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聖女の痕

僕は国会議事堂に向かっていた。もちろん依頼完了の知らせを入れるため。本当はイズミにさせてもいいんだけど…僕としても、あっちとしても、色々と積もる話がある。

だからこそ僕が出向いている。

こんなこと滅多にないからね!って後でイズミに言わないと。イズミのことだから、調子に乗ってこれからもお願いされちゃう。それはちょっと僕としても嫌。

議事堂に入ろうとすると、警備の人に止められた。ちゃんとセキュリティーはしっかりしてるみたい。

「こらこら、子供は入っちゃダメだぞ」

「僕はちゃんとした大人だよ〜。冬春国の幹部の一人、そして君らが堕とした三大貴族の生き残りだよ。僕のことなんも言われてないの?」

警備の人は冬春国という言葉を聞いた瞬間、一度ビクッと反応した。そして鋭い目つきになり黙って僕を中へと入れてくれた。

恐れてるってわけではないみたいだね。じゃあ僕の予想は当たってるのかな?

議事堂に入ると、人がたくさんいた。どっちなのか…まあこれは後で答え合わせといこう。

とりあえず係の人に話しかける。

「すいませーん」

「はい、ご用件は何でしょうか?」

綺麗なお姉さんだね。嫉妬とかじゃないんだけど、さぞ裕福な暮らしなんだろうなぁ。…こんなこと、追放されなかったら思わなかっただろうな。冒険って大事だね。

「冬春国幹部、アサギ。依頼完了の報告に来たんだけど、どうすればいいかな?」

「…あぁ、分かりました」

お姉さんは側にあった機械にカタカタと何かを入力した。

「では、ご案内いたします」

そう言ってお姉さんは席を立って、僕を先導してくれる。それにしても、うーん。ナイスボディだな。これ以上思うとセクハラになりそうだからあんまり考えないんだけど。

僕も歩き始めると、自然に僕から人が離れていく。まあさっき堂々と冬春国の幹部って発言したし、至って普通かな。

お姉さんも出来るだけ距離を取ろうとしてるみたいだし、どれだけ僕という人間を警戒してるのが垣間見えるね。

お姉さんに先導されながら、ひたすら着いていくと、地下に案内された。

「こんなとこに部屋なんてあったっけ?牢屋しかなくない?」

「貴方様が追放されてから改修工事を行ったのです。知らないのも当然でしょう」

…まあいいか。僕ならなんとかなるし。

そう思って地下を歩いていると、10人以上の警察官が現れた。その警察官たちはお姉さんに一度礼をし、僕を睨んだ。

それを笑顔で返すと、前を歩いていたお姉さんが突然止まった。

お姉さんの前を覗いてみると、案の定牢屋があった。

「分かってたけど、君らがここまでまともに話してくれないとはね〜。僕はただ依頼の達成を報告しに来ただけだよ?」

近くにいた10人以上の警察官が僕を囲んだ。銃を突きつけてくるもんだから、手を挙げて応える。

冬春国では銃とか滅多に見られないから、見るのすっごい久しぶりだな〜。まあ、古雨国は先進国だし、銃の威力も他国とは一味違うんだけど。

「貴方様冬春国民と私達とでは生物としての格が違うのであります。ご理解を」

生物としての格…ねぇ。ちょっと分かっちゃうのが悔しいかな。やっぱ環境って本当に大事で。ヤクモとイズミを比べちゃうと、環境の違いが浮き彫りになって、世界って難しいなってすごく体感する。

そんなことより、僕個人が聞きたいことを聞かないと。僕がここに来たのはそのためだし。

「ご理解を?僕たちが冬春国民になったのは君たちが古雨国から追放したからでしょ」

まずは何で追放されたのか。元々、何で追放されるのかほとんど聞かされていなかった。それに10年前のことだからあまり記憶も残っていない。

「しかし、貴方様達は非道な実験を繰り返し行っておりました。冬春国民としては相応しいかと」

「…まあ、最終的に好奇心に負けちゃったのは肯定せざるを得ないけど…最初に人体実験を強制してきたのは他の三大貴族じゃんね」

これは僕のおじいちゃん世代の話だけど、その頃はまだ王政だったらしい。だけど、その王政に色々と不満を持った国民は、三大貴族中心に独立した組織を作り、国をひっくり返して共和政にしようとしていた。

