令嬢とシェフのうんちくバトル
「でもこれ、全然ブリオッシュじゃないわ」
「ブリオッシュってどんななの?」
「ブリオッシュってのは、もっともちっとしていてきめが粗いのよ」
スザンヌがなぜか自慢げに少し天井を見て言う。
「電子レンジで加熱したからな。もっちりとした食感よりもしっとりとした口当たりになるんだ」
キッチンで返事をする颯馬は少し悔しそうだ。ふわふわしっとり……おいしそうじゃないか!
「ちゃんと八雲の分もあるから」
口の周りを拭かれる。よだれが垂れていたとは。
スザンヌは相変わらず上品に、ブリオッシュを食べ進める。
「私の専属シェフが作るのには、まだまだ及ばないわね」
「でもすごい速さで食べて、もう完食じゃないか」
僕たちがブリオッシュ論争をしていると、小麦くんが耳をぴんと立てつつ紅茶を淹れに来た。
「お代わりを持ってきますか?」
小麦くんたら、忠犬のようにスザンヌに世話を焼いてる。
「ええ、お願い」
そんなわけで、キッチンでの僕と窓際のスザンヌで、ブリオッシュを競うように食べることになった。僕が四個食べてスザンヌは五個も食べた。ちくしょう、僕の負けだ。スザンヌ令嬢、見かけによらず、いっぱい食べるな。
「コルセットがきついわ」
「僕はコルセットを着けてないけど、お腹がぱんぱんだよ」
「コルセットを着けてみなさい。もっと苦しいわよ」
二人でお腹をさする。
「一体さっきからなんの対決をしてるんだ」
颯馬がお皿を下げに来た。
「早食い対決!」
「苦しみマウントよ!」
同時に声が重なる。あ、そういえば、どっちのことでも戦ってたな。
「あのなあ。ごはんはゆっくり食べて腹八文目だ!」
颯馬がびしっと言う。
「だってえ。こんなに美味しいんだもん。メニューの定番に入る?」
「いや、作るのは今回だけだ」
「そんな~、なんで?」
「バターをたっぷり使うこのメニューは、赤字決定だから」