アームのようなものが近くに寄り、僕の右手首に腕輪のような黒い何かを嵌められた。手首をクルクルと回して確認してみる。機械に強いわけではないから、見ただけじゃ何もわかんないや。

「爆弾だ。命を握るほどの威力は搭載されていない。それに君は回復系権能保持者だ。こんなあ小威力、すぐに回復できてしまうであろう」

「え、ランドくんさっきのアサギくんの話聞いてた〜?上から過ぎると良くないよって」

今度はメシアちゃんが食い気味にランドくんの言葉に重ねてきた。

「古雨国の代表がそう簡単に折れるわけにはいかないのだ」

それに一瞬眉を顰めたランドくんはそう言い切る。

「元々何か話したかったらしいじゃん、ランドくん。その話をしようよ。エスフューレの追放、君たちが結構絡んでるっぽいし」

「…良いだろう」

ランドくんはメシアちゃんに何か指示を出した。何らかのプログラムの言葉だったからよくわからなかったけど、メシアちゃんはそれを聞いて頷いた。

「要は再現したいってことでしょ?任せて〜!」

そう言うと、メシアちゃんは顔面のモニターにプログラムを並べていく。英単語がズラズラと並べられていくのを見るのは圧巻で…知らない単語ばっかで、僕は観察するのをやめた。

「ん〜、よし!完了!」

途端に、地面から壁、天井にかけてホログラムで埋め尽くされていく。そしてそのホログラムは少しずつ形を変えていき、一つの真っ白な部屋となった。

「えー、やば。これも発明品?」

「いかにも」

誇らしげな表情を露呈させているランドくんを横目に、僕は辺りを見回した。全てが真っ白な部屋だ。だが、今僕が見ている景色は現実ではないのだろう。床や壁に埋まっているチップで投影しているのか。はたまた、僕の脳に直接作用しているのか。

僕的に、チップ投影を推したい。もしチップ投影ではなく脳の直接作用だった場合…ランドくんは人の脳を間接的に弄れるということを証明してしまうからだ。

「ランドくーん。何見せれば良いのー?」

「そうだな…俺たちの結婚相手を決めた三大貴族議会…データは残ってるか?」

結婚相手、という単語で昔を思い出した。確か、三大貴族の結束を強めるために子供ながらに結婚相手を決められたんだっけ。

「んーとね。大丈夫そうだよ!」

「ではそれを頼む」

「おけおけ〜、んじゃ!行くよ〜」

そーれっという掛け声と共に、真っ白な部屋から景色が作られていく。白から灰色へ、茶色へ…とどんどん色が塗られていき、最終的には10年前、僕が住んでいたエスフューレ貴族の豪邸の中の景色へと変わっていた。

「エスフューレの豪邸…」

「そうだ。そしてここは会議室だ。国会議事堂で公式に話せないからな、政略結婚なんてものは。こうやって三大貴族のどこかの豪邸を使って国民にバレずに密かに会議をしていたのだ。…知っていたか?」

「…あんまり。てか10年前の記憶だからそもそも記憶自体が残ってないよ。まあでも…三大貴族の人とはよく豪邸で会った気がする」

「まさにそれだな。…来たぞ。旧政府のお出ましだ」

会議室のドアが開かれ、ゾロゾロと人が流れ込んでくる。

「あ…お母さん」

目の前でお父さんとお母さんが通っていく。それを目で追いながら、ふと昔を追想して懐かしんでしまった。もう取り戻せない過去の話なのに。

『始めよう』

人々が会議室の椅子に座り、多分前ノストレイの当主が話を進め出した。

軽めの点呼をし終わった後、早速目玉の議題、子供達の結婚について話し始めた。フレアキアからは長女であるメシアちゃんが第一候補に出され、ノストレイからは長男であるユフィが第一候補に出された。エスフューレからは、僕のお兄ちゃんであり長男のハスが第一候補として出された。