三大貴族も各々役割を持って動いていて、僕達エスフューレ貴族は国に対抗するために兵器を作れと他の三大貴族に言われたらしい。

色々と研究を重ねたっぽいけど、結局成功せず。他の三大貴族からも圧力を掛けられ、人体実験でもいいと言われたと。しかもやってみると大成功。

あんまり覚えてないけど…人間に高威力の銃を埋め込んで、背中から出ている引き金を引くと…生命力やら魔力やらを無理矢理使って、もっと高威力な弾丸を放つことができるようになったらしい。人体実験はまんまと成功を迎えた。そうして大量生産されて…僕の父親の代まで改良され続けて…みたいな。だから今も銃人間はこの国にいるらしい。

まあ、人体実験が簡単に成功してしまったからには、再びその快感を得たいと思ってしまうわけで。

段々楽しくなってきて、それがおじいちゃんの代から僕の代まで続いたのだ。

今までお咎めをされていなかったのに。突然の追放通告。政府の人間が入れ替わったことが1番の原因だろうが…はっきり言って、よく分かっていない。

「強制どうのこうのという話ではございませんので。命令する人とやった人は別ですから」

このお姉さん、道徳心ないでしょ。おかしいと散々言われる僕でも分かるよ。

「変な屁理屈言うのやめてもらえるー?結構無理矢理な言い訳なんだけど?」

命令する人とやった人は別…はぁ、歴代の冬春国王がいいそうなことだね。…もしかして皮肉で言ってる?意識して言ったんなら僕そろそろ怒っちゃうかも。

「…質問に答えるためにここに留まっているわけではありません。冬春国幹部アサギ、牢屋に入りなさい」

後ろにいた警察官が一歩僕に近付いた。暴れても牢屋に入れれるように抑えようとしてるんだろう。

「うーん、残念。じゃあいいや。三大貴族の当主達に直接話聞きに行ってくるよ。それが1番いいよね…あ、ねぇねぇ。冬春国に依頼出したのは誰?古雨国の政府って書かれてたから、やっぱ三大貴族…いや、今は二大貴族なのかな」

「急によく喋る口ですね。私たちは冬春国民を牢に入れようとしているだけ…依頼?何ですかそれは」

精一杯とぼけてるみたいだけど、僕はちゃーんと覚えてるよ。受け付けの時、僕は依頼って言葉を口にしたけどこのお姉さんは特に突っかかって来なかった。

依頼達成の報告のために冬春国幹部が来る。だから案内するふりをして牢屋にぶち込め。…みたいな、そんな指示を受けてたんじゃないかな。

まああとは誰が依頼主か、だけど…

後ろから警察官が僕を抑え込もうと手首を締め上げてきた。…別に、ワザと締め上げさせたわけじゃないよ?僕は本来医療にしか携われない人間なんだから。アルザちゃんみたいに後ろに目がついてるように動けるわけじゃないし。

まあでも、例えがアルザちゃんなだけで、僕も人並みに動けるよ。

ほら。

右足で後ろに蹴った。当然その後ろには警察官がいるわけで。金的を狙い撃ちにすることができたらしく、警察官は喉を絞った声を出しながら崩れ落ちた。僕の手首もこれで解放された。

警察官の面白い声で状況に気付いた他の警察官は銃を握りしめて、「発砲の許可を!」と無線か何かで誰かに伝えていた。

「発砲の許可ぁ?そんなの取ってたら、すぐ死んじゃうよ」

やれやれと肩をすくめた瞬間、僕は忍ばせていた5つの注射器を回転しながら投擲した。そしてそれは僕の周りを綺麗に囲んでいた5人に見事ヒットする。

「何だ!?毒か!?」

「班長落ち着いて下さい…!」

そうして大混乱が生まれた。

僕が人体実験で冬春国に追放された三大貴族ってことは知ってるだろうから、良い感じに撹乱できたかな。情報を逆手に取るって楽しいね〜。

あ、ちなみに5つの注射器の中はぜーんぶただの水。だけど、プラシーボ効果ってのはすごくてね。体が動きにくいって思っちゃうんだよなぁー。

「じゃ、早速いただいていこっか〜」

慌てふためく班長を中心に、他の警察官も焦燥が伝染していく。逃げようとしていたお姉さんにもそれは伝染する。

そして僕の一声でそれは恐怖へと様変わりする。

「『循環』」

僕自身の体に向けて技能を使う。

循環は簡単に言えば血流を良くするだけ。血流の速さを調整できるのが最大の強みだ。血流を速くすると起こることは三つある。まずは体の調子が良くなること。次は投与された薬剤が体に早く回ること。最後に身体能力が向上すること。

