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帰国と言及

ホテルまで戻ると、ボロボロになったヤクモがホテルの前で右往左往していた。近くにはアルザたちの荷物が置いてあり、荷物を取ってくるという任務は無事達成できたようだ。

それにしてもボロボロになる理由がわからないが。

「ごめん、結構待ったよね。ちょっと色々あってさ」

ヤクモに近付きながらアルザは謝る。が、ヤクモは視線を泳がせながら気まずそうな雰囲気を醸し出した。

「…いや、俺もさっき着いた」

「え?そんなわけないでしょ?もう2時間くらい経ってるし…あ、もしかし」

「そうだよ!迷子になったんだよ!迷子に!でもここまで来れた俺を褒めろ!ここに着いたのだって奇跡に近いんだからな!!褒めろ!!」

アルザが推測を述べようとした瞬間、上からヤクモが被せてきた。早口で捲し立てた後、何故か得意げにフン、と鼻を鳴らす。

ヤクモがホテルに辿り着けたのは確かに奇跡だ。だが、それより遥かに、どうやったら新日学園からホテルまでの道のりで迷うというのかが、アルザには分からなかった。

確かに、ヤクモはアサギの後ろをついて歩いていただけで、自らの足で目的地に辿り着くことはなかった。

そう考えると、道を覚えながら歩いたのはアルザの功績だった。

「なんていうか、さ…あの、改めてみると…ヤクっちってほんと女装似合わないね。しかも…ふふ、制服着てるのやばすぎる」

カノは笑いを堪えながらそう言い切る。カノのよく知る制服を大人の男が着ているのだから、違和感しかないだろう。アルザも同じシチュエーションに立ち会ったら笑う自信しかない。

