とある転生者は異世界の伊能忠敬になる
只の思いつき、と言いたいところですが、昨日某配信を視聴していたところ、こんな転生物があったら面白いって話からインスピレーションを受けたので文章にしてみたものです。
もとネタを知らないとオチも良く判らないかもしれないのですみません。
『尊敬する人は誰ですか?』
高校の面接等で良く聞かれる質問であるがなんと応えるのが正解なのだろうか。
織田信長?
成果こそ立派だが、うつけと呼ばれていたり最後は味方に裏切られてしまうのに?
では豊臣秀吉ではどうだろう?
いや、忠誠心は尊敬できるが今の時代にはそぐわないし、そもそも戦国武将は如何なものか。
父親――流石にそこまででもないし、身内贔屓と思われても嫌だ。
トップアスリート――凄い人達とは思うが、並々ならぬ努力はトップの人達でなくてもしているだろうし、そもそもスポーツは私の専門分野ではない。
専門分野で言えば研究者や技術者が適している。
そう考えるとガリレオやダーウィンと言った外国の偉人を思い浮かべがちではあるが、私はもっと身近で実際に尊敬できる人物を知っている。
その人物の名前は――――、
◇ ◇ ◇
「アルスバニアが我が国に対する戦闘準備をしているという情報が入った。その証拠がこれだ」
会議の議長――騎士団長が空中に写真の様な画像を浮かべる。
当然それは写真などではなく、『遠見』の魔法によるものだ。
この世界は機械の発展は遅れているが、それは魔法という便利なものがあるので当然とも言える。
とにかく、映し出された映像には、隣国の鎧を来た兵士が砦を構築している様子が映っている。
だが、その様子は少し違和感がある。
「方向としては――――」
「あれ? クランドギアじゃ…………あっ」
つい違和感があったので口に出してしまったが、思ったより大きな声を出してしまったようだ。
「ほう。クランドギアとな? となると、両国が協力しているか、偽装ということであるな。サルンの領主、何故そう思った」
騎士団長に叱責されるかと思いきや王様が私の呟きに食い付いてしまった。
これは平謝りでは許されないだろう。
覚悟を決めて説明を開始する。
「え、えぇと、まず植生ですが、こういった葉の細い木は寒い地方か高山にしか無くて、周りの赤い土も銅鉱石が混ざった色をしているので、クランドギアのサマナール火山じゃないかと。後はこの建物の屋根の特徴が火山南東の地方の――――」
「判った。もう良い。敵対国はクランドギアである。探査魔法の妨害も行なう程となるとよっぽど本気とみえる。騎士団長、至急対応を」
「はっ」
王様の一言で議長である騎士団長が退室したため、会議はこれで終了だろう。
いやはや緊張した。
異世界転生した先はサルン地方のそれなりの貴族の家であったが、傍系であり兄も姉も居たので、権力とは無縁だった。
ただし、転生前の記憶を使って商業を盛り立てていた内に本家の養子となった。
その貴族の本家は、より上位の貴族とライバル関係を持ち、それぞれ無駄に足を引っ張り合っていたのを仲裁している内に地方の貴族に気に入られ、地位が向上していった。
その実績によるものか、本家の主を含めた数人が病気で他界した際に推薦され、ついには家督を継ぐことになった。
その後は、保険として米等の食糧をふんだんに買い込んでみたり、実際に災害が発生した際に備蓄を開放したり、地方の貴族や王家と交渉している内に、サルンの領主となっていた。
およそ立場としての役割は十分果たして来たので、後は隠居し、自分の趣味の実現でも行おうと考えていたところだ。
「さて、サルンの領主よ。御主は確か世界の測量を行うべきと言っておったな」
転生前は、地学や天文学が趣味だった。
ただし、こちらでは当然星の位置も違えば、地球と言ってしまって良いのか、惑星となる大地の動きも違った。
しかし、魔法が中途半端に万能過ぎるが為に、測量器具も無ければ、地図なんてものも無かった。
そのため、魔力の有る者と無い者で認識の違いが多く、明確な基準を設けるべきというのが、領主に与えられた権限を使って提言した経緯がある。
「此度の問題においても正確な地図があれば惑わされることもなかったやもしれぬ。そこでだ。御主にこの国の測量を命ずる。先ずは試しに北部のシーロドの地方の測量を行うが良い」
これは願ったり叶ったりだ。
隠居してやろうと思っていた事に通じている。
それが国の事業として行えるのであれば、わざわざ資金を増やしたりする必要もない。
「喜んで拝命致します」
◇ ◇ ◇
「ほう。それでその人物を尊敬する理由は?」
「はい。若い頃から努力し、更には老年に至ってもこの国の地図を作り発展に貢献したことが素晴らしいと思います。ですが――――、」
この人物の名を挙げるのであれば、ここまでで十分高評価を得られるであろうが、どうしても主張したい事がある。
「そこまでの行動が、全て1つの目的の為だった――1つの娯楽の為に全人生を掛けたその心意気を尊敬します!」
ジオルゲランド王国、そこでは1つの娯楽が流行っていた。
それは『遠見』の魔法で見る景色が実際にどの位置にあるかを当てるというものだ。
魔法を上手く制御することで見える景色の位置から相対的に移動することもできる。
また、方向や距離も判るが、これは正解を示してしまうので、一時的に敢えて妨害を行なう事も必要だ。
その娯楽には、某人物が既に名前を付けている。
その娯楽の名前は――――、