今回の僕のお目当ての効果は最後、身体能力の向上。だけど限界突破には遠く及ばないんだよなぁ。体のリミッター外すのと血液循環させるだけだから差異は絶対的なんだけど。まあ、限界突破の下位互換的存在だね。

「循環…!?警戒!対象は接近戦をおこな…ぐぁあっ!!」

班長の近くにいた警察官が冷静でシゴデキっぽかったから最初に潰しちゃお。

シゴデキ警察のお腹にキックをかまして、壁に押し付ける。

「言葉の途中にごめんね〜」

お腹を足でグリグリしながら、そんなこと微塵も思っていない言葉を吐く。強者感が滲み出て良い感じじゃない?

てか、ちょっとは壁にヒビ入ったかな?他の警察官にも僕が恐怖の象徴だって分かってもらわないと。現に今、僕の足先にいるシゴデキくんは恐怖で目の焦点が定まっていない。体もちょっと震えてるね。うんうん、良い感じ。じゃ、もう良いかな。

足をお腹から退けて周りを見渡すと、9人の警察官は僕に向けて銃を向けていた。股間蹴った奴も流石にもう復活してるか。

「撃っていいよ〜。だけどその意味をちゃーんと理解してね」

ニコニコと笑って見せる。ポーカーフェイスじゃない。僕にはそれだけの自信がある。

怖がれ、恐れろ、畏怖し、増幅させろ。

「うおおおおあああああ!!!!!」

バン。

班長くんが発狂しながら銃を発砲した音だ。それは僕の肩を撃ち抜く。いつもより2倍以上の血が吹き出す。循環してるから、いつもより血の出血具合が大きい。循環はこれが欠点だよねぇ。

ていうか、もっと心臓部分に近くてもいいのに。手が震えて狙いが逸れたのかな。

まあどっちみち痛いから治しちゃうんだけどね。

「『治療』」

若草色の魔力が銃痕が残った生々しい肩に纏わりつく。じゅくじゅくと細胞が急速に再生する音が鳴って、僕の肩はすっかり全快した。

「う、撃て!!治療は魔力消費量が多いはずだ!蜂の巣にすればいずれ死ぬ!」

ちょっと知的な雰囲気を醸し出している警察官が叫び、銃を乱射した。それを起点に周りの警察官も乱射し始める。

確かに、銃の利点である手数を利用しない手はないよね。お、今僕面白いこと言った?

「僕がどれだけ場数を踏んできてると思ってるの?」

10年間冬春国の幹部を務めてきたんだ。このくらいの窮地、すでに10回は体験した。だから、この時の対処法も分かるよ。

ナイフを2本取り出して、クルクルと回転させる。それを頭部と心臓部付近に置いた。発砲音が聞こえた方向を頼りにナイフをその方角に向けると、キィンッと甲高い音色と共に銃弾をナイフが弾いた。まあ急所は狙ってくるよね。だけど手や足、腹部などは一切守らない。