「…女装にケチつけんじゃねぇ!!俺だって嫌だったんだよ!!」

若干涙目になりながら、プルプルと子鹿のように足を震わして腕を胸の上で交差させる。

自分の醜態を改めて確認させられて、恥ずかしくなってしまったのだろうか。何となく、それ以外のことも関係しているような気もするが。

アルザも未だに制服を着ているが、カノやヤドリギに大人っぽいと言われてしまったため、もう似合ってないのではないかと不安になり始めた。

「アルザ…早く行こうぜ…この服早く脱ぎてぇよ……」

懇願する目でアルザを見つめるものだから、アルザは思わず頷いた。

「じゃあ、帰ろうか。冬春国に」


ーーーーー


さも我が部屋のようにベッドに座っていたアサギは、ヤドリギを見るや否やベッドから降りてヤドリギに向かって歩いてくる。

「な、なんで…」

「報告終わったんだけど、まだ気になることあってね。君にも手伝って欲しくて。今度君のこと手伝うし、前借りだと思ってさ、手伝って?」

有無を言わさない圧力がヤドリギにのしかかる。年上だから、も当然あるだろうが、本人の圧力の掛け方が上手い。ヤドリギの身長の方が高いと言うのに。

ヤドリギはそれに内心焦燥を抱えながら、生唾を飲み込んだ。

「いい、ですけど…内容はどんなんですか」

内容によっては何か理由を付けて断ろうと考えた。ヤドリギ自身、自ら率先して働きたくはないのだ。

「んーっと、三大貴族が今どこにいるか教えてくれるかな?」

三大貴族…10年前に追放された一族がいたから今では二大貴族となっているが…

「大体、自分の豪邸にいるんじゃないですか?…ていうか待ってください、俺の質問に答えてくださいよ」

「豪邸?豪邸ねぇ…じゃ、案内してくれる?」

「はぁ??あんた耳付いてないのか??」

流石のヤドリギも口が悪くなった。まだ手を出してないだけマシだと思え…とアサギを睨む。

手伝えと言ったくせに内容は全く教えてくれない…意味がわからないだろう。

「えー…だって、言ったら絶対手伝ってくれないもーん」

「だからって俺の話無視しないでくれます??」

「もー、そんなに文句ばっか言うならいいよ!!あのね!僕は過去古雨国民だったの!」

アサギは少し語尾を荒げながら話し始める。

「新日学園に通ってたんですよね」

「そう!んで、僕の苗字がエスフューレなの」

「は、エスフューレって…あのエスフューレか!?」

三大貴族の一つにして、10年前に冬春国へと追放された一族だ。

ヤドリギは甘雨の出身ではないし、当時6歳だったためあまり知らないが、共和政へと導く三貴族の内の一つがいなくなったことは古雨国の歴史に深く傷を付けた。

「信じてくれるかは君次第だけど。何で僕たちが追放されたのかずーっと疑問に思っててね。それをちゃんと問いただそうと思ってさ」

「えっと…確か、非道な実験を行っていたから…じゃないですか」

ヤドリギは歴史の授業で受けていた内容を思い出す。授業中よく寝ていたから確定的な情報ではないが。

「いやまあそれはそうなんだけど…だけど60年間くらいは許されてたはずなんだよ。でもどうして急にダメになったのか…それが気になってね」

ヤドリギは心の中で納得させる。アサギにも常人らしき一面があるのだと。

「…豪邸に連れて行け、でしたっけ」

「お、連れてってくれるの?」

ヤドリギの言葉にアサギは目を輝かせる。

「俺は豪邸の前までです。中にはアサギさんだけで入ってください」

ヤドリギはそんなに寛容ではなかった。

「うぇ〜、イズミみたい〜ケチ〜別にいいもんね〜!」

アサギはヤドリギを通り過ぎて扉に向かう。

「じゃあ行こっか。僕のために」


ーーーーー


「う〜、アルっち〜…あと、どんくらい〜…?」

現在、3人でひたすら歩いて冬春国へと帰っている。だが冬春国に辿り着く前にカノの体力が限界を迎えたのだった。

「あとちょっとではあるよ。そろそろ国境越えると思うんだけど」

そうカノに返すと、カノは一度深呼吸して覚悟が決まったような顔をし出した。今から死地に向かうような顔だ。実際今帰ろうとしているところは死地だが。

呼吸を乱していないアルザとヤクモは顔を見合わす。

「女は流石に背負えないぞ」

「私のことは担いだくせに」

「あれはしょうがないだろ?アサギじゃ持てないんだからな。疲れてなさそうだし、アルザが背負えよ」

こっちはニウラと戦ったのに…と言いたかったが、確かに体力はまだある。カノを背負って歩くくらいならば余裕だろう。

「カノ、背中乗っていいよ」

片膝をついてカノが背中に乗りやすいように調整する。

「アルっち〜!!君は天使だよ〜っ!!」

カノは一瞬躊躇うようなそぶりを見せたが、すぐにアルザの善意に縋りついた。ガバっとアルザの背中に飛び乗る。

「重くない?大丈夫?」

「全然」

カノは小柄だが、筋肉量は見た目によらずあるようで。思ったよりかは重かったが、アルザにとっては誤差に過ぎない。

先程の歩きと全く変わらずに進み始める。

「あ、見えてきたな」

そう言ってヤクモが指差したのは、今にも崩れそうな廃墟の群れだ。

「古雨と隣り合ってるのは…秋冬地区だったよね」

「ん?俺は知らないぞ」

アルザは久しぶりに故郷に戻ったような気分になった。まだ隠れ家から離れて10日も経っていないというのに。

「私の隠れ家があるから、ちょっと寄ってもいい?休憩できるスペースあるから、カノも一回休も」

「やったー!行こ行こ!隠れ家ってことは、アルっちの前のお家ってことだよね?」

「そうだね。結構狭いから三人も入るかはわかんないけど…」

アルザたちは廃墟の群れに突っ込んでいった。もちろん、中には人が住んでいたり死んでいたり。

「カノ、家の中はあんまり見ちゃダメだよ」

一応カノに忠告をしておく。その悲惨さを目の当たりにして倒れる可能性を考慮したのだ。

「…大丈夫だよ。それにうち、人たくさん殺してんだって。アルっちが思ってるより、たくさんね」

最後の方は消え入りそうな声だった。何となくアルザはカノから罪悪感を感じ取った。何か声を掛けたかったが、アルザ自身もうすでに人を殺しても罪悪感が芽生えなくなってしまった。

「(そんな自分がカノを励ましていいのだろうか)」

だからこそ、アルザは悩んだ。

「カノ」

不意にヤクモがカノの名前を呼んだ。

「ん、どうしたのヤクっち」

カノはヤクモの方を向く。

「人の死体は今のうちに見慣れといた方がいいぞ。これから冬春国に住むなら絶対慣れた方がいい。ここは生きてる人間よりも死んでる人間を見る回数の方が多いんだからな」

ヤクモはアルザとは真反対のことを言ったのだった。アルザは否定しようとしたが、否定の裏付けができない。アルザも確かに生きてる人間よりも死んでる人間の方が見る回数が多いからだ。故に、黙ってしまった。