長々しい議論の末、決まったのはメシアちゃんの第一候補はハスになったこと。第二候補はランドくんになったこと。ユフィはフレアキアの第二候補になった。

「こうして三大貴族の結束は強くなっていったわけだ。メシア、次の場面へ」

「おけおけ〜」

周りの景色が一度真っ白に戻り、そして再び景色が作り出されていく。今度はどこかの庭のようだ。広さを鑑みるに三大貴族の豪邸の庭だろう。

庭にある椅子に座っているのは、顔のモニターに映し出されている顔と全くもって変わらないメシアちゃんだった。自動で花に水をやるスプリンクラーをじーっと見つめながら、何か考えごとに耽っているようだ。

「これだけではわからないだろう。俺が補足をしてやる。本来この時間は、自身の第一候補と面会をする時間なのだ」

「本来ってことは…」

「そうだ。メシアの第一候補、エスフューレの長男はバックれたのだ。…いや、研究にお熱だった、と言うべきだろうか」

「…あー、まあ。そうだろうね」

長男のハスは、僕よりかも遥かに超える研究狂いだった。研究をするためだけに寝て、食べて、運動して。研究のためならば自分の全てを捧げられるような人だった。

だからこそ、研究と全く関係のない人間と会うだなんて、ハスがするとは思えない。時間の無駄だと言って切り捨てていそうだ。

別に僕はそこまで研究狂いじゃない。趣味程度で軽くやってるだけだし。ハスみたいに人生を研究に費やすなんてことはしない。

「今見せたのはほんの一部分に過ぎん。何度も面会の時間を設けたが、来たのは親に強制的に連れられての一度きり。だからこそ、なのだろうが」

メシア、と少し低い声でメシアちゃんに合図を送る。

「…うん。何度も見てるから平気なはずなんだけどね。でも、なんかさ。なんだろうね。あの時を思い出して、すごく胸が痛くなる」

「無理はするな」

「分かってる。でもランドくんは、多分これを見せたかったんだよね…?」

メシアちゃんがそう言った瞬間、景色が再び真っ白になる。そして少しずつ景色が作られていき、今度はどこかの病院の病室であった。

ベッドに寝かされ、点滴やら呼吸器やらを取り付けられた弱っているメシアちゃんがいた。そしてそのベッドの隣の椅子にはランドくんが座っており、必死の形相で持参したようなパソコンをカタカタと打っている。僕かがしてみれば異様な光景だった。

「毎回見て思うけどランドくん必死すぎ!てかこれ何やってるのー?」

現実のロボットのメシアちゃんが、過去のランドくんの周りをクルクルと回る。

「説明したであろう…メシアが理解できなかったからもう説明が面倒なのだ」

小さくため息を吐いたランドくんを見て、メシアちゃんはムーと声を出して不満を露わにする。

「なんでロボットなのに機械のこと良く知らないの…?」

過去のランドくんが必死に打っているよくわからないプログラムコードも、ロボットであるメシアちゃんならわかるはずだ。豪邸に入った時から見せてもらった機械の色々。その機械を掌握していたのだ。自身がロボットだからできる芸当なのだろうと僕は思っているわけだけど。

「だーかーらー!アタシはロボットなんじゃないって!本物の!幽霊なの!おばけ!おばけなんだって!」

そう言って抗議し始めた。ランドくんを見てみると、すごく面倒そうな表情だった。この顔を見るに、過去に何度もこのような会話をしたのだろう。

「えぇ…ちょっとそれは無理があるくない?どうやって機械とか動かしてるの?」

「それはさ、ほら!幽霊ぱわー!」

「幽霊パワーって絶対そういうのじゃないって!」

「エスフューレの末っ子、言っても無駄なのだ」

ランドくんが諦観したような表情で僕の肩を叩いた。

「俺も何度も違うと言った。原理も説明した。だがこいつは…極度の機械音痴だったのだ…」

「…機械音痴が何で機械使えるの」

至極真っ当な質問のはずだ。機械を扱っているのに機械音痴とは…?