一度体験したからこそ分かる。僕は脳と心臓が残っていれば生きていられるんだって。

こんな無茶な方法が基本って、僕って意外とギャンブラーだよね。でも、僕は弱いから。弱いから少しでも無茶をしないと戦えない。

「は、こいつ…!!」

指示を出した冷静くんが顔色を驚愕に変えた。そして少しずつ鮮やかにその顔が絶望に染まっていく。苦しそうな顔をしながらもひたすら乱射を続けていく。

「無駄だよむーだ!何やっても君たちは僕には勝てないの!【古雨国】が【冬春国】に勝てないのといーっしょ!」

これ古雨国民からしたら特大地雷だと思うんだけど、どうかな。これが吉と出るか凶と出るか。さあ、僕のギャンブラー魂が騒ぐね。

「くそ!!!お前分かって言ってるな!?違う、違う!!もうお前らには負けない!!負けられない!!」

お、いいね。激情は吉だよ。集中力が途切れて、僕という的に当たりづらくなるからね。他の警察官たちも、その激情に駆られたのかあんまり当たらなくなって来た。

「負けない?負けられない?あはは、面白いこと言うね〜。やっぱ君たちは生温い世界で生きてるみたい」

「生温い…?元古雨国民なら分かるだろう!この数十年でどれだけこの国が変わったのか!餓死者や窃盗率が上がり、政府もまだ不安定だ!!何が生温いと言うんだ!」

確かに、長年王政だったのがこの数十年で共和政へと成り変わったのは、大きな変動だ。共和政へと移り変わってからは、犯罪発生率も跳ね上がったと教科書で読んだ。

だけど。

「違うよ違う。僕はそんなこと言いたいわけじゃなくて」

警察官たちの目が鋭い。激情しているからこそ、鋭さに拍車を掛けている。僕の次の発言をしっかりと吟味しようとしているからだろうか。僕の胸も少しずつ高鳴っていく。

「古雨国民は負けないことを考えて戦いに挑むんだねって。だって冬春国民は違うから」

警察官たちの目が吊り上がった。古雨国を馬鹿にされたから。冬春国は君たちよりも上だよと言われたから。だからこそ、銃の乱射が一層激しくなった。

「…勝てないと、死ぬからね」

僕の小さな声は、怒りが乗せられた発砲音にかき消された。

僕は一つ、簡易的に深呼吸をして一度精神をリセットさせる。もう十分すぎるほどに煽った。銃を持つ手もブレブレで、僕に当たる弾も数弾だけ。そろそろ動き出しても良い頃合いだ。

頭部と心臓部分に置いていたナイフを退け、僕は走り出した。狙うは怒りで顔を真っ赤にさせている班長くん。まあこの班長くん、結構出来損ないなんだけど。一応指揮官だし殺せば士気も下がるでしょ。

僕の突然の攻撃の転換に驚いた警察官たちは一瞬乱射を止めてしまう。そこを、突く。

即座に加速して、班長くんの喉元をナイフで掻っ切った。集中によってスローになった世界での班長くんの顔は、驚愕と憎しみが混ざり合っていた。

「僕たちは殺される前に殺せ、が主流なんだけど」

近くにいた二人の警察官にも近寄り、心臓部分を突き刺し、すぐさま抜いた。二人は絶叫をあげながら崩れ落ちる。

「何で今回は先手じゃなかったと思う?」

再び銃の乱射が始まる。僕はもう止まらない。踊るように銃弾を避けて、ナイフを二つ投擲した。それは吸い込まれるように警察官の頭部へと直撃する。

「この僕が、まんまと罠にかかってあげたの。僕の追放について詳しい話をしたくてね」

投擲したナイフを取りに銃弾を華麗に躱しながら、頭部にナイフが刺さった警察官からナイフを抜き、心臓部を一突きした。

「でも僕が欲しい情報はなかった。しかも長ったらしい正義を語っちゃってさ。お姉さん、ニウラの差金でしょ」

ナイフを抜き取り、隅っこで大人しくしていたお姉さんに切先を向ける。

「…【様】を付けろ、憎たらしい愚民が…!!」

その端正な顔を顰めさせて、静かな怒りを表した。手もワナワナと震えており、顔も真っ赤に染まっている。

完全にニウラの信者だ。

「ほんと、ニウラはどこまで根を張ってるのやら…」

お姉さんに近付こうとしたが、それを阻もうと体ごと僕に差し出した警察官が二人。この二人もニウラ信者かな?

そんな肉壁を無残にも壊して、後ろから迫ってきていたもう一人の警察官に回し蹴りをプレゼントする。僕の力じゃ回し蹴りで人は殺せない。だから、ナイフもプレゼントしちゃう。そうして投擲したナイフは心臓部へと突き刺さった。

「……ニウラ様、どうか私に力を」

さぁ次はお姉さんの番だよ、と思った矢先にお姉さんは急にジャケットを抜いだ。

「えっちょっと!破廉恥!!」

そう言って僕は思わず目を背ける。そりゃあ、ジャケット上でも大きかったアレが、シャツ姿になったらもっと……

だけど、敵を視界から外したことは僕にとって致命的だった。


それは発砲音というよりかは重く、轟音というほど大きくはなかった。


そうして僕の右半身の胴体は消し飛ばされた。


「はっ…!?」

胴体だったのがまだ救いか。心臓も頭部もまだ残っている。だが、死に瀕したことで元々高なっていた心臓が、驚愕によってより一層激しく鼓動する。一気に余裕が無くなった。

「『治療』…!」

状況確認の前に自分に治療を施す。若草色が右半身の胴体を覆い、再生を始めた。だけど回復のスピードは遅い。僕の魔力も無限じゃない。しかも右半身を一度に再生するなんて、魔力が多い僕でもあまり使いたくない手だ。