「…やっぱ凄惨な国なんだね。暖海国とも古雨国とも全く違う、戦争の国…」

カノはそう言った後、アルザの背中からぴょんと飛び降りて、近くの家の中を覗き込みまくった。

「うーん、餓死?…こっちは他殺?んーと、あれは自殺かな」

死臭に顔を顰めながら、死体の状況を淡々と推理していくカノ。人殺しを名乗るだけあって、死体は見慣れているようで。死体を見つめても表情は特に変わらない。

「へー、自殺なんて珍しいじゃねーか。どっかの国の追放者なのか?」

「確かに。服が他の人より綺麗かも。古雨国の追放者かな」

ここは古雨国と隣り合っている。だから古雨国からの追放者が自然と多くなる。元貴族ももちろんいるから、お金持ちが多い地区でもある。

冬春国民を匿っただけで追放される国だ。追放者などこれまでに100人以上はいただろう。

「アルっち、言ったでしょ。うちは強いんだって」

一通り家の中を覗き込んだカノがアルザの下に帰ってきての第一声がそれだった。

その“強い”の意味合いは、ただの戦闘力だけではなく、精神的な意味合いも兼ねているのだろう。

アルザはあまり信じたくなかったのだ。自分より年下の女の子が“強い”ことを。本来守られるべき歳のはずなのに、もうすでに一人で生きられることを。

「…うん、そうだね。カノ背負わなくていい?」

「背負ってくれるってなら言葉に甘えちゃうよ〜」

再びカノが乗りやすいように腰を下ろす。カノが背中に飛び乗ったため腰を上げてカノの位置を調整する。

「アルザの隠れ家ってどこなんだ?」

「場所のめあすがないからはっきりとは示せないけど…結構真ん中寄り。どこにでも行けるようにしたかったからね」

「じゃあまだ歩くじゃねーかよ。くそ、俺のこと知ってるヤツがいませんように…誰にもこの姿見られませんように…特にイズミ…」

ヤクモはどこかに向かって願い始めた。無信者のはずなのに、誰に向かって願っているのだろう。


ーーーーー


結局ヤクモは生存者に見つからずにアルザの隠れ家まで辿り着くことに成功した。死者からは5人ほど見られてしまったが。

「着いた。ここが私の隠れ家だよ、ってあれ!?」

アルザの隠れ家は廃墟の中にあった。ボロボロになったソファーとこれまたボロボロになった毛布。あとは地面に食料品が散らかっていたり、剣が散乱していた。

アルザが驚きの声を上げたのは、そのボロボロなソファーの上に懐かしのミケが鎮座していたためである。

ミケはアルザを見るとにゃーんと一つ鳴く。

「ミケ!?え〜!」

驚愕と嬉しさが同時に襲いかかってくる。何度かミケを隠れ家に案内したことがあったから、ここにいること自体に疑問は抱かない。

アルザの声かミケの鳴き声か、ヤクモとカノも気付いたようで。

「ネコ?珍し。人生で二回しか見たことないんだよな。な、アルザ、ちょっと触っても良いのか?」

「猫ちゃん?アルっち猫ちゃん飼ってたの?」

「ま、待ってね。カノ、そこら辺座ってていいから…ミケ、お腹空いたよね?キャットフードここら辺に置いた気がする…」

ヤクモとカノの質問を一度保留にし、アルザはキャットフードを探し始める。ミケは未だ動かず。ボロボロなソファーが今では王座に見える…。

ヤクモは我慢できなくなったのか、ミケに触ろうと試みた。しかし、ヤクモが手を出した瞬間、その手は引っ掻かれた。

「いって!?はぁ!?!?んでこいつ動きはえーんだよ!?」

血が出た手を抑えながら痛いと喚くヤクモ。

「ヤクっち、猫ちゃん触ったことないでしょ!ふふん、見てて!うちの猫ちゃんのなでなでを!」

それにカノは若干嘲笑し、ミケになでなでを挑もうとする。ゆっくりと手をミケの鼻に近付ける。

「まず匂いを覚えさせるんだよ!…っていったぁ!?」

「はははは!!!カノお前も引っ掻かれてんじゃねーか!!」

カノが自信満々に説明しようとした瞬間、ミケは容赦無くカノの手を引っ掻いたのだった。その瞬間を目撃したヤクモは哄笑する。

「そ、そんな…うちが失敗するなんて…」

引っ掻かれた方の手をヤクモと同じように抑えながらプルプルと震える。よほど自信があったのだろう。が、ミケは冬春国の猫だ。警戒心などそこらの猫とは段違いだろう。

「あ、あったあったよミケ!キャットフードあったよ!」

食料品を入れておく箱を漁っていたらキャットフードを見つけた。二つあるはずなのだが、何故か一つしかない。まだ箱の奥にあるのかもしれないが、とりあえずミケにあげるのが先決だ。

