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結と結奈の黄泉帰り。~初恋のカケラ石~  作者: すみ いちろ


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20/22

20.鼎神社星夜祭り。






 ──神社の境内を取り囲む木々が、鬱蒼と生い茂り……。その枝葉の隙間から、しばらく、結くんと二人──。立ったまま見上げて居ると、夜空の星々がお月様と一緒に輝くのが見え始めていた。

 時々、風が吹くと蒸し暑さの中に涼しさを感じる。こうしては居られないはずなのに……。なんだか、夏祭りの夜みたいに錯覚して。ただ、結くんと私の指先が軽く触れ合ったままで。ずっと、この時間が永く続けば良いのにって想って居た。

 私は少しの間、黙って空を見上げて居たけれど。やっぱり、結くんの残された時間が気になって──。


「……どうしよっか? この後」

「ん?」

「帰れ……ないよ?」

「──電車は、魔法で出せないよな?」

「無理だよ……。そんな、想像も出来ないこと」

「俺も……。じゃあ、徒歩?」

「かな? 帰るにも……遠いよね?」

「あぁ。せめて、自転車があったなら──」

「けど、行き先は? 家……帰ってる場合じゃないよね?」

「……たぶん。他の皆も兄貴も考えて居ることは同じなはず……」

「え? 考えって?」

「この時代が、いつなのかは分からないけれど。やっぱり、帰るには、あの場所に行く以外には──」


 本当は分かって居た。けれど、結くんの気持ちや考えを聴きたかった。

 私は、見上げて居た夜空から視線を外して、結くんの方に目を向けた。結くんも、私の方をジッと見つめて居た。


「「──鼎神社……!」」


 息ぴったりな言葉が、まるで予め申し合わされた様にして、この小さな鼎神社の境内に響き渡った。星が輝く夜空の下には……私たち以外には、誰も居なかった。風が吹いて居て、木々の枝葉がザワめく音が聴こえた。

 けれども、大きな方の鼎神社までは、ちょっと距離があって……。自転車でも三十分程の道のりで。徒歩だと一時間以上は軽く掛かりそうだった。それに、お腹も減って来たし、喉も渇くだろうし──。


「……まぁ、歩く? 辿り着けば、鼎神社の人たちが……きっと」

「だよね? 都合良くタクシーも通らない田舎道だし。仕方ないかな?」

「結奈、身体、大丈夫?」

「うん。平気。結くんは?」

「あぁ。結奈がくれたエナジードリンクが、効いてるかな?」

「もう! でも……良かった」


 そんなことを二人で話している内に境内を抜けて、神社の鳥居が見えて来た。参道の凸凹とした山道は、森に覆われていたのもあって暗かったけれど──。ポツリと照らす外灯の下に、来た時には無かった自転車が二台。ひっそりと、置かれてあった。


「俺の……自転車か?」

「私の……自転車だ」


 二台の自転車には、鍵が掛けられて居なかった。鍵自体は、挿されてあったけど。

 いつの時代に来たのかは分からないけれど──。確かに、二人の自転車がそこには置かれてあった。蒸し暑さと夕暮れ時の涼しさと、さっきまで聴こえて居た蝉時雨の鳴き声に、今が夏の終わりなんだってことだけは分かる。

 私と結くんは繋いでいた手を、そっと……離して。それぞれの自転車に跨って、もう一つの鼎神社へと向かうために、ペダルを踏み出した。









 ──鼎神社。大きい方の、葉月さんやマニカさんが居たお社に続く参道の坂道には、屋台や出店が連なって居て。一緒に自転車を漕いで来た結くんと、顔を見合わせてから息を切らせて驚いた。

 夜の暗闇の中を連なるオレンジ色の電球の明かりが幻想的で──。発電機のモーターが回る音や、大勢の人の話し声……雑踏の賑やかな音が、機材から聴こえる祭囃子の音とともに流れて居た。


「……こ、これって?」

「星夜祭り? 時期が違わないか?」


 すると、人混みの中に、たまたま居合わせた浴衣姿の二人──。鈴と響くんの姿を、フランクフルトの出店の前で並んでいるのを発見した。

 私は、慌てて自転車に鍵を掛けてから、二人に駆け寄った。チラッと後ろを振り返った私の視界には、静かに自転車から降りた結くんが、ゆっくりと歩いて来て居るのが分かった。