右半身を治療している最中に、お姉さんの状況を把握する。

お姉さんはシャツ姿になっており、特に注目すべきはその胸。

…あ、違うよ。大きいとかそういう意味じゃなくって。まあ確かに大きいけど。

お姉さんの胸元には大きな銃口が内蔵されていた。散々聞いた物がまさか目の前にいたとは。運命ってのは存在してるのかな。

「分かるでしょう。私は貴方の一族の被害者です」

お姉さんは凛々しい顔をして淡々を述べているが、実際かなり苦しいはずだ。なんせ、命そのものを使って銃を発砲するのだから。あの威力、かなり命を消費したに違いない。

「ニウラ様は、私たち被害者の味方です。ニウラ様は加害者を絶対に許しはしません。ニウラ様は、これからも道を作ってくださいます」

あー、なんだ。やっぱただの盲信者だ。人体実験の被害者になってからニウラに拾われたとかそんなところ?まあこの信仰っぷりはこれかな。

「貴方たちは、加害者です。何を言っても赦しません。ニウラ様の名にかけて、まずは貴方を殺します」

「別に赦されたいわけじゃないよ〜。僕たちとしては、君たちを使って実験したことを何とも思ってないわけだしね。僕たちは正しいことをしたんだよ」

素直な気持ちをそのまま言うと、お姉さんは苦虫を噛み潰したような表情を晒す。過去のこととか思い出したのかな。

「……やはり、追放したのは間違いではなかったようですね。殺す。殺します。もう、これ以上犠牲者を増やさないためにも」

お姉さんが背中に手を回した。引き金を引いたのか、お姉さんの胸元から光が漏れ始めた。もう一発打ち込もうとしてるみたいだね。流石にもう受けて生きてる自信ないかな。じゃ、ちょうどよくここに壁があるし…

僕は近くにあった死体を二つ重ね合わせて、即席の盾とした。これを貫通するほどの威力は持ち合わせていなかったはず。

銃が発砲された。それは僕に向かってまっすぐに飛び、盾を一枚破壊した。二枚目も破壊されるか、という頃合いに威力は減衰し、僕は無傷だった。

「サユ様!!」

突然、後ろからそう叫んだ警察官二人が僕を後ろから押さえ込む。

「私たちのことは…」

警察官たちがそう言い切る前に、サユ様って呼ばれたお姉さんは胸元の銃口を光らせる。

容赦無いね。味方を味方として使わないその戦略、君こそ冬春国民に相応しいと思うけどな。

そう考えて、循環で血流のスピードをもっと速める。ドクドクと血液がどんどんと速くなっていく。

余裕な顔をしているが、実はとても焦っている。ミスったら終わり。銃で撃ち貫かれて死ぬ。

でも、

「それが、集中力の源になるんだよねぇ!!」

ピンチは良い薪だ。それを脳の暖炉にくべて、炎を熱く大きくさせる。

僕は力で警察官二人を押し退けた。僕から離れてしまった警察官たちはもちろんもう一度僕を押さえ込もうとする。

けど、もうその時には遅い。

僕は必死に横に避けた。お姉さんはきっと、撃つはずだからだ。例えそこに仲間がいたとしても。

僕が逃げて、それを再び押さえ込もうとした時間は僅か2秒。お姉さん胸元の銃から一筋の光が発射された。そしてそれは、僕を押さえ込もうとする二人にまっすぐと向かっていく。

その二人の死に際の顔は、驚愕と絶望が入り混じっていた。無残にも、二人は胴体や足を失い、死んでしまった。

「あぁ、すみません」

殺してしまった仲間に対しての第一声はこれだった。義務感だけで言ったような、特に感情もこもっていない謝り。

いやまあでも、クロちゃんよりかはマシか。クロちゃんだったら謝りもしなさそう。

さて、僕もそろそろ反撃に出たいところなんだけど…

お姉さんの胸元から再び光が漏れ出る。

どれだけ撃てるの?本当に。もうそろそろ生命力とか魔力とか底を突くと思うんだけど。

「あ、もしかして死ぬ気でやってる?」

そんな疑問はお姉さんの顔から多量の汗が流れ落ちるのを見て解決した。

「…分かってしまうのですね」

それに哀しそうな表情を浮かべる。そして、先程撃ったものの3倍ほどの太さがある閃光を発射した。

しかしそれは何故か遅く、僕が避けれることができた。横を閃光が駆け抜ける。閃光が駆け抜けた後の地面は抉れていた。

破壊力に重きを置きすぎて、速さにパラメータを振ってなかったのかな。

そして次の動向を見ようとお姉さんに視線を向けると、お姉さんは倒れていた。

「まあ、やっぱそうなるよね」

さっきの哀しげな表情。あれが全てを物語っていた。僕は彼女に近付いて、死んでいるか確認を取る。

「生きてるー?死んでるー?死んでたら〜手ぇーあ〜げて!」

集中力が切れて、脳死モードに入る。頭の中で思ったことが次々と口から出ていく。別に僕はこれを何とも思ってないけど、イズミにはいつも直せって言われてる。なんか…思っても言うなってさ。