「さぁ…本人が機械を機械として認識してないんじゃないか?俺にはさっぱりだが」

「自認幽霊だから、とかなのかな…」

憶測を立ててみても、よくわからなくなってくる。

「…あ、ランドくん」

「分かっている。見よ、エスフューレの末っ子」

突然過去のメシアちゃんの近くにあったバイタルサインの数値が低下していく。けたたましい音が病室に鳴り響いた。

『まだ、まだだ。まだ…もう少しだけ…もう少しだけ待ってくれ…!!』

小さい声だったが、声に悲壮さが混じっていた。今のような余裕綽々とした雰囲気は微塵も感じられない。

病室の外からバタバタと人が駆け回る音が聞こえてきた。病室のドアをバンバンと叩く音も聞こえてくる。

何で開けないんだろう、とドアを見てみると、南京錠がかけられていた。メシアちゃんは寝たきりのようだし、南京錠をかけられるとしたらランドくんしかいない。

『うるさい…!!お前らにメシアは救えない!!』

過去のランドくんがそう独り言を呟く。未だ視線はパソコンの中だ。

「んでランドくん、君は何をやってるの?」

メシアちゃんがした質問を僕が繰り返してみる。ランドくんにとっての機密情報だったら話してくれるわけないんだけど…

「メシアの人格を保護しようとしているのだ。簡略化して言うならば、データ化して機械の中に閉じ込める、と言った方が良いか」

「そんなことできるんだ…」

意外とあっさり話してくれた。けれど、僕にとってはよくわからない。まあきっとランドくんが話してくれたのは僕にはわからないと踏んだからだろう。ちょっとムカつくけど。実際わからないししょうがない。

「そろそろか」

ランドくんがそう言うと、過去のランドくんがケーブルを持ちメシアちゃんの頭にブッ刺していく。ケーブルの源にはパソコンがあった。

「えぇ…」

多分脳に関係があるからやってるんだろうけど…人の頭にケーブルが刺さるのを僕は初めて見た。

『っ、これで…!』

バイタルサインを表示する機械から鳴る警鐘で、過去のランドくんの切羽詰まった声はあまり聞き取れなかった。

最後の仕上げだとでも言うように、過去のランドくんは過去一のスピードで何らかのプログラムを作っていく。そして、エンターキーを押した。その音はけたたましい警鐘の中でもはっきりと聞こえた。

瞬間、先程まで鳴り止まなかった警鐘が突如、ピーっというバイタルサインが停止した音に変わった。

『間に合った、か…?』

ランドくんは未だ緊張した表情だった。メシアちゃんの頭に刺さっているケーブルを抜き、ケーブルの源であるパソコンに視線を向けた。

そしてパソコンでカタカタと何かを打ち込み…

「えっ」

と良いところで唐突に景色が真っ白になった。この景色を作っていたのはメシアちゃんだ。故にメシアちゃんへ言及しようとする。

「ちょーっと恥ずかしいんだよね…あはは。なんて言うか、黒歴史だし…」

僕が顔を向けた段階で、メシアちゃんは投影を切った理由を話した。黒歴史を第三者に見られるのは流石に僕も嫌ではある。

「メシア」

「別にいいじゃん?だってランドくんが話したいのってさ、アタシがお化けになったこの時でしょ?」

「まあ、そうではあるが…」

ランドくんは一度渋ったが、まあ良いとすぐに割り切ってみせた。

「えーっと…要約すると…?」

「メシアは医学が極度に発達した古雨国でも治すことのできない病に罹ったのだ。そして今し方見せたものは今日が峠だと医者に宣告された日だ」

「あー、もしかして魔力枯渇病?」

古雨国に治せない病は無いと言われているほど医学が発展しているが、そんな古雨国にも治せない病が複数個あった。

見た目は健康そうで、尚且つ点滴の色が透明ではなくツツジ色だった。僕は複数個のうち1つを連想させた。

それが魔力枯渇病。

基本魔力は生きているだけで消費されるが、空気中に魔力が分散されているため、それを呼吸だったり皮膚吸収だったりで補う。

故に、生きているだけでは魔力は消費されず、なんなら運動しなければ魔力は満タンになるまで回復する。

だが魔力枯渇病に罹ると、生きているだけで無駄に多く魔力が消費されていく。消費量が多いのだから、摂取量も多くなければいけない。しかし、呼吸や皮膚吸収では全く足りないのだ。だから専用機関で魔力を摂取し続けないといけない。

