猫、あっさりと死亡した
01 猫、あっさりと死亡した!!
ウチ(私)が生まれて、はや5か月余りになろうか? 生まれたころの記憶はないが、その後の何日かを暗い箱の中で過ごし、前の飼い主さまから今の飼い主さまのもとにやってきた。
新しい飼い主さまの名前は、宮本大輔という。
飼い主さまはウチに、‘すず‘という名前を与えて溺愛してくださり、毎日共に食事をして、夜は同じ布団に潜り込み一緒に眠る仲である。その飼い主さまが、このたび高校2年生というものに昇進され、それはとても苦難の道のりであったということであるらしい。
飼い主さまは狩りが不得意のようで、いつも朝は何かの目玉を焼いたものに、サダラ(サラダ)、それにトースター(トースト)などというものばかりを食べている。ウチも猫年齢では立派な大人であるらしいゆえ、狩りの下手な飼い主さまのために、今宵はスズメでも狩ってくることとしよう。この前、ネズミを狩ってきたときには散々と叱られたものだが、飼い主さまが鳥を好物としていることは、妹の陽菜殿との会話に猫耳を立てて調査済みである。今夜のうちにスズメ共の寝床にロックオンし、日の出とともに一網打尽とするのだ。ネズミなどより難易度は高いが、鳥好きな飼い主さまのためである。因みにロックオンとは、飼い主さまが、たまに四角い平らな箱と会話されているときの話し言葉で、見つける!ということであろうと理解している。ここは飼い主さまの家の近くだが、道幅が狭く、両脇には背の高い草がはえている。自動車はまず通れない私道である。たまに自転車や人が通るが、ウチを見ると近寄ってきたり抱き上げようとしたりする事があるので、飼い主さまの母殿がいつも妹殿に、知らない人についていってはいけないと言っている事を思い出し、視程内全方位の警戒は常に怠りなく行っている。ここは既に、スズメ共との主戦場である。
そのようなことを思考しながら歩いていると、突然の轟音とともに、黒い1つ目の怪物が眼前に現れた。その光に目がくらんだ瞬間に、すずはその怪物に跳ね飛ばされ、そのまま民家の塀に叩きつけられた。
それは大きな黒いオートバイだった。運転手はすぐに停車したが、はねたのが猫だと分かると、そのまま現場を立ち去ってしまった。喉から背中に激痛がはしり、呼吸もできなくなった。手足は動かず、そのうち痛みも感じなくなった。
ああ、飼い主さまにスズメを、スズメを、スズメを・・・、スズ・メ・・・