序章~出会い~
「あなたが探偵さんなの?だったら解いてほしい事件があるの!」
銀髪の少女がそう話しかけたのは、どこにでもいるような、それでいて不思議な雰囲気を持つ黒猫だった。
時は、ほんの少しだけ遡る。
《私の視点》
夏の代表とも言える騒がしいセミの声が鳴り響く、とある夏の日のことだった。
私が都内の外れにある木造建ての一軒の喫茶店に訪れたのは。
カランコロン。
「いらっしゃい」
カウンターにいるマスターらしき男がダンディな声で応えた。
私が喫茶店ライラックの中へ入ると35度を超える猛暑だった外の気温で汗をかいていた体が店内の冷房の心地よい風によって冷まされていくのを感じた。
私は深呼吸をしてカウンターにいる、堀の深いのダンディな髭を生やしている、いかにもマスター風の男の前の席に座り声をかけた、男は拭いていたコップをカウンターに置きこちらを見た。
「ここに探偵がいるって聞いたんですけど、あなたが探偵さんですか?」
「私は探偵ではなく、ただの喫茶店のマスターですよお嬢さん」
そういってまた拭きかけコップをまた手に取って拭き始めた。
【そんなどうしよう。私はここが最後の望みだったのに、これじゃあ亡くなってしまったお父さんに顔向けできない。】
私が半ば半べそになっているとマスターが一杯のコーヒーを私の前に出してくれた。
「お嬢さん、よければ一杯どうぞ」
「あ、ありがとうございます。すみません急に変なこと言ってしまって、コーヒーいただきます」
私はカウンターに座りコーヒーを一口飲んだ、苦かったのでカウンターの瓶の中にあった角砂糖を一個入れた。
「私でよければ話を聞くくらいならできますよ」
「ありがとうございます、まずは私の名前ですが一ノ瀬楓です」
私の名前を聞いたマスターは一瞬手を止めると私の顔を見て今度は別のグラスを拭き始めた。
「一ノ瀬さん、私はこの喫茶店ライラックのマスターをしている氷室浩介といいます、それで一ノ瀬さんはどうしてここに探偵がいると思ったんですか?」
「えっとそれは、お父さんがどうしようもなく困ったらライラックに来ると探偵さんがいるからその人に会うといいってその人ならどんな困ったことも解決してくれるからって言ってたんです」
「なるほど、お父様のお名前を教えてもらってもよろしいでしょうか」
「お父さんの名前は、一ノ瀬湊です。」
その言葉を聞いて氷室さんがカップを磨いていた手を止めた。
「やはり湊の娘だったか、顔つきも似ているそれにその透き通る海のようなその青い目に特徴的な銀髪は君の母親のマリーに似ている」
「なんで、お父さんだけじゃなくてお母さんも知っているんですか?」
私はこの氷室という人物に懐疑的な目線を送った。
「君の両親とは学友だったんだよ、いつも4人で行動していてねとても楽しい学生時代だったよ」
「そうだったんですか、学生の時のお父さんとお母さんはどうゆう人だったんですか?」
「湊はとても正義感が強く洞察力に優れていたよ、マリーは好奇心が強くよく面倒ごとに首を突っ込んでいたよ、おかげで湊と私はそれの後始末をさせられていたよ」
お父さんとお母さんのことを話しているときの氷室さんは楽しそうだった。
【あれ?でもさっき4人って言っていたけど後の1人は誰なんだろ】
私がそんなことを考えていると氷室さんは少し悲しそうな目をしながら話し始めた。
「もう1人はね、私の妻だったんだもう亡くなってしまったけどね」
「そうだったんですか」
「私の妻、薫はとても優しく虫も殺さないほどで、いつもマリーの後ろについていて何かあると私と湊を呼んできて助けを求めていました。」
「とても優しい奥さんだったんですね」
「ええ、彼女のそんな優しさに惹かれて結婚しました」
氷室さんは昔を懐かしんでいるのかとても優しい顔で話していました。
「おっと長話が過ぎましたね、楓さん今日はどうしてここに来たんだい?それに湊は一緒じゃないのかい」
「言いにくいんですが父は亡くなりました。。」
「そうか、すまないことを聞いたね」
「いえ、大丈夫です」
そういうとしばらくの間沈黙が続いた、少しして店のドアについていたキャットドアから一匹の黒猫が入ってきて沈黙を破った。
「この猫ちゃん飼っているんですか?」
「ああ、この猫はノア、家に居候している猫で、そして君が探していた探偵だ」
「えっ」
【どうゆうこと、この猫ちゃんが探偵さんなの?ひょっとしたら、からかわれているの?
どうゆうことなの、わかんない、だけど警察に行ってもただの不運な事故だって取り合ってくれないんだからだから、もう私にはここしかないだから聞くしかない】
私はカウンターの席から降りて座っている黒猫の前に行きしゃがんだ。
私は一呼吸おいて腹をくくって聞いた。
「あなたが探偵さんなの?だったら解いてほしい事件があるの!」
黒猫はこちらをじっと見て、なんとあろうことか毛繕いを始めたのだった。
私はからかわれていたことに気づき顔が真っ赤になった私は氷室さんの方に体を返し強めの口調で言った。
「やっぱりただの黒猫じゃないですか!!」
すると氷室さんではない誰かの声が後ろから聞こえてきた。
「ただの猫とは失礼じゃないか、僕にはノアっていう立派な名前があるんだけどな」
「誰!」
私は咄嗟に振り向いた、すると私と同じ青い目をした黒猫がちょこんと座っていた。
「だから僕だって、この美しい黒の艶やかな毛並みが見えないのかな、もしかしてだけど目節穴?」
「うそ、本当に猫が喋ってる」
私は驚愕のあまり腰を抜かしてしまった、それもそうだ猫がしゃべるなんて普通に考えてあり得ない。
私がそんなことを考えていることをお構いなしに黒猫は喋った。
「で、僕に頼みたい事件ってのはなんだい?」
「それは」
これが私、一ノ瀬楓と人間の言葉を喋る奇妙な猫の出会いだった。
そして、この出会いが後に私の人生を大きく変えるとは私はまだ知らなかった
お久しぶりです。だいぶ前に書いたんですが、今週から毎週日曜日更新します。