「ミケ、どうぞ」

蓋を膂力で無理矢理開けて、ミケの前に差し出す。ミケはすぐにガツガツと食べ始めた。

「すごい食べっぷりだねー、お腹空いてたのかな」

「空いてたとは思うけど…まあこのキャットフードが高級品ってのはあるかも」

「らべる?に高級キャットフードって書いてあるな。なあアルザ、キャットフードって人間も食えるよな。ちょっと食ってもいいか?」

ミケの食べっぷりに感化されたのか、ヤクモが遂に狂ってしまったようだ。それをアルザは温かい眼差しで優しく諭し、箱を漁った時に出てきた乾パンをヤクモにあげた。乾パンでもこの国では貴重な食べ物だ。ヤクモは乾パンを見るなりすぐに食べ尽くした。

「ヤクっちは…ワンちゃんだよね」

それを見ていたカノが独り言を言う。アルザもそれに共感した。犬も冬春国では中々見られないものだが、猫と同じくらい人気な動物だとアルザは知っていた。

「アルっち、うち結構回復したからそろそろ行こ?」

「分かった。あ、でもちょっと待って…大事なの取りに来たんだよね」

アルザはそう言ってソファの下から食料入れとは違う箱を取り出した。その箱を開けるとヤクモとカノが箱の中を覗き込んできた。

「何かの、数字か?…わかんね」

「数字としかわかんないね…なんか意味があるのかな」

箱の中には紙切れが一枚入っており、達筆な字で数字を記している。秋冬のアルザを名乗る前、餓死するかと思いながら寝た日の次の日。アルザの手にこの紙切れが収められていたのだった。

アルザとしては寝込みを襲われたと同義だったため、しばらくは警戒しながら寝たものだった。

アルザはこの数字が何の意味を持っているのかわかっていなかったため放置していたが、今ならクロやイズミ、アサギがいる。誰かに解読してもらおうと考えたのだった。

「この紙切れだけ置いてどこかへ行くのは、ここでは100%あり得ない。誰かの意図があってやったんだと思う。何ヶ月経ったか分かんないけど…解明したくなってね」

「…確かに、ここでそんなこと起こるのはありえねーな」

普通、寝てる人がいたら身ぐるみを剥がされたり、寝てる間に縄でぐるぐる巻きにして奴隷商に売られたりされる。紙を置いた人物は何をしたかったのか、意図が全く読み取れないのだ。

「これは誰かに解読してもらうとして…そろそろ行こっか。…あ、そうだ。あのさ、ミケって連れってっても良いのかな…?」

未だソファの上にいたミケが欠伸をした。どうでも良さそうだ。

「さぁな。少なくとも城内に動物飼ってるやつはいねーぞ。まあでも良いんじゃね?アルザ総団長だし。権威で黙らせば良いじゃん」

確かに、とアルザはポンと手を打った。権力濫用はあまりしたくないが、ミケのためでもある。それにきっと、クロやイズミは良いと言ってくれるだろう。

「ミケ、おいで」

そう呼びかけると、ミケはやっとソファーから降り、アルザの腕の中に収まった。ゴロゴロと喉を鳴らしてアルザの腕に体を擦り付けてくる。

「めっちゃ懐いてんじゃん。俺らには引っ掻くくせに」

「何でだろうねー。あった時からずっとこんな感じだよ」

腕の中に収まっているミケの撫でる。

「アルっちのいい人感がミケちゃんに伝わってるんじゃない?」

「ふふ、それだと嬉しいな」


ーーーーー


アサギはヤドリギに連れられて、一つの大きな豪邸の前へと来ていた。流石に冬春国の黒城よりかは小さいように見えるが、圧巻な大きさだ。

「ここがノストレイの豪邸?」

「そうです。古雨国の現在の代表、ランドが住んでるはずです」

「はずですって何〜??古雨国民でしょ!代表のお家ちゃんと知っておかなきゃ!」

「…そう言うあんたも古雨国民だったんだろ」

「うわー!年上に向かって何その言葉遣い〜!酷いよヤドリギくーん!」

「チッ…」

ランドが代表になったのはエスフューレ貴族が追放されてからなのだが、アサギは弁明するつもりはない。この対話ですらアサギにとってはただのお遊びなのだ。思考で出た副産物に過ぎない。要は片手間な遊びだ。

