こだわりの野菜
「小麦くんが倒れちゃって……!」
「おかしいな。さっきまで元気が有り余っているくらいにうるさかったんだが」
颯馬が小麦くんを肩に背負う。
春に米を持ってきたときも、米俵を軽々持ち上げるもんだから驚いた。
意外と力持ちだねって褒めたら「一日中、立って卵をかき混ぜてお客さんに持っていくを繰り返していたら、そりゃ体力がつく」そうだ。
「その、僕のキャベツのせいで」
「おお、うまそうなキャベツだな」
「わかる? でも、そのキャベツには青虫が……」
「あ、こいつか。俺の獲物をむしゃむしゃ美味そうに食べてやがる」
颯馬は人差し指に青虫をのせて、足元に生えている葉にのせた。
僕の収穫した野菜は、もう颯馬のものになっちゃったらしい。
がっくし。
ばいばいキャベツ君。玉ねぎちゃん、にんじんさん。
「僕、うっかりしてたよ。小麦くんは虫がすんごい苦手だってのに」
「小麦の体調ならすぐに良くなるだろ。小麦って、ほんと体力おばけだし」
「怒ってない?」
「遅刻されたことでもう怒りの限界値は突破した。まあ作物たちが無事でよかったよ」
颯馬はぶっきらぼうに「あと八雲も。怪我されたら明日からの仕入れに影響するからな」と付け加える。僕を心配してくれていると受け取っておこう。