魔力が枯渇するということは、生きるエネルギー源が尽きるということ。簡単にいえば死ぬ。

古雨国でも治すことができない病だと僕は小さい頃ながら覚えていた。

「そうだ。不治の病の一種。エスフューレの末っ子、もし君なら、婚約者が危篤状態であったらどうする」

何となく僕は察した。ハスは危篤状態であるメシアちゃんに会いに来なかったのだろう。

「...時と場合による、かな。それに親密度とか関係あるし」

婚約者とかいたことない人生だから、ぶっちゃけよくわからない。できたとしても僕が大切にできるとは思えない。

だからかなり曖昧な返事をしてみる。

「珍しく心があるのだな」

「何だよ珍しくって!僕は常に優しいハートを持ってるけど!」

なんか馬鹿にされた気がした。みんなよく僕を心が無い化け物扱いしてくるけど、僕だってちゃんと人間だし。心あるし。今も心臓がトクトク脈打ってるし。

「君の兄、ハスは来なかったのだよ。俺はそれに激しく腹を立てた」

「え、待って。最初に言ってた私情ってそういうこと??」

「ランドくんそういうことだったの!?私情も私情じゃない!?」

僕とメシアちゃんはランドくんに問い詰めようとした。だがランドくんは気にせず話を進める。

「ハスが来なかったのは研究のせいだと考えた過去の俺は、エスフューレの研究データベースを盗むことにしたのだ」

「ねえ!めちゃくちゃ私情じゃん!!」

「うるさい。データ化したメシアならば盗むことは容易だった。研究データベースを手に入れた俺たちは、すぐにフレアキアの当主に成果を託し、然るべき処遇を受けさせるように申したのだ」

研究データベース…何が載っていたかは流石に知らないけど、何の研究をしていたか僕の記憶に頼ってみると、まあ非人道的ではあったけれど、歴代のエスフューレとやっていることは変わっていないはず。

「…もしかしてさ、僕たちが追放されたのってほとんどハスのせいじゃない?」

「いや。俺も研究データベースを見たが、あれは人道に反していると思った。人体を常用し、麻酔無しの解剖やら薬剤投与やら…挙句の果てに法で禁じられているクローンも作ろうとしていたようだな」