「はぁ、俺はここで待ってますから。行ってきてください」

ヤドリギは空気が読める男。クソデカため息を吐きながらもアサギを豪邸に押しやろうとする。

「えー、ほんとに来ないの〜?」

「行かねえつってんだろうが…早く行け」

ヤドリギとしては早く一人になりたい…というかアサギと離れたいのだ。この年上を相手にするにはヤドリギの荷が重かった。

「もー、いいもーん。すぐには終わらないと思うけど、そこ待機で!よろ〜」

アサギは頬を膨らませたかと思いきや、すぐさま表情を反転。ニコニコ笑顔でヤドリギに手を振り、豪邸へと足を踏み入れた。

ヤドリギはそんなアサギを見送り、一度あくびをして空を眺め出したのだった。


ーーーーー


やっぱ中綺麗だね〜。僕の前の家もこんな感じだったのを思い出すよ。ていうかこんな堂々と入れるもんなのかな。絶対主にはバレてるよね。

「ランド…名前だけ聞いたことあるかな」

三大貴族、ノストレイ貴族の次男だ。機械にめっぽう強いけど、生活面はからっきしとは噂には聞いていた。てか三大貴族の人なら僕も一回くらいは会ったことあるんじゃないかな。会談とかしてたし。

「それにしても迷いそ。メイドさんもいないし」

豪邸には人が誰もいない。本来ならいるはずであろう使用人たちも姿が見えない。

「え、待って、もしかして……」

一つの可能性がアサギの頭の中で閃いた。決して当たってほしくはなかったが、答えはすぐに目の前に現れた。

「もう、僕罠にかかってる…?」

「正解だ、エスフューレの末っ子」

声のした方を見てみれば、ホログラムで映し出されている男がいた。身長はアサギよりかは遥かに大きく、ヤクモより低いくらいだ。年齢は30代前半に見える。

「君がランドくん?」

「いかにも。…それにしても、だ。くんをつけないでもらいたい。君より長く生きているからな」

「へー?そう。てかなんでホログラムなの?本人が出てきてよ」

「今の君は冬春国民だ。古雨国の代表が会っていい人間ではない。わかるであろう」

なんかもう、古雨国民の言うことみんな大体一緒でつまんない。冬春国民だからって言い訳多すぎ。素直に怖いですーって言えば良いのに。

「まあいいよ、それで対話できるなら。僕がここに来た理由、わかる?」

ランドくんは眉をひそめた。

「率直に言うならば、わかるにはわかる、だな。だが何故エスフューレの末っ子なのだ。イズミと申す者が来ると思っておった」

「本来イズミが来る手筈だったからね〜。んで、僕がわざわーざここに来た理由…ま、わかるとは思うけど。エスフューレが追放された件について、だね」

「はぁ…君に言うことはない。人体実験を秘密裏に行っていた。追放する理由はそれだけで十分であろう」

「急だったじゃん。今まで黙ってたくせに。なんかやったんでしょ?僕はそう睨んでるんだけど」

ランドくんは興味無さそうにため息をもう一度つく。まだまだ、と僕が追撃しようとした瞬間、急にランドくんが映されていたホログラムが不安定になる。

「メシアッ、今はダメだ!!大事な話をしてるのだ!!早く主導権を__」

ホログラムが揺らぎながら、ランドくんは虚空に向かってそう叫ぶ。かなり焦っているのを見るに、予想外なんだろう。

メシア?ランドくんと同じく、聞いたことがあるね。三大貴族の関係者なのかも。

ホログラムが不安定になってから数秒、突然ランドくんが消え、代わりに女の人が映し出された。

「ん〜?ランドくんが誰かと話してると思って見に来たけど…キミ、誰?あぁいやでも待って、な〜んか見たことあるなぁ…その檸檬色の目……」

ホログラムの中の女の人は僕をじーっと見つめてうんうんと唸る。

「僕はエスフューレの生き残り、アサギだよ。メシアちゃん?も三大貴族出身?僕も君のこと見たことある気がするんだよね」

そう言うとメシアちゃんの顔はパアッと明るくなった。

「あ〜!そうだったの!エスフューレのね!アタシはフレアキアのメシアちゃん!」

フレアキア貴族の人だったみたい。ニウラみたいな不老じゃないとしたら…多分僕と同じ代かな。見た目の年齢的に。