 それから、しばらく。この世界で、ようやく会えた鈴と響くんと、話をした。


「きゃーっ! 結奈じゃん!! もう、何処行ったのかと思ったよー!!」

「ごめん、結奈。なんか悪ぃ。けど、気が付いたら二人──鈴と俺は、浴衣姿で近くの道端で突っ立って居たんだよ。なぁ、鈴?」

「そうそう! もう、訳が分からないよー!! あ、後ろの……もしかして?」

「お、お?! えっと……」

「鈴、響くん? 二人とも、この世界での記憶って……ある?」


 鈴と響くん──。二人が、結くんのことを……この世界に来ても思い出せて居るのか不安だった。

 私が、そんなことを想いつつ──結くんの自己紹介をどうしようかと考えて居ると──。私の後ろから、ぐっと前に出る様にして、鈴と響くんの目の前に結くんが立って居た。


「鈴、響……。久しぶり──」


 その声を聴いた響くんが出店の列から抜け出して──。驚いた表情で、結くんの足元から頭の先までを、不思議そうな目で見つめて居た。


「結──だよな?」

「あぁ……」

「いつも、会ってたよな?」

「……そうだな。最近、部活に行けてなくて悪かった」


 少しだけ沈黙した後、響くんの隣に居た鈴がハッとした表情をして──持っていた団扇うちわで口元を覆い隠す様にして驚いて居た。


「……む、結くんだよねっ?! なんで、気が付かなかったんだろ、私。結奈の新しい恋人なのかなって、てっきり……」

「い、いやいや。まさか、まさか。そんなはず、無いよ。結くん……だよ?」

「だよねっ?! あー、なんか、思い出せて来たっ! 結くん、そう結くんを……えーっと」

「連れ戻すために……。そう、俺たちは、結を連れ戻すために来たんだっ!! だよな、結っ!?」

「いや、どう言う話の流れになって居るのか知らないけど……。そう想って居てくれて、嬉しいよ。響……」


 私は──。とりあえず、少しホッとした。結くんに時間が無いのもあったけれど、二人がこの世界でも何とか結くんを思い出してくれたことに、安心した。

 後ろ髪を綺麗にアップした鈴のメイクされた口元が、夜店の電球に照らされて艷やかに光って居る。

 私もお化粧をし直したかったけれど……。そんなことを考えて居る暇は無かった。結くんには、時間が──。


「あ、あのね! 鈴と響くんって、葉月さんやマニカさん──鼎神社の人たちには会ったのかな?!」

「いや。俺たちも、ついさっき来たばかりだから……」

「んー。やっぱり、神社の奥に行くべきじゃない? 巫女さんや神主さんな訳だから……そこに居るかも?」


 私が鈴や響くんの顔を見た後で、結くんの顔を見ると──何処か静かな眼差しをして、結くんはうなずいた。この世界に居られる時間が少ない、結くんの瞳が……私には哀しげに見えて仕方が無かった。









「ハァハァ……」

「すみませーん! 後ろ、通りまーす!!」

「あ、ごめんなさい! すみません!」

「けっこう、キツい! 石段、駆け上がるのって!!」


 私と鈴、響くんと結くんは──。

 結くんの残り時間が、この世界に居られるのが少ないのもあって……。

 お祭りの人混みを掻き分ける様にして、この先の奥にある鼎神社の本殿まで駆け足で走り抜けた。途中で、何度もサンダルが脱げそうになる。私は自分に構って居られなくて──。そのまま、サンダルを手に持って、素足で駆けて居た。


「結奈っ?! よ、良し! わ、私もっ!!」


 屋台でごった返す人混みの中、前を走る響くんと結くんに追い付こうとして──。私と鈴は、必死になって走って居た。


「もう少し、もう少しだからっ!!」

 

 ──神社の拝殿に用意されたお神楽舞の舞台が見えて来た。

 木で組まれた松明の炎が明かりとなって、境内を囲む様に照らして居る。その舞台の上で、平安時代の様な着物を着た空也さんの姿を見掛けた。そして、その隣で同じ着物を着て舞台の準備をして居たのは──。結くんのお兄さんであるツナグさんだった。


「空也さん! ツナグさんっ!!」

「あ、結奈ちゃん! もしかしたらって、心配してたとこだよ」

「ハァハァ……。あの、結くんを──連れて、来ました……」


 息が切れて、二人に呼び掛けるのが精一杯だった。

 返事をしたのは空也さんだけで──。私の声を聴いてから、顔を上げたツナグさんは……私の位置より前に立って居る結くんの姿を見て、呆然として立ち尽くして居た。


「ハァハァ……。兄貴──」

「結……なのか?」


 高さがそれ程でもない舞台袖から、ぶわっと飛び降りたツナグお兄さんが、白い足袋を履いたまま結くんへと駆け寄った。


むすぶっ!! ごめん、ごめんな……結。僕は、弟としての君のことを、ずっと、ずっと……。あっちの世界で忘れてしまって居て……。うぅっ……。すまないっ!!なんて、今更……」

