森の朝はいそがしい
森の朝はせわしない。
夜が明けないうちから、いろんな動物が活動し始める。
夜もこわーい生き物の音でざわざわしているけど。
僕もその一部、朝型の方のね。
開拓が進んだとはいえ、僕が住むその森はまだまだ自然でいっぱいだった。
自家製の畑からどんどん農作物を取っていく。
僕は狩りも少々は嗜むけど、主に農業でご飯を食べていく。森の中では割と特殊な生き物なんだ。
うう、作業するときはずっと屈まなきゃいけないから腰が痛い。
眠くて目がしょぼしょぼするし。
小鳥のさえずりが、きゃんきゃんと鳴り響き始めた。
「もう朝か。急がないと開店に間に合わないぞ」
僕は慌てて、背負ったかごに入っているキャベツを手押し車に移した。
キャベツの下には人参やじゃがいも、玉ねぎでいっぱいだ。
どれも大きさがばらばらで形がぐんにゃり曲がったり泥だらけだ。
僕は自慢げに肩を回しながら、キャベツをソフトボールのキャッチャーの体勢で野菜の上にそっと置く。
もちろん投げたりなんか絶対にしない。僕の大事な野菜たちだ。
「今日の野菜は一段と美味しそうだな。君もそう思うだろ?」
青虫がキャベツの葉から顔をのぞかせる。青虫の声はきっとこうだ。
「確かに見た目はぐちゃぐちゃだけど、よく見ると色はぴかぴかで美味しそうだ。昨日の大雨でついた雫が、夏の日差しに照らされている。もぐもぐ」
鼻先まで伸びてきた髪を無理矢理に横に流して、手押し車に身体を構えた。
「ふふっ早く行かないとキャベツが穴ぼこになっちゃうね。よおしっ」
僕はぬかるんでいる道をべったべったと走り出した。
森を抜けると、別世界に迷い込んだみたいに景色が変わる。
この瞬間はあっという間だ。民家が並んで、そこに住む人々が買い物しやすいように商店街がある。
ぼろぼろのトタン屋根とトタン壁で出来た家が今にも風で吹き飛ばされそう。
カフェが見えてきた。北欧風に建てられたそこは、周りの景色とは少し浮いている。
「良かった。まだ準備中だ」
チャリンチャリーン。少し背伸びをして呼び出し鈴を鳴らす。
「おはようございます!八雲さん!」
柴犬の色でつんつんの髪にふわふわの犬耳がトレードマークの小麦くんが飛び出してきた。
いっつも元気いっぱいの小麦くんには朝に目を覚まさせてもらっている。
「おはよう、小麦くん。遅くなってごめ・・・」
「遅い!遅すぎる!」
げえ、怒られちゃった。
店の奥から聞こえてきた大声の元は、智風颯馬。このカフェのシェフで僕の畑の契約主だ。
まったく短気なんだから。
「ふははっ八雲さんの野菜、今日も楽しみにしてたんですよ、シェフったら」
「そうなの?じゃあもっと優しくしてくれないと拗ねちゃうよね」
「まったくです。キャベツはこちらのカートに移しますね」
口をとがらせながらも焦って急ぐ僕を、小麦くんは笑顔で手伝ってくれる。
重い野菜を一気に何個も抱え込むなんて、さすがオオカミ族。
「今日の野菜はとても出来が良くてさ!特にそのキャベツなんか食いしん坊青虫との競争だったよ」
「確かにずっしりしていて、みずみずしいです・・・」
小麦くんは、手に持ったキャベツをまじまじと見つめる。
タイミング良く、キャベツの葉っぱの間から青虫がにょきっと顔を出した。
ばたっ。キャベツが落ちた。
と思ったら小麦くんが倒れてる!
どうやら青虫の登場は最悪のタイミングだったらしい。
大変だ!
「うわああ!小麦くん!!」
「どうした!?」
バアンッと勢いよくカフェの扉が開いて、飛び出してきたのは颯馬だ。