彼女の顔を覗き込むと、意外にもこちらを睨まずに虚な瞳で虚空を見つめていた。体に異常反応は無さそうだが、今にも空気と一体化して溶けていきそうだ。

「わ〜生きてる〜」

「ニウラ、様…どうか…加害者に、鉄槌を…」

僕の言葉に反応してくれたと思ったのに、それはただの独り言だった。

そして、お姉さんは独り言をポツリと呟いてから、息を引き取った。もちろん、空気には溶けなかったよ。


ーーーーー


ニウラを倒してから、カノの寮室へと向かい忘れ物を取ってきた。カノの忘れ物は、中心に綺麗な青色の石をはめたブローチだった。

三人はカノの寮室の前でブローチを見つめる。

「これ、もしかしてサファイアか…?それに…魔力が宿ってる…」

それを見ていたヤドリギが感嘆したような声をあげて、カノのブローチをマジマジと見つめる。

「えっ、そうなの?」

対してカノは本当に何も知らなさそうな声をあげた。

「何で本人が知らないんだよ」

「これお母さんの遺品だからね〜。お母さんならこれがどんな石か分かったかも」

遺品、という言葉を聞いてヤドリギは何とも居た堪れない表情をして、視線をカノから外した。

「お母さんは…古雨国の人に殺されたんだっけ」

「そうそう。会社の都合上こっちに来たんだけど、その時に冬春国に入ったみたいで。で、なんかそれが古雨国の方の会社に伝わってたみたいでさ。バン!よ」

カノは銃で撃たれる真似をする。

「カノはそこから逃げれたんだね」

暖海国は世界で1番平和な国だ。そんな平和な国で生きてきた少女が、対冬春国民専用組織に狙われて生きて逃げられたのはとても凄いことだ。

「いや、違いますよアルザさん。俺が聞いた話だと、襲ってきた警察官全員皆殺しにして、追手も全て返り討ちにしたとか…」

えっ、とアルザは無意識に呟く。思っていたことと全く違ったからだ。カノに目線をやると、どこか嫌そうな表情だった。

「うわぁ、なんか人に語られると嫌かも…」

そういうことらしい。通りでニウラと戦った時、予想外の強さだったわけだ。認識のズレが生じていたのだろう。

「ヤドリギは…ここでお別れなんだよね?」

カノは今からアルザと一緒にホテルに行き、ヤクモと合流して冬春国に帰る手筈だ。ヤドリギは古雨国でやらないといけないことが残っているそうで、一度古雨国に留まってもらう。

冬春国に帰ってから、依頼があればそちらを優先的にし、それが終わってから再び古雨国へと戻る。

今のところこんな計画のはずだ。

「そうですね。俺は待ってますよ、ここで。アサギさんはしばらく古雨国にいるんですっけ」

「うーん、多分?依頼達成の報告ってよくわかんないから…」

すぐに終わるのかもしれないし、全然終わらないのかもしれない。ちゃんと聞けばよかったな、とアルザは反省する。

「じゃあアサギさんと待ちますね」

「分かった。よし、これからの予定結構固まってきたね」

とりあえずはカノと一緒にホテルへと戻る、だ。

カノに一度忘れ物はないか確認する。カノはカバンを見漁って、大丈夫!と大きく頷いた。

「そろそろ行くよ。…ヤドリギ、また」

「ヤドっち〜待っててね!」

アルザは小さく、カノは大きく手を振ってその場を後にした。ヤドリギも微笑んで手を振り返してくれた。

そしてヤドリギは一人になった。ヤドリギ自身、孤独に慣れているため不安に思うことはなかったが、先程までいた人の温かさが急に失ってしまったため、どこか寂しくなってしまった。

やることもなくなってしまったため、ヤドリギは自分の寮室へと向かう。

寮室に辿り着いた。ドアノブに手をかけて、回す…当然、中には誰もいないはずだ。二人で一室なんて規則はないからだ。

しかしそこには、いた。

「や〜っときたぁ!!」

高い声でキャンキャンと鳴く、うざったい先輩が。

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