「実はアタシ、幽霊で」

「おい!!メシアッ!!」

近くにある何数個の扉の一つが勢い良く開かれた。メシアちゃんの話を遮ったランドくんがそこにはいた。

「も〜〜!レディーの話遮っちゃダメだよランドくん!」

「無理矢理主導権握りやがった奴が何を言うのだ…!!はぁ…乗っ取った後あんなにご丁寧に厳重なロックをしなくても良いだろう」

「だってランドくんが他の人と話すの久しぶりだったからさ〜。誰なのか知りたかったの〜」

ランドくんは何かの機械を取り出して、ボタンをポチッと押す。途端にホログラムはシャットダウンした。

「しょうがない…アサギ、少し話をしてやっても良いぞ。俺が許す限りだ」

上から目線がムカつく。何?何で自分の方が強いって思ってるわけ?

機械の天才だとは噂に聞いてるけど…やっぱ僕とは合わないかも。

「…とりあえず。質問は二つある。一つはさっきの追放の件。もう一つは、誰がカノの暗殺を依頼したのか」

「依頼の主を探しているのか?それは俺だ。依頼の達成を通達してくれるのだろう?」

「うん。ま、半分達成ってことになるけど。君の依頼の根本って古雨国から冬春国民を消して欲しいってことでしょ?」

一応聞いておきたかった。根本的な話を。僕が使った方法はかなり裏抜けだ。殺せと書いてあったのにも関わらず、殺さずに自国の戦力に追加する。ランドくんからしたら僕のしたことは許せないはず。

「いかにも」

「じゃ、だいじょぶ」

「…待て、アサギ。もしや…」

ランドくんは何かに勘付いてしまったようだ。

「まあまあ。一週間くらい待ってよ。全世界にお披露目するからさ」

「チッ、アサギやりやがったな」

今にも殴りそうな顔で悪態をつかれる。怒るのは分かる。僕もランドくん側だったらめっちゃ怒る。

「…一つ目の質問もまだするつもりか」

「もちろん。十分な説明を受けてないからね。別にそんな渋ることではないでしょ?それともやっぱなんか裏でもあるの?」

「裏、というより…半分私情だから嫌なのだ」

「へぇ?」

私情、ってことはランドくんは追放関連において重要人物だったっぽい。計画とか実行とか、何らかに携わってたのかな。

「メシア」

「は〜〜い!!ちゃんと録画してるよ〜!!ランドくんが久々に人間と話してるところ!」

どこからかスピーカーかなんかで音声が流れる。メシアちゃんの声のようだ。ハイテンションなところを見るに、本当にランドくんは人間と話すの久しぶりみたい…

「録画…!?後で消してくれ…それでメシア。今顕現できそうか」

「えっ!良いの!?アタシ会話に入って!顕現できるよできる!いっくよ〜!!」

またもやどこからかBGMが流れ始め、ランドくんが開け放った扉の反対側が開いた。

そこには、ロボットがいた。だが、ロボットとは言い難い。首から下は人間の体そのもの。しかし首からは上はモニターが付いており、そのモニターから女性の顔は映し出されていた。

「はいは〜い!!メシアちゃん、顕☆現!!」

「えっ、君がメシアちゃん…!?」

実在する人物では無かったみたい。自己紹介の時に幽霊という単語が出たような気がするけど…人工知能とかそこら辺のなのかな?

「んでランドくん、何の用かな!?」

「…三人で話すべき、ことなのだ」

「ん〜??アタシちょっとわかんないかも。アサギくんとアタシ、そんなに深く関わって事ないよ」

「考えてみれば分かるであろう。この場の三名は、皆、エスフューレ、ノストレイ、フレアキア…三大貴族の一人なのだ」

「…あ!思い出した!!そういうことねランドくん!」

ロボット…メシアちゃんがポンと手を叩いた。

「えぇ?なになに、僕の方が全くわかんないだけど」

二人だけで納得されても…と困った顔をする。

「良い。こちらに来い。案内してやろう」

それにランドくんは不敵な笑みを浮かべて、メシアちゃんはニコニコ顔で、先導し始めた。

約2時間遅れました

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