「……うーん。ごめん、否定できないや」

もしかしたら歴代のエスフューレは研究内容を上手く隠していたのかもしれない。それか、昔と現代の価値観が大幅に変わったのか。

「フレアキアの当主は一族の追放を言い渡したようだったな。俺はその決断に異論はない。まあ、あの研究データベースを見れば人間ならば追放を選ぶだろうがな」

「人間なら、ね。だから人間ではないとされている民が住まう国、冬春国に追放したんだね」

「俺にフレアキアの当主の考えは読めない」

ランドくんと一度睨み合う。

「んー?あ、ランドくんさ、もしかしてさ、アタシの代わりに怒ってくれたってこと?」

視線だけでバチバチし合っていたからか、メシアちゃんが話し始めた。

「そうなんじゃない?ハスを含めるエスフューレを追放した本人がランドくんだもん」

「え〜!!何だよランドくん!教えてくれれば良かったのに〜〜!!」

そう僕が見解を述べると、メシアちゃんは急にテンションが上がりランドくんの背中をバンバンと叩く。

「メシアッ、痛いではないか!」

「照れ隠しだな〜!えへっ、えへへ」

待って、急にそんな甘い空気を展開しないで欲しい。僕の居心地が悪くなるんだけど。

「あー、そうだ。エスフューレの末っ子、家族はどうしたのだ」

ひとしきりメシアちゃんに背中を叩かれた後、一度咳払いをしてからそう僕に尋ねかけてくる。

「んー…冬春国に追放されてから、資金繰りに苦戦した僕たちだったんだけど。まあどうにもならなかったから最終手段を取ったんだよ。僕たち、子供を売るっていうね」

「…冬春国に追放したのは間違いなかったな」

ランドくんはそう苦言を呈した。

「わかってないな〜。君たちがそうさせたって言っても過言じゃないのに」

少なくとも僕は恨んでない。だってあの状況で同じ立場であれば僕も同じ選択を取っていたから。あの選択は僕たちが生き残る最良の選択だったって。僕もそう思う。

「まあ父さんたちも良心は残ってたみたいで、奴隷としては売らなかったんだよ」

「でも、売るって奴隷にすることじゃないの?」

確かにそう。売ることは基本的に奴隷にしたり、臓器を取り除いて売る。

「それが、養子に入れさせたんだよ。エスフューレの優秀な子供たちを養子にできますよ、って感じの売り文句を付けてね」

「はぁ…考えたものだな。冬春国にも金を持つ貴族がいるのであろう?そいつらが対象なのだな。それであれば子供たちは冬春国民よりかは裕福な暮らしができる」

貴族って言っても…あの規模の貴族とフレアキアとかノストレイとかと比べちゃダメだけどね。次元が違うから。お陰でエスフューレにいた時よりも色々と不便だった。

「多分せいかーい。だから家族の安否は知らないんだー。まあ普通に考えれば死んでると思うよ。僕はしばらく養子として生活してたんだけど、前王に権能の性能を買われて冬春国幹部になったんだよね」

そう思うと何だか感慨深い。もう幹部になってから10年経ったのかと思う。時間が早く感じるよ。もう歳かな。

「…追放について十分な説明はした。満足か?」

「まあね。もうこの爆弾良くない?もう使わないでしょ。戦う意思ないし」

右手首に付けられた腕輪型の爆弾をランドくんにチラチラと見せる。

「良いだろう。だが、もし戦う意思が感じられたら…」

「ランドくん、疑いすぎ」

「…はー」

メシアちゃんに小突かれたランドくんは渋々と言った様子で僕の腕輪を外してくれた。

これで僕は理不尽な攻撃を受けることはなくなったわけだ。そう安心したからか、僕の口から色々と溢れそうになる。

「だけどまさか追放のきっかけがランドくんの私情だったとはねー…これ教育機関に言ってもいい?」

ニンマリと笑うと、ランドくんはフンっと鼻を鳴らした。

「冬春国幹部の言うことなど取り合ってももらえないだろうがな」

「ちぇ。全然焦んないじゃん。つまんなー」

僕は人が焦ってるの見るのが好きだから揶揄ってるのに。ランドくんは全く取り合ってくれない。

「え、じゃあアタシが言っちゃおっかな。アタシなら取り合ってくれるんじゃない?」

メシアちゃんがそう言いながらモニターに電話番号の数字を羅列していく。途端にランドくんは焦り始める。

「は…!?おい、メシア絶対にやめ」

「あ、もしもしそちら教育機関ですか?」

「メシアッ…!!」

ランドくんが鬼の形相になりかけたところで、メシアちゃんは数字の羅列を止める。

「あはは!本当に掛けてるわけないじゃーん!」

メシアちゃんはキャッキャッとランドくんの周りで飛び跳ねる。すごい嫌な表情で飛び跳ねるメシアちゃんを目で追いかけている…

「僕との対応違いすぎて泣いちゃいそう」

顔を覆って嘘泣きを演じてみる。チラチラと手の隙間からランドくんを見てみるが、ランドくんは僕をフル無視した。

僕が一番嫌なこと何で知ってるの??

「はぁ…もう良いだろう。エスフューレの…いや、アサギ。俺も君も、過去はもう過去なのだ。振り返るだけならば良いが、羨ましく思うのはやめろ」

「分かってるよ。僕ももう立派な大人だし。現実と理想の区別だって付いてる。それに、意外と僕は楽しいんだよ。過去を振り返る暇がないほどにね」

過去を振り返るということは、今が楽しくない時だ。僕は毎日好きにやってる。だからストレスとか微塵も感じないし、辛いことも苦しいこともほとんどない。

「…もしかしたらさ。僕は冬春国に追放されて良かったのかもしれないね」

しみじみとそう思う。

ランドくんもメシアちゃんも黙って僕を見ていた。僕の目線は右下へとずれていく。

僕は一度まばたきをする。

「なーんてね!」

先程までのしみじみとした雰囲気は僕の明るい声で一瞬で消え去った。

「じゃ、またいつか!」

そう言って僕は二人に向けて手を振る。急な雰囲気の一変に二人は驚いたような表情をしたが反応してくれた。

「…あぁ」

「アサギくーん!またあお〜ね!」

ランドくんは少し躊躇ってから頷き、メシアちゃんは僕と同じように手を振った。

僕は歩き始めた。

僕には僕の人生がある。今の僕は冬春国医療軍長アサギであり、今もなお待たせてるだろうヤドリギくんの先輩である。

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