「いや。兄貴は兄貴で、この世界でも……ずっと俺のことを心配してくれて居たから。……変わらないと想う」

「結……!」


 息が切れ掛けて居たけれど、二人の姿を見ていると急に安心して──。私の心臓の鼓動が、段々と治まりかけて行くのが分かった。


「良かったね。結奈。結くんとお兄さん……」

「うん……」

「あぁ、やっと本当の意味で、兄弟二人が出会えたって訳か。けど、まだ大事が控えて居るよな……」

「そうだね。元の現実世界に、帰らなきゃ──」


 しばらく、ツナグさんと結くんの様子を見守った後──。私たちは、空也さんに案内されて……。この世界に来た葉月さんとマニカさんの元へと、ようやく辿り着くことが出来た。









「皆、よく集まって来てくれた」


 この世界に来る前に居た、鼎神社の奥──。私や葉月さんの七人が集まって居た、ご祈祷をする場所。

 そこで座布団を敷いて皆が円になって座る中、最初に口を開いたのは、あっちの世界と同じ巫女装束を着た葉月さんだった。その隣には、マニカさんも同じ巫女の衣装を着て控えて居た。


「いや、それ。俺の台詞……」

「良いから。空也は静かにしてて」

「うっ……」


 何だか、神主っぽい格好をした空也さんが、不服そうだった。

 ──外の松明の炎の明かりが、チラチラと灯って居るのが見える。神聖な雰囲気を穢さない為か、この広間の電気は消され……代わりに蝋燭の炎が灯されて居た。

 続いて、葉月さんが揺らめく炎に照らされながら、話しを始めた。


「今夜は、現実世界に居たあの日から数えて、一週間。たまたま、結くんが居合わせてくれて運が良かった」

「だね? 葉月っ! もしも、私が結くんとの時間軸の座標を間違えて居たら……」


 葉月さんとマニカさんが話をして居る途中だけど──。私には、鈴も響くんも結くんさえ静まり返る最中……。どうしても、尋ねたくて気になって居たことがあった。

 私は、その場で立ちはしなかったけれど、座ったままで精一杯の声を上げた。


「あ、あのっ! どうして、今夜は星夜祭り何ですか?!」


 皆の視線が一斉に私へと集まる。私は、びくっ!──として。皆の顔を見渡しながら、背中に変な汗を掻いて居た。


「それが……。私たちにも分からないんだ、結奈ちゃん。こっちと、あっちは平行世界? あの世とこの世みたいなもんだから、少しずつ違って居て……。だよね、葉月?」

「でも、こっちでは今日が最も鼎さんの──お祀りして居る御神体のことなんだけどね──力が高まる日で本当に良かったんだから。じゃない、マニカ?」

「そう……なんですか?」

「うん。こっちの世界から、あっちの現実世界にアクセスするには、ちょっと力が足りなかったんだよ。だから、鼎さんの力に加えて──結くんとの縁ありし者を七人分。その力も集めたんだよ?」


 マニカさんや、葉月さんであっても分からないって言うのが答えだった。この世界は謎に包まれて居るんだって、改めて私は想った。けれども、もっと大事なのは、結くんと一緒に現実世界へと帰ることであって──。

 ──あっちの世界と同じ様に今、鼎神社の奥に位置するこの大広間には……。現実世界に居た私たち七人の他に、結くんが確かに居る。しかも、誰も座ることの無かった私の隣に。それが私には、本当に不思議でもあり、当然の様な気もして居た。


 そうして居ると、今まで黙って居た結くんのお兄さん──。ツナグさんが、座ったまま俯いた顔を上げて話し始めた。泣いて居るのか、ツナグさんの声が震えて居た。


「──今夜は皆、本当に弟の結の為に集まって来てくれて、ありがとう。これで、ようやく……」


 ツナグさんが精一杯の感謝を皆に伝えようとした最中──。

 突然、結くんが口を開いた。

 

「いや。その台詞を言うのは俺の方だよ、兄貴……」


 それから──。スッと、その場に立った結くんは、皆に一礼をしてから高校生とは想えないほど、しっかりとした口調で挨拶を始めた。

 

「僕からも……言わせて下さい。皆さん本日は誠に、上坂結の為にお集まり頂き、また皆さんからお力添えを頂き……本当に有り難う御座いました」

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― 新着の感想 ―
結くんと結くんのお兄さん…ツナグくんが再会できてえがったえがった(;´Д⊂) てか、今気づいたけど現実恋愛になってますね~。
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