お客さまは令嬢さま
「まったく、やれやれだ」
「じゃあブリオッシュよろしく!」
僕が言うと、軽く睨まれた。
「ブリオッシュって菓子パンのことだろ。しかも高級なやつ」
ブリオッシュってパンだったんだ。小麦くんは「えっ」って言葉をもらした。
「すみません! そうとは知らず、注文を受けてしまって……」
小麦くんはやってしまったって顔をしている。なんでだろ? 自分の名前が小麦粉っぽいからかなあ。
「いや、お客さんの注文だったら仕方ない。俺たちは作るだけだろ」
颯馬、やっぱり見かけによらず、意外と熱い漢だ!
「それにずっと泣かれてちゃ、青空カフェの評判が下がる。何か食べさせて黙らせないと」
颯馬、黒い……。そっちが本音っぽいな。
「パンを作るのってケーキよりは簡単そうだけど」
僕の言葉に、颯馬はため息を吐いた。
「パンはすぐには出来上がんないんだぞ。発酵時間が必要だからな」
小麦くんはますますしょぼんと耳を下げている。そんな小麦くんを見かねたように、颯馬は腕まくりをしながら時計を見上げた。
「まあ、ここはやるしかないな。もう開店時間だし」
「やったー!」
「八雲、お前も食べる気か。スザンヌさん、お時間を頂きますがよろしいでしょうか?」
「そうね、私は伯爵令嬢としてそこのところはわきまえてますわよ! 10分は待ってあげます」
「10分……?」
恋のキューピッドは大変だ。なかなか、なれないわけである。