死ぬまで片想い
騎士団入団一年目の新人騎士の仕事に、王都内の巡回がある。防犯のためではあるが、それと同時に王都内の道を覚えさせるのが目的だ。そして入団一年目の新人騎士に道を教えるのが入団二年目の先輩騎士。これは慣例のようなもので、決して二年目の騎士が教えないといけないわけではない。が、先輩にそれをやれとは言えない二年目の騎士がその役割を負う。
そんな慣例を無視する男が一人。イーサン・ドシアンその人。
「よし、行くぞ」
ここ数週間、新人騎士を連れて王都を巡回している。ときには歩いて、ときには馬で。
「今日は忙しいからな、少し速度を上げるぞ」
「はい!」
普段あまり関わることのない先輩が、忙しい中案内をしてくれるとあって、二人の新人騎士たちは張りきってイーサンについていく。そして、ずいぶん時間を残して、「あとは、自分たちで確認をして、時間になったら戻るように」と指示をされる。
新人騎士たちは、ほんのわずかな時間でも先輩として後輩を指導しようとしてくれるイーサンに感激をしながら、元気に「はい、わかりました!」と言って二人で残りの時間を巡回している。と、バルトが知ったのはずいぶんあとになってから。では、その残った時間でイーサンは何をしていたのか。
「マリアのいそうな場所を片っ端から回っていた」
「おいおい、何をやってんだよ。新人ほっぽり出して」
「俺たちだって先輩にはほとんど教えてもらえず、自分たちだけで歩き回って道を覚えただろう?」
「まぁ、そうだけどな」
イーサンとバルトが新人のときは、駐屯地を出て五分後には、放りだされていた。そして決められた時間になったら先輩と合流をして戻るのだ。それを思えばイーサンはかなり面倒見がいいほうだ。
「だけどよぉ」
バルトは思わず頭を抱えてしまった。
「でも、もう大丈夫だ。見つけた」
「……怖い。それって犯罪にはならないか?」
「……別に、襲うわけじゃない。マリアが元気にしている姿を見たかっただけだ」
デヴィッドの所に行って頭を下げたがマリアの居場所は教えてくれなかった。当たり前か。二度と関わるなと言われているんだから。
次にメルニックを調べたが、マリアにつながる情報を得ることができなかった。メルニックを追えば、きっとマリアにつながると思ったのに。
「彼は、賢いからね」
「はぁ、本当にお前は病気だよ」
「なんとでも言ってくれ」
メルニックがダメならと思ってマーロンを調べたところ、他領に何かを買いに行っていることがわかった。古書だ。
古書か。
そこでイーサンは、王都中の古書店を探すことにした。頭の中に入っているのは大小合わせて三店舗。そして、ついに見つけた。そこには、今まで見たこともないような溌剌としたマリアがいた。
だが、見つけたからといって何ができるわけでもない。いきなり会いにいっても拒絶されるだけだし、自分には二度と会いたくないだろう。自分が絵を買っても意味はない。その世界に精通しているわけではない自分などなんの役にも立たない。では、自分は何ができるんだと考えても、何もマリアのためにできることがない。
「だからって、お前……」
「放っておいてくれ」
「それで、見つけてどうするんだ」
「……見守る」
今できることはそれだけ。すでにマリアの力になろうとしている人はたくさんいる。そこに自分は必要ない。
「……スチュワート嬢は?」
「……謝るしかない」
「会話にならないのに?バッサリ終わらせることも必要だぞ」
「……逃げてばかりだったから」
「そういうときにまじめなのはいらねーよ」
それは自分が一番わかっている。自己満足だということも。バルトの言うようにバッサリと切ることもときには必要だということも。ただ、無責任に離れてその怒りがマリアに向かうことだけは避けたい。
「すまん」
「俺に謝るな」
「……」
友人のバカな行動に頭を抱えたバルトではあるが、ホッとしたのも事実。
このままハンナと結ばれてもきっと互いに幸せになることはない。心を蝕まれて不幸へと突き進んでいくだけだ。
それに、ハンナがこの男のせいで不幸の道を歩む必要はない。まだ若いハンナが、これからもっと素敵な男性に巡りあえれば、この男がどれほどしょうもない奴だったか理解できるはずだ。
この男はいい。どうせどこまでも追いかける人は一人しかいないのだから。幸か不幸か、この男は立ち直ることができた。だから、死ぬまで報われない片想いをしていればいいんだ。
目の前で彼女がどこかの誰かと結婚をして、子供を作り幸せに生活している姿を遠くからジッと眺めて苦しんでいればいいんだ。
どうせ、誰にもこいつを止めることはできない。
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