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ミリアーナとネックレス

 ガッシュリードがミリアーナに会いにクリンフォッド侯爵邸に行ったのは、少し風が強いどんよりとした空の日の午後。

 ハンナから話を聞いて、すぐにミリアーナに連絡をし、その日のうちに訪問をする日程が決まった。


「ずいぶん慌てているけど、いったい何事かしら?」


 ミリアーナの首には深い緑色の大きな石のネックレスが輝き、指には水色の希少な石が光る。


「はい、実は」


 ハンナが王都でマリアらしき人物を見たこと。イーサンが二枚の絵画を購入したこと。イーサンとハンナの関係が少し心配だということを話した。イーサンとの関係は良好なはずなのに、ハンナの笑顔が少なくなったのだ。


「マリア・パルトローが王都に?ありえないわ」


 つい先日のお茶会でもアナベルが言っていた。


「パルトロー侯爵夫人が言うには、領地の屋敷から一歩も出ずに閉じこもっているらしいわ」


 それを聞いてガッシュリードはホッとした。やはりハンナの見間違いだったのだ。


「それを聞いて安心しました」

「それで、イーサンが絵を買ったという話だけど」

「はい」

「それはマリオね」

「やはり、そうでしたか」

「あら、あなた知っているの?」

「ええ、もちろんです。最近ドシアン公爵夫人のサロンが一段と賑やかですからね」


 しかもパトロンはメルニック。ガッシュリードが芸術家のパトロンになろうとしたきっかけもメルニック。メルニックの人脈が、芸術を愛でる者たちから広がっていることを知ったからだ。


 芸術に精通している貴族は多く、知識と所蔵している作品はその人の格を左右する。

 そういった意味ではガッシュリードは出遅れているが、支援活動をすることでその財力を証明できるし、金の卵を見つければメルニックのように高位貴族のあいだをうまく渡っていけるはず。

 そう思ったガッシュリードは、先日の芸術祭で無名作家のブースに行き、これから売れそうな作家を探した。しかし、娘のハンナをデートに送り出すことを優先して出遅れてしまい、これはと思った作家はすでにパトロンを捕まえていて、なかなか思うような作家に巡り合えず。それでもどうにか自分の好みに近い作家を見つけることができてホッとした。画家もやる気を見せているし、十分な支援をすれば、間違いなく成功するだろう。


「私が面倒を見る作家も、皆様を驚かせることになるかもしれませんよ」

「ふん、どうかしらね。そのマリオという画家は、すでに、予約を受けるほどの人気だそうだけど」

「最初だから、珍しいのでしょう」


 強気に出てはみたが、芸術祭で並んでいたマリオの五枚の絵は、すでに売約済みだった。

 しかし、ガッシュリードにはマリオの絵の良さがまったく理解できない。今の流行りは、目に見えるものをそのまま描く絵だ。そのリアリティこそが絵画だろう。それなのに、あの絵がなぜ売れるのだ?何やら奇妙な絵だぞ?そう思ったが、同時に物好きもいるものだ、と鼻で笑った。まぁ、物珍しいからだろうが、あんな絵を買う奴の気が知れない。そのときはそう思ったのだ。


「それで、イーサン様とハンナのことなのですが」


 それが本題。

 ミリアーナがわざとらしいくらいの溜息をついた。


「私はしっかりお膳立てをしてあげたわよ」

「もちろん感謝をしております。ですが、イーサン様はまだパルトロー侯爵令嬢のことを引きずっているようでして」

「……バカなことを言わないでちょうだい。二人の関係は一年以上も前に終わっているのよ」

「そうですが」

「ハンナ嬢の努力が足りないのではなくて?」

「そんなことは!」


 実際ミリアーナはそれなりに手を貸してきた。イーサンと引きあわせたし、新聞記事も作らせた。イーサンの父親で自分の兄でもあるアンドルーだって説きふせたのだ。


「私の努力を無駄にしているのはハンナ嬢だと思うけど」

「……申し訳ございません」


 ガッシュリードはギュッと口を結んだ。


「まぁ、いいわ。手を貸してあげる。でも。私だけが頑張っても、ねぇ」

「も、もちろんです」


 ガッシュリードが侍従に持たせていた箱を受け取り、蓋を開けた。その中にはガッシュリードが所有している鉱山でしか取れない希少で大粒のベニトアイトを真ん中にして、両側に小振りのダイヤモンドを三粒ずつ並べた美しいネックレス。


 もったいぶらずに最初から出しておけばいいものを。


 ミリアーナはニコッとしてその箱を受け取り、ネックレスを手にした。


「素晴らしいわね」

「ありがとうございます」

「これは?」

「私から、ささやかですが贈り物です」

「あら、なんだか催促したみたいね」

「とんでもないことでございます。感謝の気持ちですから」

「そう?ふふふ、せっかくだから頂いておくわ。……イーサンのことは任せなさい」

「何卒、よろしくお願いいたします」


 ミリアーナに贈ったネックレス一本がいくらかなんて、この際気になどしてはいられない。そんなものより公爵家とつながるほうが余程価値がある。そのための投資だと思えば安いもの。そうでなくても、すでにミリアーナには色々と融通してきている。元も取れずに、このまま引き下がるわけにはいかない。



読んでくださりありがとうございます。

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